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109 夜行の終着点

 門の周りの壁も一緒に『森羅創生ロウダンデ』で破壊する。そうしないとクーファたちが通れなかった。

 相変わらず矢は飛んでくるが、防ぎながら進んでいく。

 風で周囲の意識を探ってみる。周囲には人気はない。住人も逃げた後だろうか。

 城の近くに人の意識が集中しているようだ。


「念のため通り道沿いの家や石畳を破壊しながら進もう。魔法師の霊符が隠されているかもしれない」


 こんなことをしれっと言えるようになったのは、俺も腹をくくっているからだろうか。

 皆はおのおの持っている魔法や特性で家を瓦礫に変えたり燃やしたりしながら練り歩いていく。俺たちの歩いた軌跡が瓦礫の山になり火の海となっていく。


「バンナッハ」

「なんだ」


 風呂に入っているみたいに地面に半身浸かりながら移動するバンナッハに、俺は言った。


「地中を潜りながら先行して、言霊コトダマの捕らえられている場所を探してくれ。さすがに地中には罠なんて張れないだろうしね」

「うむ……」


 曖昧に返事をしながら、バンナッハはネミッサに目配せする。


「お願い、バンナッハ」


 ネミッサは頷いて言った。


「ではまかされよう」


 バンナッハは地中に潜行した。


「――しかし何も出てこないのじゃ。つまらんのじゃ」


 炎と瓦礫で街並みをラッピングしながら、クーファは退屈まじりにぼやいた。


「もう少し進まないと敵は出てこないみたいだね」


 破壊の限りを尽くしながらまったり歩いていると、不意に背後から男たちの雄叫びが聞こえてくる。


「稀名さん、さっきの兵隊さんたちが!」


 最後尾のネミッサが叫んだ。

 見ると、確かに追ってきているのはさっき戦った兵たちの一部だ。さっきまで戦意を失っていた兵たちの一部がやる気を取り戻したらしい。


「もう風の効果が切れた兵がいるのか」


 さっきより数は全然少ないみたいだけど、少し邪魔だな。

 迎撃しながら進んでもいいけれど、城までついてこられても鬱陶しい。


「私たちが残ります。行ってください」

「ネミッサ?」


 振り向くと、ネミッサはすでにこちらに背を向けて立ち止まり、兵たちと対峙しようとしていた。白狼のバラムと大蛇のような青い竜のコルも一緒だ。


「後ろの敵は、私たちがここで食い止めます。稀名さんたちは、言霊の捜索を」

「でも――」

「うまく足止めして、すぐに追いつきますから。大丈夫です!」


 言いながら、ネミッサは持っていたクォータースタッフを構えた。


「さっさとこんなこと終わらせましょう」

「……わかった。頼んだよ」

「任せてください!」


 お互い笑って頷き合う。まあネミッサならすぐに追いついてくれるだろう。



 ネミッサを切り離してしばらく大通りを進むと、また城壁がそびえていた。今度は弓兵はいないようである。また門ごと壁を破壊して進む。

 そのまま大通りを歩いていくと、商店街のような出店が立ち並ぶ市場のような場所に入った。

 出店はそのままで、人がいないからか活気は全くない。

 まるでゴーストタウンみたいな趣である。


 怪しいので、すべて破壊しながら進む。

 逃げ遅れなのか兵士が化けているのかは知らないが、住人らしき人たちが数人慌てて逃げていく。


「このへん歩いたなぁ、少し前に」


 いや、もう少し奥だっただろうか?

