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劣等感

僕には時間が必要だった。


カリフォルニアの空と空気をじっと感じる必要があった。バルコニーに出て僕はロサンゼルスの町を見下ろした。夏の風が吹き付ける。


このままサミュエルは公判が決まって少年刑務所にいくんだろう。その間にいろんな支援団体が入って被害者・加害者共に再生プログラムが適宜実施される。


母さんに聞いた限りでは、少年のレイプ犯罪は5年から13年くらいの実刑だと聞いていた。今回の場合は悪質性が低いのでもっと短いかもしれない、とも聞いた


けど… ローラの状態をみたら軽いと思う。サミュエルを助けたいと思っても状況をみるとそうも言えないのだ。


人殺しのほうがマシかもしれない‥ ローラは以前のように笑ったり、怒ったり、出来なくなった。自殺する危険性があった。


ローラは正義感の強い女の子だった。ボランティア活動に積極的にかかわっていたし、小さい子の面倒もよくみて本当にいい少女だった。彼女の輝ける未来は今暗く閉ざされてしまった。


母さんに憧れてブルネットの髪を長く伸ばしはじめていた、とも聞いた。


ローラは生きながら殺されたんだ。



「Mrアキヤマがサミュエルの保護責任者になってくれたわ」

母さんがリビングに入ってきた。


「じゃあ、僕も会えるの?」

「それは無理」

やはり…当分は弁護士やカウンセリングチーム、そして保護責任者くらいしか会うことは出来ない。


でも、Mrアキヤマでホッとした。


「‥‥‥拓己‥」

思い余ったように母さんが口をひらいた。

「あなたがサミュエルのことを気にするのは分かるわ… でも、もうあなたにはどうする事も出来ないのよ」

「そんなことない!」カッとなった。


「そんなことない!!!絶対に何かあるハズだ、僕に出来ることがっ!」

「‥‥‥」

しばらく見つめ合った。


母は目を伏せた。

「確かに‥‥長い目でみたら、あなたに出来ることはあるわ。でも、今のあなたはサミュエルから離れないとダメだと、母さん思う」

「なんで!?」

「あなたもサミュエルも一緒にいたら更に傷つくから」


‥‥‥‥‥




分かっていた




もう、ふたりで心のバオバブを見られないこと


サミュエルがもう今までのように会ってくれないだろうこと


それを認めたくなくて僕は、、、僕は、、、



「ねえ、拓己‥‥ 日本に行こう‥ あなたのもう一つの祖国をみるのよ。サミュエルが行きたがってた日本をみるのよ。それがあなたの責任だと思うわ」

「責任?」

「そう。直接サミュエルを救うことは今は出来ないけど、将来はきっと役に立つわ。サミュエルと同じような子供が日本にもいっぱいいるの。

あっちの方が表面に出ないぶん根が深いわ。そこであなたは勉強して。日本のサミュエルをどうしたら救えるのか」

「僕、出来ないよ‥‥ 母さんみたいに立派じゃない‥それに頭がいっぱいなんだ。人のことなんて救えないよ!僕は自分のことでいっぱいさ」


「‥そうね‥」

ふわりと風が母さんの髪をやさしくなでた。

どうしてこの人はこんなに綺麗で強いんだろう。そしてすごいんだろう。こんな人が僕の母親なんて奇妙な感じだ。


そして、フッと実感した。


サミュエルの気持ち。


母さんみたいになりたい‥‥ けどなれない。


それと同じで、どう頑張ったって彼は"タクミ"になれない。目にみえるものばっかりで見てたら、僕にかなうものがない気持ちは敗北感につながる。


自分がちょっと怖くなった。だって今の僕は母さんがつくったんだもの。出来が悪くても、僕は母さんの子だから、やっぱり普通じゃないと思う。


そんな僕を愛したらつらいのはサミュエルだ。


隣にいるのがつらくない訳がない。『オレはタクミを守ってやるものがなにもない!オレはタクミより何もかも劣ってる』てね。


‥‥‥でもね、僕へのコンプレックスなんて錯覚なんだよ‥みんな"見えている"ものばかりに対してじゃないか‥‥


心の目でみてごらんよ


サミュエル‥‥




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