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(Ⅲ)来襲

 オセアム駅周辺で待機していた案内人に寒さ対策の支給品であるマフラーと肌色のコートを渡された僕達は氷点下並みの道を突き進んでいく。それにしても想像を絶する程の寒さだ……ここまで寒いなんて!


「へくしょん!」  

 

 駄目だ。寒過ぎてくしゃみが止まりそうにない。何とか建物までは頑張って歩かないと。    


「エイジが危険。これは助けなければなりません」

 

 傍で僕のくしゃみ姿を見かねていたクレインは咄嗟の判断で抱きついてきたのでポカポカして暖かい。じゃなくて! 


「クレイン、気持ちだけ受け取るから離れよう」

              

「分かりました」  

 

 危ない危ない。このままにしていたらずっと抱きつかれていたよ。それにしても吹き付けてくる風が頬にしみる。  


「オセアムという国は年がら年中、いつもこんな感じなのか?」

 

 猛烈な雪が視界を阻む事に少々嫌気が差していたベルは先頭で歩いている案内人に質問をすると案内人はその通りですと答える。やはりオセアムという国は僕が住んでいる世界とは特別のようだ。 


「あと半分まで歩いていけば、メルビン王子の場所に到着します。それまでは何とか絶えて下さい。ここで休憩するという事は死を意味しますから」

 

 こんな場所で一分一秒立ち止まれば、瞬く間に氷付けにされてしまうだろう。だから何としてでも安全な場所に入って、休息を取らなければならない。

 僕とクレインを含めた四人は案内人の進む道に沿って、淡々と進んでいく。そしてしばらくどれくらい経ったかは分からないけど、気が付いた頃には奥の方に門と幾つかの小さな街と城がそびえ立っていた。


「ふぅ、ようやくだね」

                

「やっとか。長かったな」

               

「此処まで来れたら、もう少しで到着します。皆さんこの場所は小さな崖となっておりますので、くれぐれも注意して下さい」       

 

 案内人が滑るように落ちていくのを見てから僕達は見よう見まねで滑り落ちていく。そして全員が無事に滑り落ちていくのを確認してから門の所まで行って待機していると、門は開放される。


「この先を真っ直ぐに突き進んで頂ければ城へと到着します。では参りましょう」         

 

 少量の雪が頬に当たる中、僕達四人は案内人が進んでいく道を黙々と付いていく。道中道行く民に視線を感じるが、どうにも元気が無い様子。一体何故こんなに元気が無いのか?


「随分と活気が無いな。膨大な被害でも受けたのか」

            

「先日、ジョイソン率いる革命派が野生の召還獣と大量の軍勢を引き連れて一斉攻撃を仕掛けてきたのです。私達は何とか街の外で必死の攻防を繰り広げた事で街を死守する事が出来ました……が、同時にこちらの兵も大量に失いました。そのおかげか住民の覇気は嘘のように無くなったのです」   

 

 僕達の知らない間にそんな壮絶な出来事が起きていたなんて。


「次にジョイソンという革命派が出現したらどうなるんだ?」

                 

「恐らく、オセアムの崩壊は秒読みとなるでしょう。だからこそジェネシスの国王から選び出された、あなた達四人でこの窮屈で息苦しい戦いを見事勝利に導いて欲しいのです!」

 

 僕達に期待を持ってくれてる。だからなるべくなら僕達は勝たないと。   


「期待に添えられるかは分かりませんが、僕達四人で何としてでも勝ってみせます」

                

「その御言葉はメルビン王子にお伝え下さい。そちらの方が嬉しがると思われるので……っと話をしている内に到着しましたね。こちらが道中、崖を降りる際に説明させて頂いたオセアム国の唯一の象徴であるウィスター城となります」  

 

 ウィスター城は僕達の世界では一番目立たない小さな城でどの国の城よりも戦力は一番低い。元々ウィスター城の国王であるメルソンは戦争などを好まない温厚なタイプだったので軍備などは充分にせずに経済などの政策を行っていたようだ。

 そのおかげか、この国に住む住民達は他とは違って生き生きしていたようだったけど……

 どうやらメルソン国王が病気で倒れた事によって、ここぞとばかりに遠方の方角からジョイソンという野外者が革命を謳って奇襲を掛けてきたみたいだ。ここまでの大まかな理由はカーネル大佐から事前に教わった。

 けれど結局の所、キングは何故狙わなかったのだろう……考えても答えは辿り着かないけれど、恐らく首を取る価値も無かったんだろう。僕の考えではそれしか導き出されない……本当の理由は兄さんだけが知っている。


「お外寒いです。ようやく城の中で温もれますね」

             

「そうだね。身体冷えてきたから、僕も早く入りたいよ」

          

「お前ら、呑気過ぎるだろう」    

 

 クレインが早く入りたいとか言っていたいから、僕はその通りに返しただけであって。     


「ソール将軍、ご苦労様です!中でメルビン王子がお待ちかねです!」             


「ご苦労。開けたまえ」        

 

 案内人であるソール将軍の一声で城の扉は門番によって開かれた。

 中は全体的に白色を基調としていて、どの城よりも地味な色で装飾品も極端に少ない。これもメルソン国王の趣向……いやオセアム国伝統の配色なのだろうか?        


