ツッパリの彼
鶏庭子様の昭和ノスタルジー企画に参加させて頂きました。
ごめんなさい。(もう謝る)
非常に痛痒い話になっておりますので、ご注意ください。
子ウサギのようにプルプル震える私の心
夜空にキラリと光って流れる星は私の涙
どんなに思っても届かない私の気持ち
このまま悲しい人魚姫のように泡になって私は消えていく
……はあ、なんて素敵なポエム。切なくて涙が出てきちゃった。
優子はティッシュで涙を拭うと、宝物の自選ポエム集にしているノートを勉強机の一番上の引き出しにしまって鍵を掛け、分厚い学生鞄の中から親友のまりっぺと続けている交換日記を取り出した。
そして、たわいない事を3ページも書いて再び鞄へと戻し、一つ溜息を吐く。
まりっぺとは何でも話し合える大親友なのに、たった一つ秘密にしている事がある。
それは優子に片思いの彼がいると言う事だった。
優子の片思いの相手……鈴木健二は、まだ一年生だというのに学校一の不良で、この辺一帯の不良達を束ねる総番長なのだ。
そんな彼の事を皆は恐れているから、さすがにまりっぺにも打ち明けられない。
でも本当は彼が優しい人だと言う事を、優子は知っていた。
あれは入学式当日、前日の夜に緊張のあまり中々寝付けず、寝坊してしまった優子は急いでいた為、前をろくに見ずに走り、彼と出会い頭にぶつかってしまったのだ。
強面の彼に恐れ慄きながらも、彼が落としたらしい『なめられたら無効』と書かれた『なめ猫』の免許証を拾って差し出したら、彼は顔を真っ赤にして慌てて受け取り、小さく「ありがとう」と呟いた。
そんな彼がなんだか可愛く思えたのだ。
そして、運命のあの日。
降りしきる雨の中、河原の土手で蹲って、か弱く鳴く子猫を抱いている彼に傘を差しかけたら、彼は顔を上げ寂しそうに笑った。
「こいつ、捨てられちまったみたいなんだ。でもオレんち、ケーキ屋だから飼えねんだ……」
あまりにも悲しげに言う彼に、優子は胸を締め付けられて思わず「うちで飼うよ」と応えていた。
それから、相合傘をしながら私の家まで送ってくれる間(たぶん子猫と離れがたかったんだろうけど)、色々な事を語ってくれた。
彼がどんなにツッパっても、未だに近所ではケーキ屋ケンちゃんと呼ばれている事。
中学2年の時に、校則の丸坊主(五分刈り程度まで)を破ってスポーツ刈りにして登校したら、生活指導の先生にいきなり竹刀で殴られて職員室で一分刈りにされ、それ以来グレてしまった事。
猫が大好きで、特になめ猫が大好きな事。
気がついたら、前番長とタイマン張って勝ってしまい、番長に代々受け継がれている長ランを受け取ってしまった事。
そんな風に色々聞いて、彼が本当は皆が言うような怖い人じゃないってわかった。
あの雨の日から、うちの子になった猫のシュガーに会いに彼はちょくちょく遊びに来るようになったのだけれど、それは誰にも内緒にしている。
**********
「はい、まりっぺ。交換日記と……じゃ~ん♪私が編集したカセットテープ!」
「やった~!!マンモスうれぴー♪お兄さんからダブルラジカセ借りれたの?」
「ううん、勝手に使っちゃった」
「あ~悪いんだぁ~」
次の日の昼休み、隣のクラスのまりっぺと廊下でキャピキャピ話していたら、2年の怖い先輩が近づいてきた。
「あんたが佐藤優子かい?」
「……は、はい」
「ちょっと体育館裏まで顔貸しな」
「え?」
「優子ちゃん……」
恐怖に竦む私の腕にまりっぺが不安そうにしがみついてきた。
「あんたは残んな。もちろん先公にチクったら承知しないよ!」
脅されて、涙ぐみ青ざめるまりっぺの腕を解いて、私は大丈夫と微笑みかけた。
もちろん顔は引きつっているだろうし、怖くて堪らず足もブルブル震えているけど。
気を紛らわすために、5時間目までに間に合うといいなぁと思いながら、先輩に付いて行く。
スケ番グループの溜まり場になっている体育館裏には数人の不良少女達が集まっていた。
彼女達はみんな引き摺る程に長いスカートをはいている。校則ではスカートの長さは膝下5センチまでと決められているのに。
あの古びた跳び箱に座っているミポリン似の先輩は確か……『カミソリの蘭』とかって恐れられている人だ。それに、側に立っている人はいつもマスクをしているから、密かに『口裂け女』と呼ばれてる……本人には口が裂けても言えないけど!!
