後編
「心無いブリキ ~セツナイ紙飛行機~」後編
桜 薫
今日の生徒会室。新学期、入学式から始まって~夏休みへと向かうこの時期
は、大量の仕事が溜まっている。書類の量を見るだけで嫌気がさしてしまいそ
うだが、役員一人一人のスペックの高さを考えると対して時間は掛らないだろ
う。俺もパソコン使って良いみたいだし。
「本当に君は三倍働けるんだね」
「昔からそうだけど本当に凄い情報処理能力よね。会長もそうだけどテストで
満点なのも頷けるわ」
俺は大した事をしてるつもりは無いのだが、二人からすると凄いみたいだ
な。でも……
「セツナには劣るぞ。アレたぶん俺のハイスペック版だからな」
「僕から見ればどっちも凄いけどね」
「アンタに褒められると嫌味みたいでムカツクんだけど」
「雪那も同じ事をしながら同じ事を言っていたよ」
「御馳走様。それでその生徒会長様は今どこに居るんだ? 普通三倍仕事早い
からって、三倍仕事を与えるか? 最近、っていうか、皆で智也ん家泊まって
から、セツナなんか俺に冷たいんだけど」
「彼女は僕にも相変わらずあんなだからね」
「お腹いっぱいっつってんだろーが。アンタはアレから惚気増えたよな」
腹立つからコイツと話すのはもうやめよう。
「静ー。俺あの時なんかしたか?」
「知らないわよ。皆して、会長、会長って、私此処に居場所無いわ」
「……そう言えば何で静書記なんだ?」
「それも知らないけど、どうして? 何でも良かったんじゃ無いかしら? あ
の会長だし」
「会計不在で? 書記より会計の方が必要じゃないか?」
特にあのセツナなら……寧ろ書記なんて――
「遅れてしまったな。皆仕事は進んでいるか? ナナミは随分仕事が早いな。
ではこれもお前に頼むか」
どこで何をしていたか知らないが、イキナリ現れてどこから持ってきたか分
らない仕事を大量に押しつけてきた。
「……」
「どうした? 早くしないと終わらないぞ」
挑発的な笑みを浮かべながら嬉しそうに言うセツナ。怒ってるのか? それ
とも……それとも単純に俺に飽きたか?
「お前本当に俺のこと嫌いだよな?」
「可笑しな事を聞くんだな。最初に会った時に言ったはずだが? 私はお前が
大嫌いだと」
どうやら後者みたいだな。
「そっか……」
「会長?」
「雪那? どうしたんだい?」
二人はなにやら心配そうにセツナを伺っているみたいだが、俺には関係無
い。与えられた仕事を終わらすだけだ。
「何か言いたい事があるのなら言ったらどうだ?」
「……別に」
「む……有るだろう? 私に言いたい事が!」
「分かった。とりあえずアンタに貰った仕事片付けるから出来れば話しかけな
いで」
その後俺は、久しぶりに本気を出して、普通の人なら数時間掛る作業を数分
で片付けると席を立った。その間誰一人喋らない沈黙だったのは気にもならな
かった。
「それで、私に言う事は?」
「だからアンタには無いって。静ー、ネクタイ無くしたから明日新しいの頂
戴」
それだけ伝えると、俺は黒のネクタイを置いて生徒会室を出た。
「えっ、ちょっと、まっ」
「何があったか知らないけど、さすがに今のはマズかったんじゃないかい?」
「意外ねあの子、会長には結構懐いてと思ってたんだけど」
「ど、どうしよう。こんなつもりじゃなかったんだ。そもそも私はそれほど怒
ってない。只、ちょっと困らせたかったというか、気を引きたかったと言う
か」
「そんなに狼狽える君は久しぶりだね。違う意味でも大丈夫かい?」
「そっちの意味でもこっちの意味で大丈夫じゃない」
「とりあえず落ち着こうか。そもそも一体何が原因なんだい?」
「……原因って言うか、アイツそんなに悪くない」
「はぁ……もしも君が彼に戻って来て欲しいなら今すぐ追いかけるべきだと思
うけど」
「それたぶん意味無いと思いますよ。あの子今、完全に拒絶してたから。普段
なら他人と自分から関わらないって感じですけど、今は会長に対してバリア張
っている感じですよ」
「うっ。大丈夫たぶん。私も人嫌いだから、その絶対拒絶領域使えるから、中
和しして中に入れるはず。たぶん」
「仮に戻って来たとしても、与えられた仕事をこなすだけの機械みたいになっ
てると思いますよ?」
「とりあえず、行ってくる。居る場所はシックスナインで予想つくし。……も
し失敗したら静手伝ってね? 後、美鈴にも頼もう。とりあえず行ってくる」
「あんな会長初めて見たわ。しかも軽く涙目で私に頼むなんて」
「実は元々繊細だよ。パニックにならなかったのは、まだ希望があったからか
な。昔から患っているからね」
「まぁ私もあの子が居なくなったら、なる自信有りますけど……知ってます?
実はあの子もなんですよ」
「それは初耳だよ。意外だね。彼は打たれ強いと言うか、切り替えが早いと言
うか、無関心で居れるのかと思っていたよ」
「先輩はあの子の事を過大評価し過ぎです。たぶんあの子は凄く弱い」
「ソレは僕が皆に言いたいよ。僕は決して特別な人間なんかじゃないんだか
ら。どうも僕はスーパーマンかなにか勘違いされがちだ」
「フフッそうですね。先輩此処、居心地良いですよね。お互い傷を舐め合っ
て、治療なんかせずに痛み止めだけを塗っている。そんなぬるま湯みたいな心
地よさ」
「そうだね。外から見たらソレは滑稽で愚かなのかもしれなけどね。とりあえ
ずは彼がどうなるか見守ろうか」
「実は私、全然心配してないんですけどね」
生徒会室を出た俺は、例の如く屋上へと来ていた。別に悲しくなんか無いん
だからね。いや、ホントに。ツンデレとかじゃなく。悲しくなんか無い……は
ずなんだけどな。解ってたはずなのに、慣れてるはずなんだけどな。まぁいい
や今日はコレ飛ばしてもう帰ろう。俺に与えられた仕事の中にあって処理しな
かった物。東条七海の今期生徒会入りの申請書類……今となっては只の紙切れ
となった物を飛行機に作り替える。そしていつもの様にいつか落ちると解って
いながら――飛ぶのでは無く、只落ちるのが見たくて紙飛行機を飛ばす。
「だから、紙飛行機は、飛ばすと、幸せ、も、飛んでいくから、飛ばすなと言
っているだろうが!」
飛ばせなかった。体力無いくせに走って来たのだろうか? 息を切らしなが
ら叫んでる。さて、気を取り直して飛ばすとしよう。
「待て。なぜ無視をして飛ばそうとする?」
「俺に言ってると思わなくて」
飛ばせなかった。たぶん俺に話しかけながら近づく人のせいで。
「お前以外居ないだろうが!そもそもココは私とお前しか知らないだろう」
「意外だな俺しか知らないと思っていた」
「むー、頑張れ私! 紙飛行機を飛ばすと一緒に幸せも飛んでいくぞ」
「前にも誰かに言われた気がするが、生憎最初から飛ばすほど持ってないんで
ね」
「だから飛ばそうとするな。いいからソレ寄越せ」
紙飛行機を奪われた。折角折ったのに開かれてしまう。そして……数秒のフ
リーズ後、思いっきりビンタされた。
「私は謝らないからな。これは折れてしまう……私でもさすがに泣いちゃいそ
うだ」
「別に謝らなくていいけど……もう泣いてるじゃん」
両目に涙を溜ながら睨まれる。そんな顔されたら俺も折れそうなんだけど。
「泣かされた。謝れ」
「ゴメン」
「何に?」
「謝れって言われたから」
もう一発ビンタされた。
「お前は本っっっっっっっっっっっっっっっ当に女心が分からん奴だな」
「残念ながら教えられなかったものでね」
「お前なんか嫌いだ」
「知ってる。だからいちいち絡まなきゃいいのに」
三発目。
「お前私の事嫌いか? その、本気で」
「なんでいつもみたいにコークスクリューじゃなくてビンタなの?」
「今日のお前は笑えない。泣いちゃう。意地悪だ。……話変えたのは肯定?
否定?」
なんて顔で見てくんだよ。て言うか、やっぱ逃がしてくれないのね。
「不安な顔なんて出来るほど器用だったんだな。アンタ」
「逆だよ。私はホントは全部が不安で人にすがる事しか出来ないんだ。……だ
からどっち?」
逃がせよ。マジで。終わりにしてくれ。俺は負け戦を楽しむ程粋狂じゃない
んだ。
「……先ずさ、何に怒ってるわけ?」
「コレに決まってるだろう! コレは完全に拒絶だろう。 私の側に居たくな
いんだろう?」
「ソレは今だろう? そもそも最近機嫌悪かったじゃんか?」
「それは……笑わない?」
だからお前のキャラでしおらしくなる成るのとか、弱々しく成るのとかやめ
ろって。反則だから。
「教えろよ。悪いなら謝るから」
「私だってお前といっぱい話したかった……」
「は?」
コイツ今消え入りそうな声でなんて言った?
「だから私もお前と話しがしたかったんだ! 聞けば皆お前とは古い付き合い
で、日が浅いのは、私と俊幸だけじゃ無いか! なのにお前は俊幸とはあんな
に濃くて、深くい話をしたのに、私とは早急に切り上げた。て言うか常識的に
考えて女の子に薬盛るってどうゆう神経してんだよ!」
気が済みましたか? て言うか聞いてたのかよ。そしてごめんなさい。
「キャラ崩壊やめろって。それともお前実は凄いかわいいキャラだったの
か?」
「えっ私かわいいか?」
「照れるな。俺とお前の初期設定は超ダウナーだぞ」
「そんな物洗濯機の中に入れてしまえ」
「……」
「話を戻すか、いや、やっぱりやめよう。俺も崩壊しそうだ」
「とりあえず呼び方を戻せ」
「呼び方?」
「さっきから名前読んでくれなくなった。アンタって呼ばれるのキツイ。泣い
ちゃいそうだ」
「気づかなかった。そうかじゃあ本気でアンタの事拒絶してたんだな」
「ほらまた。て言うか無意識!? もう泣いちゃいそうだ」
「それ、止めろ。俺もお前の呼び方を元に戻す。だからお前はキャラを戻せ。
OK?」
「ダー」
「よし、じゃあこれで解決だな。よし解散」
「待て! 呼べよ名前」
帰ろうとした所で肩をガッチリ掴まれる。俺この人相手にするとエスケープ
の成功率が著しく下がる気がするんだけど。
「改まると難しい。様も無いのに呼ぶのはな」
「じゃあ「好きだよ。セツナ」でよろしく頼む」
キャラ戻ってねぇじゃねぇか。
「スキダヨセツナ」
今日初のコークスクリューを喰らった。
「心がこもってない」
「お前が言えって言ったんだろ。第一今冗談でもそれらしく言ったらコークス
クリューじゃなくて、ビンタだっただろうが」
「まぁ許してやろう。じゃ、じゃあ「静よりセツナの方が好きだよ」で」
「ま、待って、今のは私が悪かった。ゴメン」
無言で立ち去ろうとした俺の制服の裾を掴まれた。今のは本気で帰ろうとし
たぞ。
「もう何も言わなくていいから、もう少し側に居てくれ」
「分かったから、いい加減キャラ直せ」
「ん。今作るから胸貸して」
「成る程。いつもこうやってあの旦那にして貰ってるのね」
沈黙。初めて否定しなかったな。だから俺に絡むなってのに。全くもってお
もしろくない。
「あんまくっつくと匂いでバレて、静に殺されるんだけど」
「やっぱりシズカの方が好きなのか?」
ジト目で見られても、今のはそっちが悪いでしょうよ。
「なぁ実は私の甘い勘違いで、二人は好き合っていて、すでに付き合って居る
のか?」
「あーそれは無いよ。この先も絶対。只の俺の一方通行の片思い」
「お前は好きなんじゃ無いか……いや、何故そう言い切れる? お前が鈍感だ
から気づいてないだけで、シズカは誰が見てもお前に気があるぞ」
そうかもね。周りから見れば相思相愛なのかもな。でも――
「静はさ、『俺』を見てないんだよ」
「お前は何を言っている?」
「静はさ『俺』を見てないんだよ。どころか『俺』を知らない。憶えてない
よ」
「別に訳の分からんことを言って誤魔化さなくても、正直に言えばいいだろ
う」
「黒川静は『東条七海』という人間に出会って無いんだよ」
「もういいよ言いたくないなら」
「今度機会があったら教えるよ。今は訳が分からないだろうけどね」
「ああ……」
さすがに不信がってるな。でもたぶん今は無理だと思うよ。きっと凄い乱れ
てる。
「読めないだろ? 諦めろ今度ちゃんと話す」
「えっ? お前まさか」
「今日はもう帰っていいか? さすがにお前と静二人は重い。二人には謝って
おいてくれ」
「ああ。悪かったな。大丈夫か?」
「明日には戻ってるさ。お前もキャラ戻しておけ」
俺は出来るだけ通常を装い屋上を後にした。さすがに今日は辛い。美鈴の所
に行くか? いや、独りの方がいいな。一度リセットしよう。今日はもうダメ
だ。
何が起こった? 僕、大神智也は今衝撃の事実を目の当たりにしている。そ
れはきっと、は○れメタルと百回連続エンカウントする事よりレアな現象だろ
う。いやきっと今日の天気は晴れのち、はぐ○メタルに違いない。なぜなら僕
の古くからの――家族と言っても差し支えない友人、東条七海がHRで次の学校
行事でのクラスの出し物について話して会っているのだ。しかもクラスメイト
の中心になって。そもそも今はLHRじゃなくて数学の授業だ。今の摩訶不思議
な状況を少し整理をするために数分前に遡って考えてみようと思う。
今日もそれが当然である事の様に、僕の後ろの席の七海は当たり前の様に寝
ている。 先生方も彼の学力と質の悪さを知っているため、関わろうとしな
い。せいぜい美鈴ねぇぐらいの物だろう。触らぬ神に祟りなしだ。唯一七海を
操縦できる美鈴ねぇの授業は化学とこのクラスの担任であるからLHR。今日の
時間割には入ってないので、今日はもう一日寝っぱなしだろう。例え元ヤンで
有名で、今日もバッチリ時代遅れのリーゼントを極め、サングラスと木刀がデ
フォルトの数学教師であったとしても。まぁ他の生徒は知らないけど、僕も美
鈴ねぇ方が百倍怖い。
この元ヤン教師も普段は七海に関わったりしないのだが、今日は自分の授業
を勝手に潰して今週ある新入生歓迎会について話し合うようだ。その為に今七
海を起こしている。
「起きろ東条! オイ起きろってコラ!」
まぁ普通の起こし方で彼が起きる訳は無い。このクラスで七海を起こせるの
は美鈴ねぇを除くと茜が起こせるかどうかと言ったところだろうか?
