1 少しだけ、君を忘れそうになってたよ
世の中、愛が全てとか、笑顔が人を救うとか言うけれど、冗談じゃない。
愛があったところでお腹は満たされないし、笑顔で溢れた所で過去は変えられない。
そんなの所詮戯言だなんて思ってた。というより、本気で信じてた。
今だって、愛と平和が世界を救うなんて信じてない。でも君の力だけは信じるよ。
君に初めて会ったのは太陽が照りつけるように暑い日だった。
親を亡くし孤児院に入り、そこでもいらないと言われた私にも引き取り手がついた。世の中のことなんかどうでもよくなって、不安でいっぱいになって、少しだけ希望を信じていた私を拾ってくれたのはジェイさんだった。
ジェイさんは職人だ。武器や機械など、鉄を扱うものならなんでも作ることができる。引き取られて初めて職場を見せてもらったときは本当に驚いた。もしかして殺されるかもしれないなんて脅えたりもした。
ジェイさんの職場に遊びにきた君に初めて会った時は驚いたよ。そういえば、君はあの時ブリキのオモチャを直してもらおうとしてたんだっけ。
まあ、そんなことはどうでもいい。あの時君は私を見て脅えることも、気を遣うこともなく自然に声をかけてくれたね。「君の名前は?」って。
あまりにも唐突で川を流れる水のようにさらっと君に尋ねられたから、私も思わず名前を答えてしまったよ。本当は名前なんてもってないのにね。
これはそんな君と私の話。君を忘れないためにも、私を失くさないためにも記しておこうと思う。
君に会えなくなった今でも、いつでも君を思い出せるように。




