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(ⅩⅧ)人間VS使徒

 シャウト王国に住まう人々は一度は眺めておきたいスポットとしてウト山と呼ばれし場所がある。

 この場所では道中に心が安らぐ川が流れていたり動物達の鳴き声まで響き渡る自然豊かな場所となっているけど、最近では近づいたら大変危険な賊がそこらを徘徊している噂が後を絶たないらしい。

 よってシャウト王国に住まう人々は一切を持ってウト山に入っていない。


「よっと!それにしても、涼しいな。たまには山で散策というも良いもんだ」

 

 そういえばウト山の気温は正確に分からないけど、結構涼しい。川のせせらぐ音がとても心地良いから、僕も気分が良い。


「あわわわ」

 

 ユリン、もしかして足がおぼつかないのかな?これは助けに行かなければ!


「はぁ~、完全に現段階においては足手まといになりそうだが……大丈夫なのか?」

 

 嫌々な表情を浮かべるも、足がふらついている状態のユリンにすかさず手を伸ばし、なんだかんだで助けるザイン。僕が入る余地は無さそうだ。


「大丈夫です!貴方に言われずとも!」


「あぁ、はいはい。そんだけの元気があれば大丈夫そうだな」


「ユリンとザインは大変仲が宜しいですね。私はこっそりと応援する事にします」

 

 やっぱりクレインにもそう見えるのか。まぁ、多分僕とクレインとスノウが学園を離れている間に仲良くなったと思っているけれど……今は僕もひっそりと見守っておくのが一番かもしれない。


「たくっ、何でそんなにニヤニヤしているだよ?この緊迫した状況の中、随分と余裕なんだな」


「そんな事は無いさ。今でも気は引き締めているよ。ただザインとユリンの会話を聞くだけで少し和むんだよね」


「和むだ?おいおい、さっきから俺達喧嘩してばっかりなのにそれはあり得ないだろ」

 

 真っ先に否定するザインに僕は適当に流す。これ以上なにを言っても否定されるだけだと思うから。


「そろそろ休憩しても良いですか?クレインは疲れました」

 

 丁度この場所を登り詰めて30分経過したのか。クレインも休憩したいと言っているから休憩しよう。焦るのは良くないし。


「ここで休もう。丁度座れそうな場所があるからね」


「もう休むのか?まだ半分行くか行ってない所だと言うのに」


「あともうちょっと到着するんだから、この場は身体を温存しよう。着いたら恐らくーー」


「休憩どころか休まる暇が無いかもしれないか……なら休むか」

 

 僕の言葉に察したザインはそよそよしく風が運ぶ緑一杯の樹木に倒れかかってから目を閉じるとしばらくは睡眠を始めていく。


「まさかの睡眠ですか?自分から言っていた癖にこの状況でお眠りになられるのですね」


「ここ最近、仕事に明け暮れていて寝ていないんだろう。今はそっとしてあげよう」

 

 若干幸せそうに寝ているザインの邪魔なんて到底出来ない。僕はしばらくの間、ユリンと雑談をする事にした。

 母を助けてイスカリア倒さなければならない状況の最中に雑談をする場合では無いと思うけれど、今だからこそ兄妹二人で話す事が出来ると踏んだからだ。


「ユリン、学園は順調?」


「最近ようやく軌道に乗り出しました。最初の頃はエイジ兄さんが居なかったのでストレスが溜まりまくりでしたけど」

 

 ユリンがシャウト魔法学園に行くと決意を込めたのは、丁度僕がジェネシス学園を卒業した手前。

 何故行くのか理由を問い詰めるとどこまでも真っ直ぐな瞳で自分の弱さを打ち破る為ともっと自身の魔法を磨く為だとぶれずに答えた。

 その理由を聞いた瞬間に僕は酷く動揺したけど妹の叶えたい目標の為、結果的に暖かい目で見送る事にした。

 ユリンには精一杯目標に向かって頑張って欲しかったから。


「感謝しています、エイジ兄さんには。教育費も全額払ってくれて……私が立派な職に就いた頃にはいつかは教育費も全額返してエイジ兄さんを養う気でいますので宜しくお願いします」

 

 最後の部分は聞かなかった事にしよう。妹のユリンに養われるなんて兄としての威厳が無くなるから。


「寝た寝た。さて、それじゃあ登るぜ」

 

 樹木にもたれ掛かっていたザインは樹木から離れて、再び歩いていくとようやく目標の調合薬の花がある洞窟に到着。いよいよを持って僕達は突入する事になる。


「門番は居ないが、入った瞬間多勢に無勢の人員が襲ってくる。俺とユリンで前方の敵を蹴散らす。その間にエイジは突入出来そうなタイミングで一気に駆け抜けろ!」

 