「おい大神、お前コイツの起こせねぇのか?」
「起こした後どうなってもいいなら」
「かまわねぇから。起こしてくれや」
「じゃあ先生その木刀貸してくれますか? 起きた時暴れられると嫌なんで護
身用です」
「おう。間違っても人殴るんじゃねぇぞ」
「分かってますよ。これでも剣道部ですから。普通の人相手にそんな事しませ
んよ」
先生から木刀を受け取るとクラス中の視線が集まっていた。皆あの東条七海
をどう起こすのか気になるのだろう。
「普通に起こすだけだから、面白い事なんて無いよ。皆は話し合いを続けて
て」
そう言っても、クラスは興味津々といった感じだ。只一人僕の隣の席の茜は
かなり遠くへと避難していた。
「仕方無いな」
僕は皆の期待の眼差しを一身に受け、手にした木刀を思いっきり振り下ろし
た。
『殴らないって言ったじゃん!』
「普通の人はね」
「いてぇ」
皆から一斉の問いかけに答えてる間に七海がゆっくり起きる。
「頭痛いんだけど。二日酔い?」
「気のせいだろ。それより先生が起きろってさ。ね、先生?」
ソッコーで話しをそらす。コレ基本。
「お、おう。今日は数学じゃなくてHRだ。俺も数学なんざやらなくったったて
いいと思うけどな、HRは別だ。クラスのダチ公ども一緒になって一つの事をす
るなんざ一番の勉強さ。だからお前も参加しろ」
さすが星佳さんの学校である。基本サラリーマン教師のような人は居なく、
良い先生ばかりだ。
「うるせーよフランスパン。今更ヤンキー教師なんてやったって、遅えんだ
よ。せめて貞子やれるような美人連れてこい」
「噛み付きたくなるのは分かるさ。俺も昔は札付きのワルでよう……」
勝手に語り出した先生をよそに皆は話し合いを始め出す。
「つーか新入生歓迎会なら俺等関係ねぇじゃん。歓迎される方だろ? それと
もこっちもなんかやらなきゃいけねぇのか?」
「いや、過去の歓迎会でも一年生が何かをした記録は無いみたいだね。調べて
おけよお前、生徒会だろ?」
「なら関係ねぇじゃん。どっちにしろ出ねぇけど。……じゃあとっとと斬られ
ろ!」
例の如くどこから取り出した分からないチェーンソーで斬りかかってくる。
当然僕は、殴ったときからソレを警戒していたので余裕で躱す。
「イキナリ何をするんだ?」
「お前俺ぶん殴ったろ」
「言いがかりだよ」
「避けたのがその証拠だ」
「……」
「……」
「バレたなら殺すまでだ!」
「開き直りかよ! 上等だ」
「皆、ほら二人は気にしないで、話し合おう、ね」
周りでは、僕達に引き気味――というか恐れ気味のクラスメート達を茜がま
とめ居るようだ。よし僕はこっちの理不尽に暴れる猛獣に集中しよう。
「藤崎さん凄いね。あんな二人と幼馴染みなんて」
「普段は二人とも普通だよ。ホントだよ。そ、それより話し合い、話し合い」
「俺は昔、何もかもが嫌いでむしゃくしゃしててな。そりゃあ暴れたもんよ」
「でも新入生歓迎会って、生徒会を中心に上級生が何かしてくれるんでし
ょ?」
「噂では副会長が何か考えてあるらしいよ。そう言えば副会長ってカッコいい
よね」
「あっ分かる。この前、私プリント落としたとき拾うの手伝って貰っちゃっ
た」
「彼女とか居るのかな?」
「分かんないけど、生徒会長と付き合ってるって噂らしいよ」
「あっそれ、ヤバ」
「ちょっと待て!」
急に矛を収める七海。女子達の会話の中に会長と聞いて反応したか?
「オイアンタ、それホントか?」
「ひっ」
可哀想におびえちゃって。
「ちょっと七海待って! この子は噂を聞いただけで、ホントは付き合ってな
いかもよ?」
「そっちじゃねぇよ。そんなんはどうでも良い。それよりその前の前の前のモ
ブ子。それホントか?」
「わ、私? えっとなにが?」
この子も怯えちゃってるよ。可哀想に。
「智也、通訳」
「やれやれしょうが無いな。えっと少しいいかな?」
「は、はいなんでしょうか? 大神さん」
アレ? 若干僕も怯えられてない? なんで? この子はたしか君付けで呼
んでくれてたはず。
「お前のせいで僕まで引かれてるじゃないか!」
「コレは智也の自業自得だと思うよ。後七海モブ子って」
「とりあえず、茜、通訳」
「クラスメートなんだから自分で話しなさい」
「うっ……」
僕今日なんかしたか? 心無しかクラス全体の好感度が下がっている気がす
る。
「……えっと、あのお嬢さん? 貴方が言った事は本当か? でしょうか?」
「何語よそれ? お嬢さんって、クラスの子の名前がぐらい憶えてなさいよ」
「えっと何のこと、かな?」
「あのボンクラ木偶の坊が今回の主催って話」
「ボンクラ……?」
「市川先輩……副会長のことよ。この子は嫉妬してるからしょうがないの」
「してねぇよ。……つーかそれでセツナと喧嘩したから今は触れないで」
「アンタも随分丸く……ていうかかわいくなったわね」
「うるせーな。それでボンクラが何か企んでるってのは?」
「あ、うん。本当だよ。副会長が何か私たち新入生の為になにかしてくれるみ
たい。後、生徒会からお知らせがあるみたい」
「成る程。つまりソレを台無しするとカッコいい副会長とやらの株は下がる訳
ね」
「えっ? それはどうかな? 台無しにしちゃうの?」
「よしお前等集まれ! そして聞け! 新入生歓迎会俺たちも出るぞ!」
「出るって何をすんのよ? もう時間も無いのよ?」
「心配すんな。簡単だ。確かヤンキーの一人とら○ラ! みたいのいたろ?
そうだお前だ」
僕が落ち込んで皆の好感度が下がった理由を考えている間に何が起こった?
七海がクラス中心に居るぞ。今はちょうど竹宮虎竜君
を指さしている。別に彼は少し制服を着崩して、髪が長いだけで、ヤンキーで
はない。
「俺はヤンキーじゃねぇよ」
「ロン毛で、制服ちゃんと着てない奴は皆ヤンキーだよ」
「お前に言われたくねぇよ! 俺のロン毛どうこう前に色素の薄い染髪! ネ
クタイは付けず、シャツは出したまんまのお前には!」
「俺のコレは地毛だし、ネクタイは昨日ちょっと喧嘩した勢いで……」
だんだん声の小さくなっていく七海。こんなアイツを見られるなんて、ホン
ト変わったな。
「抑えて! 一人と○ドラ! 君。七海昔はもっと荒れてたから。コレでも落
ち着いたの」 『えっこれで落ち着いたの?』
「う、うん。昔周りの学校でも噂になるくらいだったし」
『藤崎達の中学で有名って言うと……そう言えばエクスカリバー持ったジェイ
ソンが居るって噂有ったよな?』
「そんな全員で見んなよ。俺なんかより智也の方がよっぽどやべーから」
皆の目が俺に集中する。いや。俺、そんな七海よりちょっとやんちゃだった
ぐらいだよホント。
「ちなみに、一昔前この辺を牛耳ってたカオスクィーンって美鈴の事な」
今日の僕の株の暴落ぶりが絶好調なんだけどどうして?
『ウチのクラス化け物の巣窟じゃねぇか。て言うか藤崎って何者だ!?』
「わ、私は普通の女の子だよ。とりあえず話し合いに戻ろう。ね?」
「それだ。おい一人○らドラ! まずお前がバイクで体育館に突入。そしてボ
ンクラを轢く。以上だ」
「「以上だ」じゃねぇよ。犯罪じゃねぇか!て言うかそもそも免許持ってない
わ」
「持ってないの? ヤンキーなのに?」
「ヤンキーじゃねぇし! まだ俺十五だから法律で無理なんだよ!」
「一人とらド○! お前もヤンキーの端くれなら法律ぐらい破って捨てろ」
「て言うかさっきから言ってる一人とらドラ○ってなんだよ?」
『えっ気づいてないの?』
「クラス中の共通認識!?」
「お前に虎の字がなけりゃ、今頃くぎゅとイチャコラ出来ただけじゃ無く、モ
デルとバイト戦士ももれなく付いてきたのにな可哀想に。まっ、残念ながらお
前は一人でミジンコみたいな貴方だ」
「ツッコミ所多すぎてどこから手をつけて良いか分からんが、とりあえず!
確かに彼女もバイト戦士だったが、バイト戦士は違う人想像しないか?」
『一つ選らんだ所そこ!?』
「そろそろ止めてもいいか?」
「「どうした? 今回の語り手だったのに途中から空気と化した智也君」」
こいつらやっぱり気づいてて突っ走ってたのか。
「とりあえずキャラ崩壊で怪我しないうちに話し戻せ」
「わーたよ。チッ、一人と○ドラ! バイク持ってねぇのかよ。じゃあフラン
スパン!」
「こんな俺が今では教師よ。分らん物だねぇ」
「オイ、フランスパン。教師の仕事ちゃんとしろ、チョココロネにするぞ」
サングラスに縦ロールって余計近寄りがたくなるだろう。て言うかまだ若い
頃の話を一人でしてたのか、この人?
「おう? なんだ? 決まったか?」
「ああ。アンタには教師として、バイクでボンクラを轢いて貰ういいな」
「へっ、担任じゃねぇ俺が一つのクラスに荷担するのは御法度なんだが、生徒
に頼まれたら断れねぇな。それが教師の仕事って奴よ」
いや、断れよ。生徒一人バイクで轢くのが教師の仕事の訳無いだろう。
「その後は俺に任せろ。確実に首を取る。やるぞオマエ等!」
『オー!!』
アイツがクラスと一致団結して学校の行事に参加するとは、コレはダークド
○アムがまもののえさ一つで仲間にしてほしそうにこちらを見てくるかもな。
何が起こった?さっきの授業で、高校生を一人不慮の事故で消す計画を立て
たら何故か昼休みクラスメートに囲まれてる。しかも主に女子。今まで皆気味
の悪い俺を敬遠していたし、俺もそれを望んでいた。整理するために少し時間
を遡って考えて――見ると大怪我しそうなので止めておこう。今日の昼休みは
セツナに用があったんだがな、どうしよう正直うっとい。
「ええい何故イキナリ群れる!? いつも通り昼食を取れ」
「東条君って近寄りがたい雰囲気かと思ってたけど、意外と面白いし」
「それに、前からちょっとカッコイイなって……」
「ちょっと抜け駆けずるいわよ!」
「私もちょっとクラス一緒になった時からミステリアスでいいなって」
『ねー』
「俺は今日でコイツとは一生相容れない事が分ったがな」
助けて! と俺唯一の女友達に目線で訴えると。何故か笑顔でグーサインを
送って来た。何その暖かい目は? 後、一人と○ドラ! 俺もお前とは分かり
合えんと思っている。
「あー。大神。悪いがナナミがどこに居るか知っているか? 少しアイツに用
が在ったんだが……」
「あそこの中心に居るのが七海ですけど。呼んできましょうか?」
「少しアイツに用が在ったんだが、どうやら教室には居ない様だな」
「いや、自分の若さ故の過ちを認めたくないのもわかりますけどね、あそこで
クラスの女子に囲まれてるのが貴女の探し人ですよ」
「昨日ちょっと喧嘩しちゃったし、様子も変だったから、心配して来てみれば
……随分と良いご身分の様だな」
ん? ふと教室の方を見ればセツナが智也と話しているじゃないか。用もあ
ったしナイスタイミング。ココを抜け出す口実みっけ。
「悪い。会長に用が在るんだ」
と言って輪の中から出て、教室の入り口に向かう。セツナはなんだか、浮か
ない顔をしているようだ。昨日の事を気にしているのか? 仕方無い少し冗談
でも言って安心してやるか。
「オイ智也! 俺のセツナと何話して――」
「誰が! 何時! お前のモノになったー!」
セツナの間合いに入った瞬間、お馴染みのコークスクリューブローが炸裂し
た。
「冗談だ。悪いそんなに怒るなよ」
頬を擦りながら謝る。擦った所でどうにかなる痛みでは無いのだが……まぁ
今のは俺が悪かったな。
「そうか。私も気が立っていてな。まぁ今のことは許してやろう。死ね!」
笑顔で許すと良いながら。思いっきりコークスクリューをぶちかますセツ
ナ。アレ? 今許すって言ったよね。その後邪悪な言葉も聞こえたけど。
「もしかしてまだ怒ってるのか? 昨日で解決してねぇのかよ?」
「いや怒ってないよ。私怒らせたら大したもんだよ。私怒らせたら、足に来る
よ。立ってらんないよ。怒ってないよ。うん怒ってない」
「いや怒ってんじゃん。もう結構足にきてるよ。とりあえずコークスクリュー
はもう止めろ。いい加減避けるぞ」
「安心しろ。もうコークスクリューは打たん。……何、今のはワン・ツーだ
よ。ほんのジャブに過ぎん。だから次はストレートだ!」
「へ?」
「二重○極み!」
セツナなだけに、刹那早さを超える二連撃を習得していた。
「貴様今日は授業が終わり次第、生徒会室に直行だ。これは命令だ! 分った
な」
特に他の用も無く、それだけを告げて行ってしまうセツナ。何をしに来たん
だ一体? 俺で憂さ晴らしか? 旦那と喧嘩でもしたのかよ? ……ってちょ
っと待て。それじゃ俺が困るんだよ。いい加減シリアリスに戻ろうぜ。
「ちょっと待てセツナ! 俺は今日生徒会には行かんぞ!」
セツナを追いかけて、その背に叫ぶ。良かった見失わなくて。
「いや、悪かった。今のはなんかその場のノリと言うか、その……謝るから、
私も殴って良いから、生徒会に戻って来てくれ」
いや、何イキナリしおらしくなってんの? さっきまでの十本刀を倒せそう
な気迫はどうしたよ?
