(Ⅳ)終末へと導く序章
「へぇ、頑張ってんじゃん」
黄色の長髪をしている男は周辺で戦い合っている兵士達を余所に遠巻きでほくそ笑んでいる。
そんな他人事の状況で楽しんでいる中、もう一人の黒い縦長の帽子を被った男性が姿を現す。
「ふっ、鑑賞か」
「別に鑑賞の為に来たんじゃねえ」
「目的は……私の求めるエイジとの戦か」
冷たい眼光を放つ男に身じろぐ事もせずに悠々と男は語り出す。
「何だよ。いくらあんたの命令でも俺は自由に動くぜ。憎き人間共とイスカリアの求めるエイジ・ブレインとやらを」
イスカリアは冷たい鋭い眼光を閉ざして手から緑色に染め上げられた剣を生成した瞬間に男の首をものの見事に一瞬でそして綺麗に吹き飛ばすと男は首を拾い上げてやれやれとした様子で口を開く。
「酷いなぁ。俺が一体何をしたっていうんだよ」
「貴公の態度が気に障ったのだ。許せ」
「無理な相談だな。しかしどこが気に障ったんだろうな……」
「エイジ・ブレインについては私が指示を出すまでは一切手を出すな。無論エイジ君から来た場合はこの限りでは無いが」
イスカリアは手のひらから現在の勢力図をモニターのような形として見せ付けてから説明していく。
「現在の茶番はおおよそエイジ君が居る保守派が一歩だけ上回っているという状況になっている」
「俺はこの状況の中で暴れさせてもらう。好き勝手にな」
「好きにしたまえ。私としてはエイジ・ブレインに手を下さなければ責は問わない」
男は懐からギラギラと輝く鎌を取り出し、にやついた表情で振り回す。その姿に苦い表情で見つめるイスカリアは口うるさく言っておく。
「くれぐれもエイジ君には手を出すな。それ以外については一向に構わない」
「しつこい奴だな。分かってる……俺はバルト。憎き人間共に鉄槌を下す使徒だ!」
ギラギラと鋭利な鎌を思う存分に振り回してバルトは勢い良く敵陣へと駆け込んでいく。イスカリアはその姿を遠巻きで苦笑しながら
「その意気は見習いたいな。お前が羨ましいよ」
バルトの姿が遠くなるとイスカリアは地面から浮き上がり、遥か上空で見物の姿勢を作り出す。
「さて愚かなる人間達よ。君達の行き着く先は果たしてどうなるかな?結末によっては色々と興味深い検証が出来るだろう。それに……」
言葉を一旦区切ってから、遥か遠くに居るエイジ・ブレインを一転に見つめて不気味な笑顔を浮かばせる。
「我々の計画は世界の終末。果たして君は我々の創造を覆す事は出来るかな?」
※※※※
「くっ、邪魔をするな!」
紅の剣で振り回してもジョイソンには追い付けない。寧ろ鉄壁のように固めている兵士や召還獣を倒さない限りは辿り着けそうにないぞ!
「このままではジョイソン将軍に辿り着くぞ!その前にそこの赤い剣を持っている男を殺せ!」
周りから波状攻撃が思った以上に激しいと感じた僕は片手剣に力をぐっと魔力を溜め込んで一気に吐き出す。
「ブレイズ・サークル!」
足に力を込め、周辺に片手剣を振り回した事で僕に不用意に近付いてきた兵士達は思い思いに上空へと舞っていく。
一部の召還獣は地に足を固定して粘っていたが、僕はブレイズ・バーストで追撃をすると摂氏の温度で召還獣は焼き焦げていった。
(エイジ、あそこにそれらしき人物が見えます!)
あそこは大将の陣地か。あの椅子に偉そうな態度で座っているという事は間違いが無い限りはジョイソンだと考えられる。
「目標発見。対処しに向かうぞ」
クレインは剣の中でコクリと頷き、エイジの思うままに突き進む。だが本拠地らしき所にゴーレムらしき召還獣が道を阻んでいる……これでは先に進めない。だから僕はあの力を解放する。
「クレイン、ルーンを解放しよう」
(エイジが望むのなら、私は拒みません)
広い雪原で僕を真正面で捉えたゴーレム二体が接近していく。けれど僕は冷静に落ち着いて身体の中にあるルーンの解放していくと細い片手剣は強大な大剣となり僕の背中に真っ赤なマントが装備され、首元には金色のアクセサリーが散りばめられており以前の姿よりも強大な力を感じる。これなら軽くあしらえるはず!
僕は近付いてくるゴーレムに接近し、一体のゴーレムを後ろに回り込んだ上で一刀両断に斬って分裂させるともう一体のゴーレムはパンチを浴びせてきた。けれどこんな攻撃は今の僕にとっては大した事は無い。
「!?」
「普通なら向こう側まで吹き飛んでるだろうね。でも、この姿になった以上は負ける気はしない!」
大剣でゴーレムの拳を弾き飛ばしてから、僕は剣先に膨大な魔力を溜め込み一気に解放する。
「ブレイズ・フルバースト!!」
剣先から纏っている灼熱の炎をゴーレムに繰り出すと身体を丸ごと燃やされたゴーレムは身悶えて朽ちていく。
その様に僕はしばらく無表情で見つめてから本拠地らしき場所へと向かう。
「くっ!まさか我々の貴重な戦力がやられるとは……恐ろしい青年だ」
頑丈なゴーレムが二体も倒された事で周辺に居る敵の兵士達の士気が下がっていく。
これなら、僕達が守る保守派の勝利は間近だ!
