ニコの証言
次は副代表のニコの証言です。いろいろ話してくれるといいですね。
《ニコの証言》
--君たちがクロノス学園でしていたことは後で全て報告してもらいます。まず、あの日のステファンとルシアンのことを話してもらえますか--
はい、ニコです。私が本当は15歳じゃなくて25歳ってところから話します?
幼く見えますがね、体の特性かな?
成長が止まっちゃってね。
え? それは別にいい……そうですか。今、いろいろ引き継いでる途中なんですけど、大変でございまして。ええ。煙草吸っていいですか?
あ、すみません。我慢します。
ジャンミン? はい。少し塞ぎ込んでるけど、大丈夫ですよ。
ええ、俺がバディです。ジャンミンとは恋人同士って学校にも提出してるよ。
この11地区が一年前から、思春期の子たちは同性同士で親密になることを推奨してるでしょ? 俺は生徒として潜入して見守ってるわけだから、誘われたら断れないです。断ったらジャンミンはさらに不安定になるからな。
本当に好きかって? ここの生徒の中では一番好きだよ。もちろん……likeって意味でね。
彼の報告日記を読みたい? じゃあ後で持ってくるけど。日記を読んでるのは俺です。感想は担任が、俺のメモを写して書いているだけで読んでませんよ。まぁ、長いですからね。彼の日記。
日記を書かせているのは、彼のためです。ジャンミンは母親に今でも怯えていてね……生きていると思ってる。母親は病気で死んだと伝えたのですがね。受け入れられなくて。
優等生でいることで、ジャンミンは自分を保っている感じ……ですね。
あの……敬語だと上手く話せないのですよ。なんかおかしいですよね?
普通に話してよござんすか?
あれ、なんかおかしいでしょ。
俺、校長にもこんな感じで話していたんで。 はい…………この期に及んで嘘なんかつかないよ。
あの日は--
他の先生たちが割れたステンドグラスを慌てて見に行って……。
俺は理科準備室に隠していた本を戻しに行った。そこでもいろいろあって……まぁ、それはいいや。その後、俺はステファンを探した。
玄関ホールに行ったら、先生たちが軍手をはめてステンドグラスの破片を集めていたね。ほぼ片付いてたよ。
薔薇のステンドグラスがあった所は、空っぽになって外の景色が見えたな。大きくてケバくて派手なステンドグラスだったのに。そこにあったことすら忘れそうで。
え? ……あのステンドグラス?
割れたのはちょっとおかしかったな。レイモンド校長のことを思い出してさ……『値が上がったら売ろう』
なんてよく言ってたんだ。
こんなことになるならこの間のクロノス祭で売ればよかったのに。欲しいってごねてた成金がいたから。
薔薇のステンドグラスが割れたことは別に悲しくはないよ。スッキリしたかな。ハハッ。
それで、そのとき外から声がしたんだ。俺は玄関ホールから外に出た。目の前が庭園の入口になってるから。
校舎の西側に丸いドーム型の屋根があってね、外国の寺院とか教会によくあるやつ。寺院だと内側は壁画だったりする。
西側のドームの内側は屋根裏部屋みたいになってて、5、6人入れるよ。小さなベランダもあって、それは庭からも見える。
そこに行く人はいないな。ドームの内側は使われてない。飾りで部屋を作っただけなんだ。赴任してきたとき、一度だけ入ったかな。
埃っぽくてさ。ドームのところは四階の高さだから、ベランダに出ると結構怖かった。あの高さだからね。
まさかそんな場所にステファンとルシアンが現れるなんて、本当に驚いたよ。
ステファンはともかく、ルシアンはずっとベッドで眠り続けていたから。起きられないはずなんだ。なのにベランダに立っていたんだ!
もう昼休みになって、庭園にも生徒たちがいて騒ぎが大きくなってたよ。ルシアンが行方不明になってたから、先生たちも外を探していたしね。
「ステファンとルシアンがドームにいる!」
誰かが叫んだ。みんなドームの下に集まった。先に外に出ていたエリオもショックを受けていて。必死に説得していた。
「ステファン! なにやってるんだ! 早く二人で下りて来て!」
他の子たちも騒ぎ出して。
「危ないよ!」
「ルシアンだよね? 久しぶりに見た」
「ルシアン? パジャマ着てる?」
先生たちが庭園で話し合って、ドームの中に行くみたいだった。だけど途中で鍵をかけられていたら、マスターキーがいるなって思ったけど。ていうか、ドームの中に入るには鍵がいるはずだけど、二人はなぜすぐに……あっ……。
いや……鍵開いていたのかな。
それで、ベランダにいるステファンとルシアンにみんなが声をかけていて……。
「エリオ、叫ぶのは逆効果だ。落ち着けよ。きっと下りてくる」
俺はエリオを落ち着かせた。
「だって……あの二人……」
「病棟にいるルシアンに、綺麗な景色を見せたかったんじゃないかな?」
エリオを落ち着かせるため、適当に言ったものの、本当にそうなのかと思えてきた。
「ステファン怪我してるよ! 袖が赤いのは血だよね?」
「ああ……でも死ぬ怪我でもないだろ。平気さ。それより落ちないでくれよ」
「ニコ……あれって本当にルシアンだよね?」
エリオが震えながら言った。よく見るとルシアンは笑っていた。その顔は作り笑顔みたいで、少し不気味だった。口角は上がっているけど、目は笑ってない。
どこも見てないようだった。
ルシアンは問題児だったけど、凛とした少年だよ。笑いたくないときは笑わないし、裏表のない奴だ。横にいるステファンは無表情だった。何も聞こえてないし、感じてないような顔つきで。
そのとき、低い声が聞こえた。
「ルシアン! やめてくれ! さぁ、こっちに下りてきなさい。君がこれ以上、怪我をするのは悲しい」
レイモンド校長が急に叫び出した。どこに行っていたのか……あの日は探したけどいなかったんだ。ステンドグラスが割れたときも対応してなかったし。
「レイモンド、いたのか! 探したよ。刺激するのはやめたほうがいい」
俺はレイモンドのそばに駆け寄った。だけど彼は取り乱していて、話を聞いてくれない。
ルシアンはふらふらと揺れていた。
「ルシアン危ない! 部屋に戻るんだ。君はクロノス学園の希望だ」
レイモンドはルシアンだけを見てた。
隣にいるステファンは? と思ったよ。ステファンに呼びかけ、下りてくる指示をしたほうがよさそうなのに。
「ベランダから離れて! あぁ、君の美しさの前では、誰もが無だ。お願いだ……ルシアン」
個人的な感情が入っていて、気持ち悪かったな。まぁ校長だから、生徒のことがかわいいのはわかるけど。ルシアン、ルシアンという感じだった。
それで、この後とんでもないことが起こったよ。
ステファンがベランダの柵に立ったときは、もうダメだと思った。たぶん多くの生徒がステファンが落ちると思ったんだ。
悲鳴があちこちから聞こえて……。
あぁ……レイモンドのあの発言がなければ、もしかしたらあの惨劇は起こらなかったかもって……今は思ってるよ。
この次に、何が起こったのでしょう?




