契機は真夏日に訪れる
まったくもって,嫌な天気だった。
といっても,それはあくまでも私にとっての話だから,決してこれが通常の感覚における「悪天候」だというつもりはないし,いやむしろ世間一般ではこういうのを「好天」と定義するんじゃないかと思う。語弊のないように「根っからのインドア派である私には地獄のような空模様」とでも言い直しておこうか。
そういう天気だ,今日は。
鬱陶しいほどに眩しく光り輝く太陽がぽっかりと浮かぶのは,ペイントの塗りつぶしツールで描いたみたいに単調な水色の海のなか。雲ひとつない見事なまでの快晴である。まるで神様が「どうだアツいだろう」と熱血漢さながらに迫ってくるような,押しつけがましい青空――
そして,そんな日に屋上へ来るような物好きは,どうやら僕だけらしかった。
灰色のアスファルトが延々と続いていて,うっすらと陽炎を立ち上らせている。それだけで暑さが数割増しになった気がして,私はフゥと息を吐いた。いやはや――暑い。額ににじむ汗を拭いながら,ここへ来たことを少しだけ後悔した。
――あ,そういえば,今朝のニュースでも「熱中症にはご注意ください」とかなんとか言っていたような。余計なことを思い出してしまい,さらにげんなりする。
午後四時。そろそろ「夕方」と称しても良い頃だとは思うのだが,日は一向に傾く気配を見せない。それどころか,むしろその熱量を増しているようにも感じられた。
それは六月初旬には見合わない,れっきとした真夏日の出来事であった。
××
「…きみ,大丈夫?」
聞きなれない少女の声に,ふっと意識が戻ってくる。