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帝國地獄変(仮)  作者: 変態紳士海藻用電池法
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第二章 三話

こぉぉれぇえヨリィィィイィっ!!」

「キサマニ『海軍魂』ヲぉぉオぉォっ!!」

「…チ、注にゅーーうぅウっ!!シテヤルぅぅうゥウっ!!」

眼の焦点は定まらず、白目の血管は裂け赤く染まり、瞳はバラバラに小刻みに泳いでいる。

顔面は紅潮を通り越し最早蒼白である。

青筋を立て、食いしばった歯はバキパキと音を立てる。

視界を染め上げた赤い世界を手繰る様に、我を忘れた軍鬼は裏返った咆哮を上げる。


そして眼前の鬼は水兵の手から『注入棒(屠殺用鈍器)』をふんだくった。

水兵は早く帰りたそうな表情でトバッチリを恐れ気配を消しにかかっている。

彼は今空気になりきる事に徹している、今なら外気功を使えると錯覚する程に。


浩士は助けを懇願する眼差しを水兵に送るが、当然水兵は目を合わせてはくれない。

彼の心は今宇宙の外にあるカオスあるいは精神世界のはるか向こうの曼荼羅と共鳴している筈なのだから。

浩士は気付いていた。

実際に見るのは初めてだが、これは『悟り』と言う境地であると。

精神医学界で完全に発狂していると言われるアレだ。

(ですよねー)

心の中で棒読みしてみる


すぐ様割れたスピーカー音声の様な声の様な音が浴びせられた。

「ぎ、キヲつケェえぇェいぃっ!!」


(こんな声出せるハゲがなんかの漫画でいたよなぁ…)

鼓膜を破らんと響き渡る怪音波で脳髄を揺らされながら浩士は思考を逃した。


直後、脛に一撃。

鈍い音と共に激痛がやってくる。

「アアァアァア!!!!!!」

激痛に絶叫を上げつつ前方に倒れこむ。

ガゴン

直後衝撃と共に視界が一瞬テレビの砂嵐のようになった。

かと思うと遅れて痛みがやってくる。

打たれた?頭を?

雫が落ちる。汗?

頬を拭えば真っ赤な血だ。

(えっ?)

