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(ⅩⅨ)私はいつでも待っています

「ルーン発動」

 

 背中から紅きマントが羽織られるのと同時に小振りの片手剣は大きな大剣へと姿を変える。僕は大剣を構えて正面に待ち構えているアンドロに数回斬り合いを噛ました後に隙が出てきた所で直接拳や脚を使って肉体攻撃を仕掛けるもアンドロは見えているかのようにスラスラと避けていく。


「まだ、遊べないのか。面白くないな」

 

 この男は戦いを遊びだと捉えているのか!?


「ふざけるな!僕は遊びでやっていない!」


「それでも、遊び。俺にとっては!」

 

 奇妙な形を右腕振り回した後に物凄い跳躍を平然とやり遂げ真上から勢いのある攻撃が押し寄せる。僕は真上から来る重みに耐えられず時間が経つ程じりじりと下に押されていく。


(エイジ、反撃を!)

 

 無理だ。少なくとも両手が片手剣に押されている状態では身体が持ちそうにない!


「うぉぉぉ」

 

 地面にひびが……くっ。


「待たせた!」

 

 黒き色を施した何発かの銃弾は雨のようにアンドロに向かって直撃させる。僕はアンドロが痛がっている表情を浮かべた瞬間に押し出して事態を切り抜ける。


「ありがとう」


「殆どの奴は倒れたから、お前を追って来たが……何者なんだ?」


「彼はアンドロ。約100年前に伝説の魔術使いによって倒されたとされる使徒」


「だが、それが復活している」

 

 復活を果たした理由は未だ分からない。恐らくはイスカリアの人間を滅ぼすという強い思想が復活する起因になったのかもしれない。


「痛い」

 

 背中にザインが放った銃弾を擦りながらも身体を起こすアンドロ。普通なら今の状態では立つこともままならない筈だ。それなのに


「野郎、俺のを喰らってもピンピンとしていやがる」


「相手は僕達の存在とはかけ離れた使徒。そうそう簡単には倒れてはくれないか」


「まだ遊ぶ。エイジ以外の奴。来たから、もっと遊ぶ」


「だったら、こっちも遠慮せずに遊んでやる!俺とエイジそして」


「私も!」

 

 ユリン、いつの間に。


「エイジ兄さん、雑魚はそこらで固まってますので安心して下さい」

 

 固ま……考えるのは止めとこう。


「三人、面白くなってきたな!」

 

 僕は近距離でアンドロに立ち向かうとザインとユリンは後方で支援する。

 アンドロは僕が放つ斬撃を上手く避けつつ、度々襲ってくる支援攻撃もスラスラと避けていく。この事態にザインは舌打ちをする。


「だったら、俺も本気を出してやるよ!」


「ザイン、どうするつもりなのですか!?」


「とっておきの奴を出すんだよ。今まで消費がキツくて封印した奴をな!」

 

 親指の皮膚を噛んで、漏れだした赤色の血をそのまま地面に垂らすと地面からザインの召喚獣が姿を現す。

 全長は僕達人間よりも一回り大きくて、両肩と背中に複数のバルカンらしき物がセットされている。実は僕はこれまでザインの召喚獣を一度たりとも見掛けなかったので、何だか凄く新鮮だ。


「久しきお呼び。用件はあの十字架の始末か?」


「その通り。さっさと時間を掛けずに倒せよ……クラッシャー」


「あれが召喚獣。実物久しぶり。ボコボコに潰してやる」


「やれ!」

 

 号令と共にバルカンをアンドロに向かって手加減無しで撃っていくとアンドロはやれやれとした表情を浮かべながらも弾を避けていく。

 ただ今のアンドロは銃弾を避ける事に集中している。それを一目で察したユリンは幾つかの氷の球体を空中に浮かべて、そのままアンドロに向けて放つとアンドロは不意に気付き奇妙な形をした腕で幾らかの氷の球体を砕く。

 だが、それが結果的に自分を追い詰めるんだ。


「遊……べない!」

 

 凍りついた足に動きを制限されたアンドロは全力で身体を動かしながらも己の持つ腕を使って何度か叩きまくる凍りついた状態から脱する事は出来ない。

 その哀れな行動にユリンはご機嫌な表情を浮かべて解説する。


「私の魔法は凍てつく氷で敵を固まらせます。この部分はスノウと被ってしまいますが……」


「動けない」


「さっきの球体をあなたが砕いた瞬間、砕かれた球体は散り散りに地面に落ちてあなたの足元に行き結果的に封じ込めました!もっとも私はその瞬間を待っていたのですが」


「考えたな、ユリン」


「今です。全弾を撃ち尽くして下さい」

 

 ユリンの言葉にザインは勝ち誇った顔でクラッシャーに全弾照射の指令を下すと瞬く間にアンドロの身体はバルカンの銃弾に埋め尽くされた。これで、ようやく終わる筈。


「痛いなぁ。俺、エイジを捕まえる任務があるのに……痛めつけるの許さない!」

 

 全弾見事に直撃したのに、まだ動くのか!?


