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落書き

作者: 氷室柚香
掲載日:2016/01/20

フィクションです。

試験中に、何気なくみた机の端には一言、落書きが残っていた。

「あなたは本当にこの学校で後悔しないのか?」

なぜ消されていないのかと不思議に思いながら消しゴムで消した。

こんなことで不正行為を疑われるのはまっぴらごめんだ。

しかし、油性ペンかなにかで書いてあるのだろうか、なかなか消えない。

途中で諦め、問題を解くことに集中した。



今日は調子がよく、問題がサクサク進む。

落書きの他には何事もなく午前の教科が終わり、残りは午後の2教科となった。

昼は持ってきた弁当を食べた。

すると、急にあの落書きのことが気になりだした。

「自分は...どうしてこの学校に決めたのだろうか。」

最初は特に考えていなかった。

ただ、普通が嫌でこの学校を志願校に決めた。

人から話を聞いたり、調べていくうちに、校則が緩いと知った。

携帯に対してでさえ特に規則もなく、授業中に使用しない限り罰則もない。

こんなに条件のよい学校などないのではないか、と思った。

オープンキャンパスへ行ったときには交通の便が悪いと思った。

なぜなら丘の上だったからだ。

それでも、自由さへの憧れが衰えることはなかった。

第一志望校をその学校と決め、受験のために勉強の量を増やした。

去年まで、自分は常に学年30位以内に入る成績優秀者だった。

春はそれもあってあまり勉強をしなかった。

そうしたら、夏休み前の試験で成績がいきなり落ちた。

やばいと思って、夏休みには塾に通い、次の試験ではそれなりの順位で落ち着いた。

秋が過ぎ、受験シーズンとなった。

初めてその学校の過去の問題を解き、愕然とした。

結果は、散々たるものだった。

それでも、自由に憧れ、普通が嫌で、がむしゃらに頑張った。

..そのおかげもあったのか、午前中は上手くいった。

ただ、今、疑問が急速に大きくなった。

どうして、この学校に決めたのだろうか。

なぜ、この学校を選んだのだろうか。

なにゆえに...自分はここにいるのだろうか。

そんなことを考えているうちに、昼の時間が終わった。

一つも復習していないことを後悔した。

それでも大丈夫だと自分に言い聞かせた。



ーー午後は、落書きに気を取られながらも、なんとか終わらせることができた。

自分の全てをぶつけたはずなのに、気分はちっとも晴れやかではなかった。



電車に揺られながら、ひたすら自問し続けた。

「あなたは本当にこの学校で後悔しないのか?」

答えの出ぬまま、時間は過ぎ、合格者発表かあったのを見に行った。


番号は、なかった。


自分の全てを否定された気分だった。

自分の足元に穴が開き、その底の見えない穴の中に落ちていくような気分だった。

なんだか、全てがどうでもよくなった。

あのとき、見栄を張らず、勉強すればよかったのだろうか。

それとも、あのときあの落書きを、見つけなければよかったのだろうか。

受験票を握りしめ、帰路についた。

合格者発表を見るために来たその学校には、まだ早い、桜の花が咲いていた。



学校に顔を出す気にならず、家に帰ると、自分宛に郵便が届いていた。

送り主は、さっきまでいた、あの学校だった。

嫌みかと思って封を切ると、そこには合格通知が入っていた。

絶叫した。

なんの冗談かと思った。

なんども、なんども見返して、ようやく本物だと理解した。

そして、疑問を持った。

どうして、番号が書いていなかったのだろうか。

合格通知の番号に見覚えがなかった。

もしかして...と思い、握りしめてしまった受験票の番号を見ると、合格通知と同じ番号だった。

自分が覚えていた番号がどうも間違っていたみたいだ。

それがなんにせよ、合格したことがうれしくて、嬉しくて、落書きのことなど頭から消えていた。



それから2年の月日が過ぎた。

留年の危機にさらされ、時期外れの桜の花を見て、あの落書きのことを思い出した。

あのとき、この学校に入学しなければ、こんなことにはならなかったのだろうか。


「あなたは本当にこの学校で後悔しないのか?」

「...さて、どうだろうね。」


いまだに答えは見つからない。

一足早く咲いた時期外れの桜の花が、風に煽られ、散っていった。



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