「ぐ…う…うぎゃああぁぁあぁ!!!!!!」


激痛に加え多量の出血を見たことにより浩士はパニック状態に陥った。

「…死死死死死死…、い、イヤダぁぁあぁ!!!!?!?」


転げ回る浩士を中尉は尚も打ち据える。

「吐けぇえエぇい!!ぎざま!存メイ!じだぐばばば!!?」

「はぁよぉぉおぉう吐けぇえいっ!!!!」


中尉は浩士の血を見たことによる興奮により完全に我を忘れている。

部下も口出しこそしないものの、死なせてしまうのではないかと肝を冷やしている。


状況を変えたのは部外者の一声だった。


「おい!!貴様何をしている!?」


中尉は最早周囲の声など聞こえておらず、尚も浩士を打ちすえようと凶器を振り上げている。

介入者に肩を極められてようやく我を取り戻した。


「ええい!邪魔立てするとは何奴!?」

振り向きざまに介入者と視線が合う。

「......!?...いえ...、これは大尉殿...、...は、只今この者に2.3尋問していた次第であります....。」


「ほぅ、状況を見るに幾分尋問の反中を超えているようだが...。」

「いつから海軍は露西亜辺りの方針を取り入れたのだね?」

「聞くところによるとスメルシ(旧ソ連防諜機関)は鉛を詰めた革袋で疑わしきを打ち据えるそうではないか?」

訝しげな表情の後にせせら笑うように男は告げる。


皮肉っぽく薄笑いを浮かべるこの男は名を吉野元久と言う。

陸軍内での階級は大尉。

最もこの男はいくつもの貌と名前を有しており、この世界に滑り込んでからはこの名で統一しているに過ぎない。

かつて中野にあった「帝國文化協賛会」と登戸に存在した「綜合理圏研究所」が統合された組織の職員である。

そして吉野は現在陸軍大尉の貌で中尉を問い質している。


これには嫌味な中尉も表情を顰める。

「...いえ、この者が帝を亡き者であるかの如く妄言を吐きましたもので...。」

吉野は表情を変えない。

「...、確かに少々行き過ぎたところはあったかもしれませんが......しかし...。」


「ふむ、では命令する。貴殿は即刻に尋問を中止、我々陸軍に尋問を引き継ぎ得た情報は書類に纏めよ。」

遠回しに暴行については揉み消すから早く下がれと言っているのだ。

「しかし…」

「さがれ」

中尉は目を伏せしぶしぶ退いた。


吉野ののすぐ後ろで先刻中尉にいびられた軍曹がニヤニヤ顔で見送る。



「さて、身内の者が済まなかったね。」

朦朧状態の浩士は差し伸べられた救いの手にすら恐恐としている。

そう言って吉野は浩士の頭をさすった。先程の殴打で頭皮がやや裂けた為か鋭い痛みが走る

吉野は軍曹を手招きし、手当と食事の準備の指示をとばす。

「君は日本人だね?どういった経緯かは知らないが敵兵として武装し戦場に立ったそうだね。」

「この状況は君にとって非常に不味い。武装していたということは、民間人だとはいえなくなるのだよ。」

「しかし同じ日の本の民の好、私の権限で不問としたいと考えている。」

「故にどうか我々同胞の非礼、収めてははくれないか。」

いわゆる『良い警官、悪い警官』の話術手法テクニックであったが浩士は引っかかった。


「...あ...、はい...。」

流れのままに気のない返事をする浩士。


「さて、繰り返す様で済まないが、先程の中尉に話した話を聞かせてくれるかな?」

「勿論、手当の後食事でもしながらで構わない。」


吉野の言葉と同時に先刻の軍曹が浩士の血糊を拭ってくれた。

「この傷ではどの道二日は眠れないだろうに、さっきは悪かったなぁ」

角刈りの後頭部をムシりながら軍曹は慰めた。




「...ふむ、となると君は未来人ということになるのかな。」


北欧風の豪勢なインテリアにコース料理...

とはいかず、現地調達の食材と備蓄の保存食に簡素なテーブルを囲んでの談話であった。


吉野は先の中尉とは違い穏やかに、相槌を打ちつつ説明下手な浩士の話を聞いた。


「...多分...ですけど、整理して考えるとそれが一番しっくりくるんですよね。」

「...いやぁ、自分でも現実離れしすぎててラノベかよってぐらいですけど...。」

浩士も自分の発言に自信が無い。


しかし吉野は続ける。

「だが我々にも初めての事例であり、今は君の話を信じる他無いわけだ。」

(...ラノベってなんだ?)

