ルシアンのお願い 2
ステファンがクロノス学園に転入してきたとき、直前にちがう生徒も転入してきたようです。
俺がクロノス学園に来る少し前、シドフも転入していた。
シドフはわかりやすく浮いていた。 俺もあえて話しかけたりはしなかった。俺は一人で過ごすのは全然苦痛じゃない。どちらかと言えば好きだった。
でもシドフは違った。いつも一緒にいてくれる誰かを探していた。でもこの学園のクラスの人数は多くないから、いつも誰かといるというのは難しかった。
シドフと休み時間に一緒に庭園に行ったこともある。奴はずっと自慢話や面白くない話をしていて退屈だった。顔には出さないけど、すぐに苦手だと感じた。
放課後、ルシアンが話しかけてきた。
「ステファン……一週間後の校外学習って、バスで行くだろ」
「ああ……そうだね」
ドキドキした。一緒に行動しようって誘ってくれるのだろうか?
土曜の自由外出で、一緒に出かけたときのことを思い出した。
ステファンとデートなんだぜーと、ラウンジでルシアンはみんなに言いふらし俺に抱きついてきた。もちろんルシアンはふざけて言っている。でも俺は本当にデートをする錯覚を起こしそうになった。
みんな俺のことを羨ましそうに見ていたように思う。あのときの優越感は悪くなかった。なので今回も期待してしまった。
「あのさ僕、酔いやすくて……ステファンはバス平気?」
「俺は別に酔わないけど」
「後ろの席なんだけど、変わってもらえないかな?」
一緒にいようとは言ってもらえなかったけど、頼ってもらえて嬉しかった。それでルシアンが酔わなければ、俺は役に立つことになる。
「もちろん、いいよ」
バスの席は、隣がシドフだったのは確かにキツかった。だけどルシアンは前の方で楽しく笑っていた。俺はそれで充分満足だった。
ショッピングモールも決められた班で回るはずだった。でも俺は途中から、なぜかシドフと二人になっていた。 班で孤立したシドフが、俺の方に話しかけてきたからだった。
別に構わなかった。シドフもお店に夢中で、特に嫌なことはなかった。
帰りのバスも、互いに疲れて寝ていたから、特に問題はなかった。
問題はその後だった。
それからはなぜか、シドフがクラスでも寮でも俺のそばにいることが増えた。俺はあまり相手にしなかったが、無視などはしなかったし、逃げることもしなかった。
いつも落ち着いて動じないことが大事だから。
あるとき寮のラウンジで、ジャンミンが俺をじっと見ていた。
「ステファンって見た目もだけど、性格も大人なんだよな。ここの子たちにはいないタイプだよ。かっこいいなぁ」
俺のことを急に褒めてくれた。するとルシアンが来てこう言った。
「ステファンが来て、クラスがとても明るくなって良くなったよな。サンキュー!」
それは知らなかった。お世辞かもしれないけど、俺は満足だった。
ルシアンが、俺の座っているソファの横に座った。お風呂上がりのルシアンは石鹸の香りがした。彼はこっそり囁いた。
「僕、シドフが嫌いなんだ。なんか無理。ステファンのおかげで本当に助かってるんだ」
「へえ、そうなんだ。ルシアンが助かるなら、俺は全然構わないよ」
「ステファンは平気か?」
俺は少し考えた。シドフにうんざりはしていた。
「……まぁ、あまり気にしてないよ」
「本当? よかったぁ」
ルシアンが俺に頭をくっつけてきた。俺はルシアンの役に立てて嬉しい。それならなんだって我慢だってできる。
◇ ◇ ◇
休み時間、中庭の奥にあるクヌギの木に寄りかかっているルシアンを見かけた。 細くてすらっとした彼は、まるで絵画の中の少女のようにも見えた。
アートの時間になったら、目の前にいるルシアンを描きたいな。
そう思っていると、ルシアンが俺に手を振ってきた。俺も手を振り返した。
彼は俺に手招きした。
「なぁ、ステファン。さっき職員室に呼び出されて怒られたよ。低脳どもが……」
「またかい? ていうか、口が悪いぞルシアン」
「うんざりしてるんだ。それで聞こえたんだけど、近々転入生が来るらしいぜ」
「うちのクラス?」
「そう、内緒だ。家が火事で燃えたとかなんとか。だから緊急でやってくるらしい。そいつもステファンのこと好きになってくれたらいいな。最近ステファンかっこいいから」
何を言ってるんだ?
君の方が何倍も美しくてかっこいいのに。
「は? ルシアンのこと好きになるよ、君は美しいから」
「やめろ!」
ルシアンが低い声で大声を出した。俺は固まってしまった。
「ごめん……さっきも後輩から告白されてさ……断ったら泣かれて」
胸がなぜか痛くなった。
「断るしかないだろ? 僕、退学になるよ。先生にも目つけられているし。酷いんだぜ。生徒たちを挑発するなって。僕はそんなことしてないのに。それでまたペナルティさ」
「ペナルティ……ってどんな罰が多いの? ルシアンは」
「え?」
「俺はこの前、宿題を部屋に忘れて提出できなくて……廊下掃除をしたんだ」
「おい、ステファン。他人のペナルティは聞かないのが暗黙のルールだ」
俺はハッとした。そうだったか?
「え? ごめん、知らなかった。規律書に書いてあった?」
「いや、書いてないかもしれない。自分から話すのはいいんだよ。だから特別教えてやろう。でも内緒だ」
「あ、うん」
確かにルシアンが休み時間に、どんなペナルティを受けているのかと、聞いてる生徒はいなかった。
「この前はお茶飲みながら、校長とどこかの偉いじいさんと、短い映画を見たよ」
「映画?! それが罰則? そんなのがあるの?」
「それで少し……その…………話しておしまい」
そんな罰則があるのか……。
「そんなのは僕くらいだよ……だからさ、次に来る奴はステファンを好きになってくれたらなぁって」
「ルシアン、ずいぶんと自意識過剰な発言じゃない?」
「へへへ。そりゃあ、僕は顔が天使みたいで綺麗だからね。ファンが増えると困るわけ」
その通りだ。亜麻色の髪に翡翠色の瞳。顔は天使、心は悪魔なルシアン。
「……じゃあ次の転入生、俺のこと好きにさせてみるよ。どうかな? かけるかい?」
驚くほど強気な発言だ。本当に俺なのか?
「ほんとか? かけるぜ、ステファン。ステファンに恋するか、しないかって……すごく楽しみだなぁ!」
あぁ………………ルシアン…………………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
…………………………………………………………………ああ、どうして…………………………………………………………………………………………………どうしてこうなった?
……………………………。
完結しました。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
なろう慣れなくて誤字が多くてすみませんでした!
読んでもらい、共感してもらったり、怖い、切ない……と少しでも思ってもらえたら嬉しいです。学校って本当に一緒にいたい人といれなかったり、無理したりすることがありますよね。そうなってしまったステファンは、この後……。
ここまでありがとうございました。




