第9話 魔力解放してみたけどさ…
その日、私は肉欲の壺のメンバーと共に、凶悪な魔獣と闘いを繰り広げていた。
マフィン「なんて体力だ...堅すぎる...!」
ケビン「なんだか帰りたくなってくるな」
スケルトン「そう言うな、どのみち退路は無い」
私「来るぞ...!構えろ!」
「グゥ...グオオオォォォォォ!!!!」
魔獣は力を溜め、渾身の咆哮を放った。
スケルトン「うぉ!喰らっちまった!滝山回復を!」
私「ちょっと待ってくれ...!ケビン敵連れてこっち来んな!」
ケビン「助けてくれ」
マフィン「俺が1番死にそうなんだけど...」
ス「滝山ァ!早くしないと俺の妹が死ぬぞ!」
私「ちょっ待っ...お前の妹じゃないがな!」
ケ「悪いが俺もリタイアだ」
私「うっ...うわああああーーー!!!」
《MISSION FAILED》
私「全滅...か......」
ス「まあいい、また挑戦すればいい」
私「それにしても...このゲームは面白いな......」
『虎猫プロブレム』、私がスケルトン達に勧められて始めたスマホゲームだ。
最初に出会った秘密基地で協力バトルに取り組んでいた。
「どうする?もう一度行くか?」
マフィンがワクワクしながら聞いてくる。
「あー...実は、その前に話しておきたいことがあって......」
「話しておきたいこと?」
「ああ......黙っていたんだが......
私はこことは別の世界から来たんだ。
で、今は軍に非正規雇用で置いてもらってる。」
こいつらにこのことを言うかは非常に悩んだ。
しかしできれば自分の出自については気軽に話したかったし、隠し続けるのもアレだった。
上司には確認した。
ヤーデルは「信じるかはわからないが、好きにするといい」と言ってくれた。
問題が起きたら俺が洗脳してやる、とも。
「それは...本気で言ってるのか?」
スケルトンが私の真意を確かめるように聞く。
他の2人はただ黙って私の顔を見ている。
「本気...だけど......」
私は怖かった、いくら変態とはいえ一度手にした友人を失うことになるのでは、と。
「そうか、それは大変だったな」
「もっと早く言ってくれよ」
「歓迎するぜ」
私は呆気に取られて、顔を見回す。
「信じてくれるのか......?」
「当然だ、メンバーの言うことを疑うわけがない」
「目を見ればわかる」
「・・・・!」
私は感動していた。この、愛すべき変態たちが私を信じてくれたことに。
「そうだ、せっかくだからいくつか質問していいか?」
スケルトンが思い出したように提案する。
「ああ、答えられる範囲なら。」
「滝山の両親の死因は?」
「生きてるけど!?なんで死んでる前提で話すの!?」
「いや、すまん。こっちの異世界モノの主人公はそんなのばかりでな...」
「こっちもそうなのか...」
「それで、親は何の仕事を?伝説の戦士とか、勇者か?」ケビンが聞く。
「そんな訳ないだろ!私の国は平和主義だったんだぞ!公務員の母と、主夫の父だ。」
「なんだつまらん」
「面白さは求めてねえんだよ...」
「チート能力はあるのか?」
「っーーー!!無い!!!無いんだよ!!」
痛いところを突かれ、地面に手を叩きつける。
「私には...何も無い...!何も無いんだ...!
私だって!チート能力で異世界無双!みたいなことやってみたかったよ!でも出来ないんだよドちくしょう!!!」
「大体の異世界モノの主人公は出来るんだがな」
「できない!そんな能力無いんだよ!
私が異世界に来て最初に何をしたと思う?土下座だよ、それも山賊相手に!」
「まあ、土下座くらいなツバルくんだってやってたし」
「アイツは有能だったけどな」
「誰だよ...!ちくしょうなぜ私にはチート能力が無いんだ...」
「そんなにチートしたいなら、体鍛えたりとかすれば...」
「嫌だ!私は努力が大嫌いなんだ!労せずして結果だけ得たいんだ!」
(だいぶクズだな...)
