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(ⅩⅣ)救済執行

 バラーズヤード、この場所は今や操られしクロノス本部があるジェネシス王国から離れた田舎で一階立ての小屋。

 僕は小さい頃にこの場所で四人家族として過ごしていた。


「また、この場所に来るなんて」

 

 もう逃れられない運命なんだろう。僕は小さい時にミナト兄さんに可愛がってもらったり、妹のユリンに頼られたりもした。

 そんな楽しい生活は母が死んだと僕自身が錯覚したお陰で崩壊していくと同時に何だかんだで優しいミナト兄さんは形を失う。

 最終的に力を求めるようになったミナト兄さんはクロノス聖団で少佐の位に登り詰め、世界を混沌に招かんとする召還獣カオスハークとの戦闘で行方不明になっていた。

 だが、数年後にキングとして名を改めたミナト兄さんは数えきれない残虐行為を執行。

 キングのやり方を止めようと立ちあがる僕とミナト兄さんが最後に死闘を決して分かり合えた場所こそが、このバラーズヤード。今では僕の記憶としてはミナト兄さんとの決着の場所として記憶が新しい。


「エイジ、こんな所で立ち尽くしていたら見つかってしまいます」

 

 警戒態勢を解いて剣から人型に戻ったクレインは早く入るように促されたので、その意見に同意する。


「あぁ、そうだった」

 

 母さんを背負ったままだと上手く身動きが取れそうに無いから早く家に入ろう。ここに使徒が来るまえに。


「相変わらずホコリが気になりますが……お邪魔します」

 

 律儀なのかクレインは靴を揃えて、足早に目的の物が置いてある部屋へと素早く入室していく。

 残された僕は殺されたと思っていた母を当時のままに放置してある寝室に寝かせておく。


「母の意識が取り戻らない。このままじゃ」

 

 使徒に対して的を地面に置いている事と変わらない。

 何とか見つからなさそうな場所に寝かせなければ。その為にも、まずはミナト兄さんが残した希望を今再び解放する。


「ちょっと待っててね」

 

 意識が未だに戻らない母さんを置いて、隣の部屋へと入り込むとそこには今や古びた机と木が腐っている木製のタンス。

 ここにはそういう簡素な物しか置いていない。ある重要な物を除いて。


「確か、ここにあったような」

 

 部屋の角にある木製の床の一部分の突起を引っ張りあげると、ミナト兄さんが残した希望……記憶媒体メモリーが姿を現す。

 これはミナト兄さんと決着を着けた後すぐに机の引き出しを調べると置いてあった物で、僕とクレインを除く第三者に情報を露見されないように隠しておいた物。

 今もこうして、形がそのままに残っているから未だに第三者に知られてはいない。


「ありました。エイジ、端末にセットして下さい」

 

 白の上着から小型のタブレットを取り出して右の突起に記憶媒体メモリーを融合させると、変わった形をしているアプリが画面上に飛び出しパスワードを求められる。  

 僕はミナト兄さんに言われたパスワードを間違える事無く入力

するとメニュー画面に切り替わりミナト兄さんが調べ上げた各使徒の詳しい情報を知る事が出来る。


「あとは……この部分だけか」

 画面上にある一番下の部分。

 ここには重要な情報が載っている。けれど僕は開かなかった。何故なら開けるまえには必ず一文が出てくるから


「全ての覚悟、決意が決まったのなら……か」

 

 どうにもこの一文を見ると指が止まってしまう。


「今はこの事態を収束させなければなりません。何としても」

 

 もう躊躇う時間は無い。ここまで来たのなら……


「開けるよ」

 

 忠告の文章をYesにして開示すると、当時激闘を繰り広げて自殺した姿が僕の瞳に映る。


「開けたか。どうやら……状況は刻一刻と崩壊に差し迫っているようだな」

 

 ミナト・ブレイン。僕とユリンの長男でクロノス聖団の少佐を務めた武力そして知識力も並々ならぬ質を持った自慢出来る兄さんで僕の黒髪と全く性質が違う銀髪に鋭い瞳が特徴的である。

 そんな……今では一生会えないミナト兄さんが画面上に映り込んでいる。


「この動画を開いたという事は、俺が死んだ後にイスカリアの動きが本格化並びにお前が絶望的な状況に陥っていて改めて全ての覚悟と決意を込めたと判断して話す。因みに戻りたければ右上にあるボタンで閉じてくれても構わない」

 

 僕はミナト兄さんが次の言葉を語るまで黙ってじっと待機していると


「時間だ。始めよう」

 

 ミナト兄さんは淡々と説明を始めていく。会話の内容は使徒の正体及び最終目的。

 最終目的は全ての人間の抹消と僕の身体に秘められているルナを抜き去り、禁忌魔術で人間とは生命体を創造し自分達の都合の良い世界を築き上げる事。

 何とも勝手すぎる話だ。そんな自分勝手な理由で僕達人間が殺されるなんて。


「無論、奴等の暴挙は許されない。だからお前には代わりに世界を救ってもらう。死んだ俺の代わりとして」


「ミナト兄さん」


「もう後戻りは出来ない……これは俺がアドバイスする最後の言葉だ」

 

 画面上に映っているミナト兄さんは大きく息を整え、改めて覚悟を決めた表情を浮かべると僕にとっては前代未聞の言葉を良い放つ。


「組織を築き上げろ、クロノスを超えた……お前だけの組織を。そしてその武力を持ってしてイスカリア並びに五人の使徒の暴挙を食い止めろ!この言葉を聞いて不安になっていると思うが、俺を倒したのなら大丈夫だ。今のお前なら出来る。ミナト・ブレインを討ち果たしたエイジなら」

 

 組織を築く。ミナト兄さんは僕の不安な気持ちに気づいていたのか励ましていた。


「どこか憎みきれない、この尊き世界を頼んだ」


「うん、約束は必ず果たすよ」


「ふっ、今の画面を目でじっくりと凝らしているお前は多分首を縦に振っているんだろうな。じゃあ最後の最後に今まで俺も知らなかった父を教えてやる」

 

 ばれていたのか。それよりも兄さんも知り得なかった父の名前

。確かに僕も一度知らずに母さんと兄弟仲良く不自由無く過ごしていたから不思議と父の疑問は湧かなかった。

 果たして父はどんな人なのだろうか?


