アマンドと夢の続き
僕たちが格闘ごっこをやめると、近くにいた子たちもお気に入りの定位置に戻っていった。
「クロノス祭、楽しみだね」
「ねぇ、アマンド、夢の中でお姫様とダンスとか踊らないの?」
ジャンミンに黒縁眼鏡を渡される。
妄想はやめてほしいと思うけど、なかなか難しい。だって思春期って、男女問わず想像力豊かだろ?
クロノス祭って言葉を聞いて、ダンスを関連づけてるんだ。
「夢にはお姫様もお城も、ダンスも出てこないよ。普通の女の子ってだけ。年齢もわからないし後ろ向きだし。もしかして振り向いたらおばあちゃんかもしれないし」
「おばあちゃん?! やめろよ。ロマンティックな雰囲気が台無しじゃないか!」
ステファンも眉を寄せる。ちょっとした非難の声が周囲から上がった。ニコは舌を出した。
「うげぇー」
「そうそう、せっかくドキドキしてるのに!」
「アマンドー、撤回してよぉー」
うん。でも、ボクの夢なんだけど。
みんな顔を見合わせて笑い始めた。ボクはわざとため息をついてみせたけど、盛り上がった休み時間はとても楽しかった。
ルシアンがいなくても場を盛り上げることってできるんだな。
ふと、視線を感じてそちらを見ると、エリオがステファンを睨んでいた。彼は可愛い顔をしている。だけどつぶらな瞳は三角になってて、怖いくらい。
そしてエリオは、次にボクを睨んできた。でも目が合うと、気まずそうに視線を逸らした。
ボクにはわかってた。ステファンとボクが格闘を始めたとき、エリオだけがあからさまに嫌そうだった。大きなクヌギの木に寄りかかって、ムッとした顔でこっちを見てたんだ。
エリオはこの学園に来てまだ日が浅いけど、ステファンと仲がいいのはみんなが知ってる。仲がいいっていうかなんていうか、男同士なのに、まるで恋人同士みたいに見える。ほんと、いつもベッタリって感じ。
あれはちょっと、どうなんだろう?
一年前だったら絶対注意されていたと思う。でも今は大丈夫なのかな。
ステファンとボクが格闘して、身体を密着させていたからエリオは完全に焼きもちを焼いてるんだ。単なる暇つぶしの遊びなのに。
睨まれたり、恨まれたりするなんて心外だ。ボクはステファンに特別な気持ちとか全然ないのに。
だけど、実はちょっとドキドキしていたけどね。あんなに汗をかいて他人と密着することなんてないし。でもそれはステファンだからってわけじゃない。他の男子でもそうだったと思うな。
(それにしてもステファンの筋肉は立派だったけど……)
「夢ってさ、ひょっとして正夢かもしれないぜ」
ステファンが腕を組んで、真剣に考え始めた。
「それってデジャブのこと?」
「いや、ジャンミン、デジャブじゃないよ……それは前に体験した気がすることだろ? そうじゃなくて、これから起こること」
「ステファン、正夢って、予知夢のことだよね?」とエリオ。
「………………」
自信ありげに会話に入ってきたエリオだったけど、ステファンは考え込んでて、その言葉を聞いてなかった。完全にスルー。
焦った。ちゃんと聞いてあげてよ!
エリオに敵意を向けられてるボクがそんなこと言っても、余計なお世話だけどね。
そう思って、結局何も言えなかった。そこにいた他のみんなは全く気にしてなかった。それぞれ楽しそうに話してるし。
「ね、アマンド? 昔からずっとその夢見てたか?」
ステファンが真剣な顔でボクに聞いてきた。
「うーん、昔からじゃないと思うんだけど……」
もう夢の話とかどうでもよくなってきた。それよりもエリオ……ふざけて取っ組み合いしただけで恨まれるなんて心外だよ。
「この学校に来てからその夢見てんの?」
横に移動してきたニコが僕に問う。
それで気づいたんだ。家族と住んでたときはこの夢は見てない気がするって。つまり一年半前からこの夢を見始めたってこと。
もっと昔から見てた気がしてたけど……。
違ったのかも。よくわからなくなってきた。
ここにいると、時間の感覚がなんだか曖昧になってくるんだよね。毎日毎日毎日、同じようなことの繰り返しだから。
もうすぐ授業が始まります。遅刻しないように。




