無自覚なルシアン
ステファンの語り。
ルシアンとの思い出を振り返っています。
ルシアンのタンクトップがなくなったの……。
持ってるのステファンだよね ーー
唐突にシドフに質問され、驚くほど顔に出てしまった。シドフが逆に気を使ってしまうほどだった。
だが彼はだんだんと強気になってきた。
「ステファン……そんなに絶望的な顔するなんて珍しいね。ステファンかなぁって、適当に言ってみたんだけど。あはっ、当てちゃったかな」
(こいつ……カマかけやがった……)
俺はいつもみたいに、人を揺さぶったり試すような、そんな言葉は何一つ出せないでいた。
タンクトップ? そんなの知らないけど……。そんな簡単な一言が出てこなかった。頭の中は真っ白だ。
誰かに指摘されるなんて。しかもよりによって……ルシアンに。
もしこれがエリオなら、上手くはぐらかしていたと思う。もしくは素直に認め、笑い話にしたかもしれなかった。
ルシアンはよく物を落としたり、置きっぱなしにすることがあった。それでみんなから注意されていた。
また服が落ちてたよ、ちゃんとしろよルシアン!
なんて具合に。
寮生活において、だらしない奴がいると周囲は大変だ。あまりの多さに、ルシアンはわざとやってるんだろうか、なんて話題に出たこともあった。
◇ ◇ ◇
「おい、ルシアン!」
俺はルシアンに、アンダーパンツを慌てて渡したことがある。そのときも浴室だった。
「ごめんごめん、ステファン。こんなパンツ、投げてくれたらいいよ。ステファンにあげようか? なんて、興味ないよねぇ。これ?」
「あのなぁ……次が俺だったからいいけど。まじで気を付けろよ」
「はい、はーい」
ルシアンはくるくるとパンツを振り回しながら笑っていた。 ステファンでよかったー。なんて言って、肩を叩かれ小首を傾げてきた。
ルシアンが目を伏せると、水分を多く含んだ長いまつ毛がとても色っぽかった。いくら無邪気を装っても、溢れ出る美しさは隠し切れない。
濡れた亜麻色の髪からシャンプーのいい香りがした。
それはもちろん俺も同じ香りだけど、それでもすごく特別に感じた。
部屋に戻って鏡を見ると、自分の顔が驚くほど真っ赤だったことを覚えている。
ルシアンの次に、俺が入浴の順番になるのは月に一、二回と多くはなかった。他の奴も同様だ。
風呂は一人ずつ順番で、時間は三十分以内。四つの浴室があって、どこに振り分けられるかは月によって違う。
ギリギリまで入る子もいれば、早く出る子もいるからか、順番も毎月シャッフルされる。
俺の前後になる奴は喜んだ。俺は15分しか使わないからだ。短髪だし、それくらいの時間があれば浴槽に浸かる余裕もあった。
余った時間は事前に声をかけ、前後の奴の時間を長くしてあげていた。
ルシアンはゆっくり風呂に入るので、とても喜んでくれた。
(彼は何をするのも遅いのだが)
それがきっかけで始めたんだ。もちろんルシアンにだけだと不自然なので、毎回風呂は早く出ることに決めた。
俺は入浴だけじゃなく、何かあるときは必ず順番を皆に譲った。それは俺からしてみれば、全てどうでもいいことだったから。
するとみんなから信頼されるし、感謝されるからその方が居心地がいい。
浴室に入ると、ドアの近くにタンクトップが落ちていた。それはついさっきまでルシアンが身につけていたもの。少し汗で湿っていた。
「またか……」
呆れてため息が出た。タンクトップ姿は何度も見ているし、ルシアンの物だとすぐにわかった。ゆっくり布地に顔を近づけた。
ルシアンの汗と石鹸の香りーー
すぐにルシアンを追いかけようと思ったが、入浴後に渡すことにした。
ルシアンにゆっくり入ってもらった分、俺の入浴の時間は短かったからだ。
明朝渡そう、放課後にしよう。
明日、必ず渡そう……来週には絶対……と思ってるうちに……。
ルシアンのタンクトップは、俺の大事な引き出しに入れた大事な物になった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。あと少しでラストです。




