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24 はじめての使い魔(2)

「――まあウルに才能がありすぎたんじゃ。あきらめるんじゃ」


 すねていた俺をクーファの一言が一蹴する。


「……まあ、べつにいいんだけどね」


 溜息をつきながら、俺は再びチェルトをすがるように見る。


 そっぽを向いて景色を見ていたはずのチェルトと目が合った。


「!」


 チェルトは驚いたように目を丸くすると、あっという間に顔の向きを変える。


 なんなんだよもう。感じ悪いな。


「あー魔法使いたかったなぁ」


 ぼやきながら、俺はクーファにしがみつきながら横になった。


 寝心地はかなり悪いが、寝られないほどでもないな。

 徹夜だったしこのままふて寝してしまおう。


 なんて思っていると、


「べつにいいけど」


 というチェルトの声が聞こえてきた。


「なにが?」

「そんなに使い魔がほしいなら、なってあげてもいいけど」


 俺はがばっと起き上がった。


「チェルト……なんていい奴なんだ!」

「沼の民のみんながあんたらについてくって言っちゃったから……仕方ないから私も一緒にいてあげるの!」


 チェルトはそっぽを向きながらむっつりと言う。


「さっさとあの変な剣出して」

「なんで?」

「何か持ち物が必要でしょ」


 そういえば所有物に憑くんだったか。


 俺は小太刀を召喚してチェルトに渡した。


「『宿しゅの盟約』の言葉を教えるから唱えて」

「ウルはそんなことしてなかったけど」

「ウルは力が強すぎて手順を省略できるけど、普通は言葉で契約を結ぶの」


 なんじゃそりゃ。

 どれだけウルは精霊たちと相性がいいんだ。


 ……俺はチェルトに魔法の言葉を教えてもらった。

 必要なのは、チェルトの本当の名前。真名ってやつだ。

 それがあればあとは、おまじない程度の文言でほぼ契約は完了できるらしい。


 鞘から抜いた小太刀を両手に持ったチェルトが、俺の前に跪く。


 俺は教えてもらった『宿(しゅ)の盟約』の言葉を紡いだ。


「我、神無月稀名は汝チェルト・ルーカ・エル・レジャルジャと、使い魔の盟約を結ばん。ミトラの契りよ、く成せ」

「いにしえの理にもとづき、チェルト・ルーカ・エル・レジャルジャはここに盟約を結ぶ」


 チェルトと小太刀が光り、鍔に近い刀身の部分に印が刻まれた。


「チェルトって魔法何か使えるの?」


 小太刀の中に入る前に、チェルトに質問する。


「あー、霊樹特有のやつあるわよ」


 言うと、チェルトは小太刀の中に入った。


 刀身に刻まれた印がほのかに光だすと、俺の中に魔法を使うイメージが流れ出してくる。


「こ、これは……!」


 魔法の名前は『ヌル・ヌッチャル』。


 ぬるぬるした透明の液体を出現させる魔法だ。

 液体はほんのり甘く、人体に害はないため、口にすることでわずかばかりの糖分補給が可能である。


 なにこれ。


「どんな時に使えばいいのこれ」

『私にもわかんない』


 チェルトの声が直接脳内に響いてきた。


「樹液かな?」

『魔法だよ』


 どう考えても色のついてない樹液なんですけど。


 困っていると、ウルは一歩前に出て俺に言った。


「どうぞ私で魔法をお試しください」

「ウル……いいの?」

「はい。先ほどは私が試させてもらったので、今度はご主人様が」

「うん、じゃあ」


 人体に害はないらしいし、やってみるか。俺は集中すると、自分の中にある魔力を引き出す。


「――『ヌル・ヌッチャル』!」

「ひゃっ」


 印から魔法陣が輝き、ぬるぬるした透明の液体が出てきてウルを濡らした。


 量はコップ半量にもならないほどで、それがウルの首筋にかかる。

 少しだけ出ていた左側の鎖骨に小さく溜まり、そこから溢れた液体が胸元に筋をつけながら垂れていた。


「どんな感じ?」

「ぬ、ぬるぬるします……」

「だよね」


 液体がかかった際に頬にも飛んでいたようで、ウルは眉を寄せながらそこにかかっていたものを指で確かめるように掬った。


 粘性があるようで指と頬の間で糸を引いている。


「こ、これがヌル・ヌッチャル! これが、ぬる……ぬっちゃる……」


 無理にテンションを上げようとしたけど無理だった。


 せっかく魔法が使える世界に来て、はじめて覚えたのがこれ……。


 だめだ! 意識を強く持とう!

