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106 王都再襲撃

 今から二百年以上前の話だ。

 強大な魔力を持ったラーガ王による圧政に、民は苦しんでいた。

 家臣の一人であったエールはこれに不満を持ったのかチャンスと思ったのか、魔法師マホツシを味方につけ民と共に蜂起した。

 そこに言霊コトダマがいたかどうかは定かではないが、力を貸してくれていたのは確かである。 

 ほかの従順な六人の家臣は忠義を貫きたかったのか甘い汁を吸いたかったのか王の側についた。

 王に尽くす家臣たちか、民を愛する家臣か。結果的に軍配は後者のエールに上がった。

 エールは家臣たちやラーガ王を討ち、新たに国を作って革命を完遂した。

 と、ここまでが昔語りで有名な話だ。


 建国して間もなく、エールは魔法師の力を奪うために行動を起こした。

 それは思うに、魔法師の力を再び革命の戦力にさせないためだったのかもしれない。

 エール王は力を貸していたはずの言霊を裏切り、精霊兵器に封じ込め、強力な魔法から国を守るための結界を作り上げた。結界の力は社を立てることで安定化させた。

 そして魔法師に関する資料を処分させ、社には誰も近づけないようにした。


 しかし言霊は完全には封じられていなかった。

 魔力の強い者やある一定の条件下を満たすことができた者は、不安定ながらも言霊の力を使うことができた。

 そして革命の際に民たちにも魔法師の力を与えたせいか、魔法師の資料を完全に抹消することもできなかった。

 だがそれでもほとんどの者が言霊を使えなくなり、魔法師の力は衰退していく。国外にまでなると、言霊の力はほとんど及ばなくなり、魔法師の力は絶えてしまった。

 しかし一部の魔法師は現状をよしとせず力を保持しようと寄せ集まり、ラーガ王の時代をもう一度取り戻すため、かつての王をイコンに添えて教団を立ち上げる。

 そうやってくすぶり続けていた革命の火は、雷侯ことパトリック・ラザフォードの計画によって篝火かがりびとなり、ついに業火のごとく勢いよく燃え上がった。

 そしてなぜかその業火は俺の方にも延焼した。

 俺が雷侯ってことになり、全ての事態の責任が俺になすり付けられそうになっている。


 経緯を整理してみたが、この流れで王都を攻めたらそれこそもうアデルバートさんの思うつぼなんだろう。

 それでも、言霊を開放できれば俺たちの目的は達成できる。

 その後の事も少しは考えている。

 だから今は、王都を攻める。


「王都は魔法師の霊符で守られているようです。『門』を王都の中に開くことはできません」


 霊符と魔法陣を前にして、ネミッサは難しい顔でうなった。


 俺たちは王都に比較的近い位置で、バディの襲撃によって廃墟となった村に潜んで作戦を立てていた。

 やしろを壊して間もなくである。空には夕焼けが広がっている。


 相手の動向を窺おうとしたが、少々難航しそうだ。

 魔法師の魔法はとりわけ守ることに重点が置かれている。攻撃するには精霊の力を借りたりすることが多い。

 守りは堅く、目的地の王城まで一足飛びでというわけにはいかなさそうだ。


「さすがに城まで一気にってわけにはいかないね。『門』でどれくらい接近できる?」

「ごく近くまでは。――でも」


 ネミッサが魔法陣を描きなおして『門』を開ける。

 今度は空間に小さな穴が開き、その先の光景を見ることができたが――


「ぎりぎり近づける位置に、ちょうど兵たちが陣を張っています」


 上空に『門』を開き、俺たちはその光景を鳥瞰する。

 王都にほど近い平原に、兵たちは陣を張っていた。

 そこにアデルバートさんらしき人物も確認できる。

 彼のパイプで、まんまと王国軍を味方につけたらしい。


「あの数……二十万は下らないぞ」


 隊長さんが集結する王国軍を見て眉間にしわを寄せた。

 生き残った人たちは王都へと集まっていた。そういう関係もあるのだろう。兵たちのほかに、戦えそうな人たちを片っ端から集めたような感じだ。


「やる気満々だなあ。あれみんな俺たちにぶつけるつもりなのか」

「もしくはバディの迎撃用でしょうか」


 どちらにしても、これから王都を襲撃しようっていうんだから彼らの行動はきわめて正しいといえる。


「あの軍をどう突破して王都へ入るのじゃ。叩き潰すか?」

「……位置がわかっているなら、迂回して見つからず行くわけにはいきませんか?」


