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18 安息の風の使い道

 階段を上がっていくクーファを守るように、俺は兵士たちに立ちはだかる。


 最初から全力で行く。

 俺は手にしていた小太刀を抜くと、同時に兵士たちが切りかかってくる。


「くれぐれも殺すなよ。足を折るか切り落とすかくらいにしておけ」


 後ろで指示をするティーロさんの声を聴きながら、一番最初にとびかかってきた兵士の剣を受け止める。


 剣を力任せにはじき、後退しながら矢継ぎ早に来る兵士たちの攻撃を受け止める。


「くそっ、なんか、やりにくいな……」


 訓練されている兵士っていうのは、こんなに強いものなのか。


 狭い室内で、兵士たちは連携しながら動く。


 奥行きはそれなりにあるのだが、大人が縦に二人横になれないくらいの幅しかない。


 縦横無尽に逃げたり回避したりはし難く、攻撃は受け止めるのが主になる。


 攻撃ひとつ受け流すと、その隙をついて脇や上から、剣による一撃が見舞われる。


 一人の敵を複数でかかるためのトレーニングを積んでいる印象だった。


「ガッ」


 それでもどうにか兵士を一人、檻にぶつけて悶絶させる。


 ――そうだ。俺の風なら、風圧そのもので相手の動きを封じられるかもしれない。


 俺は小太刀から風を吹かせ、兵士たちに当てようとする。


「風は効かねえ!」


 ティーロさんの剣に刻まれている文字と印がうっすらと光った。


 ――ウウウウウッ!


 とたんに、剣は耳の奥に直接響くように、低く、切なげに鳴く。


「!」


 まただ。


 風は俺の周りだけにとどまり、周囲に広がっていかない。


「この剣に封じられているコルンヴォルフは、風の通り道を自在に変えることができる!」

「……何回か風を邪魔してたのは、あんただったのか」

「そうだ! その変な風は俺たちまで届かないんだよ!」


 リラックス効果の風のおかげか、焦りはそれなりに薄れている。


 だけど冷静になったことで、改めて戦力差を実感させられる。


 兵たちの練度は高い。

 しかもティーロさんは、まだ本気で戦っていない。


 いまだに、俺はいっぱいいっぱいだ。


 俺は刀の峰でもう一人の兵士の脇腹に当身をする。


 うずくまる兵士。


 ――オオオオオッ!


 同時に、ティーロさんの剣が、再び鳴いた。


 けど、今度は違う鳴き声だ。


「『イグニッション』!」


 魔法の言葉とともに、ティーロさんの剣は炎に包まれた。


 残っていた兵士が俺から一歩引くと、ティーロさんは俺に向けて斬撃を空振りした。


 とても剣では届かない距離。

 それを炎はうなるように走り抜けていった。


 俺は転がりながら、炎をどうにかよける。


 薄暗い室内を赤く照らしながら、すぐ横を通り過ぎて消える炎。


 うでや肩が焦げ付いたようにちりちりと痛い。


 体勢を立て直す前に、ティーロさんは俺のもとへ駆けていく。


 剣戟。


 振り下ろされた一撃はどうにか受け止めたけれど――重い!


 身体能力を強化していても、どうにかしのぐので精一杯だった。


 そもそも、どう対処していいか、どこから攻撃がやってくるのか、体が強化されたくらいでわかるわけない。


「ズブの素人が普段から鍛えている俺に勝てるわけねえだろうが! いくら身体能力を上げてもなぁ!」


 魔法で燃え上がった炎が、剣から伸びるように襲い掛かる。


 よけるように後ろに飛ぶ――けど、すぐ背後は階段に続く出口だ。


 これ以上後ろには下がれない。


 逃げたら、きっとティーロさんの持っている『レシピ』とやらから、捕らえている精霊を使って『精霊兵器』が生み出されるだろう。


「サラマンダーの炎とコルンヴォルフの風……この『精霊兵器』の力があれば他国はおろか魔族にだって負けねえ!」


 魔族ってのはそこまで強いのだろうか。


 いや、それでも。


「誰かの命を犠牲にしてでも強さを得たいのなら、そんなの魔族とやらの暴力と同じじゃないか」

「国の者を守るための暴力なら、すべからく手に入れるべきだろうが!」


 俺は刀から風を発生させた。


 やっぱり、俺の周りにまとわりついたままだ。


 たぶん風向きを変えられるだけで、風そのものは消すことができないのだろう。

 だから俺の周りに広がっていかないように、風を操っている。


「やっぱり風は使えないか――いや」


 風圧を使うのがダメなら、違う使い方もできるはずだ。


 俺は、風をそよ風にまで弱めた。


「風は効かねえって理解できねえのか!」


 そうだ。


 大事なのは、風の量じゃなかったんだ。


 たぶんこの風は、人に当てるより自分が当たっていたほうが強い。


 必要なのは、『深さ』だ。


「もしあんたが暴力ですべて解決することを是としているなら――」

「だからそうだって言ってるだろうが!」


 ティーロさんが炎のまとった剣を振るう。


「ならその暴力、俺が完膚なきまで蹂躙する!」


 俺はティーロさんの懐まで踏み込んで、完全に振るわれる前に剣をはじき飛ばした。


 伸びようとしていた炎も揺らいで剣に留まり、ティーロさんの手から離れる。


「何っ!?」

「剣が起こす風圧を利用して、炎を走らせていたんだろ? 風の進路を自在に操って、そこに炎を乗せるようにして」


 振るう前にできるだけ手元を狙って剣を受ければ、風はさほど生まれない。


 ティーロさんは腰に差していたもう一つの剣を抜く。

 これは普通の武器みたいだ。


 ティーロさんは慌てている様子で言った。


「なぜ、急に動きが?」


 風は、俺だけを包んだまま。


 極限までリラックスした全身が、思考をクリアにしていく。

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