【第1話】初戦闘
生憎の雨。深く色濃い藍色の空は、もう朝の8時だと言うのに夜を連想させる。
昨日の出来事も相見合え、憂鬱で不安の気持ちが積もり、傘に遮られる空を見上げながら学校へ向かう。
昨日、能力と才能をもらった。何が出来るのか、何をするのかまだわからない。
ただわかることは他の能力者を倒す事。妹の病気を治す為に。
僕の妹は生まれつき...ではないが後天性の全盲だ。目が見えない。
その上、トラウマで僕以外の人と話せない。恐怖や緊張その他もろもろ、あまり深くは語りたくない。
あまりに理不尽で、信じたくない現実だった…。
いつの間にか学校の近くまで来ていたようで校門が見える。身体に疲労感は無く、身体強化の影響が出てるのかと考える。
靴箱前で靴を脱ぎ、上履きに履き替える…が、靴箱に手紙が入っていた。
黙って開ける。ラブレターの類などでは無い。決してそれはない。そんなのは漫画の世界だけだ。
手紙にはこう書いていた。
【言い忘れてた、敵を殺しても、死なないから大丈夫よ。あと能力者は学校の関係者しか居ないから安心して】
安心出来る訳がない。気楽に校舎に踏み出した一歩を返して欲しい。もしかしたら奇襲されてたかもしれないのにあの女...
気持ちが引き締まり、クラスに向かう足取りが自然と重くなる。
2-A。自分のクラスの扉の前に立ち、ゆっくりドアを開ける。
―――いつも通りの光景だった。そういえば誰が能力者なのかわからないのに見境なく襲う訳がないか。
でも緊張は解かない。自分の机に向かい席に座ると、いつものメンバーが寄って来た。
「おはよう、隼人。何暗い顔してんの?逆に目立ってるよー」
「雨だからだろ。仕方ねえよ。こいつ雨嫌いだもん。」
上から、赤穂さき、空峰武留。中学からの付き合いで今の今までずっと同じクラスだ。
一番仲がいい友達と言っても過言じゃない。
「そんなことより、聞いてよー!昨日凄い出来事があったんだって!」
「はぁ...何だよ?また自慢話か?そんなんだから彼氏の一人も出来ないん」
「うるせえデブオタク、それに自慢じゃないし、今から言う事はマジ事実だから」
相変わらず賑やかだ。僕は笑顔で二人の話を聞いていると
「昨日、神様が夢の中に出て来て、魔法を教えてくれたの!」
時が止まった。思考を巡らせる。彼女が僕たちを襲ってくる可能性、もう既に能力を使われてる可能性。
だけど...僕は、さきを信じて僕も告白する。
「僕も、もらったよ。夢の中じゃなく部活帰りだけど。」
今日初めて声を出したせいか、最初の一言で声が詰まってしまった。
信用すると言ったが緊張して声も震えてる。もしかすると一触即発、戦闘の可能性もあり得る。しかも友人と。
すかさず待ってましたと、武留が発言する。
「俺ももらったぞ。能力は『剣』、才能は『反射神経』。はっきり言う。隼人とさきとは戦いたくない。協定を結ばないか?」
「なに改まって言ってるの?…もちろん私も戦いたくない、そうしましょ。それに、剣って……これだからアニメオタクは...」
「うるせーなー。剣は主人公の武器なんだよ。隼人ならわかるだろ?そんな事言ってるお前の能力は何なんだ?」
「私はー…あんたなんかに教える訳ないじゃない。」
「は!?卑怯だろ!俺は言ったのにお前だけ....」
喧嘩になりそうだったので僕が止めに入る、普段の僕の立ち位置と役割だ。
「まぁまぁ、女の子には言いたくない事もあると思うよ。ちなみに僕の能力は...」
あえて間を空けて勿体ぶって見る。雰囲気が重くなるのを背に僕は決め顔で言ってやった。
「『水』」
二人が、道に落ちたソフトクリームを見るような目で僕を見つめる。
「あんた...10mも泳げないじゃない。それに水大っ嫌いのくせに馬鹿なの?」
「隼人...神様に脅されたのか?もう一度交渉してみたらどうだ?」
ひどい言いようだ。ここまで叩きのめされるとは思わなかった。
馬鹿までは想像してたのに...心に傷が付く。
「僕が選んだんだよ。いいでしょ?それに水が嫌いってわけじゃない」
「相変わらず変わり者だな。」
何か…凄く馬鹿にされた気がする。
軽く落ち込んでいると先生が教室に入って来た。空気が静まり、先生の合図で朝礼が始まる。
外は未だに雨が音を立てて振っている。今日は止みそうににない。
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午前の授業が終わり、昼休憩が始まった。
僕の昼休憩にすることは決まっている。
財布を取り、教室を出て自販機に向かう。毎日目にする自販機の前に立ち、手慣れた手つきで迷わずボタンを押した。
授業が終わって飲む珈琲が僕は好きだ。この為に授業を頑張ってると言ってもいい。
もう用はない自販機を後ろに、教室に戻ると、またいつもの光景がある。
「隼人、久しぶり」
