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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
1 クロノスの章

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真昼の格闘ごっこ 2

ステファンにシャツの襟を掴まれてグッと引き寄せられると、互いの身体がくっついた。ステファンの息が近い。多分僕の方が息が乱れてるんだろうな。シャツの生地越しに、互いの体温が伝わってくる。

心臓の音が相手に伝わってしまいそう。

「アマンド、準備OKかい?」


ステファンがニヤリと笑って、僕のネクタイをシャツのポケットにそっと入れてきた。彼もすでにポケットにネクタイを入れていた。


うわっ、優しっ! いや、本気ってこと?


目で合図を送ってくる。ボクもゆっくり目を合わせた。無言で見つめ合う。


「ファイッ!!」


待ちくたびれた誰かが掛け声をかけた。今の声はニコだ。


中庭でふざけた? いや、本気モードの組み合いが始まった。小さな中庭に歓声が響き、遠くにいた男子たちもこっちにやってくる。


足を滑らせて探り合う。ステファンがボクのワイシャツをまた引っ張り、身体がさらに近づく。腕がステファン胸に何度もぶつかる。あー、もう筋肉が全然違う。


「さすがだな、我のライバル。麗しのアマンドちゃん! 姫は渡さん!」


その設定まだ続いてたんだ……こっちはそれどころじゃない。ステファンの声が耳元で響く。低くてからかうような口調に顔が熱くなる。


「ステファンもなかなかやるね!」

ボクも負けずに言い返し、足技っぽくステップを踏む。ワイシャツが擦れ合う。足を引っかけようと試みるけど、ステファンの長い足は全然引っかからない。


「クソッ」

「アマンドでもそんなこと言うのか〜」


中庭の空気がだんだんと熱を帯びていく。


(あれ? あいつ……誰?)


組み合いながら、ボクは中庭の奥のあずま屋に座ってる子を見つけた。でも眼鏡を外してしまったので、人がいるな、くらいにしかわからない。


「あいつ、なんであんなとこで一人でいるんだろう?」


「エリオのことか?  拗ねてんのか。ほっとけよ。てか、よそ見なんかしてる場合かい?」


ステファンがボクの腰に手を回した。そう思った瞬間、身体が一瞬宙に浮き、ドサッと芝生に倒される。青い芝生の匂いがした。


ステファンが上から覆いかぶさってきた。息苦しくて息が止まりそう。ふふっとステファンが笑う。

「あっけないなぁ」


耳元で囁かれ少しざわざわした。

僕は自分の体の重みで、なんとか反転させてみる。


「おっ」

「大きいからって油断するなよ」


そう言ったのも束の間で、すぐまたグルりと元に戻され、僕たちは芝生の上をごろごろと回転した。


「いいぞ! 負けるなアマンドー!」


みんなの笑い声や口笛、煽る声--

僕は必死だった、そして高揚していた。


「ステファン、そのままそのまま!キープ」

「アマンド、這い出ろ!」

「あきらめるなよ!」

歓声が聞こえる。僕は荒く息を吐いた。


「クッ……あの子はエリオじゃない。エリオは木に寄りかかってムッとして……嫉妬してるよ」


ボクがぜいぜいしながら言うと、ステファンが笑った。

「アマンド、君は面白いな!」


ボクは自分が面白い奴だなんて全然思わない。

ステファンのからかいにイラッとした。僕に乗っかっている彼を、体全体で持ち上げるように思い切り突いた。どさっとステファンは大袈裟に転がる。みんなの歓声が聞こえた。

僕たちは立ち上がり、再び向き合った。お互いに、はぁはぁと息を切らす。


「じゃあ別の棟の奴じゃね? あづま屋まで冒険でもしに来たのかな」とステファン。


「一人であずま屋にいるなんて珍しいからさ」


ステファンが格闘技の内股っぽい動きを仕掛けてくる。ボクも負けじと身体を密着させて抵抗した。ワイシャツが乱れて、肌が見える。ぐるっと回ってステファンがあずま屋を見る番になった。