「いや、何を勘違いしているか解らんが、怒ってないし、女は殴らん。それが
惚れ……もとい美人なら尚更だ。今日はお前も生徒会室には行かんぞ」
「惚れ……なんだ? 惚れ……なんだ? ホレ照れずに言ってみろ」
なんか子犬みたいでうっとい。そこは聞き逃せよ。
「放課後、待ってるから。大事な話があるんだ。昼休みの予定だったんだけど
もう時間ないしな」
「告白か!? 別に今でも良いぞ。ホレ、惚れ……なにか言ってみろ」
超うっとい。「泣いちゃいそうだ」は可愛いけど。これはうっとい。
「結構真面目な話だから、いい加減キャラ直してこい。お前次第では本当に俺
は拒絶するかも知れない」
セツナは何も言わずに行ってしまった。結局来てくれるのか? まっセツナ
にとって俺なんて小さい存在どうでもいいのかもな。さて拒絶してるのは俺
か、向こうか、とりあえず飯にするか。
「智也ー弁当は?」
教室に戻って智也に俺の弁当の有無を訪ねる。
「一応作ってきてあるけど、お前今日は教室で食うの止めた方がいいんじゃ無
いか?」
うん。なんか、あちらこちらから獲物を狙うハンターの様な目で見られてい
る気がする。心なしか俺を昼食に誘う役を押しつけ合う声がちらほら聞こえ
る。
「オイ、石油ストーブ、学食行くぞ。智也達は静に教室で二人で食っててく
れ」
「それは俺のことか? まぁいつも学食だからかまわないが、なんで俺なん
だ?」
「もう一々伏せ字使うのもめんどいんだよ。なんで俺はお前を誘ったんだ?」
「俺が知るか? とりあえず行くぞ」
入学してから初めて利用したが、割と普通だな。学園長がアレならもっとぶ
っ飛んでるかと思ったんだが。何故か誘ってしまった、対面に座る暖房器具が
話しかけてくる。
「お前の昼はいつも大神が作ってんのか?」
「んー? 大体。たまに。気分で」
「適当だな。お袋さん忙しいとか?」
「いや、俺と智也は施設出身でな。俺は顔も覚えてない」
「あ、悪い……」
「気にするな。寧ろ知らなかったかのか? 小学校とかでは皆知ってたんだが
な。まぁ別に自分から言うような話じゃないからな」
「じゃあなんで、俺に話したんだよ?」
「聞かれたから。 自分から話す様な事じゃないが隠す事でも無いし……違う
な。今日初めて話したけど、なんかお前なら変な同情とかしない気がしたから
かな」
ホント、俺は何でコイツと飯食って、こんな話してんだ? 昨日ちゃんとリ
セットしたんだけどな。
「良くわかんねぇーけど。普通に暮らしてきた俺は意外と恵まれてるのか
ね?」
「いや、俺は別に自分が世界で一番不幸な薄幸少年だとは思ってねぇよ。まさ
に今この瞬間、命を落としてる俺たちより遙かに若い子供も居るだろう」
「そうかもしんねぇけどさ、でもそれとは違うだろ」
「まぁな。でも子供を捨てるような親の所に居るよりは、無償で居場所くれる
人とか、問答無用で愛をくれる人の所で育った俺は寧ろ恵まれてるだろ。最近
じゃあガキをを殺す親のニュースなんて良く見るしな」
「そうだな。じゃあ今こうやって学食できつねうどんに、アホみたいに唐辛子
を入れて食ってる俺達は両方とも恵まれてるかもな」
「そうだな」
なんかコイツちょっと茜に似てるかもな。最初から俺に本気でぶつかって来
たし、変な同情しないし、後なんかバカだし。全然嫌いじゃないかもな。
「やぁ。なんだか楽しそうだね。隣良いかい?」
「良くねぇーです。出来れば永久に俺とエンカウントしないでください」
「仲の良い後輩に相席を断られるとは、僕は一体どんな顔をすれば良いんだ
い?」
「安らかな顔で眠れば良いと思うよ。永久に」
俺が断ったのにも関わらず隣に座る。今週事故に遭う予定のボンクラ木偶の
坊。だれかデス○ートに書いてくんねぇかな? 俺? 俺は無理だよコイツの
名前知らないもん。
「君たちは凄く身体に悪そうな物を食べてるね。若いからって気をつけない
と」
「いや、俺も最初はどん引きだったんすけどね。コイツに言われて食ってみる
とコレがなかなか旨くて」
「お前にも知らない仲じゃないからやるよ。ホラ、トリカブト」
「君はいつもソレを持ち歩いているのかい? そう言えば前に雪那に同じ事を
された記憶があるよ」
だから一々惚気んなよ。俺じゃ勝てないのは言われなくても解ってるっつー
の。
「そう言えば副会長、今度の歓迎会なんか企画してるって噂在りますけど」
「そうだね新入生歓迎会は、生徒会主催で上級生が何かをするのは毎年恒例だ
しね」
「新入生歓迎会って遅くねぇ? もうテスト終わって夏休み入るぞ。 つかそ
れ俺も入ってるのか?」
「いや、君は今回は歓迎される側だからね。楽しみにしててくれ。それとこれ
も歓迎会で伝える事なんだけど僕はもう副会長――」
「旦那その事なんだけどさ。とりあえず先に今日の生徒会は無し。俺が私的に
セツナに用がある。……それで場合によっちゃあ生徒会今の半分になるから」
先に続く言葉を遮って、話をする。決断をするのはまだ早い、と伝えるため
に。
「まぁそうなったら俺の所為だから、新しい役員見つかるまで言えば手伝う
よ」
「君達二人の抜けた穴を埋められる程の人材を探すのは結構骨なんだけどな」
「誰、と言わずにそれが誰かを理解するアンタはさすがだよ。アンタはそれで
いい。そのままで居てくれ」
ずっとセツナの側で支えてくれればそれでいい。彼女の表の部分だけを見て
いてくれれば、裏は俺が全部引き受けよう。
「僕にとっては君も大事な後輩なんだけどね」
「さすがだな。でも俺はそんなに器用じゃないんだ」
「そうかい。なら止めないよ。どうやら君にしか知らない事があるみたいだし
ね。只、それで君が壊れたら誰も喜ばないよ」
「解っている。大丈夫だ」
ちゃんと解っている。俺が壊れても誰も喜ばないのかもしれない。でも、俺
が壊れても誰も悲しまない。
「さて、そろそろ昼休みも終わる。飯も食ったし、寝に行くぞ」
「お前何しに学校来てんだよ?」
「んー美鈴に会いに?」
勿論この後の授業は全て寝て過ごした。今日は一時間予定していた睡眠が無
くなってしまったからな。
屋上のドアを開けると、すでにその姿はあった。俺は深呼吸を一つして、そ
の姿に近づく。
「呼び出しておいて遅刻か? 感心しないな」
「いや、俺は来て欲しかったのか、来ないで欲しかったのか、どっちが良かっ
たのかと思ってね。ほい遅刻したお詫び」
正直な気持ちの吐露と共に、来る前に立ち寄った購買で買った、紙パックの
苺牛乳を渡す。俺はいつもの指定位置、セツナの隣に座り、コーヒー牛乳にス
トローを差す。
「私もコーヒー牛乳の方が好きなんだか」
「じゃあ換えてやるよ。もう飲んだけど。ホレ」
「まぁ待て。私もこっちを飲んでから……ホレ」
「甘っ。俺甘いのダメなんだよな」
「仕方無いな。換えてやろう。一口飲んだしな」
「なら、最初から換えんなよ」
「いや、なにコレでもう完全無欠の逃げ場の無い間接キスだろう」
「それがしたかっただけ?」
「なんだよその感情の無い目は? もっと喜べよ! 照れて慌てふためけ
よ!」
「いや、お前初対面で普通にキスしたじゃん」
「あれは、頬だろう」
「じゃあちゃんとする? ……もうこうやって仲良くお話するのも最後になる
かも知れないしね」
「で、話って? 聞く限り、随分と楽しい内容のようだが」
ここでちゃんとするのかよ? じゃあ最初からしててくれ。
「なんだしたかったのか? まぁお預けだがな。いい加減始めよう」
「今日それ禁止な。たぶん今凄いやりやすいと思うから」
俺は念の為、と言っても俺にはソレを拘束する力は無いのだが、一応ルール
を決めてから、セツナの太ももに頭を預ける。
「ごろん」
「分ってたけどさ、一応了解取れよ」
「手」
「ん?」
「だから手。握って。気づいてない振りするなよ」
「なんだ? 甘えたいのか? 大事な話があるとか言って呼び出しておいて、
仕方の無い奴だ」
「お前さ、静の事嫌いなの?」
セツナの言葉など無視して単刀直入に、聞く。
「いや、仲悪く見えるかも知れないが、私とシズカは別に――」
「ゴメン。本気で聞いてる」
「本気もなにも」
俺の言ってる意味が解らない。と言った感じセツナの探るような瞳を、俺は
下から、俺が見えないように指をV字に開いて塞ぐ。
「だから、今はソレは無しだよ」
「お前が何を聞いているのか解らないが、私が答えたところでお前はそれを素
直に信じるのか?」
セツナは俺から目をそらして、遠くを見ながらそう答える。
「……信じたい」
「貴様の問いの答えになるか分らないが、少し昔話をしようか。と言っても一
年前の話だがな」
そしてセツナは優しく俺の髪を撫でながら語り始めた。
「お前とシズカの関係がどんな物なのかは知らないがな、去年一年間、つまり
お前と離れていた一年間。シズカは完全に『ダメ』だったよ。お前の予想通り
なのか、それとも何かを期待していたのかは知らないがな。私とシズカが初め
て会ったとき、今の様では無くてな。お前や私と同じような、死人のような目
を……いや、すでに壊れた目をしていたよ。最初は私などでは到底手が付けら
れる様な物では無かった。勿論、俊幸でもな。けど、いやだからこそ、私はシ
ズカを生徒会に入れた。細かい所とプライベートな部分は省いたがこんな所
だ」
やっぱりダメだったのか。この学校に来て静に再会した時大丈夫かと、思っ
たんだけどな。
「それでお前の質問はなんだったかな? たしか「何故静を書記に置いてい
る?」だったか? 確かに全ての物事を記憶出来る私にとって書記はいらな
い。だからこそシズカを書記にしたんだ。何もしなくて良いように、只、居場
所だけを与える為に。これで答えには満足か?」
イキナリ上から、自信満々の顔でのぞき込まれる。
「ダメ。っつったのにしっかり読んでるのかよ」
「許せ。私は真意が解らないまま、答えてお前に嫌われたくないのだ。それよ
り私は泣いちゃいそうだ」
またかよ? て言うか握ってる手の爪立てないで。わざとだろうけど。今日
は俺何もしてないだろ?
「甘えてくれてるのかと思ったら、これ手錠の役割なんだろ? 惚れた女は殴
らんだのなんだの言っておいて、私の答え次第では、お前私を殴るつもりだっ
たんだろ? だから攻撃しにくい態勢をとっていたんだろ?」
惚れた女のくだりは、いってねぇよ。全部訂正しないけど。
「悪い。僕はまだ、自分を抑えられないんだ」
「心配するな。私が包み込んでやるさ」
セツナは握っていただけの手を、いわゆる恋人繋ぎ、指と指を絡ませてく
る。
「なぁ? 私達もう、お互いの事、もう気づいてるんだろう?」
「たぶんな……」
「いい加減確かめ合わないか?」
「そう、だな……」
「お前から言ってくれ」
たぶん最初に会った時から気づいてたんだ。それでも認めたくなくて、必死
で違うという証拠を探し回った。でも、探せば探すほど、あがけばあがくほ
ど、見つかるのはそうだという裏付けで、だからもう諦めよう。俺は諦めてセ
ツナへと言葉を紡ぐ。
「お前、ロボットだろ」
「……あぁ。そうだよ。お前と同じ、な。私達は似てるんじゃなくて、同じな
んだ」
「いつから気づいてた?」
「私は最初から、それこそお前とここで会う前からな。実は学園長から聞いて
たんだ」
「……」
「そう拗ねるな」
セツナが俺の心の中を勝手に読んで頬を突いてくる。
「一目惚れとか言っておいて、俺がそうだって解ってたから近づいてきたんじ
ゃねぇか」
「それは違う。東条七海の存在は知っては居たが、本当にたまたまここで会っ
て、たまたま一目惚れしたんだ」
この女は、結構真面目な顔でなに言ってるの? バカなの?
