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12 乱戦模様

 ぐりぐりは続いていた。


「えっと、大丈夫ですご主人様」


 俺に所在ない視線を向けられて、ウルは半ば困ったようにうなずいた。


「私もやられました」

「やられちゃったか」


 俺のお腹に頭をうずめていたクーファは、ふと深刻な顔になって頭を上げる。


 服は両手で掴んだままだ。


「……稀名よ、感じぬか?」

「何を感じるの!? そういうこと言うのやめて!」

「どこか、この町はおかしい。不穏じゃ」

「あ、町のことか」


 セクハラかと思った。


「どこが? のどかないい町じゃないか」


 町の人たちは普通に生活しているし、見たところ何か問題があるとは思えない。


 王都で騎士のおじさんが言っていた魔王とかそういうのに脅かされている様子もない。


「気のせいならいいんじゃがの……ずいぶん精霊の気配が濃い」

「自然と隣り合わせだからじゃない?」


 町の隣はすぐ森林で緑に囲まれていて、川から引いた人工的な水路が町を潤している。


 こういうレトロっぽい感じ、すごくいいと思う。


 入口から一番奥まった方に、ほかの建物より一際背の高い石造りの建築物がある。


「まあよい。『スプリガン』は、やはりあそこを目指していけばよいかの」


 城らしきものはそこしかない。


 見たところお堀はないようだが、城壁が周りを囲っていて堅牢そうだ。


 まともに攻めたら攻略は難しそうだった。


 ……飛んでいかない限りは。


「だろうね。じゃ、俺はこれで……」

「よし行くぞ稀名!」


 腕をつかまれて、引きずられるようにして連れていかれる。


 今のクーファの腕は俺よりずっと細いのに、ふりほどけない。


「力強っ! ちょっ、なんで俺も!? 徒歩で行くの!? 俺はここまででいいでしょ!?」


 しかも城まで意外と遠かった。


 道行く人に白い目で見られながら、抵抗むなしく強引に城の前までやってくる。


 ウルはかなりおろおろしていたし、俺がすごい駄々こねてるみたいだったじゃないか。


「ホレやはり不穏じゃぞ」


 クーファは、城の近くに生えていた林を指し示した。


「だから、ああして精霊族の恨みを買っておる」

「?」


 民家や城の周りはわりと樹木が生えていて、すごく新鮮な光景だった。


 クーファの指示したあたりの木の陰に、フードを被った人影が城をじっと見上げていたのだった。


「人影にしか見えないけど」

「あれは木が長い年月を経て人の姿をとれるようになったんじゃよ」


 ここからではフードのせいで素顔はわからない。


 クーファとかもそうだけど、見た目人間とそんなに変わらないのもいるのかな。


「あやつが向けているのは敵意じゃ」

「私も、穏やかでない気配を感じます」


 ウルまで真面目な顔をして言い出した。


「うむ、やはりこの町と『スプリガン』は、何かきな臭いのう」


 でも俺は別に気にならないよ。

 俺たちが見ていることに気付くと、人影はすぐに引っ込んでしまった。


「ま、それはそうとな稀名。わしの家族を馬鹿にした者を見つけて詫びさせなければならんわけじゃが」

「……うん?」

「面倒なのは嫌いなんじゃ。単刀直入にいく」


 俺が首をかしげている間に、俺の体はぐんと持ち上がった。


 クーファに投げ飛ばされたのだ。


 視界が反転して一面の空になり、


「ほげっ!」


 ぶつかった門番の兵士さんもろとも倒れる。


 クーファは握りこぶしを作り、笑って言った。


「であえであえ! くせものが来てやったぞ!」

「自分で言うな!」

「ゆくぞ稀名! 二人でやればすぐ終わるじゃろ!」

「今、俺とクーファのやる気の温度差すごいよ!? 気づいてる!?」


 ウルが俺のところへ駆け寄ってきてくれる。


「ご主人様、ご無事ですか?」

「なんとか……」


 俺は自力で立ち上がった。背中痛いけど気にしている場合じゃない。


「あの、私はどうすればいいですか?」

「逃げたほうがいいね。俺と一緒に」


 逃げようとすると、来た道から兵士たちが数人槍を持って駆けつけてくる。


 そしてクーファではなく、俺たちのところめがけて走ってきた。


そいつら(・・・・)だ! そいつらが門番の兵を殴り飛ばしたんだ!」

「殴ってないよ!」


 また一緒くたにされるパターンだよ!


