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卑怯で狡猾な三等兵の日常  作者: 堕罪惡醒夢
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プロローグ「実家のような安心感」

トントントン、じゅーじゅー、と小気味の良い音が台所に響く。

火にかかった鍋の蓋を開けると、白い蒸気が湧き上がり、綺麗な茶色をした味噌汁が顔を覗かせる。用意しておいたおたまで少しだけすくい、小皿に移して口へと運ぶ。


「ん…うん、よく出来た!」


思っていたより美味しく出来て、つい笑みがこぼれる。

少し前までは料理など食べることしかしてなかったが、人間追い込まれればある程度はできるようになるものなのかもしれない。


時計を見るともう9時になるところだった。


「先輩がた〜、朝ごはんできましたよ〜そろそろ起きてください〜」


台所の出口へ向けて声をあげると、少し遅れて何人かの足音が聞こえて来た。

ここの人たちの朝が始まるのは実に遅い、もっともその方が自分にとっても都合がいいのは確かだが。


取り分けた料理をお盆にのせて扉をくぐり、開けたスペースへと出る。

中央に大きいテーブルがあり、それを囲うようにしてイスやソファーが置かれている。

屋根は吹き抜けになっていて、遠く上に設置された窓から気持ちの良い朝日が差し込んでくる。


「はい、温かいうちにお召し上がりくださいね〜」


そんな部屋に座っている約7名の先輩方の前に、取り分けた料理を置いていく。

今日の朝食はスクランブルエッグ、トースト、味噌汁、コーヒー(人によってはミルク)。

ある程度美味しく作れたはずだが…


「うん…ああ……良い味だ……うん……」

黒のフード付のマントにボサボサの頭を押し込んでいる青年は、味噌汁をすすりながら満足げに頷く。

「美味しいぞ…これなら…良いお嫁さんになれそうだ…な……」

青年の言葉に同調し、隣に座った凛々しい顔立ちの女性も寝ぼけた表情で頷く。


「ありがとうございます〜!」

私は一応男なんだが、寝ぼけているようだし訂正するのはやめておく。


「この卵もいいな、トーストによく合う。」

先ほどの2人とは反対の位置に座った異様なほどに体格が大きいマッチョが、図体に似合わない穏やかな口調で感想を述べる。

喜んでくれたようでとても嬉しい。


他のメンバーも、だいたい満足してくれたようなので、ほっと胸をなでおろし、自分も食べ始めようとしたその時、


「おはよ〜……良い朝だね〜………」


と、1人の少女が眠そうに目を擦りながら階段を降りて来た。


「……おはよう、朝ごはんできてるから、食べちゃってね。」


橋を置き、彼女の分の食事を出す。

この中で唯一私の同期である彼女は、他の方と比べると起きてくるのが少し遅い。


「っん……ああ…美味しい〜〜いつもありがとね。」


「…どういたしまして」

彼女にそう微笑まれて生じた喜びを、表情に出さないように味噌汁と一緒に飲み込む。


平和で素晴らしい朝だ。


「お前も、随分ここに慣れて来たな。」

フードの男が片目を覗かせながら私に話しかける。


「ええ…おかげさまで……」


時間の流れは早いものだ。私がこちらの世界に来てからもう1ヶ月が経とうとしている。

全く、異世界など来たくはなかったんだが……



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