 作戦を軽く僕達に伝えると、ザインは両手から2丁拳銃のべリアルを取り出して前屈みに洞窟へと入っていこうとしたがユリンがザインの肩を後ろから叩く。


「ちょ、驚かすなよ。これから真面目な戦闘が始まるというのに」


「突入はザインだけでやって下さい。私はエイジ兄さんと共に目標物の回収に行かせて貰います」

 

 どうかしたのかな?何だか張り詰めている表情をしているけど。


「理由は?まぁ、聞かなくても分かるが……心配してるのか」


「えぇ、私は深く心配しています。もし……エイジ兄さんが私の見ていない所で重傷を負ってしまったら、私は付いていかなったことに後悔しそうなので」

 

 そんなに心配してくれるなんて。確かにユリンの言う通り、単独で突入して怪我を負ってしまったら元も子も無い。

 けど僕はそんな場面で負けるつもりは毛頭無い!何故なら!


「大丈夫!僕はこんな所で倒れる程弱くないから。それにザインが言っていた作戦の方が上手く成功する筈だからそっちの方法で進めよう」


「エイジ兄さん……」

 

 イスカリアをこの手で倒すまでは、終われないから。


「エイジを信じろ。お前の兄さんはこんな所で負ける程の雑魚じゃない。むしろ強いくらいだから安心して送れよ」

 

 ザインなりの励ましをユリンに伝えると先程までの心配性していた表情は無くなり、納得した表情で頷く。良かった……これで安心して突入出来る。


「分かりました、エイジ兄さんが通る道は全力でエスコートします。ザイン!」


「何だ?」


「足手まといにならないで下さい」


「誰に言ってんだよ。寧ろお前の方が足手ーー」

 

 ザインはスノウに対して同様の言葉を返そうとしていたけど、スノウの背中に漂うオーラを感じ取った途端に口を結んだ。

 きっとこういう時に良からぬ言葉を返せば、恐ろしい目に遭うと分かっていたからだろう。僕にも何となく分かる。


「はぁ、行くぞ。早く行かないと山から降りれなくなる」

 

 時刻はお昼。まだまだ時間はあるけれど、早めに戻らなければ朝を迎えるまで山の中で過ごす事になりかねない。

 ユリンとクレインの為にも急いで突入して、洞窟を抜け出さないと!


「うん、この先は頼んだよ。ザイン、ユリン」


「おぅ」


「任せてください」

 

 いよいよを持って、アシュタロンという名の組織が住まう洞窟の内部へと潜入。

 中は先程の涼しさから一転してひんやりとしている。さらに進んでいく内に壁際に設置してある松明と奥に聞こえてくる不気味な声がより一層不安感を募らせる。

 ユリンに至っては冷静そうな表情をしながらも両手の拳が小刻みに震えている始末。やはり、この嫌な気配が漂う洞窟に怯えているようだ。


「ここからは安易に逃げられない。お前達準備は出来てるか?」


「行こう。母を取り戻す為に」


「準備は出来ています。行きましょう」

 

 両手に凍傷防止用のグローブを付けて覚悟を決めたユリンに対して、僕は静かにクレインと共にお互いに手を合わせて紅の剣へと変貌させる。

 それを間近で確認したザインは落ち着いた表情で合図を送る。


「無理だと思ったら各自で引き返せ……じゃあ、行くぜ!」

 ザインは鉄の扉を遠慮無くぶち破って、警告無しで次々と当たるまで追尾をし続ける魔法で練られていると思われる弾を発砲していく。


「おらおら!死んでいきな!」

 

 発砲音の大きな音に奥から大量の組織の人員が押し寄せてくる。と同時にユリンは床に氷を敷いて一体化しているような軽やかな滑りを敵に見せると、自らが作り出した氷の弓で次々と凍らせていく。


(会っていない間にユリンは成長したんですね。明らかに目付きと動きが以前やっていた大会とは違います)

 

 ユリンは僕が見ていない間、随分と立派になっている。これなら快く背中を預けられる。だから、僕は先に進むよ!


「ザイン、ユリン!この場は任せる!」


「おうよ!行ってこい」


「エイジ兄さん、必ず無事で帰って来て下さい!」


「うん」

 

 道阻む進路を前方に勢い良く駆け抜け行く先々に出現する敵を薙ぎ払うと、遥か奥の方に天井から一部の光が照らされて輝いている幾つかの花が立派に咲いているのが見えた。

 よし、あれが目標物に違いない!早くあれを収穫して離脱しなければ!


「ほほぅ、狙いはそれか」

 

 しまった、気付かれていたか!


