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(ⅩⅤ)まずは前進

 数々の追っ手を振り切り、ぎりぎりの状態でアドモスに到着。しかし母を背負っている左腕はもはや痛みが走っている。

 さすがにこの状態が続けば、僕の肉体は限界を迎える。


(エイジ、私を解除してください)


「はぁ、はぁ、はぁ……分かった」

 

 額から汗の雫が一滴、ポタリと地面に落ちる。

 限界を迎えてきた僕は素直にクレインを剣の状態から人間態に戻すとクレインは紅にたなびく髪をなびかせ


「私がエスコートします。エイジは私に着いてきてください」

 

 体力が無きに等しい状態。ここはクレインに従う方が理に叶っている。


「クレイン、任せたよ」


「では、こっちです。なるべく音を立てずに進んでください」

 

 忍び足でザインが居ると思われる何でも屋への道なりを慎重に進んでいく。しかし、幾多のクロノス聖団の団員がうろうろしていてまともに近づけない。

 もう少しで到達出来そうな距離だというのに。不用意に進めば見つかると判断したクレインはわざと遠回りしていくようなルートで進む。

 僕達はしばらく人が全く来なさそうな暗い道路や下水道などの場所をこそこそと歩いていくが、下水道の出口を出た瞬間にいつから潜んでいたのだろうか?待ち構えているようにクロノス聖団の団員とこれまでに見た事が無い姿が目に写る。


「なんだ、あの不気味な生物は」

 

 意識が無いのか声は途切れ途切れに気味の悪い声を出していて、全体的に黒の影で包まれている。


「エイジ・ブレイン。始末する」

 

 くそっ!母を抱き抱えている状態ではまともに戦えない!だからといって母さんを手放すなんて考えられない!


「後退だ、ここは撒くよ」


「分かりました、一旦戻りましょう!」

 

 せっかく見つからずに来た道のりを再度引き返す。

 これで、撒けたかと思っていたら……大勢の足音の音が次第に大きくなっている。


「駄目か、追い付かれる」


「まだ諦める訳にはいきません」

 

 僕と違って、クレインは前向きな気持ちで走っていく。一方の僕は背中に母を背負っているお陰か少々息が上がっていく。


「ぜぇ……ぜぇ」


「私が良くとも、エイジがキツいのでは逃げる事に専念しない方が良いかもしれませんね」


「気を使わなくても良いよ。最悪、母さんを連れて逃げてくれれば助かるかーー」


「それは言わないでください。私はどんな状況であれ絶対にエイジを見捨てる事は一生を賭けて有り得ません!」

 

 クレインは僕の心の弱さに叱責するとばつが悪いような表情を浮かべて、向こう側にある複雑な道路を見据える。

 確か、ここはザインの何でも屋を通る時に一度は見たことのある景色だけれど、最終的にどうやって進んだのだろう?

 あの時はクレインに時々任せていたから、具体的な進みかたが少々分かっていない。


「この道なら右側の部分に進んで、枝分かれの道をジグザグに進めていけば到着する筈です」


「そうか、なら任せる」


「はい、了承しました」


「エイジ・ブレインを始末する」

 

 囲まれているのか……正直ここまで用意周到だとは思ってもみなかった。とにもかくにも、ここは片手だけでも切り抜けるしか無い。


「クレイン、やるよ」


「エイジ、無理は禁物です」


「四の五の言っている場合じゃない。この状態では目的地に入ることも叶わないんだ。ここは周辺の団員を倒す。それが一番の解決策だ」

 

 僕の言葉に納得したのかクレインは僕の手を握って紅の剣へと形を変えていく。

 僕は何回かブレイズ・セイバーをその場で振り回してから構えの態勢に入る。といっても片手しか使えないから動きが制限されちゃうのだけど。


「掛かってこい!僕が全力で相手をしてやる!」

 

 片手の制限が掛かる中、懸命に剣を振り回す。途中魔法攻撃の連続投下には何発か喰らったけど、辛うじて僕の身体は動けているから結果オーライ。

 ただ、余り派手な動きをすると背中に背負っている母が疎かになってしまう恐れがあるから迂闊な動きは母の死に結びつく。

 よって今回の戦闘では軽率な動きを避け、背中で意識を取り戻さない母を積極的に守る必要がある。


「喰らえ!フレイム・リング!」

 

 一人の団員によって両手に生み出された火の輪が僕に目掛けて投げてくる。ここは高火力のブレイン・バーストで凪ぎ払って!


「後ろが疎か!」

 

 構えの態勢に入る瞬間を狙ってきたのか!ここは避ける!


「貰った」


(エイジ、後退を!)

 

 二つの火の輪は突如四つに増えて、僕の方に向かってくる。まずい……まだまだ敵が沢山居るというのに。


「うぉぉぉ!」

 

 背後から忍び寄ってきた人物を斜めから剣で振り下ろし、四つの火の輪をブレイズ・セイバーで建物の方に吹き飛ばすと建物に着火して次第に大きく燃え上がっていく。


「しまった!」

 

 なんて事だ。僕が弾き飛ばしたばかりに……


「死ね」

 

 不気味な生物も迫ってくるし、クロノス聖団本部の攻撃も止みそうにない。けど弱音は吐かない!必ず活路は存在すると思ってるから!


(さっきまで、向こうで見張っていた団員も接近。エイジ、警戒を)

 

 もう向こう側の人達が追い付いてくるなんて。一体何人の無実の人達を倒さなければならないのか?


