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卑怯で狡猾な三等兵の日常  作者: 堕罪惡醒夢
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第11話「能力活用の模索と垣間見える本性」

「あぁ...酷い目にあった......」


昨日は大変だったが、魔力のこもった包帯とミリーの介護のおかげでどうにか動けるようになった。


「よく考えたら性能の悪い肉体で無理な動きすればああなるよなぁ......」


机の前に座り込み、どうすべきか思索に耽る。


戦闘術やらなにやらの習得は必須だが、筋トレと平行してやらないと死にかねない。


「ぬぅ......そうだ!」

椅子から飛び降り、本棚の前へと立つ。


「ここの本の...!知識のコピーをしてみよう!」

格闘技を真似できたんだから、知識のコピーもできるだろう。


本棚から使えそうな本を片っ端から抜き取り、机の上に積み上げる。


薬草調合の基礎の基礎、0から始める黒魔術、バレない盗聴器の作り方、好きな相手を洗脳するには、媚薬制作応用編 etc......


「さあ!始めるぞ!」

椅子に座り、手に取ったもから目を見開いて読み進める。


「おお...!」

魔力を意識しているからか、書いてある内容が非情にスムーズに頭に入ってくる。


なんて便利なんだ...!テストの時に使いたかった。


流れるように1冊読み終え、覚えているか確かめてみる事にした。


「ええっと...痺れ媚薬の作り方は、赤の秘薬2滴に醤油とグリーンバターを混ぜて...おお!ちゃんと覚えている!!」


さっき読んだ内容が完全に頭に入っている!


「よし...!次の本だ!」


いける...!いけるぞ...!

これで!出世を目指せる!!


ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー


「おはよう...カワサキ......」

「ん?ああヤーデルか、おはよう。」


「それにしても、滝山が無事で良かったな...」

「筋繊維がかなり疲弊していたからね、良い包帯があってよかった」


「......俺が、先輩としてもっと注意すべきだったのだろうか。」

「ヤーデル、初めての後輩で色々考えてしまうのはわかるけど、深く気負いすぎない方がいい。ほら、モーニングティーだよ」


「ありがとう...滝山はまだ起きてこないのか?」

「そうなんだ、今日の朝食は僕が作る予定だったから問題ないんだが、いつもはもっと早く起きてくるんだけど......」


「おはよ〜...ヤーデルとカワサキ......ふわぁ」

「ハイユか、良い所に来た。滝山がまだ起きてこないから見てきてくれ。」


「えぇ〜今日も?僕3日くらいお風呂入ってないから近づいたら嫌われちゃうよ...」

「だから風呂は毎日は入れと...大丈夫だ、あいつは野性的な女が好きらしいからな...」


「本当?もう〜!」


「......チョロイな。」


ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー


コンコン、とドアをノックする音が聞こえる...

「タキ〜?入っていい?」


「ミリー...助け......」

「どうしたの!?タキ!?」


ミリーが勢いよくドアを押し開け飛び込んできた...が、それに応じる気力はない。


「タキ、今日はどうしたの?顔が赤いよ!?」

「頭が...熱い......」


そう、熱があるんだ。ボーッとしてろくに思考もできない。


「なんで...?筋肉痛は治ったのに、病気......!?」


「これは...多分......」

重い口をこじ開け、言葉を発する。


「知恵熱......だ......ゴフッ」

「タキーーーー!!!!」


薄れゆく意識の中、私の目には涙目で必死に呼びかけるミリーの顔が写っていた......


ーーーーーーー

ーーーーーー

ーーーーー

ーーーー

ーーー

ーー


「ああクソ...本当に酷い目にあった......」

1日の家事を終え、エプロンをベッド上へと投げやる。


結局昨日も知恵熱のせいで丸々1日潰してしまった...

溜まった家事は片付けられたが、ミリーにまた丸1日介護させてしまったのも申し訳ない。


どうにか恩返しがしたい所だが...


「いいよそんなこと!気にしないで〜」

これだよ...

ミリーの部屋に来て、何かお礼がしたいと伝えたが、彼女はそれを受け入れようとしない。


「いや...流石に悪いからさ、何か私に出来ることでもあれば...」

私は人に貸しを作るのが嫌いだ。

それに怨恨は小さいうちに断ち切っておくに限る。


「ん〜......そうだなぁ.........」


(できるだけ軽いものにしてくれ......!)


「あ!そうだ!」

良い考えが思いついたらしく、ミリーは手を叩き、私に向き直った。


「明日、僕の修行に付き合ってくれないかな?」


修行......?