マフィンは呆れたような顔をしている。
「なら、魔力解放を試したらどうだ?俺の未来予知みたいに」
「魔力解放...?」
スケルトンの聞き慣れぬ提案に、私は一筋の光を見つけた気がした。
「それだ!私も魔力解放をすればチート能力が手に入るかもしれない!!」
「解放するなら早い方がいい、一月後の正式雇用試験を受けるなら必要になるだろうしな」
「そんなのあるの...?帰ったら聞こう。そう言えばケビンとマフィンは魔力あるのか?」
「俺は乳を上手に揉む魔力だ。」
「俺は...特に無い。」
「へぇ...無いやつもいるんだな。」
ケビンには突っ込まず、話を続ける。
「使える魔力を解放した奴は軍隊関連に進むことが多い。俺は違うがな。」
「この世界の学校ってどうなってるんだ?」
「まず基礎学校で基本的なことを学んだ後、大まかに3つの進路に別れる。
軍学校、政治学校、その他。
ちなみに俺は政治学校所属だ。」
「お前が!?」
「幼女が笑って暮らせる国にする為にな。
ケビンは総合学校、マフィンは...芸術関連だな。」
「へぇ...色々あるんだな」
「なあ、話はそれくらいにして...続きやろうぜ!」
マフィンがワックワクしながら誘ってくる。
「そうだな、魔力に関しては後で上司に聞くとして...リベンジしに行くぞ!」
「「「おおー!」」」
その日の素晴らしい闘いは、日が暮れるまで続いた。
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「なるほど...魔力か......」
闘いを終え基地へと戻った私は、ヤーデルに先ほどのことを話した。
「正式雇用試験のことをすっかり忘れてたな...受けてみる気か?」
「えぇ、一応」
正直階級が上がって戦場に駆り出されたり、危険な目にあうのは絶対に嫌だが、非正規ではこの先不安だ。
「なら早速、明日にでも魔力解放をしてみるか...」
「どんなことをするんですか?」
あんまり辛かったり痛かったりするのは困る。
「なに、そんなハードな事じゃない...気負うな。」
私の不安を見透かしてか、ヤーデルは落ち着けるように言う。
不安は残るが、明日を待つしか無さそうだ...
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「さて、それでは...只今より滝山の魔力解放と、ついでに全員の体力測定をとり行う...」
支部前の空き地に13支部のメンツが並ぶ。
(体力測定か...ろくな思い出がない......)
私は本当に運動の類が苦手だ、やりたくないが上司の言うことには逆らえない。
「体力測定か!頑張るぞ!」
「僕も楽しみ〜♪」
「腕がなりますね」
他の同僚やら先輩方は楽しそうにしている。
軍隊だから体には自身があるんだろう。
「まずは...100m走だ。」
「どうやって測るんですか?」
「うむ...これを使う。」
ヤーデルの手にはリストバンドのような物があった。
「これを付けた状態で、センサー付きのスタートラインとゴールラインを通過することでタイムが自動で測定される。全員まとめてやるぞ。」
便利だ...しかしこれで測定役という逃げ道は無くなった。走るしかないか...
リストバンドがみんなに行き渡り、全員でスタートライン上に1列に並ぶ。
「ソクテイカイシマデ...3...2...1 スタート!」
リストバンドが機械音で時を告げると同時に、みんな一斉に走り出した。
「ん...ぐぅ!」
当然私は最下位だ。
重い足を必死で動かし、腕を振りながら精一杯走る。
遠くの方で声が聞こえる。
どうやら早くもゴールした人がいるらしい。
「ぜぇ...はァ......」
息も絶え絶えにどうにか走り続ける。
「頑張れ滝山ー!」
「がんばって〜!」
「がんば...おぇ.........」
既に他の仲間はゴールしていて、私に声援を投げかける。1番走りづらいやつだ。
「はァ...はぁ......」
どうにかこうにかゴールする...
本当に疲れた。
「20秒43デス」
到着と同時にブレスレットが不愉快なタイムを告げる。
(クソ......)
「お疲れ滝山!よく頑張ったな!」
ハイユが力強く肩を叩く。
「どうも...うぐぅ...」
「タキ、大丈夫...?」
「あぁ、うん......」
瀕死状態の私を、ミリーが心配して覗き込んでくる。
全然息乱れてないんだけどどうなってんのこの子。
「ミリーは...何秒だったの?」
「僕?僕はね...5秒だったよ!」
(!?)