その口裂け女……ではなく、マスク先輩が口を開いた(ところは見えない)。
「あんた、健二にちょっかい出してるらしいね?」
「―― な、何のことですか……?」
「しらばっくれんじゃないよ!!健二があんたんちに入って行くのを見たって奴がいるんだからね!!健二はねぇ、この蘭さんのいい人なんだ!!そんな健二にちょっかい出したんだ、覚悟は出来てんだろうね?」
「い、いえ……あの……」
思わず後ずさった優子を逃がさないように、数人が後ろに回り取り囲む。
そしてマスク先輩が優子の胸倉を掴んだその時、今まで黙っていた蘭が口を挟んだ。
「顔はダメだよ、ボディにしな、ボディに!先公どころかマッポにまで話がいったら厄介だからね」
その言葉を聞いたマスク先輩は、優子を乱暴に押しやった。
蹴られる!!
尻もちをついて転んだ優子は、本能的に丸くなり顔を庇った。
と、そこへ――
「テメェら何やってんだ!?」
健二の怒号が響いた。
「け、健二……」
呆然とした蘭の声と、焦るスケ番達のざわめきが聞こえる。
恐る恐る顔を上げた優子の元に健二は膝をついて、心配そうに顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?」
「鈴木君……」
尻もちをついただけの優子の無事を確認した健二は、ホッとしたように微笑むと、蘭達をキッと睨んだ。
「テメェら、これ以上佐藤に手ぇ出したら承知しねえぞ!!」
「健二……でも、あたい……」
「うるせえ!!」
蘭の縋るような言葉を一喝すると、健二は立ち上がった。
「さっさと散りやがれ!!」
その言葉に、蜘蛛の子を散らす様にスケ番達は走り去ったのだが、優子は蘭の瞳に涙が滲んでいたのを見逃さなかった。
「あの……鈴木君、私は大丈夫だから。先輩達、何か勘違いしてるみたいだよ?……誤解を解いた方が……」
健二の手を借りて立ち上がりながらも、優子は申し訳なさそうに言うと、健二はフイっと後ろを向いてしまった。
「勘違いじゃねえよ」
「え?」
「勘違いじゃねえって言ってんだよ!!」
「鈴木君……?」
「佐藤、俺はお前にぞっこんなんだよ!!」
「ほ……本当に?」
「ああ……こんな俺に惚れられたって、お前には迷惑でしかないだろうがな……」
背中を向けたまま、寂しそうに言う健二に優子はそっと近づいた。
「何て書いたか当ててみて?」
そう言って、健二の背中に指で文字を書く。
「……『す』、『き』……!?」
信じられないといった声で呟いた健二は、確認するように慌てて振り向いた。
健二と目が合った優子は、真っ赤になって大きく頷く。
途端に、顔を輝かせた健二は優子を抱き上げた。
「きゃっ!!」
突然のお姫様抱っこに驚いて健二にしがみついた優子に、健二は嬉しそうに微笑む。
「俺、嬉しくてこのまま世界一周できそうだ!!」
クルクル回り出した健二に驚きながらも、優子は楽しそうに笑い、健二も笑った。
「うふふふふ」
「あははははは」
人魚姫の様に悲しい結末を迎えることのなかった優子の恋は、楽しい笑い声になって風に舞い、二人の幸せを祝福する鐘の音が、体育館裏に鳴り響いたのだった。
……始業チャイムだけど。
ここまでお読み頂いた皆様、申し訳ありませんでした!!
m(_ _;)m
しかし!!他の企画参加者様のお話は非常に面白いのでお勧めです!!
鶏庭子様の活動報告から覗きに行くことも出来ますので是非是非!!
※著作権がどうなのか分からないので、微妙にセリフ変えてますが、大丈夫ですかね?