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45 それは壁からいっぱい出てきた

 三十分くらいはかかっただろうか、俺は少し道に迷いながらもようやくギルドに到着した。


「おー、遅かったの」


 中に入ってたむろする三人のもとに行くと、俺は先ほど買ったものを自慢げに見せる。


「なんとカバン買った」

「カバン!?」

「こっちのほうが必要だと思って」


 肩から下げられる麻製のカバンだった。

 今までポケットに無造作に突っ込んでいた持ち物をすべてカバンの中にしまえる優れものだ。


「いや、どう考えても靴の方が使うんじゃないの?」


 チェルトに指摘されたけど、とりあえず靴は次の機会まで我慢かな。


「ご主人様、いちおうキノコのやつがあったので受けましたが……」

「おお、またあったのか。じゃ、さっそく行こうか」


 さすがにガルムさんはもう来ないだろう。騎士としての業務もあるんだろうし。


 俺たちがギルドを出ると、慌てて狭い路地に入っていくポニーテールの女の子の姿が目に入った。


「あ、レルミットだ」


 どうしたんだろう。

 かなり焦っている様子だったが。

 気になるので追いかけてみる。


「あとはあれを回収すれば……と、届かないっ……」


 ちょうどギルドの建物の裏側に回り込んだところだった。


 レルミットが、ギルドの建物の壁に突き刺さっている何かを取ろうとして何度も飛び跳ねている。


 が、届かないみたいだ。


「レルミット、どうしたの?」

「うひゃあー!」


 声をかけると、レルミットは別の意味で飛び上がった。


「何取ろうとしてるの?」


 近づこうとすると、レルミットは、


「あー、なんでもないよ! べつに昨日回収し忘れたわけじゃないから!」


 全身に汗を噴き出させながら答えた。


 なんだ回収し忘れたって。


「ナイフ? みたいなもの?」


 三メートルくらいの高さに刺さっているそれを俺がイワトガラミで引き抜く。

 よほどしっかり刺さっていたのか、壁の破片がパラパラと落ちた。


 手元に引き寄せて確認すると、みたいな、というよりはまんまナイフだった。

 細くまっすぐで、針に柄がついたような形状のナイフ。西洋の鎧通しメイルブレイカーとかミセリコルデとかに似ている細い短剣だった。


「あーっ、だめだよ!」


 手に取って見ていたナイフをレルミットは焦りながら取り返そうとする。


 レルミットの手に当たってナイフが俺に刺さるんじゃないかと一歩下がった、その拍子。


「わーっ!」


 飛び込むようにかかってきたレルミットの体当たりで、俺はバランスを崩して倒れた。

 しかもウルを巻き込んで、三人で倒れたのだった。


 俺に折り重なるようにして覆いかぶさるウルとレルミット。

 尻が痛いし、上は女の子二人分の体重がのしかかってくる。

 おいしいことはおいしいが、さすがに重い。


 起き上がろうとして腕を動かすと……


「――!」


 ウルの胸に手が当たってしまって、俺は体をこわばらせた。


 ……ウルのふたつのふくらみは見ていてもそれほど目立たなく、普段あるのかないのかわからないような状態だった。

 けれど手を置いてみると確かにそこに柔らかい何かが存在することがわかる。


 触って確かめるまでおっぱいが存在する事実と存在しない事実が同時に存在するというシュレディンガーのパンツの親戚みたいな状態が今きれいさっぱり払拭された。


 おっぱいは存在した。


 存在したのだ。


 ウルは少し顔を赤らめているが、嫌がっているようなリアクションはない。


 なんだろう。気にならないのか。

 それとも気付いてないのか。


 ならこのまま揉み続けてもいいか。

 ……いや、だめだろ、どう考えても。気づいてるだろ。


「あの、すいません、手が……」


 葛藤していると、ウルがもじもじしながら小声でつぶやいた。

 ウルもどくにどけない状態だったようだ。


「ご、ごめん」

「い、いえ、べつにご主人様ならかまいませんが、場所が場所ですので……」


 いいのか。


「あ、眼帯……ごめん」


 倒れた拍子にずれたのか、ウルの目の色を隠していた眼帯がずれて見えてしまっていた。


「これはなんでもないんだよ! 証拠隠滅したいわけじゃなくて! じゃあねー!」


 そうこうしているうちにレルミットはナイフを奪って韋駄天のごとく去っていった。


 ……証拠隠滅したかったのかな?

 なんの証拠だ?


 とりあえず起き上がると、パラパラと降ってくる壁の破片。


 石材の隙間を通すように刺さっているけれど、それでもナイフが刺さるなんてなかなかないんじゃないか。


 などと思いながら刺さった跡を見ていると、何か紙切れのようなものが挟まっているのに気が付いた。


「なんだ、あれ?」


 再びイワトガラミで取ってみる。


 びりっと破れたところをみると、中にくっつくようにして入っていたようだが……。


「……あのお札に似てるな」


 俺はしまっておいたお札を取り出してみる。

 ティーロさんが使っていた、精霊を拘束するためのお札だ。


 壁に挟まっていたお札の切れ端は、それによく似ていた。だが少し書いてある文字が違うように思える。


 壁に刺さっていた。……いや、埋まっていた?


「たしかに似てるのじゃ。確認してみるのじゃ」

「えっ、ちょっ」


 止める間もなく、こぶしを握ったクーファが壁を殴りつけた。

 加減したのか、表面にヒビが入ると、殴った部分の壁だけガラガラと崩れる。


「これは!?」


 壁は全部が石造りじゃなかった。表面だけだ。

 石と煉瓦の二重構造になっている。


 クーファはその石造りの部分だけ破壊したのだ。


 そして石と煉瓦の間には、同じようなお札が何枚もびっしりと貼られていた。


「なんだこれ……!?」


 ギルドの建物の壁にこんなものがあったなんて。


「建てるときお守り代わりに貼ったとか、そんな感じなのかな?」

「ありえなくはないが、おぬしの持っている札と似たり寄ったりってのはどうなんじゃ」

「クーファは何かわからないの?」

「こういうのはレルミットの方が詳しいじゃろ」


 文字が読めるってことと、お札に書いてあることを理解するのとは別か。

 まあそうだよね。


 とりあえずお札は何枚か回収しておく。


 しかし建物の壁の中にお札が貼ってあるってのは、いったいどういう意味なのだろうか。


 ティーロさんの持っていたお札が魔法師のものだとしたら、この壁に貼ってあるお札は何なのか。


 ――わからないことだらけのまま、俺たちはひとまずネミッサのもとへ向かう。

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