「照れてるのか? うりうり~WRYYYY」
「結構真面目なテンションで話す内容だと思ったんだけど」
「そうでもないだろう。お前はいつから気づいてた?」
「俺も結構最初から。でも、違うって思いたかった。だから探したんだけど、
『幼馴染み』が居るとか結構期待したんだけど。確信はやっぱり俺の思考を読
んだことかな」
「本気で思考が読めているとでも?」
「将棋とかチェスの達人は自分より実力の低い相手と戦う時、駒の動きで相手
の思考が手に取るように解るというだろう」
「それは、その勝負の間。しかも考えている手だろう? 実際考えている事を
詳細に解る訳じゃ無い」
「そう。でも頭の中にコンピューター突っ込んであって、スタンドアローンで
演算を行えるお前なら他人の思考を読める」
「でも――」
「そう。人の思考は電気信号と言っても、それぞれ違う。どんなスーパーコン
ピューターでも完璧に読むのは無理だろう。何より、人なら誰もが持ってる感
情が思考の信号にノイズを走らせる。……でも感情を持って無く、尚且つ同じ
く頭ん中にコンピューターぶち込んでいる俺なら……しかもたぶん、お前は俺
の単純なハイスペック機なのだろうな。ならばそれこそ、コンピューター対戦
の将棋やチェスでレベルの高いのと低いCPU同士で対戦させる様なモノだ。思
考を読むのなど容易だろう」
言葉を遮って、一気にまくし立てる俺にセツナはもう諦めたようだ。最も最
初から否定する気などなかったのだろう。
「まさかあんな。ネタのようなギャグ会話がここに来て伏線になるとはな。最
もアレはお前が私に読ませやすくしていたのだろう? 相変わらず意地悪な奴
だ」
「悪い。どうしてもお前と俺は違うって証拠を見つけたくてな。でも全部裏目
になった」
「すまない。いや、ありがとう。かな?」
ロボットっつても敢えて分かり易い様にその言葉を使っただけで、脳の働き
を助けるチップが入ってるだけなんだけどな。だから身体とかは鉄で出来てる
訳じゃなくて、セツナの全てが細い線の中で唯一膨らみのある胸もとても柔ら
かいモノだろう。ん? 確かめてやろうか? 仕方が無いな。
「コークスクリューは使わないつもりでいたんだがな……」
「勝手に読むなって」
「勝手に揉もうとするのは許されるのか? 後、誰に対して言い訳だ」
「別に誰って訳じゃないけど……旦那は、知ってるのか?」
「私からは誰にも言って無い。……言えてない」
「他は知らんが、あの旦那なら大丈夫だと思うけどな」
「私もそう思うけど、やっぱりズルイだろ? 頭の中にコンピューターが入っ
てるなんて、それは百点もとれるさ、嫌だろ? 心を読まれるなんて、何より
気味が悪いだろう……」
「別にさ、お前が伝えるかどうかは自由だからどうでも良いけどさ。もし静の
事が事なら、俺がお前を拒絶しようとしてたんだけどさ。違うなのら、お前が
独りになった時は、俺が一緒に居てやるって決めてたから、お前は独りにはな
んないよ。……俺、だけどね」
「……抱いてくれ」
「へ? 最初が外? まぁここには誰も来ないし大丈夫か。よし」
「バカ。捨てられた子犬の様に震えている私を後ろから抱きしめていてくれと
言ったんだ」
殴れよ。俺はセツナの太ももから起き上がり、後ろからその小さな身体を抱
きしめる。手は繋いだままだ。
「少し小さいけど、やっぱり暖かいな」
「ねぇ誰と比べて? ねぇ? ちょいちょい比べる止めてくれる? 劣ってい
るのは自分が一番よくわかってるからさぁ。この似たもの夫婦」
「ゴメン。最低だな私は。比べるつもりは無いが、お前は劣ってなどいない
よ。例え劣っていたとしても、私は好きだから安心しろ」
「相変わらずズリィ」
「フフっかわいいな」
「そうだな」
「ん?」
この返しは予想して居なかったのだろうか、少しだけ面喰らってるセツナを
抱きしめる。
「こんなに柔らかくて、暖かくて、良い匂いがして、スゲー美人で、嫉妬深く
て、たまにスゲー可愛くて、大好きなのに……なんでお前なんだろうな? ゴ
メン。謝ってもしょうが無いけどゴメン」
「何故お前が謝る? お前の所為じゃないだろう?」
「……」
「昔話をしようか。今度こそ本当に昔話だ。ちょっと思い出したく無いことだ
から、もし私が壊れそうになったら抱きしめてくれると嬉し――」
俺は間髪入れずに思いっきりセツナを抱きしめた。
「まだ、始めて無いぞ」
「もう、ってかさっきからお前壊れそうだったから」
「そうか……」
俺たちは今、屋上の縁に座り、俺がセツナを後ろから抱きしめて左手を繋
ぎ、右手は身体に回している状態。そのセツナの身体に回して丁度前に来てい
る俺の右手をセツナが撫でる。
「本当に私はお前が一人居てくれれば良いのかも知れんな」
そして俺の身体に頭を預けて話し始めた。
「私は科学者の家の子供らしい。らしいと言うのは、後から聞いて解った事で
な。私には研究所より前の、頭を弄られる前の記憶はほとんど無いんだ。うろ
憶えだが、その科学者の両親は私が幼い時に事故で亡くした。その時丁度、面
白い実験をやっていてな。人の頭に機械を埋め込んだらどうなるか? 人の頭
脳を遙かに超えた人が出来るのでは無いか? また、その記憶媒体さえ移し替
えれば、身体が老いても永遠に生きられるのでは無いか? という実験だ。身
寄りが無くなった私は、為す術も無く研究所に連れて行かれたよ。この実験は
大人より無駄な思考、そして記憶の少ない子供の方が適していたらしい。だが
実験は失敗に終わったよ。私以外その研究所にいた子供達は皆死んだ。だが私
という一つの成功例にしがみついて研究は続けられたよ。そんな時ちっちゃい
子供の様な科学者がイキナリ来て、研究所をぶっ壊して私の事をあの地獄から
救ってくれたんだ。それが学園長。その後、私も学園長の児童施設に誘われた
が、私の両親の研究仲間だったと言う老夫婦が現れ引き取ってくれたんだ。雪
那は本物の両親が付けてくれた名らしい。清美は清美のおじいちゃんとおばあ
ちゃん……引き取ってくれた老夫婦から貰った。しかし二人も結構年でな。し
ばらくして、安らかに眠ったよ。その後、私以外に子供も親戚も居なくてな。
二人は名前と居場所だけでなく、私に結構な額の遺産も遺してくれた。少なく
とも一人暮らしで学校を出ても充分お釣りが来るほどには。……アイツと出会
ったのは何時頃だったかな? 私は散々弄られた御陰か幼くても、一人で生き
ていけたし、誰かと関係を持つ必要も無かった。なのにアイツは何度私が拒絶
しても、諦めずに結局、無理矢理私を日陰から引っ張り出したんだ。そして、
噂であの時助けてくれた人の学校が在ると聞いて今に至る訳だ」
セツナは一息を付くと、首だけ動かして俺を見上げる。
「面白かったか? それで、お前の昔話も聞かせてくれるんだろう?」
「そのつもりだったけど、最後惚気られて気にくわないから、止めようかな」
「お前がアイツ何時出るんだ? と気になっていたから話てやったと言うの
に」
回想中でも読めるのかよ。
「勿論だ。お前はさっき目を隠していたし、よく目から相手の情報を引き出す
と言うが、私のは電気信号を読んでいるだけだ。ある程度の距離なら相手が見
えなくても読める。まぁ私が思考を読めるのなんてはお前だけだろうけどな」
そいつは気を付けないと、俺を倒す為に研究されてたんじゃないだろうな?
「そんな訳ないだろう。後今のは少し喜ぶと思っていたんだが、違うのか」
「喜ぶ?」
「お前だけ。みたいな特別視されるのが好きかと思ったんだがな」
「あーうん。特別視ね。俺だけ、か……」
「逆だったか。すまん」
「読んだ? ブロックは難しいみたいだね」
「今日はな。お前ここに来る前完全に感情を殺してきただろう? シズカの確
認とか、私の事とかで冷静に居るために。感情を殺してる今なら手に取るよう
に解るんだよ」
「じゃあなるべく地の文は書かないようにするか」
「今までもロクに書いてないだろうが!」
「良いの! 掲示板にあるSSみたいなテンポのいいスタイルが今回の売りな
の!」
「シュールで面白いじゃないか」
「だろ?」
「あぁ。実にシュールで面白い、己の文章力の無さを隠す言い訳だな」
「辞めろよ! 自分が一番良く分ってるんだから、そこに触れて上げんなよ!
なんでチョイチョイ物語に登場しない『アイツ』を攻撃するんだよ」
「いいからお前の話は?」
「そうだな空気変えるためにも、俺の話でシリアスにするか」
俺は咳払いを一つして、軽くセツナの髪を撫でてから話しを切り出す。
「ん?」
「まぁ何て事無い。お前と大して変わらない、面白くない話なんだけどさ」
絡めている手に力を込める。それに気づき、握り替えしながら疑問符を浮か
べて俺の顔を覗き込むセツナに微笑み返す。今は本当に感情を消しているか
ら、俺の考えも読みやすいだろ? まぁ、感情どころか、思考も停止させてる
から、読むモノが無いのかも知れないけどね。
「俺も弄られる前の記憶が無いんだが、俺は親に捨てられてね。当時、離婚の
話は既に進められていたんだろう。後は子供をどっちが引き取るか、と言う事
だけだったんだろう。結果は『俺はどちらも引き取らない』に落ち着いたんだ
ろうな。顔すら覚えてないんだが、たしか最後の言葉はたぶん母親の「私はこ
の子と、お姉ちゃんはお父さんとお出かけするから貴方は一人でお留守番して
いてね」だったかな?」
「ちょっと待て! 両親は互いに子供を一人ずつ連れて行ったくせにお前だけ
置いていったと言うのか!?」
「曖昧だが、たしか姉と妹が一人ずつ居た気がする。何も憶えてないけど」
「そんなのってあんまりだろ……」
「そうでもねぇさ。親に捨てられたのなんて施設にも結構居たし」
「それでもお前だけ置いていく何て――ッ。さっきは、その、すまん。そうい
う事か『お前だけ』は嫌いなんだな」
「そうでも無いよー。セツナが市川の旦那じゃなくて俺だけを好きになってく
れると嬉しいし」
「お前何を言ってるんだ? お前は「東条七海」か? いや、『今は』感情を
切り離してるのか。『お前』とは話しても無駄だな。続けてくれ」
「了解。って言っても、ここから先はお前と同じ。研究所に連れて行かれて、
星佳が助けてくれて、身寄りの無い俺は施設で育った。親は探す気も意味も無
かったから。無視。そんで今に至ります。っと。大分端折ったけどこんな感じ
かな?」
「そうか。……顔を出せ」
「はい?」
セツナは今まで繋いでいた手を乱暴にほどいて立ち上がる。
「そのうざったい前髪を上げて、額を出せと言っている」
俺にを顔を近づけると、思いっきりヘッドバット。なんの意図が在ってかそ
のまま額は押し当てたままだ。
「最初からこうすれば良かった。道化となったお前と話していても面白くない
しな」
「痛っ。何、キスでもしてくれる――」
途端に頭の中に流れ込んで来る見たことの無い景色。走馬燈? 事故に遭っ
て変わり果てた姿で帰ってきた両親の姿。流れ込んでくる悲しみの感情。壊れ
るまで続けられる実験。壊れてしまった仲間達。流れ込んでくる憎しみと恐怖
の感情。優しかったおじいちゃん、おばあちゃん。初めての穏やかな感情。こ
れはセツナの記憶?
セツナの額が離れて、視界が元に戻る。目の前に居るのは、まるでこの世の
終わり、地獄でも見てきたような、真っ青な顔で震えるセツナの姿。
「セツナ?」
まるでこの世の終わりを見てきたような顔? (何で?)俺にはセツナの記
憶が流れ込んできた。(どうして?)じゃあセツナには? (もう、気づいて
いるんだろう?)
「オイ、セツナ! お前まさか!?」
「思考を、読める能力の、応用と、言った所か。直接脳の、信号を、読み取
る、事で、記憶を見ることができる。これも、お前にしか、使えない、し、正
確に時間を狙って、見える訳では、無いのだがな。勝手に記憶を覗いたことは
謝るよ」
俺は倒れそうになる。セツナに駆け寄り身体を支える。
「そんな事はどうでもいい。お前……」
お前今の自分の姿を知っているか? 全身痙攣していて、顔が真っ青だぞ。
俺のを見たって? あんなモンまともな人間が耐えられるモンじゃないんだ
よ。
「お前は何故、あんな事があって、ハァ、ハァ……まだ人間が好きで居られ
る? 世界を壊さないで居られるんだ? ハァ、ハァ、ハァッ」
「人間なんて嫌いだよ。この世界だって滅びれば良いと思っている居る。この
世は腐ってる、人も世界も何もかも! それでも、それでも星佳や、美鈴のよ
うに護りたい人が居るんだ。こんな世界でも、手を差し伸べてくれた人の居る
この世界を、僕は怨みきる事が出来ないんだ。さぁもういいだろ? もう止め
よう。過呼吸が始まってる」
僕は常備している薬を取り出しして、セツナに飲ませようとして、その手を
払いのけられる。過呼吸が強くなって喋る事の困難なセツナは、只僕に強い視
線をぶつけてくる。
「ハァ、ハァ、ハァ……お前はコレを耐えたんだろう? お前はコレでも壊れ
なかったんだろう? ハァ、ハァ、なら私も耐えてみせる! 私が一緒に背負
ってやる、だから……」
「違うんだよセツナ。僕は壊れないんじゃ無い。『最初から壊れてるんだ』君
達みたいに、傷だらけとか、ボロボロとか、壊れそうなんじゃ無くて、もうと
っくに壊れているんだ。だから僕はもう壊れないんだよ」
「……薬を寄越せ」
「えっ? あっはい」
錠剤の薬を渡すと水も無しにセツナはガリガリと噛み砕いた。しばらく待つ
と落ち着きを取り戻し話しを続ける。
「それは、もう壊れないから大丈夫。という事では無いだろう? それはずっ
と辛いって事で、そしてもう治らないって事で、それは愛や楽しいが無いって
事だろう?」
俺の腕に抱かれたまま、セツナは俺の心臓を手で撫でる。
「お前には新しい心を入れて上げなきゃな。それが私の役目だと嬉しいんだ
が、私に務まるかどうか」
「フフッ「オズの魔法使い」か。実は僕にも最初から心が入ってたりするのか
もね」
「どうした? イキナリ笑って? 何か言ったか?」
「いや、心じゃなくて体でも良いけどって」
「おや? 戻ったか」
「何その反応? 俺はてっきりコークスクリューかと思ったのに」
「無意識か? やはり私とは少し異なる様だな」
さっきから一人で何を言ってるんだ? 電波だったっけこの子?
