崩落
僕たちは空港に立っていた。
馬に電話するとフィラデルフィアまで飛んできたのだ。彼女にこっぴどく怒られたあと、僕たちはロサンゼルスに帰る飛行機に乗せられた。
あれからサミュエルは何もなかったように僕に口を聞いたが、意識が完全に飛んでいた。僕はとても心配だった。帰ったら精神科医に見せないといけないかも…
でも、そんなことは彼が受け入れるとはとても思えなかった。
これは絶対に日本に連れていくしかない!!! サミュエルのお父さんとも対決しないといけない。サミュエルは僕が守るんだ!
僕は脅迫的にそう思いだしていた。
「タクミ…」
「ん?」
「ありがとな…」
「何言ってんだよ!」
そして、
サミュエルは家に帰っていった。
どうしてもひとりになりたい、自分の部屋に帰りたい、と言うのを引き止めることは出来なかった。
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「じゃあ、Mrアキヤマ!サミュエルを向こうの道場に紹介してくださるんですね!」
柔道の師匠・アキヤマに僕は今回の件を話しに行った。彼は前からサミュエルを息子のように思っていたし、日本に行きたい、という僕の考えに賛成してくれたのだ。
「ああ、サミュエルのことは前から気になってたんだ。タクミがいい考えを出してくれてよかったよ」
その言葉を聞いて僕は喜んで家に帰った。
そんなときだった。事件は起こった。
それは… 世界の終わりだった。
サミュエルがローラをレイプした。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
僕は死にたかった… この世は地獄なのか?
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして‥‥‥
何百回と聞いた、、、でも運命は答えてなんかくれない!
最初に聞いたときは嘘だと思った。警察につかまった彼をみてもやっぱり信じられなかった。だってサミュエルは優しく微笑んでいたし、悲しそうな瞳は変わらなかったもの。
ローラのお姉さんが僕んちに来てなにか言っていたけど、僕はよく分からなかった。僕のせいだとか何か言っていたようだけど…
僕のせい?
なんでだろう?
よく分からない。
いったいローラは何をしたんだろう?
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「拓己…」
母さんの声がした。
「?」
「拓己」
ベッドのそばに母さんがいた。
「あれ?いつ帰ってきたの?」
「いま。…大丈夫?…」
急に涙がこぼれた。後から後から溢れてくる。
そのまま母さんは僕を抱きしめてくれた。
「大丈夫、大丈夫だからね」
「た、たいへんなんだ‥‥こんな‥ 母さん、サミュエルを助けて… 彼は悪くないんだ‥ 悪くない‥きっと何かあったんだよ‥‥ 僕、助けないといけないのに‥ どうやったらいいのか‥分からないんだよ…」
しゃくりあげながら母に訴えた。
「そうね。ゆっくり一緒に考えましょう。拓己ひとりで背負うことないのよ」
「でも、でも、早くしないと、、、サミュエルは犯人にされてしまうよ‥‥」
「‥‥きっと、いい方法があるわ‥私はこういった時のために勉強してきたのよ。任せておきなさい」
「‥‥‥」
「さあ、これを飲んで寝なさい。お母さんがここについているから」
母さんはそうして睡眠薬を僕にくれた。
僕は幸せだ。
サミュエルはお母さんがいないのに… あの寒い留置部屋にひとりでいるんだろうか。
ああ、サミュエル… かわいそうに!!!
そう思うと涙があふれて止まらなかった。
きっと彼はお母さんに2度も捨てられたことが悲しくて悔しくてやったんだ!自分も周りも女の人も傷つけたくてやったんだ。 ローラのばか!そんな時に何言ったんだよ!?
深い悲しみの中、サミュエルの金髪と星の王子さまの倒れた姿が重なってみえた。
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ローラは「もうタクミに会わないで」と言うためにサミュエルに会いにいったらしい。
なんで、そんな事を言うのか分からない!?ローラには関係のないことだ。
…いや、分かっている。ローラの嫉妬だ。ローラは僕が好きだったんだろう。
そんなローラを僕は激しく憎んだ。あんな状態のサミュエルになんてことを言うのか!?僕があんなに気をつかっていたのに! ぬくぬくと育ってきたオマエなんかにサミュエルの悲しみと憎しみが分かってたまるかっ!
そして…
サミュエルはローラが好きだったという事実も僕を打ちのめしていた。僕も嫉妬に狂っているのかもしれない…