「俺達を産んだ後に消えた父の名前はレグナルド・ブレイン。生前に…………」

 

 ミナト兄さんは躊躇っている。その証拠に顔が若干ひきつっている。そして長い沈黙が訪れ、しばらくすると目を閉じて


「やっぱりお前の手で知るんだ。こればかりは直接知った方が良い。それじゃあ、後の事は……お前に託したぞ」

 

 通常のメニュー画面上に戻ったという事はメッセージはここで終りなんだろう。

 母さんの事を言わなかったのは恐らく僕を悲しませない為なのだろうけど、母さんは無事に取り戻している。

 ただ兄さんが躊躇っていた父さんの存在がやけに引っ掛かる。果たしてミナト兄さんは何に躊躇っていたんだろう?でも考えている暇なんてない。

 取り敢えずは崩壊へと招かんとするイスカリアを始めとする使徒を葬り去る事が僕の使命なんだ。

 その為にも独りで戦うのでは無く、信頼できる仲間を集結させて組織を結成し失わし世界を取り戻す!上手く事が運べるかは実際にやってみないと分からないけど……


「ミナト・ブレイン。私から見れば悪人に染まりきってはいない人物でした」


「そうだね。ミナト兄さんはイスカリアに出会った事で全てが狂ってしまった。結局は被害者なんだ……だから、悪人になんて染まれない」

 

 このメッセージを受け取ったからには、成し遂げなければならない。このままでは終われないんだ!


「エイジ、母をどうしますか?こんな状態では動くにも動けません」

 

 母さんをこのままにしておけば、いずれにせよ使徒に殺されてしまうのは時間の問題。なるべくなら急いで、安静な場所で寝かせておきたい。


「母さんはいつ目覚めるんだろう……どちらにせよ、どこかの医療機関で治療しない事には」


「使徒を完全消滅させないと、エイジの母さんはいつでもどこでも必ずし狙われます。まずは絶対に見つからない場所に隠しておくべきです」

 

 クレインの言っている事は正しい。母さんはイスカリアが僕の弱味となる存在。

 そんな人質に近しき存在が奪われたとならば……確実に殺しに掛かるだろう。

 現に今のイスカリアはカーネル大佐が怒らせた事で躍起になっている。だとしたら、ここも例外ではない。急いで脱出しなくては!


「開けろ、開けなければぶち破る!」

 

 まずい、もう見つかったのか。この場から逃げ切らければ!


「クレイン、力を貸してくれ。緊急脱出だ!」

 

「分かりました」

 

 記憶媒体メモリーを無くさないように自分の上着の中に入れ込んだ後に隣の部屋で今や意識が戻らない母さんを片手で背負ってから、クレインの力を借りる。

 準備が整い部屋の窓から脱出を図ると、数多の操られたクロノスの騎士が目の前に立ちはだかる。


「覚悟せよ、イスカリア様の名誉の為に」

 

 どうする。現状、僕の片腕は母を背負っているお陰で片方の腕は動かせない。こうなるともう片方の腕で剣を振るうしか無い!


(無理な戦闘は避けるべきです)


「うん、そうだね……極力無茶な戦闘は避けるよ」

 

 この戦闘に意味はない。なるべくなら不殺で倒して、終わらせる。だが、操られた騎士は一斉に押し寄せてくる。

 僕は後ろの壁に寄りながらも集まってきた所で一気にブレイズ・セイバーを振り下ろすと大きな炎が舞い上がりを見せたと同時に四方八方に倒れていく。


「ごめんなさい、僕にはこうする事でしか戦いを止められない」


「窓から逃げよったか!だが、我等クロノス聖団が数になって掛かれば殺せるぞ!」


「もう止めてください!あなた達はイスカリアと始めとする使徒に操られているだけだ!だから、正気を取り戻してーー」


「黙れ、我等を惑わすな!裏切り者がぁぁ!」

 

 もう駄目か。話し合いでは解決しないのなら、根本的な歪みを叩かないといけない。その為にもまずは戦力を強化して、使徒を倒すしかないんだ!


「くっ、ブレイズ・バースト」

 

 組織に入隊した僕は組織に追い詰められる。イスカリアが仕出かした計画によって。


「ぐわぁぁ」


「くそがっ、追い詰めろ!」

 

 これじゃあ数に押されるだけだ!増援が来るまえに……


「クレイン、ここからは逃げる!」


(分かりました、しかしどこまで逃げるのですか?安全な場所すら無い状況で)

 

 確かにもう安全に落ち着ける場所なんて存在しない。だけれど、裏を利用すればどうにでもなるかもしれない。


「この前依頼した場所に行くよ。そこなら、色々と出来る事があるからね」


「逃がすか!」

 

 戦闘を途中で中断した僕はジェネシス王国の監視対象外と知られている場所まで追っ手に姿が知られないように振り切る。向かうはアドモスだ!

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