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118 レソビィーク・カンパニーとその活動(1)

 ここ数ヶ月で大きく変わったことといったら、俺がついに靴を手に入れたことだろうか。

 しかし裸足生活が長かっただけに靴を履いていると落ち着かなくなってしまった。そんなわけで俺はたびたび靴を脱いで裸足で行動している。そして変な目で見られている。


 秘密結社レソビィーク・カンパニーは、王都での戦いが終わってから、すぐに滞りなく設立された。信者達を導いてうまいことやってくれたウルのおかげだろう。

 結社、あるいはカンパニーと略すようになり、活動も軌道に乗りつつある。


 俺は信者達に指示を送るウルの裏方として、結社の日々の運営に忙殺されていた。

 設けられた部屋で、俺は裏方を任せている幹部たちとこれからの活動についてああでもないこうでもないと議論を交わしていた。


 当面の活動の中心は人工精霊ことバディの討伐である。奴らはビルザール国内はもちろんほかの国でも活動の幅を広げている。この大陸にはまだまだ野放しにされ人々や文明を破壊しようとしている強力なバディがはびこっている。操っているのは、ラーガ教団雷侯派の残党だ。野に放ってしまった責任として、それらを一掃していかねばならない。


 そんな中で、『魔族』によって破壊された都市や国の復興の支援と、それに乗じた未開の地の開拓や観光地などの開発も行なっている。大陸中どこもかしこもまだ復興がままならない状態だ。それを利用してうまいこと利益を得ているのだった。


 魔法師の魔法を利用した防衛システムの構築と構築したシステムを国や領主に売りつけるという計画も上がっている。


「あきた」


 開発にかかる人員や予算に関する話を俺の隣りで聞いていたチェルトは、つまらなそうにあくびをして印の中に戻っていった。


 アシュリーのお父さんであるコルドウェルさんを脅……いろいろ話をつけてパトロンになってもらったりしているので、資金面でのやりくりは、苦しいといえば苦しいが壊滅的な問題にはなっていない。


 むしろ問題は、俺がもとめていたゴロゴロニート生活がどこにも転がっていないことだ。

 いずれこの忙しさが落ち着けば、とか自分で思っていたが結社を設立して半年以上経っても一向に落ち着かない。

 信者の話を聞き流しながら、俺がどうにか隠居する策を立てようとしていたとき、


「失礼します」


 ドアがノックされ、黒いローブを着たウルが室内に入ってきた。


「レーシィ様!」


 幹部たちは一斉に膝をつき、ウルにこうべを垂れる。


 俺も幹部たちに倣って同じようにする。ここではウルの権力が絶対なのだ。


「皆さんお務めご苦労様です。どうか顔をあげてください」


 ウルが言うと、幹部たちは顔をあげて立ち上がった。このカリスマ性の少しでも俺にあれば、少しは楽ができたのだろうか。


「…………」


 ウルが何か言いたそうに俺を見た。


「どうかしましたか? レーシィ様」


 冗談めかして少し慇懃にウルに聞くと、ウルが近づいてきて、


「ご主人様」


 背伸びをして俺に耳打ちした。


「ん?」

「ネミッサさんが戻られました。それとアシュリーさんが来られています」

「本当? 中に入れてあげて」

「そうおっしゃると思って、すでに応接室まで連れてきてもらいました」

「わかった。すぐ行くって伝えて」

「はい」


 俺は幹部たちに来客の対応をしてくると伝えて部屋を出た。


 応接室に行くと、入り口にはウルのお世話係をするメイドさんがいた。やはりメイドさんはいい。


「…………」

「…………」


 こちらを向いて困ったように苦笑いするメイドさんを舐めまわすようにじっくり見ていると、出て来たチェルトに背中をグーで叩かれた。


「さっさと行くわよ」


 部屋に入ると、ソファに座っていたアシュリーは立ち上がって駆け寄ってきた。


「稀名!」

「稀名さん」


 ウルと話していたネミッサも顔を上げる。


「アシュリー、お疲れ様。ビルザール国内のバディ討伐状況はどう?」


 差し出されたアシュリーの手を握って、俺は言った。


「ぼちぼちかな。結社がうちに派遣してくれた魔法師のおかげでだいぶ効率は上がってるけど、それでも全て片付けたわけじゃない」

「毎回応援に行けなくてごめん」

「いいさ。不動さんと杏さんが手伝ってくれているから。すごいよ、杏さんの剣技は。暇なときにいろいろ教わっているけれど、動きに無駄がないし、相手を倒すのにとても理にかなっている。考え方もすごく理知的だ」