「いいけど...私有り得ないほど弱いよ?」

「大丈夫!少しトレーニングを手伝って欲しいんだ。」


「それぐらいなら...」

「うん!じゃあよろしくね♪」


ミリーは非情に嬉しそうな顔をしている。

私も適当に笑みを返し、部屋を出た。


何をあそこまで喜んでいるのかはわからないが、高額なものを頼まれたりしなくて本当に良かった。


修行の手伝い...私に務まるだろうか?


ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー


「じゃあ、行くよ〜」

「はーい...」


お馴染み、支部前の空き地。

私は備品のボクシングの拳を止めるヤツみたいなのを身につけ、ミリーの攻撃を受け止める体制で構えている。


彼女は素手のままだが、大丈夫らしい。


「ふぅー......ハァッ!」


声を上げ、勢いよく飛びかかってきた!


(来た...!)


「ハッ!ヤッ!トゥ!ハァァァー!」


かなりの重さ...ハイユの時より早い気がする!

「ぬぅん......!」


はっやい!とにかく早い!

目が追いつかず、倒れないようにするだけで精一杯だ!


「大丈夫?ちょっと夢中になりすぎちゃった...!」

ミリーが手を止めてくれた頃には、私はすっかり満身創痍だった。


「おぇ...大丈夫だよ......」


「本当にごめんね?」

「大丈夫大丈夫...次は何やる?」

できればもうこれはやりたくない。


「うーん...じゃあ鬼ごっこがやりたいな!」

「鬼ごっこ...?良いけど、足の速さが...」


100m5秒の少女と21秒のクソ雑魚で鬼ごっこが成立するわけがないと思うのだが。


「大丈夫!僕、重りをつけるから!」

そういってミリーは、訓練の際に使われるという丸い輪っかを4つほど取り出し、彼女の両腕と両足に付けた。


「おっと...結構重い。じゃあやろう!」

「ああ...!」


正直もう帰って寝たいが、彼女の笑みを絶やしたくもない。もう少し足掻いてみよう。


ーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーー


「ぜぇ...はぁ......ゴフッ...!」

「ハァ......待て〜〜〜♪」


瀕死になりながらも逃げ続ける私を、ミリーは嬉嬉として追いかける。


かなりの重量の重りを付けているはずなのに、彼女の走りは衰えることを見せない。


「ぜェ...クソ!」

しかし私も簡単には負けられない。

鬼にでもなったらまず追いつけない。


跳ねたり飛んだり曲がったり踊ったりを繰り返し、追いつかれる一歩手前で避けまくる。


「も...だめ......」

しかし無情にも体力は尽き、芝生の上に寝転んだ。


「ハァ...追いついた〜!タッ〜〜チ!」

ミリーも私の隣に寝転び、私に触れてきた。


「ぜぇ...グボッ......ゲェハ......」

「ハァ...ふぅ。」

ミリーと並んで空を見上げる。

原理は知らないが、こちらの世界の空も美しい青色をしている。


「タキ、僕ね」

「......?」

呼吸をどうにか整え、ミリーの言葉が聴ける状態にもってく。死にそう。


「僕、力の制御の仕方を勉強するために、ここでお世話になってたんだ。」

「......…」


なるほど、やはりワケありだったか。

私と同じ年ごろの少女が、軍隊に何故いるのかと思っていたが、そういう事情だったとは。


「三等兵のままでもいいと思ってたけど、タキのおかげで頑張る気持ちになったんだ...!だから僕も、次の正式雇用試験受けてみるから!」

彼女はそういって、目の潰れそうなほどに眩しい笑顔を見せてくれた。


「うん、一緒に頑張ろう。」

正直私が受かる気はまるでしないが、やってみなければ始まらない。


「あーあ、今日はいっぱい汗かいちゃった。お風呂入らなきゃダメだなぁ〜」

ミリーはそういって顔の汗を拭い、立ち上がった。


「......チッ、残念だ」(ボソッ)

「タキ?今なにか言った?」


「いや、何でもないよ。そうだ、これ使って。」

私が差し出したのは無地のタオル、訓練が終わった時のために用意しておいたのだ。


「ありがとう!はぁ〜♪」

彼女は喜んで受け取り、汗をその布に染み込ませていく。


「......使い終わったら、選択するから貸して。」

言いながら膝の土埃を払い、私も立ち上がる。


「はい!ありがとうね♪」

「どういたしまして。」


ミリーは美しい笑顔のまま、私にタオルを返し、建物の方へと歩き出す。


「あぁ〜♪疲れたけど楽しかった〜〜♬」


「............」

私はたった今手渡された、彼女の汗の含まれた布を顔に近づける。


「スゥ......はァ。良い匂いだ......」


「タキ〜?どうかした?」


「いや、何でもないよ。帰ろうか。」

「うん!」


危ない危ない...

まだ、私の本性を知られるわけにはいかない......


あぁ......

彼女がいるなら、明日も良い日になりそうだ。




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