2 異世界旅行、ただし無期限な
荒々しく城をつまみだされた俺。
門の外まで来ると、衛兵に突き飛ばされて地面に突っ伏した。
「いってえ!」
丁重にって言われたじゃないか! あの人に!
しかし本当に追い出すなんてな……。
俺は痛む体を押さえながら起き上がった。
衛兵はニヤニヤと笑いながら俺にじゃらじゃらした皮の小袋を見せてくる。
お金っぽいけど。
「これは餞別なんだと。この世界でも職が見つかるまでは生きていけるようにという、騎士団長様のありがたいお心遣いだ」
まじか。ちょっと助かった。
これで即のたれ死ぬことはなくなったのがせめてもの救いだ。
「けどお前みたいな能無しのクズには、こんな施し必要ないよな」
「俺たちがもらっておくぞ。ありがたく思えよ」
「うおい!」
お前ら、さっきは「安心する」とかほっこりしてたじゃねーか!
俺が勇者じゃないとわかったらなんなのその態度!
「じゃあな勇者もどき」
「変な言い方するな! いや待って――ちょっと!」
衛兵はお金を懐にしまって、さっさと城の中へ戻っていった。
「嘘だろおい……」
途方に暮れる。
どうすりゃいいってんだ。
幸いなことに魔法陣の力か何かか、言葉は通じるみたいだ。
でも金はないし、持ってるのはゲームのコントローラーだけ。
ゲームのコントローラーだけ(ワイヤレス)!
生きていけないよ。
ただでさえ自立する力とか働く力とか皆無なのに。
「まずい、なんだこの危機感」
もしかして今日寝泊りする場所も確保できないんじゃないか?
追い詰められてようやくわかった。
そもそも立っているだけじゃだめだ。自分の足で歩かないと。
俺はとりあえず町をさ迷い歩くことにした。
なんていうか城下町って感じでとても賑やかだ。遠くを見ると、町全体が高い城壁で囲まれているみたいだ。
途中、何度か人に振り向かれた。
なんでだと思ったら自分がジャージ姿だったからだ。変な目で見られた。
市場のような所に出る。
様々な露店が並んでいて、かなり活気がある。
文字は読めなかった。ううむ、そのへんは勉強しないとだめか。
果実は思いのほかこっちの世界と同じようだ。
肉の焼けるいい匂いのするところに行ってみると、串に刺して炭で焼いた物がそのまま売られていた。何の肉かはわからない。
うまそう。買えないけど。
帰れる方法はないとか言われたから、俺はこの地で生きていかなきゃならないのか。
本当にないの?
そしたら一生ここで生きていかなければならないのか。
まあ、よしんば日本に戻っても居場所ないし居心地悪いしな……。
でもこんなところで生きていける気がしない。
市場の端のようなところに出ると、
「おらっ、さっさと歩け!」
ガラの悪い男二人が鎖でつながれた女の子を連れていた。
女の子は小さくて痩せていて、体のそこかしこに傷がついていた。
栗色の髪は枝毛がひどくてぼさぼさで、でも瞳はとてもきれいだった。
左目が翡翠のような緑色をしていて、右目が透き通るような赤い色をしている。
いわゆるオッドアイだ。
初めて見たけど、吸い込まれるように見とれてしまった。
女の子は鉄製の手枷をはめられて、鎖で引っ張られながら歩いている。
連れているのはあまりに不穏な二人。ていうか、明らかに人さらいだ。
でも通っていく町の住人は、相手にしていない。
おかしくないか? どうしてここまで無関心でいられるんだ。
「待て!」
見ていられなくて、俺は男たちの前に出た。