「そして聞く限り、私も概同じ推論だ。」

「それに、君が嘘を言っている様でもないしな。」

「それにしても......」

吉野は合コン後の男子学生の様な下卑た笑みを浮かべる。

「現地民の娘と初めてを済ませるとは、君なかなかやるじゃない。」

「ここの連中は西欧人のようで美形揃いだ、よかったじゃあないか。」

笑いながら茶化す。


これには浩士も照れから焦った笑いを浮かべる。

「...はは、いやぁ言わんでくださいよ...。」


「ははは、いやいや、君も隅に置けないねぇ......しかし...」

とたんに打って変わり真面目な表情だ。

「気になったのだが...、君の所有品にあった手鏡状のそれだが、見たところ精密機械のようだがそれはなんだい?」

吉野は表情がくるくる変わり飄々とした男であったが、先に述べた機関、『N機関』成る諜報組織の人間である。

食事をしながらの談話は、臨床心理学に於ける「ランチョンテクニック」を用いている。

人は食事をしながらの会話では心理的なガードが下がりやすい。

加えて最初に暴行を揉み消す際に「我々」「同じ~」というワードを用いたのも、連帯性を持たせる心理テクニックである。

ただの高校生の浩士はまんまと吉野のサイコトラップにハマったのであった。


これにより心理的警戒が払拭された浩士は、吉野を友人の様に感じていた。

故に部活の先輩に答える様に気軽く説明を始めた。

「あぁ、スマホのことっすか。」


横文字の登場に吉野には疑問符が付く。

「スマホ...とは?」


「えと、正式にはスマートフォンですね。」

「...えぇ、解り易く言うと携帯電話ってやつですよ。」


「成程、つまり携帯式の無線通信機というわけか。」

「差支え無ければ電源を入れてみてもらってもいいかな?」

吉野は機械の方向性を理解し浩士に促す。


対する浩士自身は気軽なものだ。

「あ~いいっすよ。」


浩士が側面のボタンを長押しすると林檎ロゴが表示され、起動音と共にパスワード画面が表示される。

そして画面上のダイヤルパッドに暗証番号を入力しホーム画面を開く。


「...!?...今何をした!?」

吉野は驚いた様子で問い質す。


「??何って?暗証番号入れてロック解除しただけっすよ?」

浩士は吉野の態度が解せない様子だ。


「入力?見たところキーは側面にしか無い様であったが?」

吉野は真剣な表情だ。


「そりゃタッチパネルっすからねぇ?」

相変わらず解せないままだ。


吉野は既に困惑手前であった。

「あ...あぁ...、タッチ?パネル?」

吉野は諜報員であり複数の言語を扱える。

だがそのワードがこの機械の何を指すのかが結び付かないのだ。


しかし浩士はその様子から英語が解らないのであると勘違いしたのであった。

「あぁえっと、触って操作できる画面なんですよ。表示された数字を押したんですよ。」

「解除は指紋認証でもできますけどね。」


「!!?何ということだ...。因みにこの機械の生産国は?」

流石の吉野も狼狽の表情だ。


「えっと、これはアメリカのっすね。ドロ...他のだと日本製とか、いくつかの国のがありますよ。」


「...勝てない訳だ...。...こんな技術を有しているのだ...。」

吉野の表情は悲痛なものであった。

様子から察し浩士は続ける。

「あ、でもタッチパネルの技術は日本の企業が開発したらしいですよ。」

「このスマホの会社も日本企業の技術を使ってたはずです。」


「...!そうなのか?...、しかし私の知る限り日本、いや世界でもこのような技術は見たことが無い...。」

情報戦のプロである吉野は各国の技術に明るく、また自信もあった。

「これはいよいよ君が未来人であるというのも疑えなくなってきたな。」


浩士は空気を少し戻せたと胸を撫で下ろした。

「因みに日本製品は大概世界トップですよ〜。」


「では具体的にはその機械の使用用途は?いや、何ができる?」

吉野の質問はこれが単なる無線機械ではなく、未知の何かであると理解してのものであった。


「えぇと、電話機能はおまけみたいなもんスね。」

「メール...、いえ、電子文章を送ったり情報通信とかできますね。」

「これ僕等の時代ではインターネットて言うんですよ。」

浩士は端的に説明する。


「では実際に見せてくれるかな?」

吉野は催促する。


「あ、いいっすよ。......あっ!!」


「...ん?どうした?」


浩士は申し訳無さそうに答える。

「ダメっす。ここ圏外で電波入んないです。スイマセン。」


「そうか......。」

吉野は理解した。

この機械「電波」を用いる。

どんなに技術が発展しようとも原理には逆らいようがない、この機械に仕込まれた送受信の可能半径は見た目通りであろうと踏んだのだ。

つまり、未来には通信を中継する膨大なインフラが整備されており、その上で機能する代物であるのだと。

「少々残念だが仕方がない、ここは未開の地だからな。」

「なぁに、こういう時に重宝するのがアナログってことだ。」

吉野はため息交じりに言う。



浩士は画面をスワイプしつつ確認する。

どうやらアプリ類は大丈夫そうだ。

「...あとは、カメラで写真が撮れますよ。」

浩しはインカメラを起動し吉野に並びシャッターを切る。

「ほら...」

そして撮影した画像を吉野に見せる。


「!?なんと!こんなに綺麗に写るのか...。」

「うーむ...」

吉野は諜報活動の折マイクロフィルムを用いていたので複雑な気持ちになった。

これは何処にでも隠せる代わりに仕込める情報量があまり多くないのでよくよく吟味する必要があったのだ。

「あとこの写真も本当ならネットで共有できますよ。」

浩士は何故かドヤ顔だ。


「......うむ...、何というか...何というかだな......。」

吉野は表情には浮かべなかったが安堵した。浩士が諜報活動をする技量を持っていた場合始末に負えなかったからだ。



この後浩士からゲームアプリの説明等をして話を終える。



「じゃあ浩士君、この後合って貰う人が居るから。」


「へぁ?」

浩士は気のない返事だ。


この時吉野にはある仮説があったのだ。

鋼城かねしろ上等兵のいる兵舎だよ」

浩士と同じ苗字であった。

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