「誰もいねえじゃん」

ステファンが笑いながら言う。


「え? あれ? ほんとだ」


ボクも振り返ると、あずま屋にはもう誰もいない。誰だったんだ? 見間違いだったのかな。


それにしても身体を動かすのって、気持ちいい。僕はいつも本ばかり読んでいるから。休み時間にみんながふざけ合ってあるのを、バカらしいと思ったけど……やっぱり男って単純なんだ。相手を組み敷いたり、負かしたり、じゃれあったり……。


ステファンに手を抜かれているのがわかる。だけど人の体温が密着する感じ、熱や汗……嫌いじゃないんだな。ボクは自分がそういったのは苦手だと今まで思っていた。


「ステファン、本気出してもいいから」

「アマンド、また投げられても泣くなよ?」


その言葉を合図に、ボクとステファンは中庭を斜めに動きながら、ふざけた組み合いを続けた。ステファンがボクの腰をガッチリ掴んで投げようとする瞬間、ボクも足を絡めて反撃した。ステファンがよろめく。今度はうまくいった。


「おぉ、アマンド……くっ、なかなか手強い」

「うっ……」


 余裕がなくて何も言えない。


「いいぞアマンド! ステファンを倒してくれ」

「ステファン無双を崩せ!」


普段は目立つことなんて避けたいのに、なんだか優越感が湧いてくる。さっきまでは、みんなステファン応援していたように思う。でも今は、半分以上の奴が僕を応援している。


横目でジャンミンが興奮して、近くにいたニコの肩をバシバシ叩いたり、抱きついているのが見えた。


「痛えよジャンミン、落ち着けよ!」


ニコの困惑した声。この二人、バカみたいに見えるけど、学級代表と副代表だ。


いつの間にかボクたちは夢中になりすぎて、中庭を半周していた。ステファンがニヤッと笑ってボクに囁く。


「アマンド、眼鏡外すとかわいいね」

そう言いながら、僕の首筋にキスをした。


「ちょっ、ふざけるなよ!」

僕はステファンを思い切り倒した。もう構えどころじゃない。強く胸を突くと、ステファンは大の字になって倒れる。みんなの歓声が上がった。


「やった! アマンドがステファンを倒したぞ」

「嘘だろ?」

ジャンミンたちの声。


「アマンド、ダークホースじゃん!」

 クールな二コまでも興奮している。


「おぉぉい……今のはダメだぞ、アマンドー!」

ステファンが魔王のように両手を挙げて起き上がった。笑い声が聞こえる。


ボクはステファンの手を振りほどき、中庭を駆け出した。ワイシャツが風ではためき、ステファンが待ちやがれー!って叫びながら追いかけてくる。


もう完全に余興。みんなゲラゲラ笑っている。

全員がわかってる。ステファンがずっと手を抜いてくれていたこと。僕が怪我をしないように、だけどしっかり彼が攻撃して見えるようにしていたこと。


芝生の上を走り回り、笑い声と歓声が中庭に響く。ボクはステファンをかわしながら、木の陰に隠れたり、ベンチでガードしたりした。

「アマンド王子、こざかしい! これで終わりか!」


まるで子供の頃に戻ったみたいに楽しくて、みんなの笑い声が響き合った。


「王子ってまだ続いてたの?」

「王子って、なんだっけ?」


庭を一周し、息を切らせて戻ってくるとみんなが拍手してくれた。


「ステファン、アマンド、すげえな! 格闘技の大会でも優勝狙えるんじゃね?」


「いや、ほんと。二人ともすごいよ」


ニコとジャンミンも大いに褒めてくれる。

ステファンとボクは、かっこつけて同時に頭を下げた。



白熱した格闘ごっこ?でした。

怒っている人がいたようです。

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