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51 ウィズヘーゼル夜戦(2)本陣到達

 本陣の守りは薄い。厚いように見えるのは正面だけだ。


 ネミッサ討伐のために、ほとんどの兵が出払っている。ガルムさんを含めて。


 俺、もしかして無駄足だったんじゃなかろうか。


 こんな敵陣の真っただ中で独りって、どう切り抜ければいいんだ。

 ビクビクしながら敵将の前まで来ると、俺と兵士は膝をついて頭を下げた。


「何があった?」


 冷徹そうな声が俺の頭上にのしかかる。

 ちらと見た感じだと、魔族迎撃の時にでかい弓を持って避難誘導をしていた兵士の人のようだった。


 俺とは一瞬だけ面識があるが、あちらが覚えているかどうかは微妙なところだ。


 今は兜をかぶっているからごまかしが効くけれど、もし偽物の兵士だとバレればどうなるか……。


 俺はたどたどしいながらも、ソローさんに襲撃の作り話を報告する。

 まあ別動隊がバレているのは本当のことなので、全部嘘ってわけでもない。


「ということで、別動隊には即時撤退をさせ別の策を練ることを提案します」

「提案は却下する」


 ソローさんは即答した。


「作戦は続行だ。どの道ここで社を確保できないならば我々は終わりだ」

「で、でも作戦はもう敵に知られてますよ?」

「続行だ」

「わ、わかりました」


 にべもない。

 ガルムさんを説得するまでの時間稼ぎになるかなと思ったけれど、そんなことはなかった。

 さすがにそう簡単に撤退しないか。


「……あん殿は、この者の報告をどうお考えだ?」

「――!」


 杏さんもいるのか。


「私は見届けるだけ。口出しも手出しもしない」


 涼しげな女性の声。間違いなく俺と一緒に魔族を倒した支倉はせくら杏さんの声だ。


「そうだったな」


 とソローさんは納得する。

 これ顔上げたら即正体がバレるのではないだろうか。

 すぐ回れ右して逃げよう。


「足から血を流している兵士」


 ――杏さんに言われて、俺は体を硬直させた。


「は、はい……」

「顔を上げなさい」

「ええと……」

「顔を上げろ」


 とソローさんも促す。


「わ、わかりました……」


 恐る恐る顔を上げると、ソローさんから少し離れた場所に杏さんが腕組みをして立っていた。


 終わった。


 杏さんならうっかり顔を忘れているとかなさそうだ。また独房監禁のパターンだろうか。


「…………」


 杏さんは喜怒哀楽の乏しい顔つきで、これでもかっていうくらいこちらを見ている。


 冷汗が滝のように流れる。


 永遠にも感じられる空白は、


「杏殿、どうされた?」


 ソローさんの一言で破られた。


「なんでもないわ」


 杏さんは、なおもこちらを見つめながら静かに告げた。


 ……助かった?

 見逃してくれるのだろうか?


 ……だったら杏さんに助けてもらうように言えないか?


 いや、でも手出しも口出しもしないということは、あくまで見届けるだけってことだ。


 ここで変な動きをしたら俺が捕まってしまう。

 そして俺が捕まっても杏さんはたぶん助けてくれない。


「負傷者を運べ。ご苦労だった」

「はっ」「恐れ入りまーす……」


 俺と兵士は同時に言って下がっていく。



 兵士の群れから解放されてから衛生兵が手当をしようとしたけれど、俺は断った。


「もう治ったので、持ち場に戻るよ」

「無理するな。治療はしていけ」


 兵士の人に言われた。

 やせ我慢してると思われているんだろう。


 だけど実際、すでに傷はほとんど治っていた。さすがに回復力が尋常じゃない。傷口なんて見せたら逆に怪しまれる。


「大丈夫、いける」


 俺は難なく立ち上がって走り出した。


「おい、本当に平気なのか!?」


 兵士の人が俺に続く。


「平気平気」

「ちょっと待て、なんでそんなに平気そうなんだ!? 怪我をしているんだろう!?」

「もう治ったからだよ」

「!!」


 森の中に入って見通しが悪くなった途端、俺は一緒に来た兵士を眠りに落とした。


 それから風で、森周辺の意識を探る。


 下流方面に兵士の意識がたくさん集中している場所がある。

 おそらくそこで、ネミッサたちが戦闘状態に入っているのだろう。


 攻めている兵士たちと鉢合わせしないよう回り込んで進む。


 進路にはその場に潜んでいる兵士が何人かいる。

 みんなクロスボウや弓を持っている。

 ネミッサが逃げてきたときに遠距離から仕留めるためだろう。

 最後の掃討作戦……ガルムさんは、昨日の別れ際にそう言っていた。

 次はない。それくらいの覚悟で臨んでいるんだ。きっと抜かりはない。


 俺も、もはやここまで来たらなりふり構わない。

 兵士たちを風で眠らせながら、強行突破気味にネミッサたちがいる場所へ向かう。


 回り込んでいくと、全身銀色の兵士がこっちに襲い掛かってきた。


「うおっ!?」


 銀色の刃をギリギリで受け止める。


 これ、クーファの白銀の細工師イル・マリネンで作られた銀細工じゃないか。


 そりゃ獣やナイフ以外も作れそうだったけれども、兵士と戦わせるために兵士を作るなんて。クーファ、こんなときに遊んでないよね。


 しかも俺も狙ってくるし……と思ったら俺は今、兵士に変装していたんだった。狙われて当たり前だ。


 剣をはじいて銀の兵士を倒すと、素早くガルムさんのいる場所を目指す。

 

 進路は、敵兵集団の真っただ中だ。

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