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帝國地獄変(仮)  作者: 変態紳士海藻用電池法
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第二章 二話


「貴様ああああぁぁぁぁあぁぁっ!!」

「私を愚弄するかぁぁ!?」

「戦略的撤退を余儀無くはされたが、月日も数えられぬ物狂い呼ばわりされる謂れは無い!!」

「我等が帝国が敗戦国だと!?フザケルナ!!貴様非国民か!!?」

先刻までの柔らかい物腰は消え失せ、完全に怒りを露わに咆哮を上げる。

眼を見開き、青筋を立て、怒気を立ち昇らせ、浩士の胸倉を掴み上げる。


(こ…恐いおぉ…)

浩士は内臓まで漏らすかと思うほどに震え恐怖した。

が、ここで弁明することが出来なければ自分に明日は無い。

生への渇望が自らを鼓舞し、ようやっと言葉を絞り出す。


「スンマセン!スンマセン!待って!ちょ…!聞いて!…聞いてください!!」


「あ?」

相変わらず掴み上げる手の力は緩まないが、まだ言葉が届く余地はあるようだ。


「今っ!今は西暦何年ですか!?」

「戦争から何年経ってるんですか!!?」

(ぐるじい…首っ!首っ!)

掴む腕をタップしながら浩士は叫んだ。


「何!?何時かだと?……何故西暦か!?」

「…貴様やはり…、英米の犬か!?」

見開いた眼をいっそう血走らせがなり立てる中尉。


「違います!!違います!!…でも大事なことなんす!!おじえてぐだざい…。」

「…てかイダイ!イダイ…、ギブ…。」


「注入棒を持って来い、山本一等水兵!!」

天幕出入り口に待機している部下へと命令を飛ばす。


浩士も必死である。

「…ぐぬ、答え…て…、ぐだざいっっ!!」

回答を得ようと食い下がる。


「ふん!今が何時かだと!?」

「そんなことは分かりきった話だろぅが!あの日より十年だ、十年も彷徨ってきたのだぞ!!」

「忘れなどするものか!!皇紀2615年に決まっておるだろう!!」

中尉は怒声を吐きながらも、その眼には狼狽と絶望を宿していた。


(…っ!?やっぱりそうか!)

