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磨いた成果を試すとき  作者: うみたたん
エリオの章

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42/56

地下室の◾️◾️◾️

今回は、ニコの語りです。 ニコはエリオたちと別れて校長室と職員室に行きます。

ステファンにエリオを連れ去られ、俺は職員室へ急いだ。


途中で校長室に寄ったが、目当てのファイルはどこにもなく、レイモンド校長の姿もなかった。あいつどこに行ったんだ?


持ち出し厳禁のファイルも一体どこへ? レイモンドが持っていったのだろうか?

もう一度、ステファンの犯罪記録を確かめたい。


「失礼しますー」


「おっ、ニコ。ちゃんとご飯は食べてるか?」


「いつも完食してるよ」


「お菓子ばかりじゃ、背が伸びないぞ」


「はいはい」


職員室では臨時の若い教師が、からかい半分に声をかけてきた。

俺が本物の生徒だと思っている。俺が監視役の職員だと知らない先生がほとんどだ。


(お前より俺の方が年上だよ……)


体育館の鍵を棚に引っかけて返す。返し忘れていた。


「届くか?」

「ギリ届きます」


冗談に付き合うのも疲れる。

それより、図書室にあった日本の資料集。あれはエリオの荷物に入っていた母親の物だ。今、彼にその記憶はないが……。


紙袋に資料集を忍ばせた。あの本は二階理科準備室(立入禁止)の場所に入れておいたのに。


誰が持ち出した? いや、誰が立ち入り禁止の部屋を開けた?


鍵は暗証番号式キーボックスの中。

番号を知るのは限られた教員だけ。

ただし、正規の手続きを踏めば誰でも持ち出せる。

でも、わざわざあんな場所に入る奴はいない。気味の悪い場所に……。


そして奥にもう一本の鍵があることを知っているのは、レイモンド校長と俺だけだ。


理科準備室は「危険薬品のため立入禁止」となっているが、それは表向き。

本当の理由は違う。

薬品棚は確かに存在する。だがダミーだ。

奥に隠し扉があり、地下へ続く階段がある。


その地下室には、生徒たちが持ち込んだ“封印すべき荷物”が眠っている。


自分が何をしたか、巻き込まれたか……思い出してしまう危険なもの。

死者の残穢が染みついた物もある。


最近だと、エリオのリュックがそうだった。

内ポケットに「佐伯まりか」とペンで書かれていた。エリオの日本人の妹、まりかの所有物のリュック。


七五三の写真まで入っていた。エリオとは、血の繋がらない母とまりか。三とも笑顔で写っている。


形見として持ってきたのだろう。

俺はそれを回収し、御神塩を詰め、厚い袋に封じ、さらに木箱に入れて御札を貼った。かなり強力な封印だ。


レイモンドが言っていた。


「あのリュックからまりかの怨念が漏れ出た。影が生まれた」


……前にも同じ様なことがあった。ここは病院のため、どうしても死者の残穢が振動しあってしまう。なかなか対処ができない。


図書室で本が落ちた。やはり女の子の霊がいるのか……エリオが図書館で独り言を言っていたのは、相手は(あやかし)だろう。


そんなことを考えていると、一つ下の学年の生徒が血相変えて飛び込んできた。

「大変です! 玄関ホールのステンドグラスが割れました!」


「えっ!? 生徒は無事!? 怪我人は!?」


若い女の先生が立ち上がる。


「それは大丈夫です!」


「どのステンドグラスだ?」


体育主任も腰を上げた。


「真っ赤な薔薇の……」


職員室がざわついた。

当然だ。真紅の薔薇のステンドグラスは学園の象徴であり、途方もない価値がある。


「薔薇のはまずいわ!」


先生たちは十人もいなかったが、全員が玄関ホールへ殺到していった。

残ったのは俺一人。


……今なら大丈夫だ。


俺はキーボックスの暗証番号を打ち、マスターキーを抜き取った。持ち出しノートにはもちろん書かない。


紙袋を抱え、職員室を出る。皆と逆方向に走る。誰にも見られていない。

一階からは騒がしい声。本当に割れたんだな。


二階、理科室の奥。

冷たい扉をマスターキーで開ける。薄暗く淀んだ準備室が、今日はさらに黒く澱んでいる。


薬品棚の小さな引き出しから細い鍵を取り出し、棚と壁の隙間に体を滑り込ませる。

隠し扉の前で、ゆっくりと鍵を差し込む。


カチッ。


その瞬間、背後から肩を掴まれ、床に押し倒された。襟足をふわっとしたくせっ毛の髪が撫でる。


「誰だ! ここは勝手に入るな──あぁぁっ!!」


なんで?


なんでここに……!?


ブロンド髪の少年…………シドフ。

数ヶ月前に死んだはずのシドフが、光を吸い込むようにぼんやりと浮かんでいた。元気だったあのときのまま……制服姿のシドフ。薄暗い部屋でブロンドの髪はさらに輝いて見えた。


そして俺を押さえつけているのは、エリオ。


「勝手に入っちゃいけないのは、君も同じだろ? ニコ」


体が硬直して動けない。

制服姿のシドフが、俺の顔を覗き込んで微笑んだ。


「ねぇ? びっくりした?」


「う……」


声が出ない。額から汗が伝う。

死んだはずの少年が……俺が処理したシドフが……目の前で笑っている。



「エリオ……久しぶりだなぁ」


「うん、シドフ……会いたかった」


二人は旧友のように静かに頷き合う。


「ずっとこの地下に閉じ込められてた。息が苦しくて、早く出たかった。

閉じ込めたのはお前だ……ニコ」


確かにシドフの荷物をここへ運んだのは俺だ。親も身内も、誰も引き取りに来なかったスーザンの遺体と荷物。


シドフは分厚いファイルを抱えていた。


「あっ!」


俺が探していた、まさにそのファイルだった。

◾️◾️◾️はシドフでした。

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