「あぁ、すまん。いやなに、この距離だとキスでも出来そうな距離だと思って
な」
「して良いの?」
「最初に言っただろう。告白してきたらしてやると。それまでお預けだ。した
いのなら今ここで私に告白するか?」
「しないよ」
「即答かよ。泣いちゃうぞ」
「俺、負け戦はしない主義なの。でもどうしても勝ちたい戦はしたこと無かっ
た。でも今回はどうしても勝ちたいから、絶対負けないタイミングで仕掛け
る。どんな手を使っても欲しいモノだから」
「それもう立派な告白じゃないか?」
「違うよ宣戦布告」
「て言うか、今日私何度か告白まがいの事されてるんだが」
「今は勝てないって相手が悪すぎる」
過去を感情付きで見せられた俺の気持ちも解ってほしいね全く。
「それは、知らんが、お前も私の見たのか?」
「あぁ。悪い勝手に流れてきた」
「別にかまわん。ほとんど話した事だしな。只、誤解されるのは気に食わん。
……宣戦布告をしたお前にご褒美をやろう」
そう言って徐に立ち上がってセツナは続ける。
「唇以外なら好きな場所に一カ所だけキスして良いぞ」
「は?」
「ほら、前のご褒美は私がしたんだし、今度はお前からだ。唇以外だぞ」
唇以外って下のくち――
「今日はコークスクリュー封印って決めたし我慢だ、私」
思いっきり、かかと落とし喰らったけどね。ちなみに諸君、黒だったぞ。勝
負? それとも誘ってる? なにげに状況が状況だし。
「状況が状況だけに強く否定は出来ないが、誘ってない。いいからさっさとし
ろ」
どうするか? おでこに軽くとかが、無難で可愛くて逃げやすいか。
「前にも言ったはずだが『私の事は好きになっても良いんだぞ』安心しろ」
そんな事言われたら本当に本気になっちゃうじゃん。よし、決めた。
「今俺の考え読める?」
「いや、スゲー邪な感情にじゃまされて全く読めん。まぁそれでも受け止めて
やる」
もう止まんないよ。後悔しても知らないから。
俺は立ち上がって、セツナの身体を引き寄せる。
「やっぱり恥ずかしいな」
「いただきます。チュッ」
俺はセツナの首筋に思いっきり吸い付いた。
「あんっ、よりにもよってそんなとこ、んっ、まぁ唇以外はどこでもいい、ル
ール、だった、ヤッ、からな。……んっ、少し長すぎないか? ま、まぁ時間
の指定はしてないが。……ちょっ、お前、バカ、マーキングはダメだ、辞め
ろ!」
かなり遅れてだが、俺の意図に気づいたセツナに強制終了させられてしま
う。まぁ、首筋を見る限り俺のミッションは成功の様だ。アレなら数日は消え
ないな。
「ゴチソサマ。可愛い声で鳴くんだね」
「バカ、バカ、バカ、バカ、バカ。今日はもう帰る。責任取れよ、バカ」
「バイバーイ」
久しぶりに本気で悪戯してみました。でもま、可愛くなるのは反則だろう。
今はちょっとだけ楽しい気分だから、アイツがどこまで見たのか考えるのは止
めにしよう。明日からセツナの顔を見るのが楽しみだしね。
その日の生徒会室は異常な空気に包まれていた。まぁ一番異常だったのは、
俺がその時を楽しんでいる、と言う事かも知れない。
「もう衣替えだと言うのに、キミのその格好はなんだい?」
ウチの学校は学園長がアレなため、冬服は男女共に、一般の学校の制服より
少し一線を離れた可愛いめのブレザー。夏服は男子のは弄るところが無かった
のだろう。至って普通の夏用制服だが、女子は結構露出度が高めのセーラー
だ。まぁ一般の学校と違うと言っても常識の範疇(勿論星佳のではあるが)で
あるため。三年も通えば対して驚く事では無いはずだ。しかし、生徒の模範で
ある生徒会長は、何故かは知らないが、その涼しげなセーラ服の下にタートル
ネックを首まですっぽりと着ているのだ。何故かは知らないが。
「どの口がソレを言う?」
「何を言っているんだいセツナ?」
どの口も言ってませーん。只思っただけですよ。
「中学の時もだけど、静って夏服似合わないよね」
俺は応接用のソファで本を読んでいる静の所に行って、その膝の上に乗る。
「そうゆう事は思っても言わない事よ。特に私には。夜道を安心して歩きたい
ならね」
相変わらず、ドSぶる静であるが。今日は反撃してみようと思う。
「いや、そうじゃなくてさ、美人は何を着ても似合う。って言うけど静位の本
当の美人だと釣り合う服が意外と無いよねって」
「えっ、そ、そんなことは無いわよ。今日は機嫌が良いのね。リップサービス
をしても何も出ないわよ」
そう言いつつも、俺をぬいぐるみの様に抱きしめる。意外と静も可愛い所あ
るよね。
「やっぱブレザーないし生地も薄い夏服は違うよね」
「ほう。一体何が違うのかなナナミ君?」
それは勿論、む――
「それ以上言ったらグーパンだぞ」
だから言って無いし、自分で聞いたんじゃん。後、お前回転加えるだろう
が。
「ん、で結局セツナのその格好はなんなのさ?」
キッっと思いっきり睨まれる。
「別に何でも無い。ちょっと肌寒くてな」
「とか言って、キスマーク隠してるとかだったりして」
「なっ、お前バカ、そ、そんなんじゃ無いぞ」
めっちゃ動揺してる。それじゃバレるって。
「その反応は図星なのかしら? だとしたら隠さなくても相手は解ってるのに
ねぇ」
「えっ?」
「だよね。なんかイキナリ興味無くなった。静ー俺もお前に付けて良い?」
「貴方がそんなこと言うなんて意外ね。今頃私の魅力に気づいたのかしら?」
「いや、俺昔から静ラヴだ――ヒッ」
悪寒がして後ろを向くと、セツナがそれはもう禍々しいオーラを出して、俺
を睨んでいる。その顔は雄弁に「お前解っているんだろうな?」と語ってい
る。今日はこの事についてはもう止めよう。
「そうだ旦那。今度の歓迎会の事だが、別に俺そのまま空席の会計に入る形で
良いぞ」
「何を言っている? お前が副会長を希望したんだろう」
「やっぱり、副会長に、セツナの隣に相応しいのは旦那かなって」
「何を勝手な事を言っている!」
いい加減素直になれセツナ。そして旦那の事を認めてやれ。安心しろこれは
諦めたとかじゃないから。只、これぐらいはくれてやんなきゃ、さすがに報わ
れねぇ。
「……お前がそれでいいなら、構わないが……」
「良いのかい? 二人がいいならそれで行かして貰うよ。彼は充分仕事を任せ
られるし、手続きが面倒にならなくて済むしね」
「ああ。それで頼む」
「好きにしろ」
そう怒るなって。今の所は俺のモノって印が在るからね。余裕だよ。あっ言
い忘れてたけど、美味しかったよ。
「ッ、バカかお前は! こんな所で!」
「キミこそどうしたんだい、こんな所でイキナリ?」
「あっいや、きょ、今日はその件だけだからコレで解散だ。私はもう帰るから
な」
恥ずかしさを隠すためか、逃げるように部屋を出て行くセツナ。今日はいつ
もとは違う意味で可愛かったな。
最初に言っておくが、私は今日の事を数日前から楽しみにして居たなんて事
は無い。別に今日は気合いを入れてお洒落をしてきたりなどしていない。数日
前にナナミから『次の休み日空いてる? もし良かったら少し付き合って欲し
いんだけど』ってメールが来た時からずっと舞い上がって居た。何てことは断
じてない。メールは小一時間悩んだ末『ダー』とだけ返してやった。……もう
ちょっと可愛い文章が良かったかな? とか後悔など……少ししている。とも
かくコレはデートだよな? 特にアイツはデートとは明記しなかったが、コレ
は間違いなく、デートだ。二人っきりで、初めての、デートだ。
まぁ、あんな事があったわけだし? 『告白』はしなかったけど、好きって
言われたよな? 大好きって言われたよね? と言うか私も言ったよね。そし
て手、繋いだよね。抱きしめて貰ったよね。もうコレ、付き合ってるって言っ
ても良いんじゃ無いかな? かな? 少なくとも好き合ってるよね。デートは
少し今更な感じもするけど別に浮かれてなんかいないもん。その証拠に私は、
ナナミに指定された時間の一時間前から、待ち合わせ場所の見える位置で待機
している。
アイツが来てしばらくしたら出ていってやろう。そしたら「待った?」「う
んうん。今来た所」なんてお約束の展開が待っているだろう。唯一の懸念はア
イツは一分一秒正確に待った時間言いそうな事だ。そんな時いつもならコーク
スクリューだが、今日の私は機嫌が良くなんか無いから「そこは今来た所。っ
て言うんだよ」と可愛く指摘してやろう。後はお洒落な喫茶店に入ったり、お
揃いのキーホルダーを買ったりなんかしちゃったり――おっと、私が楽しみに
デートプランなんか考えていない間に、来たようだな。
うん。私服もなかなかに私好みじゃないか。元々私が一目惚れするほどの素
材だしな。隣には美少女を連れて、なかなかに美男美女でお似合いのデートと
言ったところじゃないか。うん。……うん? 美少女? 私はもう一度見て、
さらに目を良く擦ってからもう一度見た。うん。居るな。確かにナナミの隣に
は私では無い女が居るな。それも結構毎日顔を合わせる奴だ。しかも腕なんか
組んじゃってるぞ。コレではまるでデートの用だな。よし、殴ってこよう。と
りあえず一発殴ってから言い訳を聞こう。
(少佐、着いている?)
立ち上がって殴りに行こうとしたら、イキナリ頭に直接声が響く。私はナナ
ミ限定で色々な条件付きだが、思考を読むことが出来る。まぁソレの詳しい事
は今は良いだろう。コレの難点は向こうから思考が一方通行に来るだけで、私
からは飛ばせないということ。ナナミ曰くコレは、私が自分のハイスペック版
だから出来ると言う事だが、果たして本当にスペックが高いのは、いや、それ
はどちらでも良いが、この機能の恩恵を受けているのは私だろうか? 普通に
考えれば、相手の思考が読めるというのは、何をするにしてもかなりのアドバ
ンテージだろう。実際私もこの機能を使って、前にテストの勝負でアイツを負
かしてやったこともある。だが最近ナナミはソレを逆手に取り、一方通行に思
考を送って来て私を苛めている節がある。まぁ二人だけの秘密みたいで嬉しい
かな。何て思ったりなんか全くしてない。只たまに、私に届いてるとも知らず
私の仕草を無防備可愛いと思って居たり。常日頃から私を美人だと思ってくれ
ているのが純粋に伝わるのは、もうぶっちゃけスゲー嬉しい。それはともか
く、私からはナナミに思考を送れないので、会話が成立しない。私はとりあえ
ずメールで奴を問いただす。
『何故シズカと一緒に居る?』
『何故? って今日は静とデートだから
俺からは見えないけどとりあえず来てるんだね』
ハァ? デート? 相手間違ってないか? それとも私は二人のデートを見
せつけるために呼ばれたのか? 別に楽しみになんかしてなかったけど、もう
泣いちゃいそうだ。
『とりあえずコロシテイイ?』
『ゴメン
とりあえずそのまま静に気づかれないように着いて来て
後でちゃんと説明するから』
(ホントに悪い。休みの日わざわざ呼び出して。後でお茶奢るからさ。とりあ
えず今は……)
やれやれ訳ありか。ホント楽しみにして無くて良かったよ。もし楽しみにし
ていたら泣いてしまっていたぞ。私だけバカみたいだな。
『とりあえずお前達を尾行すればいいんだな?』
『アリガト
くれぐれも静に気づかれないように頼みますよ少佐』
『さっきからその少佐ってのはなんだ?』
『セツナにぴったりのあだ名でしょ?
なんか気分出るし』
私と同じお前ならこの痛みが分ってくれると思ったんだが、まさかお前から
とは、本当に今日は泣いちゃいそうだ。
『私がアンドロイドだからという皮肉か?』」
『お前が 愛想良くすれば超絶美人だと言う皮肉だな』
(お前が人だろうが、ロボットだろうが関係ないさ。只俺が恋いをしたのがセ
ツナ。それだけ。俺も同じだしさ)
「フッ、バカが」
メールも途中まで書いて変えた様だが、本音が丸気声だ。あぁもうホントに
可愛いなぁ。
「最近学校はどう? 彼女とか好きな人とか出来た?」
「なんだよ、急に? そっちはどうなのさ?」
「私? 私はそうねぇ、可愛くてちょっとほっとけない後輩がいるかしら?」
二人の親しそうな会話をずっと聞いてなきゃならんのは少し辛いかも。
『お前いつもと随分雰囲気違うな
シズカとデートは良くするのか?』
『予定が合えば毎週?』
『帰っていい?』
『待って少佐!
もうちょっとで着くから
落ち着いて』
仲が良いのは認めねばならんと思ってたが、まさか毎週デートするような仲
だとは。それもう付き合ってるだろ? 少なくとも好き合ってるだろ。なんか
いつもと感じ違うし、二人きりだとそうなのか? いや、シズカの方が違うよ
うな……なんか違和感あるな。何かはまだ解らないけど、何かがおかしくない
か?
「さっきから携帯ばっかり弄ってー。やっぱり彼女居るんじゃ無いの?」
「ちょっと覗くなよ。良いだろ、なんでも」
「お年頃だもんね」
なんかさっきからデートの会話としておかしくないか? いや私もデートの
経験ないから解らないけど。強いて言うなら俊幸と待ち合わせして、二人で買
い物したり、ご飯食べたりするぐらいだから。デートじゃないその時だって、
お互いの服を見繕ったり、水族館に行ったときは、魚の話をしたりするぐらい
だろう? お互いの近況報告、特に、デートで恋愛の話なんて絶対しないだ
ろ?
(着いたよ。ちょっと人多いし、迷い易いから、見失わないように気を付け
て)
ん、目的地か。まぁカップルのあり方なんて十人十色だしな。気にしても仕
方ないか。やれやれ、迷子になるなと釘を刺されたし、尾行に集中するか。
「えっ?」
おそらく今日のデートの目的地なのだろう。二人が入っていった場所を見
て、明らかに私の中の違和感が確かな形へと変わる。
「総合病院?」
とりあえず、考えるのは後にしよう。二人が入っていった入り口に向かう。
二人は丁度エレベーターに乗るところだった。
(五階。エレベーター降りたら左手にまっすぐ)
抜け目無いな。私は鉢合わせにならないように、少しだけ時間置いてから、
ナナミの指示通りに動く。その先で一つの病室の前にナナミが待っていた。
「全く人使いが荒いな」
「ゴメン。今度お詫びはちゃんとするよ」
デートの埋め合わせのほうが大事なんだか……毎週デートする相手が居るん
じゃ仕方無いか。
「シズカは?」
「この中」
病室の中を指さす。中を覗くとシズカが椅子に座って誰かの手を握っている
のが見える。その相手の患者は……カーテンで確認出来ないな。私は病室のプ
レートの名前を読む。
「黒川彰?」
「そう。静の弟」
「何故私をシズカの弟の病院に? 見舞いに来たならお前も行かなくて良いの
か?」
「そんなに焦るなよ。一つ一つちゃんと全部説明するからさ。先ずは一つ面白
いモノを見せるよ」
そう言って、病室に入っていくナナミを目で追っていたが、ナナミが再び私
の所に戻って来るまで、その光景が余りに驚愕で、声すらも出せず、思考は完
全にフリーズして、只、見ている事しか出来なかった。
「えっと、どうかされましたか? どちらさまでしょう?」
「えっと、ココ、真田さんの病室じゃあ無いですか?」
「違いますよ。ココは私の弟の部屋です」
「スミマセン。どうやら病室を間違えたようです。割と頻繁に来るんで病室の
プレートの確認を怠りました」
「もし、よろしければご案内しましょうか? 私も良くココには来るので詳し
いですよ」
「いえ、隣の部屋か、階を間違えたのでしょう。弟さんの側に居て上げてくだ
さい。お騒がせして申し訳ありませんでした。失礼します。お大事に」
「どうよ? あんまり驚いて固まっちゃった?」
いつの間にか、隣に来ていたナナミに肩をたたかれて、ようやく金縛りの様
な状態から回復する。そしてソレが今、目の前で起った事が現実だと突きつけ
る。二人が嘘や芝居をしている様な素振りは無くて、何より、シズカが他人行
儀で喋る度に走るノイズが、それでも無理矢理に押し込めるナナミの感情が、
コレがリアルなのだと、語っていた。
「コレはどうゆう事なんだ?」
「……場所を変えよう。そこで話すよ」
「シズカはいいのか?」
「あぁ。どうせ今日はもう俺の事は分らない」
今、泣きそうなのはお前か。でもすまない。私は今どうしたらいいか解らな
いんだ。
その後私達は病院を出て、ファミレスに入る。付いてきたものの、私は何を
知りたいんだ? それは私が知ってしまって良いことなのか?
「お待たせしました」
「何コレ?」
「ストローベリーパフェ。嫌い?」
「いや、嫌いじゃないが……」
「そっか、良かった。俺は甘いのあんまり好きじゃ無いからコーヒーだけど」
弱ったな。今はコイツの考えも全く読めない。とりあえずパフェでも食べれ
ばいいのか? 訳も分らず私がパフェを口に運ぶと、ナナミの方から音が鳴
る。結構な数聞いて、聞き覚えのあるコレはナナミ携帯の撮影音。
「なんだ?」
「いや今日は、可愛かったからつい。ハンチングも良いけど何よりメガネが魅
力的だよね。」
「別に今日は楽しみにしていなかったし、お洒落もしてないからな」
「えっ? 何も言ってないけど、でも今日は俺的にかなりの上位だよ」
「ふーん。ちなみに一位はどんな、誰だ?」
「秘密」
「一回携帯貸せ。フォルダーを見せろ」
「ちょっとダメだってば」
ナナミが抵抗するから、私と取り合う形になって、携帯を落としてしまう。
そこに映った待ち受けの画像を見て、フォルダーを見る必要は無くなってしま
った。こんな時私はどんな顔をすればいいんんだろう? シ○ジ君ので正解
か?
