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11 幼女がログインしたけど俺はログアウトしたい

 町には、走れば一時間ちょっとで着いた。


「さ、さすがに疲れたな……足痛たっ」


 俺は肩で息をしながら足の裏を見た。赤くなって豆ができたりしている。


 いたわって走ったけれど、さすがに無理があった。


 なにせ裸足だったからね。


 さすがに素足のままはまずいよな……人として。でも召喚されたとき家にいたからしょうがない。


 ……町全体は城壁で囲まれている。

 門は開いてはいるのだが、門前には兵士さんが二人立っていた。


「あ、あのー、すいません」


 細すぎるような声で、俺は門前に立っていた兵士さんに声をかけた。


「……なんだ?」


 兵士さんはいぶかしげな視線を向ける。


「ここスミラスクの町ですか?」

「そうだ」

「あ、ありがとうございます……」


 俺は用件だけ済ますと、微妙な愛想笑いでさささっと引いていった。


 あんな人とどうやったらコミュニケーションとれるのか俺にはわからない。


 今日はいい天気ですねーとかから切り出せばよかったかな。


 変に思われなかっただろうか。すごく不安だ。



 怪しまれないように、流れで町の中へと入っていく。


 入り口を入るとすぐに、男の人の歌声が聞こえてきた。


 声のする方に行ってみると、若い男がリュートみたいな弦楽器を片手に歌を歌っていた。


 そこに町の住人たちが人だかりを作っている。


 吟遊詩人ってやつだろうか。


「大人も子どもも夢中になってるなぁ」


 木製の立て札には文字で何か書かれていたが、俺には意味がわからなかった。


「なんて読むんだろ、あれ……」

「『わるい王さまと七人のけらいたち』と読むのじゃ」

「へえ……」

「昔語りのようじゃな。おぬしの世界じゃああいうのはなかったか?」

「近所の子集めて紙芝居見せるおじさんとかは、俺のいた世界でもいたみたいだけど、そんな感じなのかな……」


 識字率が意外と高いってことは、学校みたいなのはあるんだろうな。


「!?」


 って、世界!? ていうか誰!?


 ばっと声のした方……背後を向いた。


「――ウル?」


 後ろには、すぐさま頭を下げたウルがいた。


「ご主人様、申し訳ありません。ついてきてしまいました」

「それはかまわないけど……」


 ウルは、片目を布で隠していた。


 なるほど、これで呪われた目うんぬんは見た目じゃわからないな。


「でも、さっきの声の主は?」


 俺に話しかけてきたのはウルではない。甲高い、年端もいかない少女の声色だった。


 なんだか狐につままれたような気分だ。


「どこを見ておる。ここじゃ!」


 また聞こえた。


 やや視線を下に向けると、十歳前後くらいの女の子が腕を組んで立っていた。


 腰くらいまで伸びている髪の毛はまっすぐで白くて、肌の色も雪のように白かった。


 いたずらっぽく笑う口元に、大きめの犬歯が見える。


「ちっちゃい女の子がクーファみたいなこと言ってる……? こんにちは。どうしたの? 俺に何か用?」

「姿は人間じゃが、わしじゃぞ稀名」


 ほれ、と幼女は自分の頭を指さして見せてくる。


 指の先には、目立たないが白い角が二本、ちっちゃい獣耳みたいに出ていた。


 俺は目を丸くし口をぱくぱくしながら、隣にいたウルに助け舟を求めた。


 ウルはうなずく。


「確かにクーファ様です。人間になるところを見ましたので……」

「むむ」


 俺はどこからどう見ても幼女のそいつを凝視した。


 これがあのでかい白竜?


「本当にクーファ?」

「ふふん、驚いておるな」


 信じられない……が、俺の常識なんてこの世界にはどこにもないことを思い出す。


 ううむ。これがあのクーファだとは。


 納得できないが、納得するしかないのか。


 いや、やっぱり納得できない。


「……ジジイ何やってるんすか。よりにもよって幼女に変身なんかして、恥ずかしくないの?」


 せっかくなので言ってやると、クーファは顔をしかめた。


「失礼じゃな。わしはもともとメスじゃぞ」

「あ、そうだったの? あんな野太い声だったのに?」


 今は見た目相応の声だけど。


「声だけで判断したならそれは早計すぎじゃ」

「う、確かに……」

「ちなみに数百年生きれば誰だってこうなるんじゃぞ」

「マジで!? 俺も数百年生き延びれば幼女になれるのか! 無理!」

「まあ幼女というより、自らの姿を変えられるようになるんじゃがな」


 そういえば、長く大事に使われたものは魂が宿るって信仰は日本でも聞く。


 ……長く生きた生き物は、こっちの世界じゃ変身能力を手に入れられるらしい。


 普通それまでに死ぬだろって話だけど。


「あー、だからか」

「何がじゃ?」

「なんか何年も生きててすごいから人間に怖がられてるんでしょ?」

「まあな。称えてもよいぞ」


 ぺったんこの胸を張ったクーファは、単なる偉そうな幼女にしか見えなかった。


「実感わかないのでいいです。あ、ここがスミラスクの町みたいだよ」

「ほう? ……あ、ちょっと待っておれ」


 クーファは俺の服の裾をつかんで、自分の頭を俺のお腹にすりつけるようにした。


 この人俺の話聞いてる? スミラスクの町だよここ。


「――何やってるのクーファ?」

「わしの一族はの、親しい仲間や家族を角や鼻で愛撫する習慣があるんじゃ。単なる習性だから気にするでない」


 お辞儀をするような格好で、頭についた小さな角をすりすりしながら言うクーファ。


 硬い角の感触と柔らかい髪の感触が同時にお腹をくすぐる。


「なんかむずがゆい」

「竜の姿だとそのまま圧殺しそうなのでな。この姿でやろうと思ってたのじゃ」

「そうだね、元の姿の時は自重して!」


 ぐりぐりが終わったら面倒なことになる前にドロンしよう。


 きっと『スプリガン』にケンカを売りにいくだろうから、その前に。


 ――いや、後ろを見ると、さっき俺と話していた兵士の人が痙攣して倒れていた。

 すでに暴走は始まっている! まずい。は、早く逃げさせて。


 ……で、いつぐりぐり終わるの?


 ウルもこっちみてじっと待ってるしどうすればいいのこれ。待ってればいいの?

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