「昨日も会ったよ。」
「もう12時間も会ってなかった。だから久しぶり」
「そっか、久しぶり。雪」
「...武留、このバカップル何とかして」
「知らん。俺には無理だ」
彼女は僕の恋人だ。付き合ってもうすぐ2か月目になる。口調通り大人しい性格だが、怖い面もある。
髪は白いがアルビノではなくあえて染めていると言っている、学校も黙認しているので良いらしい。
いつもこの4人で昼飯を食べている。
「ねえ隼人、今日も蒟蒻ゼリーとサンドイッチ?それで足りるの?」
「うん、別に珈琲だけでも良いんだけど…妹が何か食べろってうるさくて」
「ふふっ、仲が良いのね」
他愛無い話を交わしながら食べ勧める。この空気が僕は好きだ。
特別楽しい訳でもないし、ワイワイしてる訳でもないが、皆が自由に発言出来る雰囲気というのは何処にでもあるものじゃないから。
20分ほどしてから食べ終わり、片づけを済ませて3人に体育館に行ってくる事を告げる。
僕の習慣となっている食後の運動で、いつもはグラウンドでサッカーをしているけど今日は雨なので体育館で運動でもしようと考えた。
「行ってらっしゃい。」
3人も理解している様子で僕を見送ってくれる。恋人の雪も、僕はベタベタされることが嫌いなのを知っているからついてこない。
片手に缶コーヒーを持ちながら、空を見上げる。そういえば、昨日の夜も雨が降っていた気がする。
驚いて気づいて無かったが、雨が水たまりを弾く音が昨日の風景を想像させる。…あの人、綺麗だったなぁ。
職員室で体育館の鍵を取り体育館に向かう為に、校舎から出る。
今日の放課後、帰るの大変だなぁ。と考えている途中、陸上部のキャプテンに会った。
目が合ったがすれ違う。
たまに外でサッカーをしている仲だけど特別仲が良い訳じゃない、あまり話した記憶も無い、が突然話しかけられた。
僕はゆっくりと振り向き、彼の顔を見る。肌色が黒く毎日練習をしている姿を連想する。
「なぁ、俺さ」
彼はそこで3秒間、口を紡いだ。たった3秒だがとても長く感じた。
頭にクエッションマークが浮かんでいる、すると―――彼の姿が消えた。
いや、消えたんじゃなく僕の目がとらえきれなかった。明らかに人間の動きじゃない。
僕は反射的に構える…が遅すぎた。あの手紙を読んだ時から覚悟していたつもりだったが、甘かった。
まさか僕に襲ってくるなんてと甘い考えをしていたことを反省する。
「お前の事が嫌いだ。」
気付いたら僕は倒れていた、蹴られた....んだと思うがよくわからない。
口から血が出ている事に気づき今更、鈍い痛みが体を襲う。
「お前が、俺の彼女に何をしたか覚えているよな?覚えていないなんて言わせねえぞ」
「覚えてない」
来た。挑発に乗りやすい性格なのは知っていたから餌を垂らしたら食い付いた。
今度は身構えている上に、来るとわかっている――それでも速い。
踏み込んだ足すら見えないまま、目の前まで彼は迫って来ている。
目の前に足が見える、残り0コンマ数秒で僕の首が飛ぶかもしれない、普通の人なら絶対に避けれないが―――
生憎、僕も能力者なんですよ。
"彼女"からもらった身体強化をフルに使い、瞬時にしゃがみ込む。後ろの方で、地面と上履きが摩擦で擦れる音がした。
「まさか、お前も」
「うん、能力者。それも知らないのに襲い掛かったの?能力者じゃなかったらどうしてたのさ」
「じゃなかったら………もっと楽に死んでたんじゃないか?」
流石にもう突っ込んでこないようだ。
馬鹿でもない限り、避けられた上、能力も判らない相手に突っ込んでくる無謀な事はしないか。
「場所を変えない?ここじゃアレだし、体育館の中とか。カーテン閉めれば見えないでしょ」
「こっちとしてもその方が嬉しいな。乗るよ。罠かもしれないけれど」
「疑いすぎだよ。そこまで用意周到でもないし。」
緊張感が漂う中、体育館の鍵を開け、中に入る。
二人とも黙ったまま、入口のカーテンを閉める音だけが体育館に響く。
不意打ちを警戒して、お互いに近づかない。
だが、僕が沈黙を切る。
「もう、いいんじゃないかな?そろそろ始めようよ」
「ずいぶん好戦的なんだな、そんなキャラだったか?部長」
今更だが、僕もサッカー部の部長だ。3年からの引継ぎで僕が選ばれた。そんな事、今はどうでもいい。
能力バトルで気付いた事がある。身体強化って言うのは身体の丈夫さも上がっている上、威力も段違いだ。
人間辞めました。と言わんばかりに動ける。だけど……彼のスピードは異常だ。
「そうか、じゃあ始めよう。能力を発動しなくてもいいのか?それとも、無くても勝てると?」
あ、そういえば能力ってどうやって使うんだろう。わかんねえ。
...よく武留に天然って言われて否定して来たけど、これからは肯定するよ。誰か助けて。
「来ていいよ、脳筋馬鹿の彼女デレデレ野郎」
言っちゃった。