「それで静の事だけどな」
さりげなく携帯をしまって、何事も無かったように本題に入るナナミ。
「あっ流すんだ。お前の待ち受けが、最初に会った時の、お前のネクタイでリ
ボン代わりにしている私の写真なのは流すんだ」
「いや、流すでしょう。お互い何も見なかった事にしようよ。掘り下げてもお
互い気まずくなるだけだよ」
「いや、私は嬉しいよ」
今日はツイて無い一日になるかと思ったけど、どうやらそうでも無いようだ
な。前は無関心だったのに、私服も褒められたしな。
「コレは、俺しか知らないお前だからって言う意味で……他意は無いぞ」
可愛いなぁ。感情を読めるのも悪くない。
「わかったから、良いぞ話始めて」
「あぁ、それで静なんだかな、さっき見た通り、弟さんが事故に遭って今は入
院している。それだけなら良くは……無いが、まだマシだったんだがな、弟さ
んはどうも打ち所が悪かったみたいで、事故遭ってから今日までまだ一度も目
を覚ましていないんだ」
「助かる見込みは?」
「今の所は絶望的。医師からは、あまり期待しないでくれと、伝えられている
らしい」
「大体の事は解った。それでそれがお前となんの関係持つ?」
「セツナも見たことあるんだろう? 壊れかけた静の事は」
「あぁ。まぁ弟がそんな状態ならおかしくなってもしょうが無いな。やっと理
由が分ったよ」
「俺がその状態の静に会ったのは中学の時なんだか、俺はアンタや旦那の様に
粋狂じゃないから、普段なら気にもしなかったんだろうが、俺もちょっと辛い
事の後で、参ってて、お互い『代わり』を探してたんだ」
「バカが……誰かが誰かの代わりなんて務まる訳無いだろう」
「それも、お互い解っていたんだ。でも俺も静も互いに依存した。最初は、悩
みの相談や愚痴の言い合いの様な、傷の舐め合いだったよ。お互いに別の人物
を映しながらね。只、俺はそうしているウチに少しずつ癒やされていって、依
存したままだったけど、次第に「黒川静」という一人の女性に惹かれていっ
た。でも俺には静を救うような事は出来なくて、次第に静は完全に俺と弟を一
緒に思い始めた」
「そうか私の見ていない過去の先にそんなことが」
「見なくて正解。今思えば俺は本当に愚かだった。もし見ていたらお前は俺を
軽蔑するさ」
何があったか解らない私には何も言えないが、もう少し私を信頼して欲しい
モノだな。
「あれ? 会長と七海じゃあ無い。こんなところで珍しいわね」
シズカが窓の外から私達を見つけて店内に入ってくる。
「もしかしてデートですか?」
さっきの病室でのやりとりはなんだったんだ? ちゃんと「七海」と呼んで
いたが。
「シズカお前コイツが誰だか分るのか?」
当然の様にナナミの隣に座るシズカ。に問いただす。さっきのはなんだった
んだ?
「何を言ってるんですか? この子は可愛い私の弟の彰ですよ。会長こそ休日
に出かけるような仲だったなんて――アレ、私、なんか」
弟の彰? そう言ってから頭を抑えて少し辛そうににするシズカ。どういう
事だ?
「アラ?七海今日は会長とデートなの? 妬けちゃうわね。会長ばっかりずる
いわ」
「お前が今日は弟と出かけると言って断ったんだろう」
「そうだったわね。私は今日彰と病院に、アレ? なんで私病院なんかに?」
また頭を抑え苦痛の色を浮かべるシズカ。 さっきからお前達は何を言って
いる? 私がおかしいのか?
「アレ、貴方たしか右利きだったわよね。この席だと私と腕がぶつかるはずな
のに」
「僕だってドリンクぐらいは左手で飲めるよ。箸を使う訳じゃないんだから。
僕が左でカップを取れば姉さんとはぶつからないだろう?」
どうゆう事だ。お前等は利き腕が同じだから毎日隣の席に座るんだぞ。それ
にナナミお前は今何て呼んだ?
「七海は相変わらず、ブラックなのね。アレ――彰はブラック飲めたかしら?
――七海は元から左利きよね。アレ――私どうして――」
「静今日はもう帰った方がいい。顔色凄い悪いぞ。お前の分も払っておくか
ら、今日はもう帰って休め。な?」
「えぇ。そうさせて貰うわ。ごめんなさい。少し疲れたみたい」
シズカはそう言って力無く立つと、行ってしまった。
「大丈夫なのか? 一人で帰して?」
「俺が居たから混乱しただけだ。俺が居なければ正常に戻る」
「今のといい、病院の時といい、アレはなんだ?」
明らかに異常だろう? 弟は病室で寝ているし、ここ居るのは間違いなく私
の、私のナナミだ。
「正直言うとな、俺にもわからん」
「わからない?」
「大きなショックや過去のトラウマで、記憶障害や解離性同一性障害なんかに
に成る事ってあるだろ? たぶん似たようなモノだと思うんだけどな」
「記憶喪失や多重人格とは少し違う気がするが」
「俺にも良くわからん。そして静本人は自覚してないしな」
「医師に相談した事は」
「そいつは自殺行為だろ? それには先ず「貴方の弟は植物状態で、助かる見
込みがありません」って事を認めさせなきゃなんねぇ。それに耐えられるよう
なら最初からこうなっちゃいない」
確実に壊れるぞ。最悪後を追いかねん。と、後に繋げるナナミ。
「まぁでも、結構俺が静を見てきて解ったことがあるんだ。まず、意外と静の
ご都合主義で脳内保管されてるみたいでな。そもそも弟は俺より一個下らし
い。だから、同じ学校に通ってない。そのために学校に居るときは俺を『七
海』として捉えている」
「まぁ学校では私達から見てもなんの違和感も感じられないしな」
「後は、俺との関わりが深い人物。弟より俺を連想する人物つまり、アンタ
や、智也とかだな。と一緒に居る時も同様」
「成る程。なら私達が今まで誰も気づかないのは無理は無いな」
「只、俺は水筒みたいな物でね。病院で本物の弟に話しかけるのを聞くと、俺
に関する内容が多いんだ。でもそれが全部弟がやったように話すんだ。「彰と
市川先輩は本当によく喧嘩してるわよね」みたいに。普段は俺が弟になってい
て。弟に会っているときは弟が俺になっている。俺に思い出をためてソレを弟
に与えているんだ」
「でも弟は高校生じゃないんだろ? 明らかに矛盾が生じるじゃないか」
「だからそこは静が脳内でご都合主義に編集しているのさ。矛盾が生じた物は
寝て起きれば忘れる。今日みたいなのとかね。自分を護るために無意識にこの
システムを作動させている」
「それじゃあこのまま行けばお前はいつか静の中で完全に消えて、弟の彰にな
ってしまうじゃないか」
「あぁ。おそらく弟の身に何かあってもそうなるだろうね。弟が奇跡的に目を
覚ませば俺は最後の矛盾として静の記憶から消えるだろうね」
「お前はそれでいいのか?」
「前に言った通り、彼女は俺を見ていない、俺に出会って無い。それで静が幸
せならそれでいい?」
「それはあまりにも寂しすぎないか?」
「静を責めるつもりは無い、俺も彼女に依存したし救われた。だからこれは俺
からの恩返し、かな?」
「お前が納得しているならそれでいい」
どうやらお前は昔からそういう性格のようだしな。
「でもやっぱり、ハッピーエンド的には、弟さんが助かるのが一番でしょ?
色々探してみたんだけど見つからなかった。どうも脳の一部に障害があるみた
いで、『脳の働きを助ける機械でも埋め込まないと』助からないらしい」
「お前やる気じゃないだろうな? 私達はコレが無くなれば死ぬんだぞ」
少し、怒気を含めた声で、ナナミを睨む。
「出来るのなら、もうやっている。そしてお前と出会う事も無かっただろう。
でも知っての通り、コレの成功率は恐ろしく低いんでね。俺が知る限り二人し
かいない」
出来たならやってたか……うん。もう限界。今日は朝から我慢してたもん。
ちょっとお説教だな。コレは。
「これから少し付き合え」
「ん? 買い物?」
「良いから。今日は今まで私が付き合ったんだ。今度はお前が付き合え」
「? 別に構わないけど、どこへ」
「いいから来い」
私は強引にナナミを引きずりながらファミレスを後にした。
私は只ひたすらに無言でナナミを引っ張り、ココまで連れてくる。到着した
ところで手を離すと、バランスを崩してしまったようだ。
「ここはどこ?」
「私の家」
「セツナなにげにお嬢様?」
「んー。と言うかこの家はとある外国の金持ちが別荘にしていたのを譲り受け
たらしい。私を引き取る少し前位だったと聞いている」
「成る程。だからこんな貴族のお屋敷みたいなのね」
「大神の家ほどじゃないだろう?」
「アレは年寄りの道楽」
「まぁいいとにかく入れ」
私は玄関を開けてナナミを招き入れる。ここに人を入れるのは始めてか?
アイツも屋敷の中には入ってこなかったからな。
「これで一人暮らしだと何かと持て余すが、まぁいくつかは、おじいちゃん達
が簡単な研究施設として使っていたのを、そのままにしてあったりもするんだ
が……とりあえず私の部屋に案内しよう」
「どっちかつーとその研究室のが興味あるんだけど」
コイツは年頃の女の子の、私の部屋より、研究室の方が興味あると言うの
か?
「なにその顔?」
「別に。まぁついでに見せてやるさ」
「ホラ、ここが研究室だ。まぁ機材も余りないしここでは大した実験は出来な
いがな」
私は研究所や似たような施設には、それなりにトラウマがあるので、中には
入らず部屋の入り口で待っていたが、ナナミはまるで、少年の様にはしゃいで
鼻歌を歌いながら、赤褐色の粉末を容器に入れ、財布から一円玉を取り出して
――
「待て待て待て待て!何、少年がガ○プラ作るテンションで鼻歌交じりに爆弾
作ろうとしている!」
ナナミの手を掴んで無理矢理止めさせる。私じゃなかったら気づく事も出来
たかどうか。しかも量に容赦も躊躇いも無い。どこまで吹っ飛ばす気だ。
「俺さ、研究所出た後、施設で過ごして、しばらくしたらまた別の研究所に居
た時があるんだよ。その時に最初に教えて貰ったのがコレの作り方なんだ。コ
レ持ってると落ち着くんだよね」
「そんな初めて買って貰ったぬいぐるみみたいに言われても爆弾だから、ダメ
だから」
「入れたね。『研究所』」
「えっ?」
「場所も違うし、規模も全然だけどさ、ちゃんと自分から。俺が言うのもなん
だけどさ、あんまソレばっかに囚われてるのも良くないと思うぜ」
コイツは……私が説教してやろうと思って連れてきたのに、逆に教えられて
しまったか。本当に意地悪な奴だ。
「セツナ折角研究室着たんだから白衣着ないの? 白衣ー」
「なんだお前、白衣萌えだったのか?」
「いや、白衣着てる人を見ると色々なトラウマを思い出す」
「じゃあ止めておけよ。誰も得しない」
「セツナ、似合うと思って」
だから純粋にそういう事言うの反則だって。思いも伝わってくるから。
「こ、今度、機会があれば、な。いい加減、私の部屋に行くぞ」
私は、少しぶっきらっぼうに話を終わらせて、ナナミが付いてくるのを確認
して、自分の部屋に向かった。
私は部屋に入るなりベッドにダイブした。今日はパンツルックだから後ろか
ら付いてくる奴の心配は無い。
「やるならスカートでやれよ。サービスにならん」
「お前も私の心が読めるのか?」
「ん? いや、偶然噛み合ったか?」
「まぁいい。そんなところに立ってないでこっちに来たらどうだ?」
「こっちって、ベッドにか?」
「なんだ照れてるのか? 意外にウブなんだな。お前もまだまだ子供だな」
「別にそうゆんじゃないけど、無防備なんだな」
私は少しからかうように様に、母親が子供を呼ぶ見たく両手を広げて言って
やった。
「おいで」
――なんだコレ? ナナミから日頃感じてるのとは違う、純粋で、無垢で、ど
こか暖かくて微笑ましいような、初めてナナミから感じる感情。
私は一瞬の内にナナミに抱きつかれ、押し倒されていた。
「えっ? ちょっ、何?」
「んーーー」
押し倒されたと言っても、その後襲われたりする訳でも無く、まるで猫がじ
ゃれるように甘えてくるだけ。……思考はなんかよく読めない。
「どうしたんだ? イキナリ?」
「ん! あ、う、悪い……」
私は別に怒ってなどいなかったのだが、急に我に返ったように私から離れ
て、反省している。
「何だ今のは?」
「えーと、見なかった事に」
「お前たまに、て言うか、毎回、性格替わるというか、キャラを使い分けてる
と言うか……」
私が上手く言葉に出来ずに居ると、汲み取ってくれたのか、向こうから話し
てくれた。
「俺さ、視たと思うけど、いろんな所にたらい回しされて生きてきたんだよ。
その内、相手によって相応しいキャラを演じる事を憶えたんだ。さっきも上手
く弟できてただろ?」
それはやっぱり、自分が無いって事で、心が無いって事で、凄く悲しいこ事
で、やっぱりお説教かな……
「まぁ冗談。ある程度必要な時は相手に合わせるけど、基本的には自分で居る
つもり。……でもたまに解らなくなるんだよな。本当の自分がなんなのかさ。
だからお前は好き。本当の俺の声聞いてくれるから」
お説教モードに入ろうとしたら、不意打ち喰らった。
「告白?」
「ノーカン」
「お前もう結構な回数告白してると思うぞ。後、恋人同士がやるような事も」
「それは、お互い様じゃない?」
それは、だって、二人居なきゃ出来ないし。
「て言うか、今こうして、お前の部屋に居る理由は?」
「あーそれは、だなぁ」
お説教と言う名の元、慰めてやろうかと思ったんだが(言っておくが、変な
意味じゃあ無いぞ)それも必要無さそうだしな。
「んー。、寝るか」
「は?」
「お前PCと同じで手動でシャットダウンしないと寝られないんだろ? と言っ
ても脳でチップに命令するわけだが、夜は普通の人と同じで脳を休め無きゃい
けない。だからこの操作が難しくなる。だから昼間寝る。そうだろ?」
「只の言い訳だけどね。やろうと思えばお前みたいに出来ないわけじゃない。
本当は怖いだけだよ夜眠るのが。トラウマさ」
「だから今から寝るぞ。丁度お昼寝時だし、私も一緒だ。安心して寝られるだ
ろう」
「お前の部屋で? お前のベッドで? お前と一緒に? 俺が寝る? ちなみ
に一人暮らし、と」
「何か不満か?」
「いえ、じゃあ遠慮無くいただきます」
「いただきます? なんか違くないか? コラ!何故服を脱がそうとする?