「それはよかった」


 ビルザール国内に残っているバディの一掃は、コルドウェル家が主導で行い結社がそれを裏で支援する形をとっている。

 ……が、戦力面はやはり心配だった。

 しかし不動と杏さんがそれに手を貸してくれているなら大丈夫だろう。


「ええと、それと、近況報告」


 アシュリーは言いにくそうに目をそらして、頭をかいた。


「浮かない顔して、どうしたの?」

「嫁をもらうことになった」

「嫁か」

「世間の体裁を保つために父さんが無理やりね。騎士になるなら結婚くらいしておけって」

「なんかいろいろ疑問になることはあるけど……大丈夫なのかそれ?」


 同性婚になるのか? それは可能なのだろうか?

 アシュリーは世間的に男だから関係ないのか。ていうかコルドウェルさんも相変わらず無駄に決断力高いな。


「いい娘さんだよ。騎士の娘で、綺麗だし、僕のことも気に入ってくれたみたいだけど……」

「けど?」

「僕はべつに結婚なんて望んでないんだよな」


 アシュリーは、最近父親による一般大衆への推し方がごり押しすぎて困っているらしい。この前来た時も同じようなことを言っていた。


「大変だね」

「もうこの現状から逃げ出したいよ」

「いっそクローディアと入れ替わったら」

「! なるほど、その手があったか……! 顔そっくりだしいけるかも。でも問題は髪型か……」


 少し冗談気味に提案してみたけれど、アシュリーは真剣な顔で考え出した。


「あー……ネミッサも、学校の方はどう?」


 アシュリーの問題はアシュリーに任せよう。俺はネミッサに向き直って尋ねた。


 パトリックとの戦いの後、ネミッサから提案があって、本部の近くに学校を作ることになった。ネミッサはそこに通ってもらっているのだ。

 生徒としてではなく、先生として。

 魔法師の魔法を教えるための学び舎――魔法学校を作って、素質のある人間に力を正しく使ってもらう……自分の行ってきた二年間をふいにしてから、彼女がずっと考えていたことらしかった。


 ネミッサは満面の笑顔でうなずいた。


「楽しいです!」


 まだ学校は開校したばかりだが、自主的に集まってきてくれた子ども数人に対して、ネミッサが授業を行っている。


 言霊が解放された今、誰でもやり方を教わればある程度は魔法を使えるようになった。だからこそ、それを正しく使えるように誰かが導いてあげなくてはいけない。

 魔法師を多数抱え込んでいる結社が、率先してそれを担っていければいい。そんな願いが、ネミッサの中にはあった。


 俺も学校運営の面で口を出せるところは口を出しながら、手探りでやっていっている状態だ。

 まだ学校は小さいし教師もネミッサしかいないが、生徒が増えるにつれて少しずつ大きくしていく計画になっている。


「私が今までしてきたことの活かし方……これで間違っていないんだと思います。たぶんきっと、少しは無駄にならずに済んでいるんじゃないかって」

「誰かに受け継がれていっているんだから、全然無駄なんかじゃないよ。ネミッサらしくてすごくいいと思う」

「えへへ、ありがとうございます。うまくいかないこともたくさんあるけれど、稀名さんからのアドバイスもありますし、子どもたちは可愛いし、どうにかやっていけそうです」


 笑顔で言うネミッサの目にはクマができていて、少し痩せたような印象を受けた。楽しいのはいいけれど、また無理をしているらしい。


「困ったことがあったら言ってね。相談にのるから」

「今日休めば明日はどうにかなると思います……」

「とりあえず教師はもう一人二人増やしたほうがよさそうだね。派遣できそうな人材を見繕っておくよ」

「そうしてもらえると、助かります。今日はウルちゃんに一日の疲れを癒してもらうことにします……」


 弱々しく笑うネミッサがウルに抱きついて胸に顔を埋めたところで、勢いよく応接室のドアが開いた。

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