まりかの告白
これまでのあらすじ。
クロノス学園での隠された殺人事件。
ステファンがシドフを殺していた。そのシドフは、死者の残穢を閉じ込める地下から出ることに成功した。手助けをしたのはまりかとエリオ。
幽霊のまりかは、ステファンが危険なので探していると、彼が閉鎖病棟に入るところを見つけて……
私が壊したステンドグラスは先生たちが必死で片付けていた。
ごめんなさいと心で呟いて、目の前をすっと通り過ぎた。エリオを守るためだから仕方なかったのよ。
ステファンはすぐに見つけられた。
ルシアンたちがいる病棟の扉をガンガンと激しく叩いていた。中の先生たちにやめなさいって注意されていた。
もちろんステファンは止まらなかった。隠し持っていたステンドグラスの破片で、自分の腕を故意に切ったの。それを扉のガラスから見えるようにして、扉を開けるように訴えた。
人の良さそうな年配の先生が、慌てて開けてくれた。ステファンは無表情で病棟の中に入ろうとするから、すぐ止められたの。
私も横にいたわ。幽霊だから誰にも気づかれないのは便利ね。私の存在は心を開く者には見えるけど、否定して背ける者には決して映らないのよ。
それでステファンってば、ひどいの。扉を開けてくれた女の先生の首を思いっきり絞めたの!
幽霊の私ですらショックを受けたわ。お化けより人間の方が怖いって本当よ。
私は効くかどうかわからないけど、集中して胸を数回押してあげたの。そうしたら気絶していたその人は目を開けて私を見た。
お菊人形のような私を見て、目を丸くして口をパクパクしたけど、再び気絶することはなかった。
ステファンは部屋の番号を覚えているようで、どんどん奥まで進んだ。一番奥の部屋に入ると美しい女の子が眠っていた……。
と思ったらクラスメイトのルシアンだった。もちろん男の子だけど、息を飲む美しさよ。ウェーブがかかった肩までの明るい髪は、天使のよう。
片方の頬に切り傷のような痕が残っていたけど、それも全く気にならないくらい透き通っていて綺麗だったわ。
最近ステファンがエリオに興味がなくなって、いつも鬱屈そうに考え込んでいるのは、この子が眠ってしまったからだとわかったの。
ステファンは何か悪事を働くわけではなかったのよ。
「ルシアン……僕だよ」
ステファンはルシアンの髪をそっと触った。ステファンが優しく髪を撫でているうちに、ルシアンは目を開けたの!
それで、覗いている私を見た。
「あーう!」
ルシアンは私を触ろうと手を伸ばしてきた。赤ちゃんみたいに。
「ルシアン?」
「あー、あー」
ルシアンが小さい声を出した。寝たきりのルシアンは私が見えるけど、ステファンはわかってなかった。
「ルシアン、一緒に行こう。大丈夫だ」
ステファンは彼を抱き起こそうとするけど、もちろんルシアンは起き上がれない。
そこへ幽霊のシドフがやってきたの!
「まりかちゃん!」
「シドフ! 外に出れたのね。よかった」
「まりかちゃんのおかげだ! やったぜ! ニコたちすごい驚いて面白かった。ていうかルシアン……僕が死んだ後、何かあったんだな。かわいそうだ」
シドフが、困っているステファンを助けたいと言ったの。ステファンはルシアンを抱き起そうと必死になってたから。シドフはステファンに生前迷惑をかけたからって言っていたわ。
「ルシアンの中に入り込むのはどう? そうしたら体を動かせるかも」
「僕はまだ自分がコントロールできないよ」
シドフは幽霊で動き回ることに慣れていないから、私がルシアンに取り憑くことにした。寝ている体に自分を重ねるようにして一体化したの。
私はルシアンの上体を起こすことができた。
「まりか、すごいぞ」
ルシアン(と、中にいる私)はパジャマ姿でふらふらだけど立ち上がった。ステファンが支えるようにすると歩くことができた。
「スリッパも履こう」 シドフがそう言って後ろからそっと支えていたの。
「ステファン、お前の役に立てて嬉しいよ」
そうシドフが呟いた。ステファンはもちろん聞こえなくて、代わりにルシアンに語りかけた。
「さぁ、行こう。ルシアン」
ステファンは廊下の途中にある出入り口を見つけて簡単に外へ出た。