「皆さん、落ち着いて!あなた達は操られているだけなんだ!だから一旦冷静になって下さい。これが無意味な戦闘と言うことは直ぐにでも分かるはずなんだ!」


「黙れ、エイジ・ブレインは我々の標的。お前を殺せば、後は適当に道をのさばっている人を殺す。それがイスカリア様に与えられし大いなる使命だ」

 

 そんなのは違う!間違っている!くっ、けれどイスカリアが施した魔術の呪いを解くにはかなり難しいかもしれない。早く呪いを解かないと次々と関係の無い人達が殺されてしまう。


「やれ、動きに制限があるのなら簡単に殺せる筈だ。徹底的に追い詰めろ」

 

 さすがにまだ諦めてはくれないのか。もう体力的に動けない状態に陥っているのに


(エイジ、立ってください!)


「うぐっ!」

 

 両足が早くも膨らんでいるお陰か若干痛みが走っている。僕は歯を食い縛りながらも、そろりと立ち上がる。

 しかしそれでもクロノス聖団の団員は手加減抜きで迫ってくる。ギリギリの間合いに入る直前でブレイズ・セイバーを縦横無尽に切り裂くが、敵はまだまだ湧いている。


(これではキリがありません)


「そうだね、ここまで来て進退極まったかな」

 

 びっしりと包囲されている僕に勝ち目は無い。母を背負っている状態では……やがてジリジリと再び足音が響く。

 もう、この場で無念の終わりなのか?まだ終われないのに!


「てめえら、あんまり俺の街を汚すなよ」


「誰だ、出てこい!」


「はっ、出てこいと言われて出てくる訳がないだろう!その前にあんたらは俺の銃撃でおさらばにしてやるぜ」

 

 聞き覚えのある声にすぐさま理解を示した僕はその場で立ち止まっていると、コンクリート製の一軒家からザインが地面に着地。

 敵はすかさずザインに向かって攻撃態勢を図るが、当のザインは終始晴れやかな表情で数多の団員を軌道が自由自在の弾丸で様々な箇所を貫き残りわずかになった所で、銃弾のシャワーを浴びせる。


「エイジ、こっちだ。さっさ付いてこい」

 

 ザインのお陰で難を逃れた僕はすかさずクレインを元の状態に戻してから言われるがままに付いていくと無事に目的地の場所に入る事が出来た。

 ザインに付いていく形で二階の事務所のような部屋にお邪魔すると一週間経っただけで若干デスクなどにゴミが散乱している事が分かった。身体の筋肉が若干悲鳴をあげている僕はもう片方のソファーに母さんを横にさせてからクレインが座っているソファーに隣の形で座らせてもらう。

 部屋の周辺を見て、項垂れているザインは小言を言い始める。


「一週間部屋を空けていたせいか随分と汚くなっちまったな。いい加減にお部屋をピカピカに仕上げないと駄目なんだけどな……街が騒がしいお陰で予定が若干狂っちまった」


「ごめん」


「謝んなよ。それよりも俺に用がある顔を出しているぜ!何かマズイ事になったのか?」

 

 僕なデスクに座っているザインに丁寧な説明を始める。最初の内は余り聞いていなさそうな表情を浮かべていたが次第に話にのめり込んでいく。

 そして僕の話が終わるや否や、察した表情を見せる。


「なるほど……な。そうなると、やっぱりお前さんが兄さんに託された策を実行するつもりか」

 

 察しが良くて助かる。僕が懸命にこの場所まで走ってきたのはザインを僕の重要な戦力として取り込む為。

 誘った所で断られるかもしれないけど……ここまでの苦労を懸けてきたのなら。


「ザイン、無理を承知で聞いて欲しい。僕は絶対にイスカリアを倒さなければならないんだ。その為にも……君の力が必要不可欠。だから、頼む!」

 

 僕の言葉に唖然としているザインはふと立ち上がってウロウロと周辺を徘徊すると、再び自分の椅子に座って一言告げる。


「そう簡単には首を縦に出来ると思っているのか?いくらなんだでも世界の危機とはいえ、俺はこのアドモスという裏の街で営む一人の人間。そう簡単に頷けると思っているなら大間違いだと思った方が良いぜ」

 

 その意見は間違ってはいない。人にはそれぞれ手放せない事情は存在するんだ。初めから僕もそこまで期待してはいない。だけど!ここで諦めたら使徒討伐の道が遠ざかる。


「悪いけど、僕は簡単には諦めないよ。君には僕の手伝いをして欲しいんだ」


「報酬は?」

 

 現在、僕の手持ちは幾らかあるけど依頼料ほどの大金は無い。だから出すなら事態が落ち着いた頃になるだろう。その頃にはスノウ救出の際のお礼が出来る。


「後払いになる。今は落ち着いて渡す事が出来ないからね。この追われている状態では、とてもじゃないけど無理だ」


「理解した。さっき見た限りでは悠長に金を下ろす暇なんてどこにも無いからな。だとしたら……仕方ねえな」

 

 僕の言葉に納得してくれたのか、ザインは自分専用の椅子から立ち上がって僕に手を差し伸べる。


「交渉成立だ。そんな真剣な眼差しで世界の滅亡とか言われて更に真っ直ぐな瞳で見つめられたら断れねえよ」


「ありがとう、感謝する」

 

 手を握って、僕達二人は互いに契りをかわす。クレインはその光景を遠目に微笑ましく見つめていた…… 

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