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115 白竜迎撃戦~決戦編~(1)

 気がつくと、周囲には誰もいなくなっていた。

 王都の中央広場で、一人立ち尽くしている。

 ウルやネミッサどころか、アデルバートさんやパトリックもいなくなっている。


 いや、これは今までいたところとは違う場所だ。

 俺たちやパトリックが破壊していた街並みも元に戻っているし、さっきまでとは雰囲気が違う。俺以外誰もいないようにも見える。


「ここは……?」

「あなたの意識の中。現実世界じゃない」


 いきなり横から声が聞こえたと思ったら、隣に言霊が立っていた。


「じゃあきみも俺の妄想?」

「私はどこにでもいられるから」


 と言霊は首を振って俺の疑問を否定した。そういえばこの子は他人の幻とか夢とかにも出てこられるんだった。


「……いつぞやの幻覚を見ているようだ」


 もう松茸が生えていても食べないぞ。


 そこまで考えて、俺は自分のやろうとしていたことを思い出した。


「そうだ、クーファは――って、おわっ!?」


 突如銀色のナイフが飛んできて、俺はとっさに身を翻した。

 間一髪、俺の身体のすれすれを三本のナイフが通過していく。


 上空に、白銀色の竜が羽ばたきながらこちらを見下ろしていた。


 クーファ、のはずだ。

 しかし表情は硬く、こちらに向ける瞳は虫けらを見るように冷たい。


「あれはクーファ、でいいのか?」

「――生意気にも避けたのか、人間が」


 クーファはこちらを見下ろしながら、吐き捨てるように言った。


「――ここはどこだ。わたしはなぜこんな場所にいる? これはお前が、やったのか」


 たぶん、クーファだ。でも、これは俺の知らないクーファだ。口調が違う。俺のことを、覚えていない。


「俺の妄想が生みだした幻?」

「自覚ないの?」


 言われて、俺は首をかしげる。

 言霊は小さくため息をついた。


「呆れた。あれはあなたが再生したのよ。バラバラになっていた白竜の魔力を自分の中に取り込んで、姿形を構成し直したの」

「じゃああれは俺の妄想じゃなくて、本物のクーファか。そうか、うまくいってくれたんだ」


 生き物や精霊はみんなそういう能力を持っている可能性に俺は賭けた。いや、おそらくできるだろうと踏んでいた。

 チェルトが足を川に浸して水の魔力を自分の中に取り込んでいたように、普通の生物だって呼吸したり食べ物を食べたりすることで、そこに宿っている魔力をいくらか自分の中に吸収している。あくまでそれの応用を俺はやったのだ。


「普通は無理」


 まあたしかに。

 俺が受け取った膨大な魔力量や、『限界深域マージナルゾーン』の認識力や、チェルトの加護などいろいろな条件が噛み合ってできた賜物だろう。また同じことをやれといわれても、たぶん無理だ。


「そして、あの通りまだ完全じゃない」

「そうみたいだね」


 再生の試みは成功したものの、そうそう完璧にうまくはいかないらしい。


 姿形はクーファだが、心をまだ取り戻していない。クーファであってクーファではない不完全な存在。そんな印象だ。


「――何をごちゃごちゃ喋っている?」


 威圧的な口調で、クーファは自分の周囲に魔法陣を展開した。

 ぞくりとするほどの殺気。

 今の彼女なら、ためらいなく俺を殺せるだろうと直観できる。


「で、どうしたらいい? この状況なんとかできると思う?」

「あなたの意識の中だから、私にはどうこうできる力は弱い。というより、ほとんど何もできない」

「俺にはどうにかできる?」

「あなたの中の光景だもの。あなたにしかできない。でも――」


 俺たちの周囲にも魔法陣が現れ、銀色の獣が何体も現れる。

 獰猛そうに肩を怒らせ、鋭い牙を光らせた、俺たちを殺すためだけに作られた獣。


「こんな無茶苦茶なこと初めてだから、私には解決方法がわからない」


 今にも飛びかかりそうな猛獣にかまわず、言霊は続けて言った。


「ここが俺の精神世界みたいな場所だとして、俺がここでクーファに殺されたら?」

「体とか乗っ取られるんじゃない?」


 なるほど、それはそれでいいかもしれないな。結果的にクーファは生き返るわけだし。

 でも、二人一緒に復活するのが最善だな。


 俺は念じると小太刀を召喚する。なるほど今まで身につけてきた能力は使えそうだ。

 現実世界の俺の状態も影響しているようだ。俺の意識はとうに『限界深域』へ入っている。


 銀色の獣は一斉に飛び掛かる。戦いは始まってしまった。


 俺は襲ってきた銀の獣を切り捨て、高速で飛来する無数のナイフをかわしながら打ち落としていった。


 ……俺の意識の中でクーファを再生させても、無事に現実世界に戻れなければ意味がない。

 俺もクーファも問題なく生き残る。

 そんな方法を見つけなければ。

 そのためにはまず――


 考えながら、飛んでくるナイフとともに突っ込んできたクーファの爪をかわす。


「――っ!」


 セラミックブレードのような爪の先が鼻先まで接近した。


 怖っ。ぞわりと背筋が凍った。

 もうほんの少し反応が遅れたら、俺の頭は吹き飛んでいた。


 こんな状況で方法が見つかっても試すのは無理だ。まず暴走するクーファを止めなきゃ話は始まらない。


「クーファ!」

「――気安くわたしの名を呼ぶな!」


 クーファは羽ばたきながら炎のブレスを吐き出す。俺は『黒妖鱗アウフホッカー』で鱗の盾を形作り、炎を防ぎながら飛び退く。


「ちょっと話を聞いてくれクーファ!」

「――人間は敵。すべて敵だ。人間は黒竜どもと一緒にわたしの家族を殺した。絶対に許さない。許しはしない!」


 だめだ。話を聞いてくれない。説得できそうな雰囲気じゃない。


「ここからはあなた次第」


 いつの間にかいなくなったと思ったらすぐ隣に言霊が出現して、


「がんば」


 一言言ってまた消えていった。


 いや、がんばれって、どうすればいいんだこれ。

 相手は殺す気満々。こっちの打つ手は限られている。

 またクーファと戦うことになるのか。……最初に戦った時と同じ場所で、もう一度。

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