「っち、…ぢがう!違うっ!!」

「あなたの認識!!違うって!!」

確信を得た浩士は強く、しかし宥めるように訴えた。


「…何ぃ?」

僅かに中尉の力が緩んだ。

浩士も機を得てたたみかける。


「重大なことがあります!!だから…!…説明させてください!!」

「こ、殺すなら…、聞いてからでもいいでしょ!?…お願いしますよぉ…。」

この時点で浩士の顔面は涙やら鼻水やらで目も当てられないことになっていた。


その絵面を見て若干引きつつも中尉は冷静さを取り戻した。

胸倉を掴む腕を下ろし、浩士の隣の椅子に腰を下ろす。


「…いや、何も貴様を殺すなどと言ってはおらぬだろ…。」

「元より私にそのような権限など無い。」

「して、重要な事柄とは何だね?話してみたまえ。」

浩士に促す中尉は、徐々に落ち着いてきているようだが狂気に満ちた眼はそのままである。


肩で息をしていた浩士も徐々に呼吸を取り戻していく。

「…ハァ…ハァ…、ま、まずですね?」

「あなたはさっき、皇紀2615年と言いましたよね?」


訝しげな表情になりつつも中尉は答える。

「あぁそうだ。出航から十年だからそのようになる。」


「自分は皇紀と言うものは知らなかったんですけど、日米の終戦は西暦で1945年だったはずなんですよね。」

恐る恐る説明を進める。


「…うむ、まぁ私とて西洋の暦くらいは知っている。」

「そうだな、今年は西暦で言えば1955年となるわけだな。」

「それがどうしたと言うのだね?」

中尉は暦を数えつつも話の意図が見えない様子だ。


「…あぁ…、やっぱりか…。」

「あのですね、自分の認識では今は西暦2017年なんすよ。」

「…つまり、あなたの認識と半世紀以上の開きがあるんすよ。」


「ほう、貴様の誇大妄想でなければそういうことになるな…。」

「しかし貴様の言葉をどの様に証明するのだね?」

中尉は言葉こそ聞きはするが、当然の疑いをかける。


「まずですね?自分がここに居るのは外国人にたぶん…。魔法みたいな何かで呼び出されたから?だと思います。」

「魔法っても自分も詳しく知りませんけど…、なんか魔法陣みたいのとか宗教じみた祭壇とかあったんで…。」

「相手は外人ぽかったので何言ってるか全然わかんなかったですけど。」

「魔法なら時空とか超えたりしそうじゃないっすか。」

無い知識を振り絞って説明するも、何せ『魔法』などと言う嘘臭いワードに頼らざるを得ない。


しかし意外にも中尉は魔法というワードを真っ向否定はしなかった。

「ふむ、連中の使う魔術の類か。確かに報告されているな。」

「しかしアレは我々の兵器の前ではてんで役に立たない豆鉄砲でしかないが?」

「それが未来人を呼び出すなど出来るものかね?」

「連中に出来ることなどせいぜい死体を動かして兵とする嫌がらせ程度のものだと思うがねぇ。」

「それに未来人を呼び出せるなら何故未来の軍人を呼ばない?何故に貴様の様な子供を呼んだのだね?」


「それは…多分何か条件が必要なんじゃないですか?」

「自分が召喚された時に一緒になんか犬とか洗濯機とか出てきてましたし。」

「あれ?そう言えばワンコ居ないなぁ…。」

浩士は知らないが、先日降伏した際に犬はとっくに逃走している。


「ふむ…。」

中尉は少し考え込んでいる。

状況と証言の信憑性を考察する。

僅かばかりの間ではあるが、恐怖の渦中の浩士にとっては実に気不味い時間である。


「つまり貴様は過去へ飛ばされてきたと、そういうことになる訳か。」

「…では、極めて重要な部分について問う。心して答えてもらおう。」

「貴様は先程に、我等が帝国が敗北したと言ったな?」

「未来人と言うならば歴史の経緯を知っているのだろう?説明してみよ。」

中尉は表情を変えずに話を続けているがしかし、その瞳には僅かに狼狽の色を宿している。

もっとも浩士にそれを看破出来る器は無いわけだが。


浩士はこれから話す内容が、目の前の軍人にとって辛いものであることを認識していた。

話すこと自体に躊躇いはあったが、ここは話さずに進める場面ではない。


「…はい。最終的に追い詰められた日本は無条件降伏しました。」

「降伏後にはアメリカからGHQだかマッカーサー?だかと言う人がやってきて戦後の処理をしたそうです。」


中尉は無言で話を続けるよう促す。


「えぇと…、それから、戦前は天皇を頂きとした政治をしていたそうですが、アメリカ側が納得しなかったから天皇は象徴?とかの位置付けになって政治から外れた?だったと思います。」

「自分、歴史の成績悪かったので…詳しくはないんですけど…。」


「それから日本は戦争を永久放棄しました。」

「軍隊は解体されて、自衛隊っていう戦争しない軍が出来たんですよ。」

「ニュースとかでは憲法改正してアメリカと一緒に参戦できるようにしたい動きもあるみたいですけど。」

「なんせ気持ち悪い赤い人達が反対してデモとかやってますし難航してるみたいですね。」

浩士は授業で覚えた記憶をたどたどしく語る。


「...黙れえぇぇぇぃ!!」

中尉の怒号が響き、浩士の言葉を掻き消した。

「貴様ぁ!言うに事欠いて陛下がお飾りだと!?」

「そのような事があるはずがない!!あって良いはずがないだろう!?えぇ!?」

「嘘だ!!貴様は嘘をついている!!」

「貴様は帝国海軍中尉である私を謀って国家転覆を目論んでおるのだ!!。」

「そうだ...きっとそうに違いない!!」

「言え!この非国民......裏切り者...言え何処の手の者だ!?」

「答えろ!!米国か!?露西亜か!?答えぬか!!」

中尉のそれは最早哀願とも言える絶叫であった。

その瞳は既に虚空の彼方、何処も見てはいなかった。


「ヒ...ヒィッ...」

浩士は眼前でタガの外れたドス黒い狂気に戦慄し言葉が続かない。

(ヤヴァイ...何か言わないと...)

しかし完全に壊れてしまった狂人を納得させる言葉が見つからない。

いや、最早何を言おうと彼の耳には届きはしないだろう。

「ええい、注入棒はまだか?!」

恐る恐る水兵から差し出された木材の塊が視界に映った浩士は愕然とした

(いや、ソレはダメなやつでしょ…)

それは 棒というにはあまりにも大きすぎた 太く 分厚く 重く そして大雑把過ぎた それは 正に…

「牛とか殺す時のどでかいバッドじゃねえか!!!!」

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