聞き間違いかと思ったが、ミリーのブレスレットの画面には【00:05:09】と表示されている。
「へ、へぇ...凄いね...!おめでとう。」
(嘘だろ!?どんな身体能力してんの!?)
こっそりと他の人のタイムを覗き込む。
ハイユは7秒06、カワサキは9秒22だった。
(バケモノ揃いかよここ...)
「あーあ、時間止めて走れば俺が最速なのによ〜♪」
「魔力はNGです。」
そう言うライツ体長も10秒台だし、フィフス副隊長も11秒をきっている。
(みんな早いんだな...)
「じゃあ...次に行くぞ......ぉぇ」
ヤーデルが苦しそうな顔をしながら進行役を務める。
彼のタイムは18秒59、私には勝るが鈍足だ。
その後も握力や反復横飛び、ボール投げなどを続けて行った。
もちろん全て私がドベだ。
「はぁ...」
できないできないとは思っていたが、ここまでだと流石にヘコむな...
軍にいていいレベルなのかこれ。
「元気だせぇ滝山!最初から強いやつなんていないんだ!努力努力だ!」
ハイユが笑いながら私の肩に手を回し、頭を掴んでわしゃわしゃしだした。
異世界チートに憧れる奴に聞かせてやりたい。
100m7秒代の奴に言われてもアレだけど。
「さて...それでは......ぜぇ...滝山の魔力解放を...す... るぞ......」
ヤーデルが疲労困憊になりながら四角い箱のようなものを取り出す。
この人こんなに体力なかったんだな...
「この箱はなんです?」
「これは魔力解放を行う際に使われる...『魔力解放ボックス』だ。」
(名前そのまんまじゃねぇか...)
「取り敢えず持ってみろ」
「はぁ...」
ヤーデルに手渡され、持ってみたが別段変わったところはない。
新鮮な木の色の正方形の物体、手触りはサラサラしていて心地よい。
「それに...力を込めるんだ。」
「力を...?」
力と言われても訳がわからないが、やってみるしかない。
皆に見守られながら、箱を握る手に力を入れる。
「ん...ぬぅ......」
とにかく力を流し込むイメージをし続ける。
しかし、箱は何の変化も示さない。
「ダメですね...」
「うーん、何が駄目なのか...」
「そもそも、魔力解放できたらこの箱どうなるんですか?」
「...俺の時はこれ使わなかったからわからん」
「カワサキさんは?」
「僕もこれは使ってないな...」
それでは解放できたかどうかわからないじゃないか...
「私は使ったぞ!私の時は...箱が割れて風が吹き出した!」
ハイユが元気よく手を挙げながら答える。
「私の時は、手から触手が少し生えましたね。」
フィフス副隊長も後に続く。
「......やはり異世界生まれではダメなんですかねぇ」
自分の役立たずさを再確認してため息をつく。
一生出世できなそうだ。
「滝山くん、まだ諦めるのは早い。もっと挑戦してみよう。」
カワサキが穏やかに微笑みながら優しく私の左肩を叩く。
「そうですね...カワサっーー!?」
突然、私の左腕が大きく膨らみ、筋肉隆々になった!?
「えっ!?え!?何これ!?」
周りの人も目を丸くして見つめている。
「あ...萎んだ。」
少し立つと膨らんだ筋肉は急速に萎み、元の腕になった。
「今のはいったい...」
「まさか...滝山、ハイユと握手してみろ...」
「え?わかりました」
ヤーデルに促され、ハイユと握手をする。
するとーーーー
「うわっ!?」
突如として握手した方の掌から風が勢いよく吹き出してきた。
「あー...こりゃ、アレだな〜」
ライツが頭を掻きながらにやけている。
「なかなか見ないですね。」
カワサキも腕を組みながら感心するような顔をしている。
「え...?」
私だけが事情を呑み込めずに戸惑っていた。
「滝山...アレだ...お前の魔力は恐らく......」
「・・・・・」
つばを飲み込み、ヤーデルの次の言葉を待つ。
「ーーーー〈模倣〉のようだ。」
その瞬間、私はただただ途方に暮れた。