 何かしら用途を考えれば使えるかもしれないし!


『魔力がもっと残っていれば大量に出せたのに』


 チェルトは残念そうに言うけど、こんなん大量に出せてもしょうがなくない?


 俺はウルにかかったヌル・ヌッチャルを布の切れ端で丁寧に拭いてあげた。

 切れ端はもともとウルの片目を隠していたもので、色あせたボロきれだ。


 ウルにもちゃんとした服が必要だな。


「あの、自分でできますので……」

「あ、うん」


 恥ずかしそうにするウルに俺も恥ずかしくなって、ウルに布の切れ端を渡す。


「チェルト、ほかになにかない?」

『どこかからかツル状の植物を自在に伸ばす『イワトガラミ』とか』

「あ、それはいいね」


 チェルトが魔族を縛って拘束していたあの技だ。できればそっち先に紹介してほしかった。


 しかしヌルヌルした液体とツルって。

 ……もうできること一つしかなくない?

 いや、やらないけど。


「――稀名」

「やっ、やらないよ!? 触手プレイなんて! やらないからね!」

「――おぬし何を言っておるのじゃ。ウィズヘーゼルに到着するまで寝ててよいぞと言おうとしたのに」

「寝ます」


 なんか一人ではしゃいで恥ずかしい。


 俺は再びクーファの背中に横になった。


「――あ、わしの背中によだれ垂らしたら振り落とすから気をつけるんじゃぞ」

「チェ、チェルト! チェルトー!」


 俺は騒ぐと、刀身からうんざりした顔のチェルトが出現する。


「なに? うるさいんだけど」

「俺がよだれ垂らしそうになったら、よだれの水分を根っこか何かで吸ってくれ。霊樹ならできるはず」

「殺すわよ! そんな命令きけるか!」


 だめか。


「ないわー、チェルトにそんなことさせるとか、さすがにないわー」


 手枷から河童の声が聞こえてきた。

 そこから声出せるのか。


「――ないわー」


 クーファまで。


 ……いや、なんかすいません。

 思い返したら、根っこの位置によってはなんか変態っぽい。根っこあるか知らんけど。


 撤回撤回。


「ご主人様、大丈夫です」


 ウルが覚悟を完了した顔で力強くうなずいた。


「私が吸います」


 吸ってくれるか。


「って、吸わなくていいから!」

「ないわー、ウルっちにそんなことさせるとか、さすがにないわー」


 また河童に文句言われた。


「だ、だったら私が吸う!」


 チェルトがとっさにウルと俺との間に入った。


 なんで対抗してんの?


「いえ、私が吸います」

「私が吸うの!」


 俺のよだれ取り合うとか、ぜひやってくれ。


 いや、違う。

 やらんでいい。


「――わしも吸う!」

「あんたは飛んでてくれ!」


 ていうか勢いで参加したいだけだろクーファは!


「吸わないでいいからね」


 なんだか一気に疲れがやってきた気がする。


 鱗の背中に横になると、すぐに眠気がやってきた。


「コルンヴォルフさんの『豊穣の導き(ウインドブロウラー)』で移動中当たる風を軽減しておきますので、ごゆっくりどうぞ」


 あの風を操作するやつか。

 それは助かるんだけども……。


「いや、ウルも寝たほうが……」


 言いきる前に、落ちてくる瞼に抗えず、俺は眠気に身を委ねた。

※お知らせ

 改稿&プロット作りのため2~3週間ほど更新を止める予定です。

 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

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