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8 迷子になっちゃった

 迷った。


「ああああ……」


 そもそも東がどっちかもわからないし。


 町や村落らしきのはちらほら見えるけど、どこが何の名前かは当然わからないわけで。


 空を旋回しながら、クーファも呆れていた。


「――なぜ方角もわからんのに案内役を買って出たんじゃ」

「やっぱり空から見る景色は絶景だなあ。修学旅行で一度だけ乗った飛行機を思い出すよ」

「――誤魔化すでない」


 いや、でも空を飛べて気持ちいいのは本当だ。


「クーファはわからないの? スミラスクの町」

「この国に来たのももう二百年ほど前だからの。それ以降新しくできた町じゃろ。知らんわ」


 二百年って、この竜いったいいくつなんだよ。


「――ちなみに千十八歳じゃ。親と死に別れて一人になってからちょうど千年ほどじゃな」

「わあ、千十八歳って、俺とちょうど千歳差だ!」


 千歳差ってなんだよ……! ちょうど、とかの規模超えてるよ。


「ていうか独身歴千年以上ってやばいね」

「――たまにおぬしのような面白い人間に出会えるから退屈はせぬぞ」


 常識の埒外が多すぎてだんだん感覚が麻痺してきたな。


 あー、もう、さっさと案内終わってこの竜と別れよう。


「クーファは方角わからないの?」

「――わしを誰じゃと思っておる。ならば一度王都まで戻って、そこから東へ進むぞ」

「よろしく」


 でもそうなると、俺という案内役はもういらなくなるのではないか。


「やっぱ『スプリガン』が見つかるまで付き合わなきゃダメ?」

「――それが筋というものじゃろ」

「いや、ほら、もう『スプリガン』とかどうでもよくない?」

「――『スプリガン』が騎士の持ってる私兵団の名前というのはわしのうかつじゃったが、失礼な輩は殴り飛ばさんと気がすまんものでな」


 その巨体で殴ったりしたら相手死んじゃうよ!


「平和にいこうよぉ」

「――だめじゃ。大昔に死んだ親兄弟のことも馬鹿にされたのではな」


 おじいちゃんもうちょっと自分をいたわって、無理をしないで。

 言ったら俺も殴り飛ばされそうなので言わないけど。


 ていうかこのままじゃ俺も共犯になってしまいそうなんですが。


 どうにかして人知れず案内完了する方法を探っていかないと。


「あ、戻るときはちょっと高度高めでお願いします」


 また国民に騒がれる様が目に浮かぶ。


「……しかしもったいないな」


 俺はウルをじっと見ながら言った。


「おしゃれすればウルはかなり可愛くなると思うんだけど、なんで奴隷になんてされていたのか。本当はさらわれてきたお嬢様とかじゃないの?」

「いいいいえ、そんな、めっそうもないです……!」


 ウルは頬を染めながら首をぶんぶんと振った。


「私は辺境の村の出身で、貴族様とは無縁の世界にいて……両親が私を売ったんです」

「親が? なんで?」

「私は『不浄の子』で、ずっと疎まれていましたから。人売りに売られても仕方のないことかと」

「ふじょうのこ?」

「はい、この目のせいです」


 ウルは真面目な顔で自分の目を指さす。


 あ、あの時の兵士が言ってたやつか。忌まわしき魂がどうとかいう。


 その場しのぎの嘘とかじゃなかったのか。


「目の色が違うと呪われてるってことになるの?」

「左目が緑で、右目が赤というのがいけないんです。呪われた双眸らしくて……私に触れるだけでも穢れが生まれて呪いが降りかかると言われていて」

「そうなの?」


 こっちじゃ特定のオッドアイは迫害の対象なのか。


「はい。両親さえ私にはほとんど触ろうとはしませんでしたから。前のご主人様は私を叩くだけで何も仕事をさせてもらえずに、二週間で私を手放されて……」

「ふーん」


 だから逃げても行くところがないとか言ってたのか。


 どこに行っても疎まれるから。


「ですからご主人様も私を叩く際は棒などをお使いくださ――わひゃあっ」


 俺がウルの頭をなでると、ウルは変な声を上げた。


 なでなで。


「い、いけませんっ、もし穢れが移ったりしたら!」


 ウルは困ったような照れているような顔でわたわたしている。


 でもご主人様の俺がやっていることなので強くは止められない。


 なでなで。


「あのっ」


 なでなで。


「あ、う、う」


 なでなで。


「その……」


 ウルは小さくなってうつむく。耳が真っ赤だった。


「呪い来た?」

「わ、わかりません」

「じゃあ来ないよ。よかったね」

「え……?」


 こういうのってあれだろ?


 どうせ小学生が「○○菌がうつったぁ~」とかいって騒ぐのと同じメカニズムだろ?


 気にする必要なんか全然ない。


 俺がほほ笑むと同時、


「――稀名、あの町がスミラスクか?」


 クーファが羽ばたきながら遠目に見えた町を指して言う。


 山に面した町のようだ。あたりは深い森林や山岳地帯が広がっている。王都のように城壁で囲まれているみたいだ。


「確かに町っぽいのが見えてきたね。あれかも。案外早く見つかりそうでよかったよ、『スプリガン』」


 ただ、やたら騒ぎになるのを避けたい。


 まずはクーファから降りて町の名前を確認に行くことになるか。


「俺が一人で行って、町の名前を確認してくる」


 問題はあの奴隷商が嘘をついている場合だけど、あの状況でそれはないと思いたい。


「――稀名よ」

「うん?」

「――その前にあの湖で行水してから行くのじゃ!」

「は?」


 見ると、たしかに山中にぽつりと湖っぽいのがあるけど。


 クーファの声は心なしか弾んでいた。


「――水浴びして昼寝してからゆくのじゃ! わしはそうするぞ!」

「子どもか!」


 なにやろうとしてるんだよ千十八歳。


 俺、本当にこれ以上深く関わりたくないので早く案内終了したいんですが。


 そもそも騎士とその私兵団に喧嘩売ろうなんてロクなもんじゃないよ。


 その国の軍隊と戦うようなものじゃないか。勇者もどきでも割とショックなのに、反逆者になるなんてごめんだ。


「……じゃ、クーファとウルは水浴びしてて。俺は町の様子見に行ってくるから」

「もし差し支えなければ、私もお供させてください」

「――わしもゆくぞ」

「みんなで行ったら意味ないし、クーファはでっかいから目立つだろ。留守番」


 ぴしゃりと言うと、クーファは背中をうねらせて駄々をこねた。


「――行くんじゃ~行くんじゃ~」

「うおおお揺れるからやめて! 足場が悪い! バランスが!」


 結局俺だけで町に行くのは保留になり、とりあえず(?)三人で水浴びをすることになった。


 危なかった。落ちるかと思ったよ。

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