「囲んで捕まえろ!」


 街道からやってくる兵は三人。門番の兵は二人。

 挟み撃ちにされる!


「ちょっと待ったぁ!」


 あらぬところから声がかかった。


 声がしたのは林の方。しかも女の子の声だ。


 さっきの木の陰にいてじっと城を見ていた人(?)が、近づいてきていた。


 フード付きのワンピースみたいな服を着ている。


 身長は俺の首あたりしかないウルと同じくらいで、小さいほうだと思う。


 いきなり出てきたと思ったら、そいつは目深にかぶっていたフードを取って言った。


「『スプリガン』は私が襲おうとしてたの! 手を出さないで!」


 その子は、声も少女のものだったし、見た目も少女だった。


 短めで少しくせっけのある、黄緑色と薄い藤色の混じった不思議な髪をしていた。


 強気な視線が俺と兵士に突き刺さる。


 いや、俺は兵士側じゃないからね?


「私は『沼の民』チェルト! もともとは森の沼地に生えていた木だった!」


 一見人間と変わらないような姿だが、腕からだんだん蔓のようなものが生えてきていた。


 クーファの言う通りだった。

 なんて言えばいいんだろう。木の


「私の仲間たちをどこへやったの!? 言いなさい! あんたたちがさらって行ったのを見たんだから!」

「さらって行っただって?」

「そうよ! 静かに暮らしていたのに、こいつらが!」


 そういえばクーファも襲われかけたらしいけれど、関係あるのだろうか。


 肝心のクーファはというと、こちらはお構いなしで暴れようとしていた。


「さあどいつもこいつもかかってくるがよい! もしわしに勝てたら血でもなんでもわけてやるぞ!」

「うおおさせるかぁー!」


 俺は小太刀を召喚して鞘から抜いた。


 台風くらいの尋常じゃない強風が、あたりに吹き荒れる。


「いい加減にしろよお前らぁ! ちょっとどいつもこいつも話をする気ないってどういうことだよ! 俺を巻き込むなよ! 体のところどころが痛いんだよ! 誰か靴くれよ!」


 兵もクーファたちも一斉に動きが止まる。


「なんだこの気持ちのいい風!」

「か、彼は靴がなくて困っていてこんなに怒っているのかっ?」


 違うわ!


 いい感じにリラックスしてくる、兵士とウル。


「んっ、く……稀名、邪魔するでない」


 やっぱりクーファには人間よりも風の効きがよかった。


 振り上げていた拳も今はだらりと力なく垂れている。立っているのがやっとの状態だ。


 けれど、一番リラックス効果があったのはフードの女の子、チェルトだった。


「ふぁ、あっ……なに、これぇ……っ」


 チェルトは、力なく膝をついた。


「か、風、しゅごいぃ……」


 頬には赤みがさして、トロンとした目つきで体を震わせていた。


「――っ!」


 俺はハッとなってつぶやいた。


「まさか……俺は、本当はとんでもない力を手に入れてしまっていたのか――!?」


 精霊や幻獣と呼ばれるものたちには、リラックス以上の効果をもたらしている、だと……?


 いやでもこれがこの剣の真価だなんて思いたくないけど!


 だがその時だった。


 起こしていた強風が、ふっと凪いだ。


「急に風がやんだ?」


 だが小太刀は抜きっぱなしだ。


 俺はやめていない。現に風はまだ吹き続けている。


 ただ吹いているのが俺と俺のごく近くだけで、軌道が勝手に上空へと逸れていっていた。


 ……いったい何が起こったんだ?


「全員武器を納めよ!」


 城の門が開いていき、よく通る男の声が響いた。

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