止めろ」
さっきの小動物的な感じでは無く、獣、寧ろケダモノの様に襲いかかってく
るナナミをとりあえず鉄拳制裁。
「勘違いするな。只の添い寝だけだ」
「それも結構な事だと思うけどな」
「本気でやる気が無いならあんまり、そうゆう事するな。……私もお前だと流
されてしまいそうになる」
(あーもう。だからそうゆの反則だっての)
「すまん。今のは私が悪かった」
なんか凄いナナミの気持ちが聞こえてくる。たぶん今の私、顔真っ赤だ。今
コイツに甘い言葉とか囁かれたりしたら、たぶん流されちゃうだろうなー。
「そんな何度も可愛い、可愛い言うな! もうスリープモード入れ!」
「言ってないし! 勝手に読むな。もう寝る。……ん」
チップを制御したのだろう。ナナミの思考が落ち着くと言うより無くなる。
「お前スリープモードとかじゃなくて、完全に電源OFFにしてるか? ブレー
カー落とすみたいに」
「コレしかやり方知らん」
「ソレは夜やったら起動しなくなるな」
「ゴメン。なんかもう限界。セツナのベッド凄いお前の良い匂いして、眠い」
「あんまり嗅ぐな。恥ずかしいだろ」
「セツナ。……手」
「ホラ。お前寝る時凄い甘えん坊だよな」
そんな甘えん坊の手を取って握ってやる。お互い無意識に指を絡ませるのは
慣れてしまったからだろうか?
「オヤスミ」
「あぁ。おやすみ」
すぐに眠ってしまったナナミの無防備な寝顔を少し眺めていると、私にも睡
魔が襲ってきていつの間にか眠ってしまっていた。
『新入生歓迎会を始める前にココで一つ、生徒会から連絡が在ります。新しく
生徒会の会計として一年生の東条七海君が生徒会入りしましたので報告を。で
は七海君一言……まぁ入学式に代表挨拶をすっぽかした彼がこの場に居るはず
も無く、代わりに会長から挨拶を……皆さん御存知の通り彼女も居るわけが無
いわけで。……はぁ僕もいい加減怒って良いかな?』
体育館からどうでもいい男の、俺には何の関係も声が響いてくる。俺は勿論
いつもの場所。
「お前呼ばれてるぞ。関係無くないじゃないか」
相変わらずセツナは人が考えてる事、というか地の文を読んで話しかけてく
る。ちなみに今俺はセツナの膝枕。最近これ位はデフォである。ラヴラヴだか
らな。
「お前もな。何故俺が奴に呼ばれて行かねばにゃらん」
セツナに頬を抓られる。コークスクリューも随分可愛くなったものだ。
「ラ、ラヴラヴとかじゃないもん。あ、後可愛いとか言うな」
だから言って無いし。まぁ今の俺にはそんな事よりも、全校集会よりも、重
大な悩みが在るのだ。言いたい事が在るのは分っている。皆さんも思っている
事だろう「惚れた女と一緒に寝て何にもしないってどんだけヘタレなんだ
よ!!」と。俺だって絶賛後悔の無限ループ中だよ。
「お前あれからソレばっか言っているな。いい加減聞き飽きたぞ」
「だから、言ってねぇって。勝手にお前が読んでるだけだろう」
「惚れた女とかあんまり言うな。こっちはどうゆう反応すれば良いんだ?」
そっちかよ。まぁ俺、最初から好きとか嫌いとか相手に隠さないから読まれ
ても関係無いんだけど。読んだなら察して誘って……照れてた顔が鬼の形相に
なったから、これ以上は止めておこう。
「それは聞き飽きたから、いい加減ちゃんとした告白が聞きたいなぁ。なん
て」
こっちの気も知らないで。今言ったって俺が惨めなだけだろうが。
「旦那に勝てたら、言ってやるよ。よっと」
俺はセツナにそう伝えると、起き上がってそのまま下に飛び降り、体育館に
向かい、予定通り襲撃作戦に入る。しかし、何故だかいつも以上の戦闘力を持
っていた副会長に、フランスパンの突撃も俺のえくすかりばーでの奇襲も成功
しなかった。
ちなみにこの日は終業式。何故そんな日に新入生歓迎会をと思ったが、後か
ら聞くと、例年通りならば四月に予定されていたのだが、今年はやる気の無い
生徒会長が原因で在るようだ。
終業式と言う事は勿論この後は夏休み。俺は夏休みなど何もせず無意味に過
ごして居ると思いの方も多いだろうが、俺の夏休みは毎年忙しい。俺達の児童
施設は無くなってしまったが、まだ児童施設も親の居ない子もたくさん存在す
る。キャラと違うのは承知の上だが、俺は毎年夏休みを使って、智也と共にそ
ういった施設を手伝いに行くのだ。後は個人的な用もいくつかあって、夏休み
は大変忙しかったので一万五千回もループなどせず一回で終わった。皆さんが
他人の夏休みを見せられる辛さは理解しているので、この事は省略する事にす
る。そしてこの物語は秋を通り超して冬に入る。と言うよりぶっちゃけ巻きに
入る。ちゃんと計画せずに書くからこうゆう事になるのだ。
ここまでの過程を一気に飛ばした結果、入学式直後だった、時間はいつの間
にか卒業式近い季節になっている。こんな時期は誰だって暖房器具が欲しくな
る。
「つー訳でハロゲン。なんかヤレ」
「どーゆ訳だよ。暇ならいつもみたいに寝てれば良いじゃねぇか」
LHR。いつもの様に黒板にでかでかと自習と書いてある為、クラスの皆は思
い思いに談笑をしている。担任である美鈴が寝ている姿が見えない以外の事
は、いつもと変わらぬ光景である。
「なんか胸騒ぎがすんだよ。きな臭いっつーかさ。美鈴は?」
「美鈴ねぇなら、星佳さんと白衣を着た科学者っぽい人と話していたのを見た
けど」
「謎の科学者が突如来襲。この学校を巨大な実験に使うとか! 確かにきな臭
くなってきたな」
「いや、たぶん学校関係ねぇよ。あの二人本職は名のある科学者だから個人的
にだろ。俺の感じたきな臭いは、少し嫌いな臭いがした気がしただけだ。非日
常を望むならお前は先ずインコでも飼うことから始めろ」
珍しいな。もう一線を退いてから大分立つというのに、今更星佳に? 論文
に口添えでもして貰いに来たのだろうか? まぁどうでもいいか。そんなこと
より俺にはもう時間が無い。考えねば成らんことは他に在る。
「なぁハロゲン、やっぱ告白するなら卒業式か?」
「定番だなぁ。……いやて言うかサラッと言ったけどお前告白するのか
よ!?」
「お前が恋愛なんて……相手は茜か? 昔からの親友の恋だ相談ぐらい乗る
よ」
「だからお前には相談しないんだ。と、言う事で昔からの友人である茜と、ラ
ブコメアニメのバイブルであるハロゲン。相談に乗れ」
「智也は仕方無いよ。まぁ確かにこたつ君はチャラそうだもんね」
「だから俺はチャラくもヤンキーでも無いって。んで相手は? 俺等の知って
る人か?」
「あぁ、セツナ。ちなみにその前に無駄に爽やかな壁が立ち塞がっている」
「会長? 黒川先輩か茜だと思ってたけど」
もうお前は黙っててくれ。と言うのも面倒だからコイツは無視。
「相手が生徒会長なら、やっぱり会長就任式の引き継ぎ……何てモンはウチの
学校には無いから、卒業式の在校生代表の挨拶とか? お前役員ならそれぐら
い出来るだろ?」
「それ、失敗するよね? お前が一番良く分ってるよね? 本家でも完璧にス
ルーされただろうが」
「七海はこの学校に桜の木があるの知ってる?」
何だイキナリ? どこの学校にも桜の木ぐらい在るだろう。
「あっ! お前憶えてないか? 星佳さんがこの学校作るときに植えた巨大な
桜の木」
あーそう言えば「学校なら恋にまつわる伝説の桜の木が無いとね」とか言っ
てたな。
「そこで決まりだよ七海。卒業式の日に雪那先輩を呼び出してアタッーク」
そこでチャイムが鳴った。今日の授業はこれで終わりである。そこはたとな
く不安なので続きは本人を眺めながら考えよう。直接聞くのも良い。どうせ読
まれているのだろうしな。
俺は三人に挨拶をするといつもの様に生徒会室に向かう。気のせいだと思っ
てたけどやっぱりなんか不愉快な臭いがするな。何の研究をしている科学者な
んだ? まぁいい。生徒会室の扉を開けると、旦那と静の二人だけで、セツナ
は居なかった。俺が部屋に入るとすぐに旦那に話しかけられた。
「今日は来賓が来てるから生徒会用のネクタイちゃんとしてくれよ。まぁもっ
とも雪那が対応しているから問題ないと思うけどね」
「来賓ってどっかの科学者か?」
「よく知っているね。さっき学園長と新堂先生と一緒に僕のクラスに来てね。
雪那が呼ばれて行ったよ。何の話だろうね?」
「会長は頭も良いし留学の話とかかしら?」
ココに科学者が来た? 何故その時に気づかなかった? 星佳は既に一線を
退いてる? 関係無い。 学校には用は無い? 当前だ。平和ボケでもした
か? それとも色ボケか? どっちにしろ情けねぇ。アイツ等が興味有るのは
何時だってモルモットの方だろうが! 全てを理解して俺は思いっきり壁を叩
く。後手に回った。でも絶対負けねぇ。
「どうしたのよイキナリ?」
「どこかに用事でも思い出したかい?」
飛び出そうとした俺に声が掛る。二人を忘れていた。今は話している時間が
無い。
「悪いけど今日は二人とももう帰ってくれ。急用ができた」
「ソレは、この前の話と……雪那と関係があるのかい?」
「あぁ。だが今は説明している時間が無い。今度全部説明するから……」
俺がコイツに? ソレは俺がやることじゃないだろう。セツナ自身が向き合
わなきゃならない事だ。俺が出しゃばって良い事じゃない。
「……知りたいのなら直接セツナに聞け。俺が話す事じゃない。お前から聞く
なり、セツナから話して来るのを待つなり好きにしろ。だから今は、今だけは
俺に任せてくれ。セツナだけは何があっても守るから、だから、頼む……」
この人が俺なんかよりずっとセツナと付き合いが長いのは知ってる。セツナ
を助けた事も。ずっと守ってきた事も。でも今回は俺じゃなきゃダメなんだ。
「分った。どうやら今回は僕じゃ力不足みたいだね。キミに任せるよ」
いい人過ぎるんだよアンタは。どうやって勝てば良いんだが。
「サンキュ旦那」
「七海?」
「静。コレは『俺の事』だ。お前は気にしなくて良い。忘れると良い」
「ええ。分ったわ。貴方がそう言うのなら」
「雪那を頼んだよ」
俺は軽く手を上げて応え、生徒会室を後にする。セツナ達が居るとしたら応
接室か。何をしに来たか知らないが、これ以上俺の物を奪う気なら容赦なく潰
す!!
応接室の前に立つ。ココに居るな。確信と共にノックもせずにドアを思いっ
きり開ける。中に居たのは、星佳に美鈴、それにセツナ。その対岸には左右に
黒服の男を立たせてある。ボディガードだろうか? まぁ研究所破壊する様な
相手に会いに来るんだ。当然の用意だな。見覚えの無い白衣を着た、まぁ助手
かなんかだろう。どうでもいい。俺の目線は最後に一人の男で止まる。髭を生
やし白髪の混じった髪に白衣を着た壮年の科学者。俺が一生掛けても忘れられ
ない人物の一人。
「ハロー東条センセ、お久しぶり」
「「「七海!?(ちゃん)」」」
最初に三人に驚かれる。この反応だとやっぱり俺には隠しておきたかったみ
たいだね。向こうはまだ気づかないか。まっ多少なりとは変わってるしね。
「あれ? 憶えてない? 貴方の可愛いモルモット七海君ですよぉ」
「まさか、七海……なのか?」
「非道いなぁ。あんなに毎日弄くり回してたのに忘れちゃったんですかぁ?」
「いや、お前と再び会えるとは思って無くてな」
「コッチだってテメェの面なんざ二度と見たく無かったんだけどね。今日は一
体何の用で? 昔はロリコンでしたが今度は女子高生に鞍替えですか?」
「違うの七海ちゃん落ち着いて。貴方の気持ちも分るけど、今日は貴方や雪那
ちゃんの将来に関わることなの」
星佳に止められる。将来に関わる事? 何が違うのか解らないのだが? こ
こぞとばかりに助手らしき男が話始める。
「そうです。イキナリ現れたので話しが止められてしまいましたが、そちらの
清美さんの様に頭の中にCIを持つ人は――」
「CIが人の成長に追いつけずに機能を停止、あるいは破損、バグの発生……つ
まりは将来的にはCIを持つ人間の死を意味する。って言うのならもう解決して
るんでお引き取り願えますか? それに伴う実験に協力しろって言うなら残念
ながら死んでください」
が、つまらないので途中で乗っ取ってやる。
「何故貴様がその事を!?」
「CIを脳に埋め込む実験は施設事、『事故』により消滅。その後、軍事国家に
でも飛んで最強の兵士を作る実験でもしてたか? でも成功例は出なかった。
成人だと、記憶などの情報量が多すぎてさっきいったように、CIがぶっ壊れ
る。子供だと、CIの情報量を脳が処理できずに脳が壊れる。コレはね子供でCI
の演算処理できる一種の天才でしか成功しない実験なんだよ。何人も壊してソ
レにやっと気づき、今度は数少ない成功例のセツナをまた弄ろうってか?」
「そこまで知ってるとは、七海お前は……」
「そうだよ。自分で自分を弄ったよ。アンタ等が色んな子供を壊してる間に、
俺は成功例の『七海』を弄れたからな。こっちの方が進んでるみたいだね。後
このCI実験体に多く見られる肉体成長の低下も克服してある。素手でアンタの
心臓をえぐり出すくらいは簡単にね。試してみる?」
瞬間黒服が懐に手を入れたので、一瞬で距離を詰め、二人の両腕をあり得な
い方向にへし折る。
「解った? 玩具を打つより早くお人形を壊すくらいは簡単なんだよ。次はア
ンタ等――」
「止めろ馬鹿者!!」
美鈴の叫びが響く。
「私はお前が何かを壊す所を見たく無いんだ」
美鈴の願いに比べれば俺の私怨なんてどうでも良いことだな。俺は美鈴の所
に行き、素直に話しを聞くことにした。
「七海の話は事実の様だ。どうやら、私達の研究よりも進んでることは確か
だ。しかし、それでも君達が近い将来危険だと言うのは変わらないだろう」
「だから解決したってば。簡単に方法だけ言うのなら、CIでは無くて、脳の方
を弄る。脳に本来は無い、CIの部屋を作る。詳しい説明は省くが、コレで解決
だ。そのため薬も完成してある」
「まさか、そこまで進んでるとは……しかしそのことが解決したとしてもま
だ、未知の事が多いはずだ。ちゃんとした施設で調べた方がいい」
「アンタも人弄るのが好きだね」
「私は君達の事を純粋に考えているのだよ。そう思われるのも無理は無いが
な」
「Dr.東条。今は貴方の言葉を信じます。ですが、この子達を研究に協力させ
る事は出来ません。それにまだ子供達で実験を続けると言うのなら今度は完全
に消しますよ」
「私は正直他人なんざどうでもいい。アンタ等がどこで何をしようが、ソレで
誰かが不幸になろうが知ったことじゃない。只、私のたった一つの、唯一私の
持ち物であるコイツに触れたら、その時は世界だろうがなんだろうがぶっ壊
す!……それだけは憶えておけよ」
「さぁ。二人とも今日はもう帰っていいよ。後は大人のする事だから」
あんなドスを利かせられた後じゃあ、俺もセツナも従わざるを得ない。二人
で応接室を後にして生徒会室へ向かうことにした。
「凄かったな二人共」
「んー元からあんなだよ」
「お前もちょっと怖かった」
あー、それは失敗。マジで殺す気で行ったからな。怯えさせたかな?