「もう遊ばない、エイジ以外生きて帰さない!」

 

 雄叫び声と共にユリンが拘束しておいた氷は瞬く間に弾けると共にアンドロは先程とは打って変わって機敏な動きでザインとユリンを壁際に吹っ飛ばすと全弾撃ち尽くして動けないクラッシャーはほんの数秒で沈められる。余りの速さに僕は一歩たりとも動けない。


「がはっ!」


「ぐっ、エイジ兄さん逃げて下さい」

 

 ザインとユリンを置いて、後ろを振り向くなんてあり得ない!何とかしてこの場を切り抜ける!


「最後はエイジ。お前だ!」

 

 ザインとユリンを黙らせたアンドロは用が終わると僕の方へと振り向き、再び奇妙な形をした腕を振りかざす。

 僕は防御を捨てて一気にアンドロの方へと駆け寄って力任せに振り回すものの僕とアンドロ……両者共に譲れない攻防戦が長引こうとしている。いつまでもこんな事をしている場合じゃないのに! 


「やっぱり強い!やっぱり楽しい!」


「ふざけるな」

 

 こうなったら、もう一度本気でぶつける!


「ブレイズ・フルバースト!」

 

 一直線上に吹き飛ばした赤き斬撃は瞬く間にアンドロの身体を摂氏の炎で包まれるも未だに倒れずに動き回る事に恐怖を覚える。まさかここまでしても倒れないなんて、どれだけ粘るつもりなんだ!


「まだだ……まだ終わらない」

 

 勝手に僕の足は一歩ずつ後ろへと下がっていく。きっと僕の心が恐れているんだろう。外は強がっていても内は恐れを抱いているのがなによりの証拠だ。


(エイジ)

 

 けれど、僕は逃げない!二人を置いていくなんて絶対に出来ないから!強い決意を自分の脳内に刻み込み、アンドロと激戦を繰り広げていきながらもふとした隙を狙って体内に素早く途切れる事無く数発斬り込んだ後に体内を躊躇無く突き刺してから思いっきり大剣を抜いて留めにこれでもかと切り刻むと今度こそアンドロはよろよろとした態勢で膝をつく。


「もはやこれまで。ユダヤ、イスカリア……ごめん」

 

 大量の血を吐き出し、身体がいよいよ耐えきれなくったアンドロの顔はみるみると枯れ果てていくと同時に最終的には粒子となって跡形もなく消えていく。きっと僕の放ったブレイズ・フルバーストの影響が大きく出てしまったのだろう。


「よくやったな、エイジ。今回は割りと本気で助かった」


「ごめんなさい、肝心な所でねじ伏せられるなんて不甲斐ないです」

 

 そんなに謝る事じゃないのに。全くユリンは……変な所で落ち込まないでくれよ。


「ユリンはよくやってくれたよ。少なくともユリンとそしてザインが支援攻撃をしてくれただけでも凄く助かったんだから、申し訳なさそうな表情を浮かべるのは止めて欲しい」


「うっ、その御言葉……ありがたく大事に受け取ります」


「一件落着だな。じゃあ、使徒?とかいう奴はくたばった事だし、さっさと降りるぞ」

 

 これで二人の使徒を葬る事が出来た。後は僕に未来を託したカーネル大佐を除くと残りは三人。

 そう簡単には倒せない相手だけど、この人達さえ倒せば無事に平和が訪れる筈だ。その前に母さんの意識を取り戻す! 

※※※※

「ちっ、アンドロめ。しくじったか」

 

 ボロボロに崩壊しつ跡形も無く悲劇の街へと変わり果てたジェネシス王国の中心的な存在である塔に座り込むユダヤはエイジ捜索の際に仲間同士でお互いに生存を確認出来るそれぞれの名の文字を刻み込んでいたがアンドロの文字が消えた途端にユダヤは深く溜め息をつく。


「砂が舞う国に居たのか。そこまで逃げていたとはな……私も動くとするか」

 

 腰を上げ、瞬く間に地獄へと変わり果てたジェネシス王国を無言で見渡してから飛び降りようした瞬間に背後からドスの効いた声で迫られる。


「てめえを見た。夢で朧気だったが、記憶にあるのは薄い青髪。何よりも……お前のその声は聞いた事がある!」

 

 怒りに震えるレグナスに対してユダヤは冷静に語る。


「ほぅ。何者かと思ったが、久しき再会を果たせたな」

※※※※

「これで調合薬は完成だ!」

 

