61 幕間
自然に集まったウィズヘーゼルの民たちの集団の中に、その二人はいた。
「いやー、しかし目を離した隙にとんでもないことをしちゃったんだなぁ稀名君。町を焼くし、女の子を人質にとって面白く暴れるし……」
その一人、レルミットはさきほどから兵たちが様子を見に行っている町の焼け跡を見やりながら、もう一人……長身の男と話していた。
ぼそぼそと声を潜め、この国のものではない言語で。
「この町がどうなろうと、我々にとってさして問題ではない。そうだろう、レルミット」
「いやー私は悲しいけどねー。短い間だったけどいい町だったよ。隊長は冷酷すぎるんじゃないの?」
「冷酷というか、冷静に考えた結果だ。それに『隊長』ではなく『ルパンデュ』だ。あと一応上司なんだからそういう言葉遣いやめよう」
「そうそう、例の『教団』だけどね」
気にせずに、レルミットは話を続ける。
ルパンデュと自称した男から嘆息が漏れた。
「……なんだ?」
「隊長の予想通り、どうやら想像以上に当たりっぽいよ。まだちゃんと裏を取ったりはしてないけど」
「やはりか……」
「魔王軍とつながって、この国で破壊工作を行ってるみたい。『教団』をたどっていけば、魔王軍の本拠地もきっと見えてくるよ」
「ようやく尻尾を掴んだな」
ルパンデュは感慨深そうに微笑した。
「情報屋の闇ギルドとして活動してからやっと本命の情報が引っかかったねー」
「ああ。ようやくだ。だが魔王軍を狙っているのは我々だけではない。どんな手を使ってでもほかより先んじる。使えるものはなんでも使え」
「あー、だから稀名君の監視とかやらせてたの? 復讐に使うため?」
「それをレルミット、お前が知る必要はない。お前は与えられた仕事だけをしていろ」
「はーい。あ、ちなみにこれ私の手柄だからね!」
「わかったわかった。ボスにはそう報告しておく」
うんざりしたようにルパンデュは言う。今にも頭痛で悩みそうな顔だ。
レルミットは満足したように頷く。
「まずは『教団』の本拠地を割り出して、稀名君たちを誘導すればいいかな?」
「そうだ。まあ『教団』については私や『ラフォルス』が調べる。お前はとにかく奴の監視だ。……くれぐれも我々の情報や思惑は奴に教えるなよ」
「わかった! 任せて!」
「神無月稀名は色仕掛けでもなんでもやってお前の近くに繋ぎ止めておけ。それに、奴の命を狙う者は多い。絶対にそいつらに殺させるな」
言うことを言うと、ルパンデュは人々の集団の中にさりげなく紛れて姿を消した。
「注文が多いなぁ。そんなにいっぺんだと忘れちゃうよ」
レルミットは口を曲げてぼやいた。
「しょうがない、稀名君を捜しに行くかぁ。今頃どこで何やってるか知らないけど」
不承不承、といった言葉ではあったが、レルミットはまた彼らに会うのが少し楽しみだった。
彼らはなかなか面白い。だからこそ、監視もやりがいがある。
レルミットはルパンデュのように忍ばずに堂々と人々の合間をすり抜け、稀名たちを捜しに出かけて行った。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
ブックマーク、評価、感想、コメントなどに元気づけられ、ここまで書き進めることができました。
活動報告での事前の告知通り、申し訳ありませんが次のプロットを作るためにしばらく更新をお休みさせていただきます。
更新再開は11月下旬~12月はじめあたりの予定です。
ほかに何かあれば活動報告にてお知らせします。




