ステンドグラスと侵食
前回のあらすじ。
ニコと図書室から出たエリオは、立ち聞きしていたステファンに捕まってしまい、教室に戻りました。
でも前のようにステファンに接することはできない。
大好きだったステファンに疑問が浮かんできているところです。
ステファンは隠れて聞いていたと思う。
『この学園で殺された子っているの?』
ニコに思わず聞いてしまった。なんとなくニコが怖かったし警戒していたけど……。
それは彼が正しかったからかもしれない。
その直後、曲がり角からステファンが現れた。タイミングが良すぎる。
(いや、悪いのだろうか)
どうして僕は背筋が寒いんだ?
ステファンのこと……あんなに好きだったのに。ステファンがこの学園の全てだった。
ステファンに肩を抱かれながら教室に連れてこられた。以前の僕なら飛び上がるほど嬉しかったはずだ。
でも今は怖くてたまらない。震えが止まらないんだ。
『一緒に死ぬんだよ』
なんて言われたことを思い出したからだろうか?
『ニコに気をつけて』と前にステファンに言われた。
一回目は転入してまもなく、中庭でハミングバードを見た後。木の裏側から、急に現れたニコは確かに怪しかった。
二回目はシドフが転校した直後。僕はニコに聞いた。
「シドフってどこに転校したの? ニコ、知ってる?」
「知らないってば!」
ニコはキツく言い返した。
「なんだよ、ニコ。怒ることないだろ?」
ステファンが僕をフォローしてくれた。
「ニコ、最近ピリピリしてるな。気をつけろよ、エリオ。あとシドフの話もしない方がいい。副代表だから忙しいんだよ」
あの頃、ニコの機嫌が悪かった。それからニコのことが少し苦手になった気がする。
だけど警戒すべきなのは、本当はどっちなんだろう?
◇ ◇ ◇
「エリオ、大丈夫かい? 震えてるよ……お昼いらないなら医務室に行こうよ」
ステファンの囁きに戦慄を覚えた。僕が震えていると、彼はゆっくり髪をかき上げた。
……狂ってるのかな?
こんな状況なのに、髪をかき上げたステファンのことをかっこいいなんて、思ってしまう僕は。
「エリオ……医務室で一緒に本を読もう」
「いや、大丈夫。お昼を食べないと……」
「エリオ、寒そうだよ。ベッドで温めてあげるから」
ステファンに優しく髪を触られた。
ああ……。その台詞、こんなふうに聞きたくなかった。僕はステファンの手を振り払ってしまう。
ステファンは驚きを隠せない顔をしている。
「ごめん!」
教室を飛び出し、階段を駆け下りる。行き先は決まってない。とにかくステファンから離れたかった。なんでこんなことになってしまったんだ?
二人きりになったら、きっと聞かれる。
一階の渡り廊下まで来た。いつもの癖で中庭に抜けようかと思ったけど――
(ダメだ。ステファンのお気に入りの場所だ)
気づくと僕は玄関ホールにいた。後ろには誰もいない。よかった……。
そのとき、モニュメントの陰からいきなり人影が飛び出してきた。
ステファンーー
腕を掴まれる。
「エリオ、なんで逃げるの?」
他の階段を使って、迷わずここに来たんだな。ステファンの切れ長の目は、いつもより冷たい。
「ステファン、痛いよ。離して……」
「聞こえてしまったんだ……誰が殺されたって?」
ほら、聞かれた…………。
互いに息を整える。
高窓から差し込む日差しが、玄関ホールのステンドグラスをきらめかせ、埃の舞う光の筋を浮かび上がらせていた。
真っ赤な薔薇のステンドグラス……まるで血のように眩しかった。
「教えて欲しい。だって、それはただの噂に過ぎない。誰がそんなことエリオに吹き込んだ?」
ステファンにさらに腕を強く掴まれる。爪の跡が残りそう。
「あっ!」
「話をそらすなよ」とステファン。
そのとき、薔薇のステンドグラスの中に何かを見た。なにか……同化している者。 真っ赤な着物の女の子……がいる!
少しずつ形を変えていく。ステンドグラスがぐにゃりと歪んで……。
この学園の制服を着た少年の姿に。
圧倒的な美少年が真っ赤に染まっていく――
老人のようなしゃがれた声が、勝手に僕の口からあふれ出た。
《ルシアン……》
なに? なに? くぐもった声で聞こえないよ……ステファンの声も遠い。
《ルシアン……》
僕の意思とは無関係に再生される低いしゃがれ声。まるで録音されたアナウンスのよう。
「ルシアンに言われたのかい? 彼は病棟にいるから会えないだろ?」
僕は首を横に振る。そしてステファンの腕を同じくらい強く掴み返し、じっと彼を見つめた。
ステファンのさらさらの赤茶の髪、澄んだ大きな黒目は、今も美しい。僕は目を見開いて叫んだ。
《ルシアンが殺された!!》
バリン、バリンとガラスが割れる音。床に散らばる赤いステンドグラス。
まるで血の海のよう。
「……ル、ルシアン…………」
立ち尽くすステファン。そっと誰かに背中を押された。
まりか……。
僕とまりかは玄関ホールから逃げ出した。
「エリオ、早く!」
「今の音は何?」
異変を感じた何人かの生徒がホールに集まってきた。
ここからいろいろ起こりそうです。




