3 名付け親
何の前触れもなく、ドアは乱雑に開かれた。
「ジェイさん、また壊れちゃったよ。」
「はぁ、お前また壊したのか。どれだけ荒い使い方してるんだよ。」
「違うよ。ジェイさんがいつも面倒くさがって適当に直すからでしょ。」
「お前は本当に生意気なガキだな、ライ。」
そんな君とジェイさんのやり取りを見て、私は少し安心した。この人は子供が好きなんだなって直感したよ。
そういえば、君の壊れたオモチャをいつもジェイさんは楽しそうに直していた。あんなに機械につよいジェイさんが子供のオモチャを直せないはずはないんだけど、君のオモチャは本当によく壊れたよね。
きっと君に遊びに来てほしくてわざと壊れやすく直したんじゃないかなって私は今でも思っている。
しばらくそんなやり取りをしていると君は私に気付いた。
「ジェイさん。この子誰なの?」
「ちょっと材料の仕入れに向かった時にな。良いものを持ってたんで、拾ったんだ。」
そうジェイさんが言うと君は私を食い入るように見た。正直言うと物凄く苦手な目だった。本気でここから逃げ出したいと思うくらいの強い眼差しだった。
そして君は私に聞いた。
「ねぇ、名前は?」
「え?」
「名前だよ、名前。なんて呼べばいいか分からないと一緒に遊べないじゃん。」
そう聞かれて私は戸惑った。私は自分の名前がわからない。
両親を失ったのは記憶があるかないかくらい昔で、名前が分からない私に孤児院の人は死んだペットの名前をつけた。あんなセンスのない名前なら記号で呼ばれた方がマシってくらい私はその名前が気に入らなかった。
でも、そうしてしまったら私には名前はない。
興味津津に私の返答を待つ君の勢いに押されて、ペットの名前以外ならなんでもいいやと、投げやりになった私は思わず目の前の文字を読んだ。
「A…」
「エイ?君エイって言うんだ。呼びやすい名前だし気に入った。よろしく、エイ。」
それは、ジェイさんの棚に書かれた材料の品番だった。君の勢いに押されて、何も考えられなくなった私は物凄く投げやりに答えた。A-04と書かれていた最初のアルファベット「A」を君は「エイ」と勘違いした。
この時、私は早く君の尋問から逃れたくて仕方なかった。じゃなきゃ、流石の私でもこんな適当に自分の名前を決めたりしない。
でも、君はそんな私の様子を気にも止めず「どこから来たの?」「年はいくつ?」とか下らない質問を雨のように浴びせてきたね。
私はそんな君が煩わしくて仕方なかった。
でもね、今思えばこのエイって名前とても気に入ってるんだよ。呼びやすい、覚えやすい、書きやすいっていう三拍子揃った上にとっておきの理由がある。
それは、君が呼んでくれる名前だからだよ。




