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1 この中に一人勇者じゃないやつがいる

 突然真っ白い光に包まれたと思ったら、俺は城の中っぽい石造りの部屋の中にいた。


 十畳ほどの部屋だろうか、そこはかとなく豪奢な絨毯に、壁には燭台がかかっている。壁には本棚があって、古めかしい本が並ぶ。


 寝ながらゲームしてたはずなんだけど、なにこれ。


 しかも周囲には物々しい鎧を着たお兄さん~おじさんくらいの人たち数人。

 中世ヨーロッパから来ました、騎士です! って感じの人らだ。


「な、なんだこれ!?」

「俺は、家で飯食ってたはずだけど?」


 俺と同じように戸惑っている現代人が四人。

 男が三人、女が一人だ。


 でもゲームのコントローラー持って横になってるのは俺だけだった。さすがにな。

 ワイヤレスのコントローラーでよかった。壊れてない。


 床にはなんか魔術で使いそうな魔法陣っぽい石板が、ほのかな光を放っていた。


「騎士団長、勇者と思しき者を五名召喚できました」


 近くにいた騎士が言った。

 勇者?

 勇者って言った?


「うむ。どうやら召喚はうまくいったようだ。なにせ数百年に一度発動できるかどうかの代物で不安だったがな」


 騎士団長と言われた髭の生えたおじさんは満足そうにうなずいた。


「ようこそ我が国ビルザールへお越しくださいました。心から歓迎いたします」


 この人たちが俺たちを召喚したらしい。

 なんか漫画とかラノベみたいな話だ。


「ふざけるな! 誘拐だぞこれ!」


 短髪の男が怒鳴った。

 それな。

 俺もそう思う。


 同じく召喚されたらしいスーツを着た痩せた男は、萎縮しながらあたりを見回す。

 難しい顔でいる三十代くらいの男の人に、平然そうな若い女の人。


 多かれ少なかれ、みんな短髪の男のように相手を警戒している。

 でも相手は武器を持っていたりするし、あまり強気に出られない……そんな感じだ。


「驚くのも無理はない。ちなみにここはあなたがたのいる世界とは違う世界です。帰る方法はありません」

「なんだって!?」

「ですがあなたがたには、勇者の素質があります。できれば我々にその力を貸していただけないでしょうか」

「素質ってなんだよ?」

「剣をイメージしてください。あなたがたには、特別な剣を扱える力があるのです」


 いや俺そんな力ないけど。

 だってニートだよ?


 半信半疑になりながらイメージすると、小太刀のような片刃の剣が浮かんでくる。


「うわ、ほんとだ……」


 俺の手には、イメージしたままの剣が握られていた。


 鞘に納まった、短めの細身の剣だった。


 ほかの人も同様だったみたいだ。

 短髪の男は同じく鞘に納まった巨大な剣を持っていた。しかも全然重そうじゃない。


「剣を持っている間は、身体能力も上がります。さらにその剣には、各々特別な力が宿っているはずです」

「勇者になれば何かあるのか?」

「現在、我々は襲ってくる魔王軍の脅威にさらされています。魔王を討つために世界中を動いてもらう代わりに、魔王を討ったあかつきには褒賞も、富も、名声も、権力も、何もかもが手に入ります」

「へえ」

「もちろん、旅の資金はこちらで工面しますし、必要なものは言っていただければ可能な限り用意します」

「いいじゃねえか。そういうのも悪くねえ」


 短髪の男は笑った。


 俺はようやく起き上がって、小太刀を抜いた。

 瞬間、刀身から風が吹き荒れる。


「おお……すげえ」


 ちょっとテンション上がった。


 確かに、どうせ帰れないなら勇者になってもいいな。

 あっちの世界じゃニートで家族に煙たがられてたし、友達もいなかったし。


「この風に吹かれていると、なんだか安心するな」

「ああ」


 扉に立っていた衛兵っぽい二人は和やかになっている。

 うん、俺も眠くなってきた。


 あれ? でもこれだけ?


 人をリラックスさせるような風を吹かせてるだけだけど。


 剣の力って、ものすごい攻撃を繰り出せるような、そんなすさまじいやつじゃないの?

 これもしかして攻撃力ゼロじゃない?


 俺は小太刀を鞘にしまうと、同時に風もやんだ。

 必要ないと考えると、小太刀も消え失せる。


「……? そこの人、お名前は?」

神無月稀名かんなづきまれな

「剣の力は風を吹かせるだけですかな?」

「そうみたいですけど」

「…………」


 なんか騎士団長さんの顔がきょとんとなっている。

 しかもなんか近くにいた騎士さんを集めて、相談ごとを始めてしまった。


 ちょっと感じ悪い。


「お前外れだったんじゃねえか?」


 短髪の男が俺を馬鹿にしたように言う。


「戦力外ってやつだ。よかったな、日本に戻されるかもしれないぞ。俺もできればそうなりたいよ」


 三十歳くらいの男が俺に言う。いや、帰る方法ないって言われたばっかりじゃないか。

 若い女のひとはこちらを一瞥しただけだった。


 やがて相談を終えた騎士団長が俺に言う。


「時々あるらしいのです。あなたのような勇者でない者が、召喚に紛れてしまうことが」


 えっ。


「正確には勇者たる素質のない者です。勇者の方々にはこのあと国王に謁見してもらう運びとなっているのですが――」


 俺素質ないの?


「そのような者は、王に謁見させることができない。――この方を城の外までお連れしろ。丁重にな」

「えっ!? ちょっ! ええー!?」


 つまり必要ないってこと!?


 俺は衛兵たちに引きずられながら、城を追い出される運びになった。


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