13 騎士ですが
護衛と一緒に男の人が出てくる。
鎧とかは着ていなかったが、雰囲気でただものではないとわかった。
外に出ていた兵士たちが、一斉に片膝をついた。
「声は城の中にまで聞こえてきた」
歳は二十歳前後くらいで、まだ若い。
茶色の長い髪を持つ、端正な顔立ちの青年だった。
よく鍛えているのか、筋肉質の身体は服越しでもよくわかる。
それに引き締まった顔つきが歳以上の貫録を醸し出していた。
「私の部下……『スプリガン』の兵が、人さらいのような真似をしたと、きみは主張したいのか?」
たぶん、この人がこの町を治める騎士だろう。
俺は小太刀を鞘にしまって消した。
「ん……あ、うん……」
フードの女の子――『沼の民』のチェルトは、脱力しきったまま呆けたように小さくうなずいた。
うん、なんか、ごめん。
「……城の中で詳しく話を聞こう。もし本当なら、私は私の兵を処罰しなければならない」
厳格そうな顔で、騎士らしき男は言って周りにいる兵士をにらんだ。
兵士は一瞬びくりとなったが、膝をついたままじっとしていた。
「私はビルザール王国騎士団の一人、ヘルムート・フォン・ヴィンデバルト。ここの城主もしている者だ」
言っちゃなんだけど、すごくまともそうだ。よかった。
なんかようやく平和的解決をしてくれそうな人が来てくれたぞ。
ヘルムートさんは今度は俺たちに目を向けた。穏やかそうなブラウンの瞳だ。
「そちらの方の話も聞こう。何やら、私の兵が私の知らないところで粗相をしているらしい」
「おぬしが親玉か? 部下の面倒も見られないでよく騎士などが務められるのぉ」
無駄に挑発するクーファを押しのけて、
「あ、よろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
たぶん皆をこの人のペースに乗せていけばどうにか暴れないで解決できそうだぞ。
「顔を上げてくれ。私も何が何やらわからない。こちらこそどうか頼む」
「は、はい!」
「食事を用意させよう。話はそこで聞くことにする」
「ありがとうございますっ」
よ、よっしゃー!
そういえばこっち来てからこのかた何も食べてなかった!
もうすでに日は沈みかけていて、俺はほぼ丸一日何も食べていなかったことになるな。
急に元気になってきた俺は、座り込んでいるチェルトに近づく。
少し息が荒いし、まだ頬は軽く紅潮している。
「えっと、チェルト、でいいの? ごめん、俺の風のせいだ。立てる?」
「……たてりゅ」
立てなさそうだ。
かついで行くことにしよう。
「あ、では私が」
後ろにいたウルが言ったが、俺は首を振った。
「いや、いいよ。ウルも疲れてるでしょ。俺が小太刀の力使って連れて行くから」
普通の力じゃ連れて行けなさそうなのが悲しい。
俺は小太刀を出してからチェルトをおんぶする。
うん?
……木だっていうから肌はごわごわしてるかと思ったけど、案外人間と同じような感触だな。
でも少し体温は低めかもしれない。
うん、ちょっと、二つの柔らかい感触が背中に押し付けられている。
へ、平静を装わないと。
「はぁ……はぁ……もう、大丈夫だから」
ようやくもとに戻ってきたみたいだ。
でも息が耳や顔にかかってくすぐったかった。
これは、まだおろせないね。
「――しかしずいぶん話の都合がよすぎるのお」
クーファはいまだにケンカ腰だった。
「いつ後ろから切りかかられてもおかしくはなさそうじゃ」
「ご覧の通り――私は丸腰だ」
ヘルムートさんは手を広げて俺たちに言う。たしかに剣とかも持っていないようだ。
「戦いの加勢にきたわけではないし、そんな意志もないことはわかってもらえたと思うが……何か不服ならいくらでも私を殴ってくれ」
「よいのか?」
「よくない、よくないから!」
こぶしを握って前にでるクーファに、俺は後ろから声をかけて止める。
「さあ! 遠慮することはない! 殴ってくれ!」
なぜかヘルムートさんは声を張り上げて丸腰の体をクーファに近づけた。
「幼い少女に殴られるなんて願ってもないことだ! いくらでも殴っていいんだぞ! 腹がおすすめだ!」
前言撤回。
この人もなんか変だぞ!