 トリビア教授の一声で僕達四人は一同に母の目覚めを見学する。お願いだから、これで意識を取り戻してくれ。

 僕の願いと共にトリビア教授は未だに目覚めない母の口に無理矢理調合薬を飲ませてから、精神系の魔法を解き放つ。

 しかし……それでも母の意識は一向に戻らない。


「どうして、やれるだけの事はやったのに」


「もしかしたら敵から長きに渡って魔術に掛かってしまったのが原因なのかもしれないね」


「おいおい、それじゃあ俺達の頑張りはーー」


「無駄にはならないよ。今はまだ目覚めないだけでいつかは意識を取り戻す筈だ……今は時間が必要なのだよ」

 

 じっくりと待つしかないのかな。けど、トリビア教授が魔法を掛けてから気のせいかもしれないけれど母の表情がほんの少し和らいでいるような気がする。


「母との感動の再会はお預けみたいだが、会えるならしばらくじっくりと待とうぜ」


「そうだね。トリビア教授、こんな見ず知らずな僕達の話を聞いていただきありがとうございます!」


「いやいや、構わないよ。君達のお陰で一人の人物を目の前で助ける事が出来たのだから。私にとってはとてもありがたい経験をさせてくれたよ」

 

 母の事は今後じっくりと観察経過になるだろう。本当なら傍で見守りながら意識の回復を待ちたいのだけれど……そんな時間は無い。だから!


「ユリン、母の事は任せた。なるべくならここより離れた人目のつかない所で見守って欲しい」

 

 この場所も絶対に安心できるとは限らないと強く伝えるとユリンは嫌がる素振りも見せずに快く快諾する。


「分かりました。母の事は私に任せて下さい!けれど、エイジ兄さんはこれからどうなさるおつもりですか?」

 

 僕には答えづらい状況。もしはっきりと伝えてしまったら……ユリンはきっと反対するに違いない。

 だからと言ってうやむやに伝えてもばれてしまう可能性は限りなく無いと言う事は限らない。

 どう答えるべきか自問自答を繰り返していた状況に背後で見かねていたザインが自らぺらぺらと語り出す。


「俺達一同は使徒を倒す。このまま放置すれば世界は必ずやあいつらに征服されるからな!」


「ザイン!」

 

 どうして勝手に喋るんだ!止めてくれよ……


「エイジ、真実をはぐらかすな。お前は自分の妹に向かった嘘を並べるつもりか。そうだとすれば、俺は今すぐにでも最低な兄貴だと目の前で叫んでやるぜ」

 

 ザインの言葉は的確。僕がこの場で嘘をつけば最低な兄貴になってしまうだろう。


「使徒?一度たりとも講座で聞いた事が無いのですが、それは本当なのですか?」

 

 問い詰めるユリンに僕は正直に首を縦に振るとユリンは寂しげな表情で僕の両手を強く握る。きっと僕を行かせたくないのかもしれない。そんな思いが強く伝わる……


「エイジ兄さん、私もーー」


「駄目だ。これは僕達で片付ける!唯一の妹であるユリンを連れ出したくないんだ!それに……」


「それに?」


「母が起きて誰も居なかったら不安になる。だからユリンは母の傍で見守っていて。そっちの方が母も安心出来ると思うから」

 

 僕の説得に納得してくれたのか強く握っていた手を離して、ニコリと微笑む。


「そこまで決意が固いなら……名残惜しいですが私はエイジ兄さんを暖かく見送ります」


「ありがとう」


「事態がまずまず収まった所でだが、これを見てくれ」

 

 見せてくれた画面のニュース閲覧にはジェネシス王国の崩壊という記事が掲載されている。

 所々で貼られている画像は見た事も無いくらいに酷く荒れていた。


「これは」

 

 これまでに一度は見掛けた事のある建物は見るも無惨に崩壊している。他にも目を瞑りたい情報があちこちに散らばっている。

 しかし、気になる情報が一点掲載されているので注目して確認する。

   

 身体全体に雷を帯びている人物と腰に刀をぶら下げている人物が大量にうごめている謎の生き物並びに謎の人物と戦闘を繰り広げている……と


「ジェネシス王国にレグナスとベルがまだ居るんだ!」


「エイジ、今すぐにでも戻りましょう」


「決まりだな」

 

 早く支援に向かおう!二人を無視する訳にはいかない!


「エイジ兄さん、私はいつでも待っています。だから無事に終わったら顔を見せて下さい」

 

 心の底から笑顔で見送るユリンに僕は微笑みながらもザイン、クレインと共に先を急ぐ。レグナスそしてベル!僕達が来るまでは頑張って持ちこたえてくれ!

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