「城の構造は二階立てです。王子がいらっしゃるのは二階の奥にある王座の間となりますので付いてきて下さい」   

 

 階段を上がった所で少々豪華な扉がある。僕は息を軽く整えておくと隣で見ていたソール将軍は僕が落ち着くのを確認してから、扉を開ける。       


「ようこそ、遙々寒い北国のオセアムへ!少々狭い城ではあるが、我々と共に死守してくれ!」   

 

 僕達四人に会った瞬間に甲高い声が……まだ挨拶もしてないのに。とにもかくにも僕を含めた三人は直立して待つとソール将軍は一人ずつ丁寧に紹介していく。        


「メルビン王子、左からエイジ・ブレインにクレインにベル……そして最後にレグナス・ハートです」

                 

「ふっ、そうか!君達があのクロノス聖団から派遣されたエリートだな!私の名前は耳に挟んでいるとは思うが、メルビン・オセアムだ!状況が大人しくなるまでは宜しく頼む!」 

 

 メルビン王子ってこんなに気さくで明るい人なのか。会う前はもうちょっと堅い感じがしていたんだけど、杞憂だったみたい。     


「よし!互いの自己紹介も終わった事だし、今置かれている状況を私の口から説明させてもらおう!」

 

 高らかに宣言するメルビン王子は王様の椅子に座ったままで説明を始めていく。今置かれている状況は事前にクロノス聖団本部で聞いていた事と大差は無い。

 メルビン王子からの話に要約すると再びジョイソンと名の革命派の大将が浮浪の召還獣と同胞を引き連れて来襲する可能性が高い。

 そこでメルビン王子は以前メルソン国王が友好関係にあったジェネシス王国に目を付けて、救助要請の手紙を送りつけたらしい。そのおかげか僕達四人はこうしてオセアムに来れたという事だ。

 そして長らくの説明を終えたメルビン王子は王族らしからぬ溜め息を付いた。


「はぁ、父が倒れたのをキッカケに何故奴等は襲ってくるのだ!」                


「いずれにせよ、ジョイソンは我々の手で何としてでも倒さなければなりません。しかし今や戦力は昨日の戦で激減しています。何とか今日か明日には討つ必要があるでしょう」

            

「だが、奴等の居場所が分からなければ手が打てない。全く……イライラさせてくれる!」     

 

 両手で頭をかきむしって落ち着きの無い様子でウロウロしているメルビン王子の元にドアが突然開かれる。随分と慌ただしく駆けつけてみたいだけど……  


「メルビン王子、緊急事態発生です!つい先ほど正面の入口の監察から群れの召還獣と大勢の敵が来襲との事!」

            

「なっ!えぇい、我々の戦力が消耗している時に仕掛けてくるとは……」   

 

 昨日に仕掛けてきて、もう来たのか。


「メルビン王子、もはや一刻も争います。決断をなさって下さい!」              


「ぐっ、来てもらって早々だが君達には我々と一緒に革命派を潰してもらう!あと動ける者は革命派を迎え撃つ!良いな?」

 

 ジョイソンが来た以上、僕達は迎え撃つ必要は充分にある。今回の戦で代表のジョイソンが居るかどうかは分からないけど、見つけ次第確保する必要がありそうだ。      


「よっしゃ!腕が鳴るぜ!」      

 

 ブンブン腕を回して身体をたぎらせるベルにレグナスは酷く無関心だ。   


「メルビン王子、我々クロノス聖団は革命派の代表であるジョイソンを確保します」

                

「お前達の方針には賛成する。私達には戦力が乏しい上に高位な魔法を使いこなせないからな……それなら君達に任せて置いた方が健全な判断と言える」    

 

 メルビン王子は僕達の方針には賛成している。話が纏まった僕達四人はその場で御辞儀をしてから部屋を後にして、街の入り口の正面で迎え撃つ準備を始める。

 勿論正面で大砲や矢の準備をしている兵士が慌ただしくウロウロしている。 


「奥に群れらしき姿が映っている。数は500以上か……キングの件に比べるとスケールは小さくなったな」

 

 キングの反乱の時は10000以上だったかな。それでも今の状況は多いと言えるけど。    


「500だろうが、侮れば死ぬ。油断はするな」

 

 冷たく棘のように言い放つレグナスは一声でバッサリと場の空気をピシャリとさせる。しばらくすると、監視を続けている門番から伝令が入った。    


「間もなく来襲!」 

 

 伝令を聞きつけたソール将軍は深く頷いてから周りの兵士達に大声で張り上げる。       


「皆の者!突き進めー!敵はメルソン国王が作り上げてきた国を滅ぼす逆賊だ!遠慮はするな……全力で掛かれぇぇ!」

         

「おぉぉぉ!」   

 

 周辺の戦場に居る兵士達はソール将軍の鼓舞で馬を鞭で打ってほぼ一斉に敵の元へと向かっていく。さて、僕達も。 


「行こう」     

 

 一声でクレインは手を僕の方へと差し出して紅の剣へと形を変えていく。僕はその紅の剣に力を込めて、戦場を駆けていく。遥か遠方の先に居る敵へと目指して行きながら……  


(エイジ、遠慮は要りません!全力で参りましょう!)   

 

 うん、分かってる。僕はコイツ等に一切の遠慮は……しない!


「ブレイズ・バースト!」      

 

 剣を地面に思いっ切り力を込めて振り上げると、強力な煉獄と共に周辺の敵や操られていると思われる召還獣は勢い良く空中へと吹き飛んでいく。     


「ふん、少しはやるようになったな」  

 

 レグナスは相変わらず、僕の事を鼻で笑っている。いつになったら、その態度を改めてくれるのだろう。


「周辺の雑魚は俺が切り裂く。お前は大将らしき人物を探せ」

                 

「言われなくとも、そうするよ」    

 

 この辺りはレグナスに任せよう。僕はジョイソン探しに集中すれば良い。  


(エイジ)             


「うん、行こう」  

 

 周辺での戦いはレグナスとベル……そしてメルビン王子の元で命を懸ける兵士達に任せて、まだ姿を見せないジョイソンの元へと急いだ。

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