シドフの反撃
ステファンの語り。医務室からの帰り……。
ステファンはシドフにイラついている。
(過去の軸なのでシドフがいます)
シドフはなにか切り札を持っているよう。
後ろから消えない人の気配……。
「一人にしてくれよ! さっきシドフを触ったのは、エリオが怖がってたからだ。お前の機嫌を取っただけだ」
俺はイライラして何度も頭を振った。
「嘘だ。触りたかったんだろ? ステファン、よくぶつかったフリして触ってくるくせに。目が合うときもあるけど、知らん顔で触るときもあるだろ?」
俺はあまり怒らない。それは元からいろんなことに期待してないからだ。だけど、このときは本当に頭にきていた。
シドフだって自分から甘えてくることは多い。でも、俺が全部悪いことにするんだろ?
「ステファンだから許してるんだ。体の大事なところに触るのはバディ同士だけだよ。キスもね。僕たちはバディじゃないから罰則だぜ。地区の法律が変わっても、クロノス学園の規則は厳しいんだ」
何を言ってるんだ今さら。そんなの誰だってわかっている。
中庭の奥に着いた。だからって何もすることはない。一人になりたくて来たのに……。
「一人にしてくれないか」
クヌギの木を手のひらで叩く。 結局、いたくもないシドフと一緒にいる。俺は肩で息をした。
「大丈夫、ステファン。誰にも言わないから。だから見捨てるなよ。僕はずっとステファンの味方だ。わざと惨めな気持ちにさせるなよ。なぁ……」
「……わかった。でも一緒に行動するのは無理だ。だから普通の関係になろう。ただのクラスメイトに。じゃあ」
一方的に言って、中庭の奥から大きな庭園に出るために、薔薇園の裏を通り抜けようとした。
(あいつ、俺を脅迫するつもりか?)
「痛っ」
薔薇のトゲが腕に当たった。ちょっと無謀だったかも知れない。奥は手入れがされおらず、蔦も伸び放題だ。
戻るしかないか……。
「ヒッ」
シドフが背後にいた。
「来るなよ!」
「ヤダ。 ……ここ、一緒に押さえれば抜けられるよ」
伸び切った薔薇の蔦を、落ちている枝で二人で押さえると、薔薇のアーチができた。 不本意だったが、二人でくぐり抜けて通ることができた。
(これじゃまるで恋人同士じゃないか……)
なんだか全部が馬鹿らしくなって、俺はふっと笑った。
「シドフ、もう十分だろ。戻ろうぜ。エスケープするのは一時間だけで充分だろう?」
庭園の池まで来てしまった。ずいぶんと教室から遠い。
「待って。ずっとステファンと一緒にいたい。一緒にいてくれる奴がいないんだ。僕は嫌われてる」
「そんなことない。シドフ、大丈夫だ」
「適当に言うなよ。なぁ、人気者のステファンのバディになれたら……そしたら、みんな……。ねぇ、僕はどうかな? 君のバディに」
は? 無理に決まってるだろ?
図々しいやつ。
「それは別の話だ。俺は誰ともバディを組まない。みんなと仲良くしたいし。たまには二人で話そうぜ。ボードゲームしたり」
本当はもう二度と話したくない。お前なんか嫌われてるに決まってるだろ。自業自得だ。
俺の腕にしがみつくシドフ。
「ステファン、お願いだ。あのこと言わないから……誰にも」
「はっ、言えばいいよ。君の体を触ってるってさ。みんなやってることだし。だから何って感じ? エリオもアマンドもジャンミンも……俺のことを信用するんじゃないかな」
名前を出して改めて確信する。どう考えたって、俺の方がみんなから信用されてるし人気もある。
「いや、その……それじゃなくて」
シドフは言いづらそうにして、上目遣いをしてきた。困ったときによくするシドフの仕草だった。
『ルシアンのコトダヨ……』
聞き取れなかった。それはあまりにもここに相応しくない言葉だ。俺は黙っていた。
「ルシアンのコト」
シドフがもう一度繰り返す。心臓が痛くなった。名前を聞くだけで胸が痛い。
ルシアン……どこまでも透明な美しいクロノスの……堕天使。
お前がルシアンって言葉を出すだけで汚れる。
「ルシアンのタンクトップがなくなったの…………あれ、持ってるのステファンだよね?」
頭をハンマーで殴られた衝撃。
「あ……あの、別にいいんだ。あっ……確かルシアンが下着がないって騒いだ前日……お風呂の順番、次がステファンだったから。その次が僕で。それだけだっ……たんだけど……」
こいつ……。
子供達にとっては絶対隠しておきたい、知られたくないことですね。




