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The Narrative Faultline ──歴史を語ることができない国  作者: 深井零子


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第四章:自由詩人の残響


 図書館を後にした私は、アナ共和国の静かな街並みを歩いていた。背後で監視カメラのレンズが動くかすかな音を聞いて以来、私の意識は常に周囲の視線を探っていた。しかし、街は穏やかで、人々は平穏に見える。この平穏さこそが、連邦の支配がいかに徹底されているかを物語っている。


 ホテルへ戻る途中、私は地元の小さなカフェに入った。淹れたてのブラックコーヒーを前に、私は携帯端末に保存したメモを読み返す。「語りの構築=違反。制度は語りの技法を検閲している。」 これは、私が正面から探求を試みた際の、連邦からの明確な拒絶だった。


 どうすれば、この強固な検閲をかいくぐれるのか? 正攻法ではすぐに捕まり、探求は終わってしまう。


 私は、再びノモス国で発見した「奇妙な断片」へと立ち返った。断片記録を読み漁った際、私はある記述に注目していた。それは、共和国の初期に存在した「自由詩人」の集団についてだった。彼らは、共和国がまだ自由だった時代の残響を伝えるような、民衆の心を繋ぐ物語を紡いだが、連邦の新連邦憲章成立後に全員が追放されたと記されていた。


 彼らは、建国史を記録する「歴史家」ではなかった。彼らは、人々の心に響く「物語」を紡ぐことで、人々の意識を再編し、忘れ去られた歴史を呼び覚ます力を持っていた。連邦の初代議長が「物語は統治の敵」と語った理由が、ここにある。


 彼らこそが、制度が恐れる「制度の再起動トリガー」を、意図せずとも設計し、使用しようとした賢者たちではないだろうか。


 私は、彼らの足跡を追うことが、今の私に必要な「知恵」を得る最善の道だと判断した。彼らは追放されたかもしれないが、彼らが残した「物語の破片」、あるいは彼らがかつて集った場所、彼らと交流のあった人物の記憶ならば、連邦の検閲の網から漏れているかもしれない。


 私はノモス国で愛猫の頭を撫でた時の、あの柔らかな感触を思い出した。あの温もりが私に与えてくれた日常の安息を力に変え、私はこの先に待つ試練に向け、心の中で決意を新たにした。「いけるいける! 私は単なる記録を探すのではなく、物語を紡ぐための技法、つまり賢者たちから知恵を学ぶのだ」。


 断片によれば、彼らは都市部の喧騒から離れた、かつて「緑の境界」と呼ばれた古い地区に集っていたという。その地区は今、アナ共和国の地方都市として存在しているはずだ。


 私はカフェの椅子から立ち上がり、目的地を地方都市へと設定し直した。連邦が徹底的に排除しようとした「自由詩人」の残響を辿ること。これが、私がこの強大な「歴史の境界線」を突破するための、最初の知恵となるだろう。

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