 クーファとウルはそれぞれ意見を言った。


「何か工作をするなら、私とレルミットが引き受けよう」

「えー、私も?」


 隊長さんが言ったが、レルミットは面倒そうだ。


「さて、どう攻めようかな……」


 迂回することも、正面から突破することも、やろうと思えばできるだろう。

 問題は――このまま普通に王都を襲撃してしまうのか、どうなのかということだ。

 兵たちを蹴散らし蹂躙しながら進んだらそれこそ反逆者だけれど。


 ウルの言う通り、コソコソ行くのが無難だろうか。


「……でも、もう逃げるのはたくさんだ」


 そもそも、どうして俺たちがこっそりひっそりしなければならないんだ?

 王都を守る兵たちに、俺たちが配慮する必要なんてあるだろうか?


 正面から堂々と、しかしやりすぎないような攻め方――夕焼け空を眺めながら考えていると、ひとつ、ピンとくるものがあった。

 この戦力を最大限活用し、できる限り犠牲者を出さずに、しかし正面から突破し、なおかつ俺の指名手配犯という印象を変えられるかもしれない攻め方。

 いっぺんにできそうな策が、ひとつだけ思い浮かんだ。


「……なるほど、日も暮れかけているけれど、これくらいの時間がちょうどいいな。すぐに動けそう?」

「私たちは楽に社を破壊できたので、たぶん稀名さん以外は疲れてはいないと思いますが……ちょうどいい?」


 ネミッサが首をかしげる。

 そう、ちょうどいい時間だ。

 今は昼から夜に変わる時間――逢魔が時。


「俺を先頭にして、みんなで列を作りながら陣のど真ん中をゆっくり歩いて通り抜ける。……というのはどうかな?」


 最善策が『歩く』……俺の発言を聞いて、みんなは声を失いきょとんとした。


「コルが魔法で霧なんか出してくれると雰囲気出るかな。クーファも銀細工で化け物や兵士をたくさんつくってもらって、バラムもそのへんの狂暴そうな獣をありったけ連れてきて……で、そのままみんなで王都を練り歩く」

「くっ、ははははっ、おもしろい! やはりおぬしはおもしろいのじゃ!」


 クーファが何か察したらしく、腹を抱えて笑った。


「どういうことよ? ただ歩くだけなの?」


 チェルトは腕組みしながら怪訝な顔をする。


「最低限の防衛はする。けど、できるだけこちらから攻撃はしない。大事なのは、この戦力をすべて晒しながら行くことだ」


 はじめに白竜クーファが王都を襲撃した時でも、人々は恐れおののいていたはずだ。

 かかわりがあまりなくなったとはいえ、強大な精霊に対して、人々にはまだ怖れが残っていることがうかがえる。

 俺やウルやネミッサの使い魔たちが雁首そろえて出てくれば、その恐怖はいかほどだろう。

 しかも俺がそれを全て率いているように見えたなら。


「恐怖で威圧し、神無月稀名という戦力をわからせる。どう転んでも、どう兵力をつぎ込んでも、捕まえられないってことを理解してもらう」


 とにかく俺の存在を得体の知れない別次元の強さを持つ何かだと思わせる。

 そして指名手配犯の俺が堂々と王都に入って、そして誰にも捕まらずに出ていく。

 なんて事態が起こったら、しかも国が総力をあげてもそれを止められなかったら、指名手配の意味だって曖昧になってしまうだろう。


「稀名のいたところじゃ、そういう戦い方もあるの?」


 とチェルトは俺に訊く。


「戦い方じゃなくて、信仰に近いかな」


 俺はどう言っていいか迷いながら、苦笑混じりに答える。


「信仰?」

「そう。古今東西大勢の化け物が、列をなして闊歩する――」


 俺のいた世界だと、それはあくまで想像上のものでしかなかったのかもしれない。でもきっと当時・・の人々にとっては、それは災厄の具現化みたいなものだったんだろう。

 だからこそ、同じような文化レベルのこの世界の人たちにも、恐怖を印象付けられると思った。


「化け物の群れ?」

「言い方はちょっと違う」


 がんばって理解しようとしているチェルトの頭をぽんぽんと撫でてから、俺は皆を見返した。


「『百鬼夜行』――俺たちの世界では、そう呼んでいる」


 幸いなことに、こちら側には化け物じみた精霊がたくさんついてくれている。

 百鬼夜行異世界風味……さぞかし迫力のある行進ができることだろう。

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