第一章 四話
「え、オレ寺に火ィ付けた放火魔でも京都で暴れてたヤクザの隊長でもねえんだけど」
「いつ滑り込んじまったの?!」
彼が挙げた英傑たちは総じて間抜けをやらか(ブレイク)した事があった。
が、そもそも浩士は英傑ではない
「うー☆」
「ぴちゅうん」と己の口で呻きながら蹲った。
果たしてかな穴ぐらを抜けた先は草原であった。
浩士は遠方にてライフル銃を携えて駆ける兵士の怒号を耳に捉えた。
「日本語だ・・・」
2つの感情が湧いた。己を呼んだ者はまず間違いなく過剰評価している。
いや、不都合から目を背け労力を全振りしているのだ。
どうしてこの事態において準備が達者な奴が、
自分以外の誰かが、あるいは準備万端の自分が呼ばれなかったんだという、やり場のない憎悪が
己の脳内毒を分泌させて身震いを催した。
と同時に素晴らしき日本の義務教育な感謝した。
前門の最狂軍人、後門の最凶魔術師。
まさに絶体絶命である。
この非常時に浩士の薄っぺらな大脳新皮質はフル活用されたのだ。
「うん、降伏しよう。」
いい笑顔だった。
憑き物が落ちたような清々しさをたたえた漢の貌だ。
「さーて白い布白い布っと…」
日本語を話す怖いおじさん達と、言葉すら通じない怪人達とでは
前者以外の選択肢は見当たらない。
それに目の前の軍人が旧日本軍ならば恐らくは二時大戦頃の軍隊だろう。
ならば条約上捕虜を虐殺したりはしない?はずである。
あまり興味が無かったが、歴史の授業で何となく覚えがあった。
一瞬泣き出しそうな顔のジルが頭に浮かんだがもうそれを考えてはいない
戦略的一時撤退なのだと心に言い聞かせた。
脱いだ白いTシャツを先刻持たされた槍に縛り付けて……
出来たぞ☆立派な白旗だ〜♪
浩死は全力で手製の白旗を振った。
腕がちぎれんばかりに。
激しい動きに玉の汗をかく。
しかし浩士は気にしない。
この美しい漢の汗こそが明日への活路を切り開くのだから。