「あなたは?」

 

 見た目は僕と違ってかなり大柄。殆どの人が近付きたくない容姿を醸し出していて、何故だか非常に汗臭い匂いが漂う。


「俺はアシュタロンをまとめるボーン。よくぞ我が組織に!ここではお前達が空に喚くほどの痛みを味わってもらうぞぉ!」


「その前に質問をしても良いですか?」


「何だ?」


「何故あなた達は無作為に女性を狙うのですか?」

 

 ザインから聞いた話ではアシュタロンはとにかく綺麗な女性を狙うとの事。スノウの時もそうだったけど、僕は彼等のやり方に憤りを感じている。


「理由ねぇ。強いていうなら女で金をたんまりもらって組織の軍備を整えつつ、やれそうな女と遊びまくる事ぐらいだよ!」

 

 地面から突然斧を取り出し、容赦無く振り回していく様に僕はブレイズ・セイバーを構えて振り払うと交互に剣劇音が洞窟全体に響き渡る。この状態をいつまでも続けるわけにはいかない……何とかして早急に追い払わないと!


「ほいほい!どしたどした!」


「あなたは最低だ!」


「最低?」

 

 何故分からない!あなたのその理由は根本的に間違っている事に!


(彼は私達、世界の女の子をいたぶる外道です。ここで鮮やかに終わらせましょう!)

 

 絶え間なく続けていく斧による攻撃から一歩退けた後に後ろへと跳躍してから、一気に飛び掛かって力強く気合い前回で斬りつけていくとみるむる内にアシュタロンのボスであるボーンはじりじりと後ろへ一歩ずつ引き下がっていく。

 その姿にチャンスだと捉えた僕は頃合いを見計らった瞬間に斧を空中に飛ばすと斧は見事に洞窟の真上に突き刺さる。


「勝負ありましたね。これであなたの組織は未来永劫閉ざされます」


「どうだか。今じゃあクロノス聖団は秩序を崩壊させる悪の組織になってしまっているみたいだし、もはや正義面をさらけ出している奴など支部の数少ない連中しか居ない。よって!俺は一生捕まらずに生きていける」

 

 確かにそうだ。今はもう組織は崩壊している。ここでボーンを捕らえても拘留所の場所が無ければ意味が無くなるだろう。


「さぁ、どうする?」


(取りあえずは支部に任せておきましょう。確かシャウト王国の近くに支部が構えていた筈です。今は厳戒態勢でピリピリとしたムードになっていると思われますが)

 

 ここはボーンを拘束魔法で縛っておいて、目標の花を回収だ。これでいよいよ母が目を覚ます!


「これが……」

 

 一度見るだけでも大変綺麗な赤色をしていて、ピンと真っ直ぐに立っている。

 多分水とかは与えられてはいないと思うけど凄く立派に咲いている。

 取り敢えずこれは貴重な品だからトリビア教授から事前に受け取っておいたポケット用の袋に入れておこう。


(帰りましょう、エイジ)


「そうだね、帰る前にこの人を引き連れて帰ろう」

 

 拘束魔法で縛っている男を担ぎ込もうとした瞬間、不意に地面が大きく揺れ動き出す。

 しばらくして落ち着くと、奥から波打った足音と共にガタイがかなり大きい人物と鉢合わせをする。


「誰だ!?」


「エイジ発見。ユダヤの指示。確保する!」

 

 顔を見るや否や右腕から奇妙な形をした腕へと変形させるとすぐさま仕掛けてきたので、僕はすかさず剣を正面に構えて防御する。

 今の奇襲は危なかった……警戒心をうっかり解いていたら一瞬で消されていただろう。

 それにしても、この人物の目的は僕。

 中央に目立っている十字架を見る限りではイスカリアの仲間に違いない!使徒を倒すと約束した僕にとって、この人物は何としても倒す!


「ブレイズ・カルマ!!」

 

 一撃、二撃互いに持つ武器をぶつけて何とか距離を図ってから僕の全てを持って一直線に怒濤の炎を大量にぶつけると大柄な男は右腕を正面に構えて僕の必殺技を見事に吸収する。


「お返し」

 

 そのまま僕がやった攻撃が返ってくるのか!


「ぎゃああああ!」

 

 しまった!避けるのに必死だったお陰で、拘束魔法で動けなくしていたボーンが燃やされてしまった!


「くっ!」


「あれ、悲鳴聞こえた。けど、いっか。目標以外は殺しても良かった筈だし」 

 

 僕自身は一直線に返ってきたブレイズ・カルマを来る直前にかわしたけれど……これからは安易に必殺技が出せない。あの吸収する腕がある限りは。


「俺、アンドロ。エイジと戦うなと釘刺されたけど、遊ばせてもらう」

 

 僕とアンドロ。人間と使徒による世界の命運を懸ける戦いが幕を開く。

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