ホラー映画鑑賞 要視点
ホラー要素、どこいった…
夏と言えばホラーだろう、ということで、定番のホラー映画を借りに行った。
部屋の明かりを全部消して、テレビの音量を上げて、そのまま寝られるような状態で見ることにする。
俺も泉もホラー映画を怖がることはほとんどなく、大きな音にびっくりするか、逆に有りえない話に笑ってしまうタイプだ。
風呂上がりの泉を足の間に座らせて後ろから抱きしめると、ふわりと良い香りが鼻くすぐる。同じシャンプーを使っているはずなのに、泉が纏う香りはやたらと甘く感じた。
「要、みねぇの?」
首筋に顔をうずめる俺の頭をくすぐるように、泉の手がなでていく。繊細な指の動きにこのまま猫にでもなりたいと思ってしまった。
「見る」
「この体勢じゃ見にくくない?」
曖昧に返事をして、手にすりよる。ホラーもわりと好きだが、甘やかしてくる泉には負ける。
頭を撫でられるのに満足したので、今度はその手をとって唇を寄せた。ちゅ、とわざと音をたてて吸うと、もう一方の手で軽く頭を叩かれる。
「見てる間はいたずら禁止」
上目使いで言われたら聞くしかない。泉を抱え直して、テレビに向き合う。
映画は始まったばっかりで、ネコ目でショートカットの少女が友人と笑い合っている。美少女だけど、泉の方が綺麗だと思うのは恋人の欲目なんかではないと思う。
後ろから互いの頬をすり合わせる。男のクセにもちもちした肌を、とても気に入っている。
頭におかれたままだった手が、わがままを言う子供をなだめる様に撫でていく。この手は魔法使いみたいだ。伝わる体温のせいでもあるが、勝手に瞼がおちていく。
「眠いのか」
「んー…」
返事をすることすら億劫だった。映画の緊張感を煽る音楽でさえ、眠気を助長する。
結局瞼を持ち上げる事は叶わず、最後に泉のおやすみの声だけ拾って意識を手放した。
目を覚ますと、腕の中に愛おしい存在が収まっていた。そういえば背中から抱きしめた状態で寝てしまったのだったと思い出す。
寝起きのぼんやりした頭で昨晩の事を思いだしている内に、泉も目を覚ました。
「おはよう、昨日は悪かったな」
「はよ、疲れてるんなら言えよばか」
「疲れてたんではないけど」
ただ、泉が許すままに甘え倒しただけだ。映画はどうしたのかと聞くと、俺が寝てすぐに停止したらしかった。
「要と見たかったから」
「…そか」
嬉しすぎる言葉に、動きの遅かった寝起きの頭が止まる。代わりに温かい何かが胸に広がって、きゅうと締め付けられた。
触れるだけのキスを、ぷっくりした唇に落とす。次いで、瞼、額、鼻の頭に触れて、最後にもう一回、唇に吸いつくようにキスをした。
「要は今日、バイト何時から?」
「3時から。泉は?」
「今日はないよ。だから、今から映画の続き見よう。んで、夕飯は俺が作っとくから」
泉が夕飯を作ってくれると言うことはつまり。
「泊まってくれんの?」
「寂しがり屋な要のためにね」
俺の家に入り浸ってる泉だが、二日連続で泊まっていくことはあまりない。夜は基本的に家に帰ってしまう。
泉が言うとおり、俺は多分寂しがり屋なのだろう。だから泉を甘やかす事が好きだけど、甘やかされるのも好きだったりする。昨晩みたいにくっつくのは俺自身が、泉に甘えたいためだ。
「ほんと、要は俺がいないとだめだよね」
そんなことを言うくせに、泉はなんだか酷く満足気に笑ってみせた。
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