(エイジ、捉えました。正面で守りを固めている所です)
正面の方で尋常無い程の兵士と召還獣の中に確保対象のジョイソンが居るのか。よし、今ここで!
「あなたの目的は今日限りだ!ジョイソン!」
「何という小僧だ……もう突破されたのか!」
重臣のゴーレムがやられた事に呆気を取られているジョイソンだったが、すかさず僕に対しての迎撃命令が下された。
だけど……ここでやられる訳にはいかない!
急接近してくる革命派の兵士と召還獣に対して僕はブレイズ・フルバーストで猛攻撃で蹴散らしていくと大体の敵は怯んでいく。
そんな姿に遠巻きで指揮しているジョイソンは焦りの表情を浮かべる。額には大量の汗……きっと僕の予想外過ぎる力に恐れをなしているんだ!
「馬鹿な!我々の計画がこんな所で頓挫するなんて、有り得ない!」
間合いは取れた!これでこの戦乱にケリをつける!
「ブレイズ・フル――」
「させねえよ。バーなんとかはな!」
僕の大剣を弾いた!?なんて実力だ……
「やれやれ、お前があの人に好かれている事が気に食わねえな……けど、命令が出た以上手は出せない。だから、さぁ!」
銀色に輝く鎌を地面に突き刺すと同時に空いた右手でジョイソンの顔面を掴む。
「別の方法で楽しませてもらうぜ!この楽しい戦乱をもっと愉快にするためにな!」
「一体何をしているんだ!」
僕の問いかけに悪寒がする程の不気味な表情を浮かべてケラケラと笑い出す。
「あん?聞いてなかったのか?今から俺はコイツを使って戦局を面白くして貰う。もっと素敵で愉快な戦乱を見たいから……なぁ、ジョイソン!」
止めろ……止めろ!
「その正義面を俺に晒すな。酷く吐き気がするんだよ!」
黄色の長髪に黒色の肌。それに周りの者を目で蹴散らす事が出来そう男はジョイソンに何か禍々しい煙を大量に浴びさせて終えると、地面に突き刺した鎌を引っこ抜く。
「これからはお前に想像以上の出来事が待ち構えている、果たして……上手くやれるかな?あはは!」
コイツはこれまで以上に恐ろしい奴だ。今すぐにでも倒さないと!
「おっと、そう睨みつけるなよ!あんたは手を出していけないと言われているから俺が直接手を下す事は出来ないんだ!まぁ、その代わりと言っては何だが……この苦しんでいるジョイソンとやらで精一杯汗を流してくれよ!」
逃すかぁぁ!黄色の長髪の男に急接近して一気に叩き込む!
「はぁ、いい加減にしなよ。俺は……正義面しているお前を殺せないんだ。だからぁぁ!」
「うぉぉぉ!」
……何だ?ジョイソンの身体から何か細胞らしき物が。
「コイツで楽しめ。ただしお前が死ねば、あそこにそびえ立っているオンボロの城ごと世界が滅亡しかねない最強の魔物になるけどな!」
ジョイソンが巨大化していく!?これは召還獣になったというのか!
(あの巨大な召還獣から恐ろしい魔力を感じずにはいられません)
クレインの声の調子が酷く怯えている。
「俺達の魔術でたっぷりと楽しめ!エイジ・ブレイン!」
魔術?僕達が使うのは魔法の筈だ。
魔術という言葉は確か、古来の一部の資格がある者が使う上級魔法……だとすれば!
「君達は使徒なのか!?」
僕の答えに無表情を貫く男。しかし我慢が出来なかったのかクスッと笑い出すと盛大に声を出す。
「あぁ、そうだよ!俺達は100年前に古来の魔術使いのクソヤロウ共によってぶち殺された使徒様だ!決死の思いで蘇ったイスカリアが俺達に息吹を与えてくれたおかげで俺は……遠慮無くやれる!」
とうとう一年後になって姿を見せたか。兄さん、僕はコイツ等を倒してみせるよ!世界の平和と家族の仇を取るために!
「だが、今回はこの戦乱をかき乱すのが目的。てめぇはそこの巨人兵と仲良く遊んでいるが良い!」
男は巨人兵に何かを囁いてから、一瞬で姿を消えた。
(エイジ、来ます!)
こうなったら、僕はコイツを倒す!アイツを追うのはそれからだ!
「クレイン、今は目の前の事に集中する!」
(はい!)
「うぉぉぉ!」
巨人兵、今の僕に立ち向かえるかどうかは分からないけど必ず倒す!この世界の破滅を防ぐ為に!