「べ、別にだからと言って、お前の事を嫌いにならないぞ。私の為にしてくれ
た事だしな」
やっぱ俺、この人好きだなぁ。と思いながらさりげなーくセツナに後ろから
抱きつく。
「アリガト」
「甘えるな」
「あのさ、さっき言った事。俺等の頭の中のチップこれ元々、頭良くないと使
えないんだよ。科学者の子供みたいな生まれもってIQが高くないと。だから全
然セツナはズルくなんか無いよ」
「ソレを私を抱きしめながら言うお前は結構ズルイけどな」
「俺も科学者の子供なのかな? 興味無いけど」
「さっきの人、東条って呼ばれてたけど、お前と同じ名前なのは関係あるの
か?」
「あー、あれね。アレは俺の事を弄ってた研究所の責任者。たぶん研究所に俺
を売ったかなんかした、俺の親から聞いてたんだろう。アイツが俺の事を七海
って呼んでたからソレを名前にした。東条研究所の七海。お前みたいに恩人か
ら貰ったとか素敵な名前じゃないんだよ」
「よくソレを自分の名前に出来たな」
「んー。何でも良かったからな。それに昔は今よりも心が無かったから……」
セツナと話ながら歩いているとすぐに生徒会室に着く。生徒会室のドアを開
くとそこには予想外の人物が待っていた。
「やぁ。二人ともお帰り」
旦那!? わーお。意外と積極的なんだね。俺はセツナにしか解らない方法
で瞬時に伝える。
(セツナ。もしまだ話したくないのなら、俺の名前を、そしたら、誤魔化すな
りなんなり、どんな手を使おうが隠し通す。もし全てを話す覚悟なら旦那の名
前を、そしたら今日の所は俺は帰る)
少しの沈黙。
「……俊幸。待っていてくれたのか。すまないな」
「じゃあ俺は帰るよ。旦那あのさ……いや、やっぱり前話した事忘れてくれ。
アンタはアンタだスーパーマンじゃない。皆を救う必要なんて無い。素直に生
きればいいんだ」
「あぁ。僕なりの答えをだすよ」
後は、二人の事だ俺が口を出すことじゃない。知ってるからって、同じだか
らって偉そうに庇ったりしてもセツナの為になる訳じゃない。だから俺は、今
この場所には必要無い。でも部屋を出ようとして立ち止まる。
「あのさ、二人の友人つーか後輩の立場から言わせて貰うとさ、二人がどんな
答えを出してもそれは間違いじゃないと思う。どっちも責めないし、どっちも
悪くないと思う。だからさ変に取り繕ったり、嘘や隠したりせず、素直な答え
を出して欲しいかな」
「「ありがとう」」
二人から例を言われてしまった。今度こそホントに生徒会室を後にした。最
後に。
(頑張れ、セツナ)
今日は卒業式。当然の如く俺は式には参加していない。いつもと違うのは、
今日は例の桜の木の下に居るという所だろうか。
「お前は本当に出なくて良いのか?」
「卒業式よりもお前からの呼び出しの方が私には大事だよ。……最後だしな」
生徒会長で卒業生であるセツナと一緒に。
「代表挨拶は?」
「そんなの適任がいるだろう」
「それもそうだな」
あの後二人に何があったのかは分らないが、特に二人とも変わり無いところ
を見ると、全て話してもそのままの関係で居ることを選んだのかね? その辺
はさすがの一言に尽きる。旦那なら心配ないとは思って居たが。
「それで? こんな所に私を呼び出した理由は何なんだ?」
「あー。うん、告白」
「そうか」
「あんまり驚かないんだな」
「遅すぎる位だからな。待ちくたびれたよ」
「悪いな。あの関係が心地よくて、結局ここまで来ちまった。でも、最後だし
な」
「緊張してるのか?」
「告白ってなんて言ってすればいいのかな?」
「知るか! さっきのも告白と言えば告白だぞ。それでいいなら私も返事する
ぞ。早くしないと式が終わって皆来るぞ」
いや、やっぱりそこはちゃんとした方が良いよな。よしっ。軽く息を吐いて
気合いを入れる。
「セツナ。好きだよ。たぶん最初からずっと。でも、認めたくなくて、負けた
くなくて、ずっと逃げてたけど、だけどやっぱり重力みたいに惹かれていっ
た。大好きだよ。何も知らない俺に恋を教えてくれた貴女が。誰よりも」
セツナは俺の告白を受けて顔を赤くする。少し照れながら顔を近づけて、唇
を重ねる。
「ありがとう。コレは約束の私の初めてだ。私もお前が大好きだよ」
体育館から人が少しずつ出てくる。式が終わったんだろう。
「……でも、ゴメンな。お前の気持ちには応えられない」
「うん。知ってる。それでも、伝えたかったから、好きだったから」
「うん。ありがとう」
卒業生達の喧噪がココまで聞こえてくる。終わったんだな。
「早く行かないと無くなっちまうぞ。競争率高いんじゃ無い? 旦那の第二ボ
タン」
「大変だな。ウチはブレザーだから、第二ボタン無くなると、上着として致命
傷だから」
「何か不安?」
「私なんかでいいのかな?」
「さぁ? 俺はそのなんかな人にフラれたからな」
「うっ、ごめん」
別に俺の事なんか今気にする必要無いだろうに。ホントに俺には最強なの
に、旦那相手だとダメだな。
「わかんないけどさ。俺が好きになった人は、美人で完璧でたまに可愛くて、
とにかく凄い魅力的な人だったよ。だからさ少し勇気出してみたら? ダメだ
ったらフラれたモノ同士くっつく?」
「うん。ありがとう。そうだな、私には大好きなお前が居るしな。そっちの方
が良いのかも知れないしな。なんて言ってみたりして。行ってくるよ」
「おう。行ってこい!っとちょっと待って」
俺は自分の付けてるネクタイを外して、最初に会った時と同じ様に髪型をセ
ットしてネクタイをリボンの様に結ぶ。
「俺が知ってる最強のセツナ。今度こそ行ってこい!」
「……最後にこの前の奴やってくれないかな」
「頑張れ、セツナ!」
「うん、頑張る!」
今度は自分声に出してセツナを送り出してから、大の字に寝そべる。
「はぁ~かっこわりぃ」
フラれっちまったな。こうなるって分ってたのに、フラれるって分ってたの
に、この先は暗闇だって分ってたのに進んじまった。それ程に魅力的だったか
ら。
「負け戦はしない主義なんだけどな」
こんな所で何時までもこうやってても仕方無いな。生徒会で軽い後片付けの
仕事があったな。静を手伝いにでも行くか。そう思った時、丁度一組の男女が
来た。これから告白か?
「すんませんね。すぐ行くんで」
立ち上がり。桜の木を後にする。はぁ、かっこ悪。
特に探すこと無く静は体育館の舞台袖の奥の小部屋で作業をしていた。
「あら? 来てたの、珍しいわね。 てっきり貴方の事だから卒業式なんてサ
ボると思っていたわ」
「あぁ。生徒会の仕事があったからな」
「そう。会長にフラれて惨めな自分を私に慰めて貰いに来たのね」
話聞けよ。と、言う暇も無く、静は俺の事を抱きしめてくれる。
「俺はまたこうやって何かある度にお前に甘える。……最低、だな」
「私はいいわよ。只、貴方がずっと側に居てくれるだけで」
「側に居るよ。キミの夢が覚めるまでは」
「なぁにそれ? フフ、じゃあ新学期は二人で生徒会でも一緒にやりましょう
か」
「俺、次は生徒会やらないよ。元々やるつもり何て無かったし。静も生徒会な
んて辞めてさ、俺と放課後遊び行こうよ。そんでさ、思い出いっぱい作ろう。
忘れないように。……うんうん、忘れても、いいように」
「そうね。それも良いかもしれないわね」
俺と静はしばらくそのままで居た。今ままで通り、抱きしめてくれるのは静
だけで、俺は相変わらず、静を抱きしめる事は出来なかった。最初に会った時
から変わらない関係のまま。只俺は、受け止めて貰うだけだった。それに甘え
て依存していくんだ。これからも。
「そう言えば、生徒会室で待ってるから貴方に伝えてくれって、先輩から頼ま
れてたんだったわ」
「すさまじく行きたくねぇ」
「最後なんだから行ってらっしゃい。私はこれ片付けてもう帰るから」
静に言われて、仕方無く生徒会室の前に来る。ドアを開けると勿論、見飽き
た不愉快な爽やか顔がいるわけで。
「ご卒業オメデトウゴザイマス。あばよ」
「キミに祝って貰えるとは思って無かったよ。ありがとう。取りあえず座った
ら?」
「いや、帰るからいい」
「これでもキミには感謝してるんだよ。今日はそのお礼でもと思ってね」
ウルトラめんどくさいけど仕方無く椅子に座る。対面に座る男の制服のボタ
ンは何かに引っかけたのだろうか、ご丁寧に二番目だけが外れてる。
「なんだよ礼って? あの訳の分らん本刀ならいらねぇーぞ」
「!? それは困ったね」
マジでソレだったのかよ。超いらねーんだけど。
「冗談だよ。アレは僕の魂と繋がっていて、いつでも呼び出せるけど、決して
切り離せない物だからね」
「何その今更などうでも良い設定」
そんな雑談をしている間に旦那は自分のネクタイと校章のバッヂを外す。
「ネクタイは同じだけど、校章は会長と副会長のは違うんだよ。元々キミに渡
すつもりだったんだけど、結局役職は変わらずじまいだったからね」
「俺生徒会続ける気無いんだけど」
「構わないよ。次の役員には新しいのがいくしね。コレは僕のをキミに貰って
欲しいんだよ。受け取ってくれるかい?」
最後の最後まで勝てなかったのに、コレを受け取れってか? ホントにどこ
まで格好いいんだか。
「なぁ旦那。……いや、先輩。俺はこんな性格だしよ、今まで俺に先輩なんて
モンはいなかった。でも先輩は思いっきり、戦ってくれて。正反対にいる俺に
色んな事を教えてくれた。これは先輩から貰った色んな物を形として受け取る
よ。その、なんか、照れるけど、ありがとう、ございました」
「いや、僕の方もキミに色々助けられたよ。ありがとう」
「こっちもその、礼……いや、餞別かな?」
「コレは?」
俺は、カプセル状の薬と別の薬品の入った注射器の様な器具を渡す。例の近
い将来異常を起こすであろうセツナの身体に効く薬だ。
「まぁ詳しい説明は省くが、この先セツナに異変が起ったら使ってくれ。出来
れば先に俺に相談してからにして欲しいんだが、まぁ取りあえずなんかあった
ら使えば大丈夫だ」
「何故コレを僕に?」
「えっ? 何でって? 必要だろ?」
「確かに必要だけど、雪那に直接渡せばいいだろう? 異常が出るまでキミが
持ってても良いし」
確かに、なんで渡したんだろうな? セツナにはフラれたから関係無いと言
えばもう関係ない。いや、だからか。だからセツナじゃなくて旦那に渡したん
だ。コレまでの礼として。
「だから餞別だよ。セツナは関係無い。俺はアンタにソレを渡したんだ。後は
どう使おうがアンタの自由だ」
「分ったよ。ありがとう。確かに受け取ったよ」
「じゃあな。もう行くぞ。せいぜいお幸せに」
「あぁ。僕はもう少しココに居るよ。思い入れがあるからね」
生徒会室を後にする。ホントに最後の最後の最後まで勝てなかったな。
結局ココに来てしまう。何をするわけでも無く、何の用が有るという訳でも
無い。ココは落ち着く、だから好き。それは誰も居ないから?
「やっぱり俺は独りがお似合いなのかね」
いつもの様に紙飛行機を作る。コレでは飛べないと分っていながら飛ばす。
落ちると決まっているのに、それでももしかしたら結果が変わるかも知れない
と、希望を込めてあがく。
「まるで今の俺みたいだな」
せめて紙飛行機だけでも、そんな思いを込めて紙飛行機を飛ばす。
「紙飛行機を飛ばすと幸せも一緒に飛んでいくぞ」
例の如く飛ばせなかった。
「違うよ。きっと紙飛行機はその人の幸せで飛ぶんだ。だから紙飛行機を上手
く飛ばせる人は幸せな証拠」
「お前は上手く飛ばせるのか?」
「いつも落ちるよ。特に今はフラれたばっかだしね」
「お前には、なにもして上げられ無かったな」
「いや、スゲーたくさんして貰ったよ。ありがとう。ネクタイはそのお礼にや
るよ」
「じゃあ私はコレをやろう。生徒会長の校章だ。お礼というか、私の事忘れな
いでくれたら嬉しい」
「貰っとく。忘れないよ。きっと」
「なぁ。コレで満足か? 鏡の様な自分の姿を見せて、私の気持ちに気付かせ
る。自分の気持ちを犠牲にしてでも。……気づいてないと思ってたか? お前
にそっくりな私が」
「そんな格好いい物じゃないよ。只、本気で好きになっちゃっただけ。そした
らその人の幸せな顔が見たくなっただけ」
「本当にお前は私にそっくりだな。一目見たときから変わらず大っ嫌いだよ」
「俺も自分に似てるアンタが嫌いだよ。……だから、どうかお幸せに」
俺は紙飛行機を置いて立ち上がり、振り向かず屋上を後にする。
――サヨナラ。大嫌いで、大好きなセツナ。
紙飛行機を飛ばす――
僕はもう欠陥品じゃない。今日は遠くまで飛べそうだ。キミから貰った翼の
おかげで。でも本当はキミと一緒に飛びたかった。キミを飛ばせて上げたかっ
た。けど、僕だけが飛んでしまった。キミから貰った翼を使って。
僕は大空を飛ぶ――
あぁ、僕はどこまで飛んでいけるのだろうか? そしてキミは何時追いつい
てきてくれるのだろうか?
――アリガトウ。大嫌いで、大好きなナナミ。
Fin




