12歳の出会い
「残酷な女神」第1説(完結)はこちら→http://ncode.syosetu.com/n9414b/
「あ…」
強い快感のあと急速に下降する脱力感。
またやってしまった…
僕は自分自身の行為に恥じ入るだけだった。体の奥からどくどくとしたものが次々に沸いてきて、それに絡めとられてしまう。
…これが女性との行為なら「愛」とやらに結びつくのだろうか? 僕は全く不気味であった。
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「やっぱり自分でするとき、想像するなら、胸とお尻の愛撫度合いが集中している?それとも相手をよがらせてることが興奮をさそう?」
今日の朝食はめずらしく母がいる。朝から、こんな会話はうちではめずらしくない。彼女は性については、ほとんど「研究家」なのだ。
僕は真っ赤になる。まだ15歳の僕にとっては、行為を見透かされたみたいで最も避けて欲しい話題だった。
「そんなこと答えたくない‥」
「まあ、いいけど。自分のセクシュアリティを考えるのはすごく大事よ‥」
恐ろしいのは、彼女の口調が非常に色っぽいことだった。そのため僕は母親に反抗する少年になろうとしても、いつもくじかれてしまう。ちょっと反則のような気がした。
「おもしろい本持ってきたの!ほらっ」
指指したテーブルには、数冊の本がつまれていた。
「うん。分かったよ」それはいつものパターンだった。
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「もっと強くなってからかかって来な、ベイビー」
地面に突っぷしたエリックにむかって、サミュエルは、得意げに言い放った。いつもは、やられていた僕たちが言われていたセリフなのだ。
「覚えてろよ!」
エリックたち3人は、腰をさすりながらヨタヨタと駆けていった。
「いえーぃ!!!」「やったぜー」「ばーか、ばーか」僕たち4人組は手を叩きあって喜んだ。
気の弱いちょっと太ったロイ、黒人で目の愛らしいディビット、そして僕とサミュエル…… なぜか僕たちは友達だった。
サミュエルに出会ったのは3年前の12歳の夏だった。ホワイト・アングロサクソンの彼は金髪を短く刈り込んで(3分刈りという表現が日本的?)捨て猫のようなブルーグレイの眼をもった少年だった。不遜なオーラは、初めていった柔道教室ですごく目立っていた。
「オマエ何か他のスポーツやってるだろ」
はじめて受け身の練習の相手をしてもらったばかりなのに彼は僕がバレエを習っていることを見抜いた。
僕は言いたくなかった。低所得の子弟も多く通っている柔道教室に、プレップ・スクール(有名私立の進学校)に通い、習い事に明け暮れていた僕の境遇を話したくなかったのだ。少年とはそういうものだ。いい子であるより、不良であるほうに憧れる。
「何してるんだ?」
サミュエルは結構しつこかった。
「‥‥バレエだよ」
あきらめて答えた僕は、絶対にカラかわれると思った。しかし彼は意外な反応をした。驚き見開いたブルーグレイの眼に暖かい光を宿していた。
「踊ってみてくれよ」
「え?!」
「バレエを踊ってみせろ、って言ったんだよ」
あまりに驚いて僕は
「こんなトコで?! 絶対嫌だ!ここは柔道の教室だ!」
「‥‥じゃあ、おまえの家に行くから」
「???」
全くもって分からなかった。彼は僕をいじめるために柔道教室の皆の前でバレエを躍らせたいわけではなかったのだから。
僕の家に入ってからサミュエルは黙ってしまった。
恐らく家の家具や作りが彼の家と全く違った世界であったことによる、驚き・羨望・嫉妬・怒り…といったものによるものだろう。
リビングは1000スクエアフィート(93平方m)しかないが、練習をする僕の為に半分は家具を置かない形になっていた。一面の鏡とバーが少し普通のリビングとは違うがアッパーミドルクラス(上流の中)の家では、それがそんなに気にならない。
最近のお気に入りヨガパンツに着替えた僕は、軽くストレッチをした後、モダンバレエの中でも自然な動きの振り付けのものをセレクトして披露した。
「グレイト!!!! すごい!!」
興奮してサミュエルは椅子から立ちあがった。
「こんなので、よかったのかな?」
「おお! かっこいいじゃん! あんな動き出来たら、どんなダンスだって簡単にマスターできる!」
確かに。バレエが踊れたらヒップホップもタップもそんなに難しくないだろう。
「けどさ、アレ‥ なんだっけ…クラッシック?のも見たい」
「え」
「よく知らないんだけど、ラーララララ♪ってこの曲?分かるか?」
「ああ”バラのアダージョ”眠れる森の美女だね」
サミュエルは音程がしっかりしていたので、ワンフレーズでもよく分かった。
ただ困ったことに、ここで主役の王子のパートはないのだ。16歳の誕生日を迎えたオーロラ姫が皆に祝福される場面。4人の王子が求婚に訪れオーロラ姫はバラの花を次々と受け取る。―という場面なのだ。
「オーロラ姫は踊れる?」
「もちろん」
そのままCDをチャイコフスキーに替えて、ローズ・アダージオ流す。
相手のいないところを、上手にごまかしながらオーロラを踊る。可憐な16歳のオーロラ。アチチュードのあと、手を高く上に上げ両手でポーズを作るとしっかりとバランスを取って、この場面は終わる。
「どお?」
僕に聞かれて、急に不自然な笑顔を作ったサミュエルに気づいた。
「ああ。よかったよ…」
「少しヘンだったかなぁ」
「そんな! 全然そんなことないよ!‥‥ちょっと綺麗すぎてビックリしたんだ‥‥」
「そお ‥でも、サミュエルがスリーピング・ビューティー(=オーロラ)が好きだってことはよく分かったよ(笑)」
ちょっとニガテそうに笑ってサミュエルは言った。
「母さんがバレリーナだったんだ…」