病院や職員室って、入るには鍵や暗証番号が必要だけど、外に出るときは簡単に外に出れるの。
ステファンとルシアンは西の建物に向かった。途中すれ違った生徒もいたけど、気にしていない様子だったわ。 階段を全部上ったら、私もとても疲れた。
私の存在は、まるで風のように気づかれぬままそっとルシアンに寄り添うだけだった。でも人に取り憑くってことは、精神力がかなり削られていたみたい。
ドームの上まで到着すると、ステファンは鍵をかけた。そしてベランダから二人で外に出てみたの。
「あーう」って声を出して、ルシアンも喜んでいるように感じた。彼の美しい髪は、風に吹かれて綺麗に流れていた。
眼下に広がるのは想像よりはるかに山深い深緑の世界だった。ずいぶんと山奥なのね。風が頬を撫で気持ちよかったわ。
最初は誰も気づかなかったけど、そのうち誰かがステファンとルシアンに気づいたの。
「ステファンとルシアンがドームにいるぞ!」
その後は大騒ぎ。エリオも半泣きで叫んでいた。先生たちもいたから、上がって来くると思ったわ。
レイモンドが姿を現し、眼鏡の奥で鋭い視線を放っていたわ。レイモンドは親切な事務員さんだと思っていた。最初エリオの転入手続きをしてくれたし。でも実は校長先生で、裏では医院長みたい。
そしてルシアンに向かって叫んだの。下りてきてくれ、君は特別だとかなんとか。ステファンのことは何も言わないのに。
ルシアン、君は誰よりも美しい! 特別だ、みたいなことを言ったわ。
なんだかルシアンに憑いている私まで、気持ち悪いって思った。校長先生はあんなこと言わないものよ。
その直後、ステファンがとんでもないことをした。ベランダの柵に立ち上がったの!
みんな下から叫んだわ。落ちるのかと思ったから。 シドフは刺激しないように存在を消して見守ってたわ。
ステファンは、いきなりドームの屋根に登り始めたの!
丸いから無理そうだけど、表面はざらついてるし金具みたいな凹凸もあった。運動神経がいいステファンは、あっという間にてっぺんまで登ってしまったの。
そして、てっぺんにある風見鶏を折ったの! クロノス学園は古いから、鉄の風見鶏も劣化していたのだと思う。
「ステファン何してるの!」
「やめて! 危ない」
「ステファン、降りて!」
真下の庭園も騒然だったわ。 ハッとしていると、ステファンはドームの縁に捕まって、風見鶏を矢のように構えた。それで下にいる人たちに強い力でそれを投げ放ったの!
耳を裂くような叫び声--
そのとき強い風が吹いて、その中でステファンの声を聞いた……。
続いて、地上で凄まじい悲鳴が聞こえた。 レイモンド校長の胸に、風見鶏の鋭い先端が突き刺ささっていた……。
心臓を無慈悲に貫いていたの。綺麗な薄いレモン色のワイシャツがどんどん血に染まっていって……周りにいる生徒たちの絶叫はドームを震わせるほどだった。
ジャンミンが「みんな戻って! 近づかないで」と誘導しているのが見える。
そう、ステファンが風見鶏を投げた瞬間--
「レイモンド、キエロ」
ステファンの声を聞いたわ。無機質なロボットみたいに。ステファンの心からの怒りに聞こえた。
そのタイミングで風が強く吹いた。シドフが手助けして殺したんだ思ったの。あんな離れた距離で、上手く心臓に刺さるなんて、いくらステファンでも不可能だわ。
これは念力とか怨念とか、人ではないなにかが働いたんだと思った。
だって、ステファンの行為は間違って生徒を殺してもおかしくなかった。
だけどそうはならず、しっかりレイモンドの心臓を貫いたのだから。
「あっ!」
パニックになった生徒たちが校舎に戻る途中、その中にカラスのような真っ黒な影が一瞬見えた気がした。
あれは何?
だけどルシアンは体力の限界で、彼女に取り憑いていた私も一緒に気を失ってしまった。
そのとき背後から騒がしい声がなだれ込んできた。今思うと先生たちね。
しっかりした腕に体を支えられ、私は目を閉じた。
とうとう二人目の死者が……ここまで読んでいただきありがとうございます。
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