花火 要視点
「花火、しようぜ?」
そういって泉は、二人でやるには明らかに多い量の花火を掲げた。
夏の夜は気温が下がるといっても、結局暑いことに代わりがなくて、生暖かい空気が肌に触れる。そのことを不快に感じながら、無邪気な笑みを浮かべる泉を見て仕方ないと苦笑した。
暑がりの俺は、夏の外出を極力拒否したい。だけど花火を見て楽しそうにしてる泉が見れるのなら、それもそこまで苦にならない。
俺よりも低い位置にある泉の頭を軽くたたいて、少し落ち着くように促した。楽しそうなのは良いが、火を扱うのだからはしゃぎすぎるのは危険だ。
「何をやろう?」
「まぁ、無難に、ふつーのからで」
蝋燭に火をつけ、手持ち花火を渡してやる。俺自身が持ったことを確認してから、泉は花火を蝋燭に寄せた。
カラフルで明るい花火を見て、感嘆の声が上がる。あっという間に周りは煙だらけになって、泉の姿がみえにくくなった。それが気にいらなくて、泉の至近距離に移動する。風向きがかわった事もあって、今度は花火をしながらも泉の笑顔が見えた。
「なぁ、要!」
「ん?」
「花火、綺麗だな!」
そう言う泉の方が綺麗で、今の泉を見たら誰もが見惚れてしまいそうな顔をしていた。
「…そうだな」
めちゃくちゃ可愛くて、思わずレスポンスも遅れる。見慣れているはずの俺でさえ、相当なダメージを受けた。
ごまかすように次の花火に手を伸ばし、火をつける。暗い闇の中、花火の明かりに照らされる泉の白い肌が酷く目に毒だ。
つまり花火どころじゃないってこと。
実は泉と二人きりで花火をするのは初めてだった。クラスメイトと大人数でやったりはしたし、そのたびにはしゃぐ泉を見ていたけど、こんな肌が触れそうな程近くで花火をやったことはない。
それに俺が泉に手をだせない理由はもうない。今では普段から軽い接触が多くて、泉に触れていないと違和感すら感じる。気を抜けば、隣で笑う泉に勝手に手が伸びてしまいそうだ。
こんな可愛い恋人の姿を見て、何もするなという方が無理な話だろう。でも楽しんでる泉の邪魔をしたくない。
「…お前後で覚えてろよ」
「へ!?俺なんかしたか!?」
唐突な言葉に驚く恋人は無視して、手早く花火に火をつけていく。もはや俺の目的は花火を楽しむ事でなく、花火を早く消化する事となってきている。
早く終わらして泉に悪戯する。それしか頭にない。
ペースを上げる俺と、それを見て慌てる泉。
結局二人とも花火を楽しむとかではなく、次々と花火に火をつけていった。
「あつっ」
突然、泉が声を上げて花火を中断する。慌てたせいで、自分がサンダルだったことを忘れていたらしい。飛んだ火の粉が足に触れたようだった。
すぐさま花火をバケツに入れ、泉の脇に手を差し込み強制的にベンチに座らせる。
問答無用でサンダルを脱がせ、素足を自らの立てた膝に乗せると、わずかに赤くなっていることがわかった。
「要、だいじょうぶ」
「冷やすか?」
「いい、一瞬だけだから」
確かに大した怪我ではなさそうだった。これくらいなら跡になることもない。
「せかしたようで悪かった」
赤くなった足の甲に、唇を寄せる。軽く押し当て、舌を這わせていく。
「ちょ、何して」
「痛いか?」
「っ痛くないけど、やめ」
静止の声は無視した。我慢していたせいもあって、一度触れたら止まらない。指の間にも舌を這わせると、びくびくと泉の身体が震えた。
両手で押さえた唇から、押し殺せなかった声がこぼれ落ちていく。
その声が、更に俺を煽る。
わざと音を立てて指をしゃぶると、身体の震えが大きくなっていく。
「やぁ…っ」
潤んだ目が、俺を弱弱しく睨む。感じ始めた泉の姿は本当にエロい。ゾクリとしたものを感じて、これ以上したら俺もヤバいことを理解した。
ちゅぷ、と指を離して、わざとらしく首を傾げる。
「帰るか?」
とびっきり低く尋ねると、一も二もなく頷いた。バケツを片手に、息の荒い泉を支えると、
「かなめの、ばか」
小さく罵られた。
幼い子供が駄々をこねるような言い方も、俺にとっては十分煽るものなのだと、泉は知らない。
俺の頭の中はもう、泉を食らうことしか考えてないことも。
おまけ
泉「結局花火残ったじゃないか」
要「また今度、やればいいだろ?」
泉「…今度は絶対サンダルはかない」
要「チッ」
泉「(またやる気だったなこいつ)」
泉の弱点は指。足だけじゃなく手も。
要の弱点は泉バカなところ。