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36 「サブクエスト:鱗鉄獣の討伐」ただし武器なしで

 大型犬くらいはある、トカゲのような化け物だった。


 金属質の鱗を持つ、異常に発達した両脚と尻尾が特徴的だ。


 鱗が研ぎ澄まされた刃のような輝きを放っている。いや、刃のような、というよりは刃そのものなのだろう。俺の腕はあの脚の鱗に切られたのだ。


「今度はなんだよ……」

「『スケーリィテイル』――鉄の鱗を持つ猛獣だ。素早い動きと突進に注意しろ。あの鉄の鱗の切れ味は業物の剣ほどに良いぞ」

「哺乳類なのか爬虫類なのかそれが気になりますね……」


 軽口を言っている余裕はない。

 トカゲの化け物――スケーリィテイルは鱗を逆立たせて戦闘態勢をとる。


「五匹といったところか」

「数は五匹じゃな」


 また同時に言う二人。


「ガルムとやら、真似をするでない」

「それはこっちのセリフだ。そもそもお嬢ちゃんはただのマスキング殿の連れで、戦えるわけではないだろう? 我々の後ろに隠れていなさい」

「さっきからずいぶんわしのことを舐めくさっておるな。おぬしから先に引導を渡すか?」


 火花を散らすクーファとガルムさん。


「ケンカしてる場合?」


 俺たちは自然に背中合わせになり、周囲に潜んでいると思われる猛獣に気を配る。


「どこかに複数潜んでいるぞ。足音を聞くんだマスキング殿」


 ガルムさんが忠告する。


 周りは茂みだらけで、いちいち草の根かき分けながら見つけるわけにもいかない。

 ゲームじゃないんだ、どの個体も常に正面から出てきてくれてハイ戦闘スタートってわけにもいかないか。


 群れで行動しているとしたら、連携して俺たちを仕留めに来ている可能性があるだろう。

 一匹の攻撃をおとりにして、仲間がどこからか奇襲を狙っているように見受けられる。奇襲が来るとしたら狙いは足か首筋だろうか。


「……せっかくだからマスキング殿の実力も見ておきたい。まああなたほどの腕ならこんなの危機でも何でもないのだろうが」

「えっ、俺?」

「この現状、一人一殺くらいしないと乗り切れないだろう。同時多発的に攻撃を仕掛けられたら何もしていない者が先に犠牲になる」


 言っていることはもっともだ。自分の身は自分で守らないと。


「うむ、おぬしならこれくらい楽勝じゃろ」


 いやクーファまで何言ってんの。買いかぶりすぎだよ……。

 スケーリィテイルと睨み合っていると、ウルが俺を守るように割って入った。


「ご主人様、私の後ろに下がっていてください。私がやります……」


 たしかにウルの魔法なら鉄の鱗なんて関係ないくらいの火力で焼き尽くせるだろう。


 でもそうじゃないんだ。


 女の子に守ってもらうって、逆だろ普通。


「いや、大丈夫だよ、ウル。俺もやる。チェルトもまだ待機してていいよ」

『そう?』


 万が一ウルやチェルトにケガさせたんじゃ悪いからね。


 それに、俺だって少しは成長していると思いたい。


「実力を見せればいいんでしょう」


 小太刀は――ここは出さないほうがいいな。

 ここで手の内は見せない。怪しまれるような行動はさけるべきだ。

 だとしたら……魔法でなんとかするしかないか。


「波動極光流甲冑拳法――鞘打ブレイキングハンマー!」


 ガルムさんは腰に差していた剣の鞘で突進してきたスケーリィテイルの頭をとらえて圧し潰す。


「わしにはかかってこんのか……」


 一瞬クーファとにらみ合ったスケーリィテイルは、しかし体をこわばらせると、俺のほうに方向を変更する。


 きっと本能でやばいと察したんだろうけど、なぜ俺に攻撃対象が変わるのか。そのまま逃げろよ。


 スケーリィテイルが身を低くする。瞬間、弾丸が飛んでくるような瞬発力の突進が繰り出された。

 俺の体がこわばる。よけようと思っても、体がついてこなかった。


 思いのほか体が重い。腰が引ける。


 それもそうだ、俺はまだ剣を出していない。身体能力強化は剣が出ていないと無効になっている。

 強化されてなければ、俺の身体能力なんて平均以下、下の下だ。