 城を追い出されてこのへんをうろうろしていたような記憶があるな。


「――もう敵はおらんのか」

「ああ、それならここをまっすぐ行った先の広場に――」


 さっき意識を探った場所を指差して気づいた。

 まっすぐ行った先の広場……そこは以前、王都が襲撃された時に初めてクーファと出会った場所だった。

 勢いで乱入した俺は暴走するクーファを止めようとして、風を起こして……。


「――どうしたのじゃ稀名よ」

「ああ、あの広場に人の意識がたくさんある。伏兵がいるよ」


 俺は我に返ってクーファに答えた。

 あのときクーファに出会っていなかったらどうしていただろうか。

 あの場にクーファがいたからウルとも再会できたし、みんなとも出会えた。俺の旅はあそこから始まったんだ。

 ずいぶん長いことクーファたちと旅をしていた気がするが、まだ二、三ヶ月くらいしか経っていないんだよな……恐ろしく濃ゆい期間である。


 思い返して感傷に浸っていると、いきなり足元に地中を潜っていたはずのバンナッハがモグラ叩きゲームよろしく顔を出した。


「おうっ? バンナッハ?」

「我が主がいないようだが?」

「ああ、ネミッサなら後ろで兵たちを食い止めてくれている」

「ふむ」


 とバンナッハは背後を見据えてから頷いて、


「直通の通路を作った。まっすぐ進めば言霊のいる場所へ行けるはずだ」


 まるでゼリーでもくり抜くみたいに石畳に落とし穴のような穴を開け、階段状の床を作った。


「少し狭いが、我慢しろ」

「もう見つけたの?」

「ああ、本当にちょうど城の地下あたりの位置だ。魔法師と教団員っぽいのが言霊を守っている。気をつけて進め」

「わかった」

「あと、なんか騎士っぽいのもいたぞ」

「騎士っぽいの? アデルバートさんじゃなくて?」

「いや、違うな」


 アデルバートさんではない? パトリックは俺が持っている。では誰だ? ほかに教団と繋がっていた騎士がいたのか。


「名前は知らん。……が、あっちはお前のことを知っているようだ」

「誰だろう」


 心当たりがないな。そもそも俺は悪い意味で有名人なので知り合いじゃなくても余裕で俺のことを知っているわけだし。まあとにかく進めばわかるだろう。


「ありがとう、バンナッハ。ネミッサがまだ兵たちと交戦している。そっちに応援に行ってあげてくれ」

「そうさせてもらう」


 言うが早いか、バンナッハは再び地面へ潜って姿を消した。


「――広場の伏兵はどうするのじゃ? 放っておけばネミッサが挟み撃ちにされるのではないか?」

「うーん、どうしようか。ネミッサが来るまで待つ?」

「――いや、わしは暴れ足りん」


 白い竜の口から、するどく光る歯が見えた。


「――この穴を勘付かれたら面倒じゃ。陽動が必要じゃと思わんか?」


 いたずらっぽく笑っているように見えるクーファに、俺は苦笑した。こうなったらクーファは聞かないからな。


「私はどうしましょうか」


 ウルは俺に近づいてきて尋ねた。


「――ウルは稀名と一緒にいるのじゃ。わしは大丈夫じゃから稀名を守ってやれい」

「わかりました」


 ウルはよどみなく頷く。


「そんなこと言ってクーファ、一人じゃないと十分に暴れられないからでしょ?」

「――ふひひ」


 俺が横槍を入れると、クーファは口元を釣り上げた。


「まったく……くれぐれもほどほどにね。あんまり暴れられたらせっかく作った地下への通路が崩れそうだ」

「――まかせるのじゃ」


 クーファは銀細工で俺やウルたちそっくりの等身大人形を作り上げた。

 俺が身につけている黒いローブを被せれば、なるほどパッと見ただけでは作り物とは思えない。気休め程度のごまかしだが、それ以上にクーファの遊び心の方が大きいだろう。まったく余裕すぎる。


「油断しないようにね。相手はアデルバートさんと魔法師だろうから」

「――わかっとるのじゃ」


 地下にいないとなると、アデルバートさんが待ち構えているのは広場の可能性が高いだろう。決着をつけるつもりで戦力を投入してくる。

 逆に、クーファにはそんな戦力に一人で太刀打ちしてもらうことになる。

 もちろん戦力的には大丈夫だろうけど、戦略的に大丈夫か? クーファに陽動なんて高度な真似できるかな? そこが心配である。


「――わしより自分の心配をするんじゃな。さっさと行かんか」


 見透かされていた。俺は苦笑して頭をかく。


「ああ、じゃあすぐに言霊を開放して戻ってくるよ」

「――わしが兵を全滅させておぬしらに追いつく方が早いかもしれんな」


 かなりの突貫工事だったようで、穴は人間の大人くらいのサイズしか入れない。大きくなってもらっていた使い魔たちには盟約の印の中に戻ってもらって、俺とウルが穴の中へと進んで行く。

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