「くそっ『イワトガラミ』!」


 ツルを地面から生やし、すんでのところでスケーリィテイルを拘束する。


 ――が、突如草を踏む音が聞こえ、黒い塊が背後を通過していった。


 背中に走る激痛。触ってみると、爪で裂かれたように肌はぱっくりと割れていた。数本筋ができて、そこから血液が流れだしている。

 仲間の一匹が飛び出してきたのだった。


「ぐああっ!」

「ご主人様!」


 俺の死角から飛び出してきた一匹を『イグニッション』の炎で焼き尽くしながら、ウルは叫んだ。


 そして目を離した隙に、拘束していたはずのもう一匹にも逃げられてしまっていた。


 ツルが切り裂かれズタボロになっていたのだ。


 イワトガラミが効かないとなると、残された魔法はヌル・ヌッチャルしかない。あんなもので止められるのか?


「くっ!」


 膝をついて休みたい衝動をどうにか抑える。


 イワトガラミじゃ拘束できないし、よしんば拘束できても抜けられる――ここはもう大人しく剣を出すべきだろうか。

 風の能力だってこっそり使えばバレないはずだ。


 でも出したところで、あの鉄の鱗は俺の剣で切れるものなのだろうか。


 いや、口や目などの粘膜から身体の内部を貫いたりすればいけるか。


 ……ガルムさんを見ても、周囲を警戒しながらこちらをじっと観察しているだけで助けに入ろうとはしていない。


 どころか――獣のほうも見ていない?


 もしかしてこれ、またヘルムートさんのときみたく俺が何者か見定めているんじゃないだろうな?

 戦いながら?

 だとしたら、いや、そういった可能性が浮かんできたからこそ、風の能力どころか小太刀も出せない。

 まだバレていないはずの魔法の方で、できるだけ済ませるしかない。


 二匹のスケーリィテイルは別方向から同時にとびかかってくる。

 さらにもう一匹、足元に向かって突進してきたのを確認。

 どうやら俺に狙いを絞ったらしい。


「くっ、速くて捉えきれない!」


 たまらずチェルトが出てきて一匹はどうにか拘束したけれど、ツルを素早くかわしたもう二匹は俺に迫る。


 避ける方向も安全圏もぱっと判断がつかない。そもそも速すぎてかわせない。


 ……考えろ。

 イワトガラミでできることは、本当にツルで相手を縛り上げることだけか?


 いや――違う、そんなことはないはずだ。


 チェルトからもらったのはただの触手じゃない、変幻自在の魔法の触手だ。


 俺は太く伸ばしたイワトガラミを編み込むように、複数を一つに束ねて固める。


 自分の周りの地面に三本生み出したその強靭な植物のこぶしを敵に向けて放つ。

 アッパーのように下から上へ放たれたイワトガラミの集合体。


 伸び縮みがある程度自在なおかげで、スピードも申し分なく出る。

 サッカーボールを蹴るように簡単に打ち上がって吹っ飛んでいく一匹の敵。


「いいじゃないか!」


 ガルムさんが激励する。


 一歩遅れてとびかかってきたもう一匹を、速度と重量が乗った打ち下ろしで追撃する。


 地面にぶつかって跳ねたそいつを、イワトガラミのツルが縛り上げる。チェルトが拘束したのと合わせて二匹。


「うおらあぁぁっ!」


 動けなくなったそいつらに、植物のこぶしで連撃の殴打を食らわせる。


「叫べ! 技名を敵の魂に響かせろ!」

「いやそんなこと急に言われても!」

「そうか!」

「ぱっと思いつきませんよ!」


 ガルムさんはカッと目を見開いた。


「――超量連撃樹棍衝ギガントジャック・ストライク!」


 なんであんたが言うんだい。

 言いたいだけなの?

 必殺技言いたかったためにずっと俺のこと観察してタイミングうかがってたの?



 ……仕留めたのは四匹。俺が打ち上げた残りの一匹には逃げられてしまう。


 よし、逃げろ逃げろ。もう二度と来るな。


「いだだだだ……これシャレにならん」


 俺は痛みに耐えかねて膝をついた。


 慣れないことはするもんじゃないな。……でもこれで疑いの目は晴れただろうか。

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